偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.48

「こんなちゃんと朝ごはん食べれるの嬉しいな」
「喜んでもらえたなら良かった。足りなかったら追加で作るから言ってね?」
「うん。朝だし、丁度いいよ」
 トーストにバターを塗り、フォークを手に取ってコールスローを口に運んだ。
「ん、旨い」
「良かった」
 カット野菜にマヨネーズと少量のドレッシングを混ぜただけなのだが、口にあったようだ。
「ひなが作ってくれたからなおさら旨い」
 嬉しそうに攷斗が目を細める。
「そう言ってもらえてなによりです」
 ひぃながゆっくり頭を下げると、攷斗が笑った。
「夜ご飯で食べたいモノあったら教えてください。18時くらいまでなら対応可能です」
「じゃあお昼に食べたものの写真、メッセしようかな」
「あっ、助かる」
 一人暮らしなら調整可能だが、離れて活動する人がいる場合、昼と夜のメニューが被る可能性がある。堀河の実家に居候していたときもたまにそういうことがあって、堀河とひぃなはこっそり笑いあっていたのを思い出した。
「ごちそうさまでした」
 胸の前で手を合わせて攷斗がお辞儀をする。
「おそまつさまでした。……足りた?」
「うん、ちょうどよかった」
 お腹をさすりながら攷斗が言った。
「あんまり食べるとまた寝たくなっちゃう」
「それは大変」
「休みの日だったらもう少し多くてもいいかも」
「じゃあ、棚井がお休みの日はなるべく和食にするね」
 一緒に入る定食屋で、和食を中心にオーダーしていたのを思い出して言った。
「うわー、ありがとう。無理しないでいいからね」
「うん。通勤時間半分になって、いままでよりは楽になるはずだから」
「でも二人分だよ?」
「一人分ずつ作るわけじゃないもん」
「そっか」
「もし大変そうだったら手伝ってもらうかも」
「喜んで」
 じゃあ早速、と後片付けを手伝ってから攷斗が着替えに自室へ戻り、出勤の準備を終えた。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん」
 ひぃなが玄関先まで見送る。
「誰か来ても、当面出なくていいからね」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
 子供の初めての留守番を心配するような言葉を残して、攷斗が出社した。

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