シュヴァルリ(Chevalerie) ―姫騎士物語―
第1章 Grüß Gott!私、姫騎士(仮免)です 01-001.いきなりですが、3位決定戦です
――Der Anfang der Geschichte――
彼女は幼いころより二つ名が【姫騎士】と呼ばれることを夢見た騎士。
異常な執念を燃やし、ようやく二つ名【姫騎士】が定着してきた。
しかし、世界には二つ名【姫騎士】で呼ばれる騎士が何人もいた。
だから彼女は【姫騎士】の頂点を目指す。
他の【姫騎士】を蹴散して。
そして世界中に、自分が【姫騎士】であると認識させる。
それを阻むものがあれば、何者であってもて打ち砕く。
――Und ist sie in die Höhe gekommen?――
2156年2月13日 金曜日。
折しも降り始めた小雪が、まだ春が遠いことを臭わせる。しかし、ニーダーエスターライヒ州ザンクト・ペルテン屋内競技場では、外の寒さなど関係ないと言わんばかりの熱気が渦巻く。
今日は、4日に渡るChevalerie競技エスターライヒ全国大会の最終日。これから始まるのはDuelの部、3位決定戦。観客席上部に複数設置されたインフォメーションスクリーンには、試合を行う騎士のプロフィール紹介や戦績データ、過去の試合動画などが流れ、場内を彩る。試合開始の待ち時間でも観客は熱狂的に盛り上がり、その熱量を利用する術さえあれば公共事業の一つも賄えるのでは、と錯覚してしまう程である。
女性解説者がトーク番組の如く、軽快に解説を添える度に歓声が上がり、熱狂冷めやらぬ、と言ったところか。
そもそも、過剰とも言える盛り上がりを見せる理由は、シュヴァルリ競技が国際大会となり30年目の節目であること。そして、次の試合が、昨年度の全国大会優勝者であり、世界選手権大会に連続出場を果たしているプロ契約中の騎士と、2年連続最年少上位入賞を果たした、今もっとも注目を浴びる騎士が出場する好カードだからであろう。今年は、TV放送もネット動画配信も何時もより多くの放送局が入場している。公式競技くじも売り上げは上々だ。
ここで、「Chevalerie競技」について、簡単に説明しておく。
21世紀から22世紀にかけ、VRやARなどの仮想現実技術は一般に浸透し、生活の一部となっていた。仮想現実技術の内、MR(複合現実)技術の派生で、「SHS」と言う技術が誕生する。これは、「SHF」と呼称した、特定の条件を満たした環境下にて疑似的な質量を付与したホログラムを投影する技術と、そのホログラムに干渉する物質(既存の金属系素材と科学薬品による合成物。HCと呼ばれる)の組み合わせにより、「触れることが出来る映像」を作り出すシステムであった。
この技術から作られたシステム「Système de compétition Chevalerie(通称SDC)」を用い、ホログラムで出来た武器とHCを混ぜたプラスチック製の鎧を纏い、現実空間にて中世騎士道物語を剣戟競技として体現したのがChevalerie競技となる。
蛇足ではあるが、第1回世界選手権大会から10連覇を成し遂げた女性騎士が熱狂的な人気を博し、その影響から競技者人口の7割が未だに女性である。
閑話休題。
――インフォメーションスクリーンの表示が試合会場のカメラ映像に切り替わる。試合開始直前の何時もの状況であることを察し、観客の騒めきは波打つように静まる。
選手入場のアナウンスが流れる。
『皆様、お待たせいたしました。これよりデュエルの部、3位決定戦の騎士入場です。』
そのアナウンスを女性解説者が引き継ぐ。
『皆さんGrüß Gott! 本日Duel担当の公式アナウンサーである、私こと、孤高の解説者アンネリース・ペルファルがお送りいたしまっす!』
『第2ゲートから入場するのはー、あー、私もコレの一気飲みで下らん上司からのストレスをぶっ飛ばしてますっ! いつもお世話になってます! 羽も生えます! 世界中で長~いこと人気のアノ清涼飲料水メーカーとくれば! Red Pull GmbH!! そして所属のプロチーム「Salzfestung(ザルツフェストゥンク:塩の砦)」のリーダーー! 二つ名【砦の軍師】(壮大な溜め中)…↓るぇぇ↑ーでるとるぅぅーとぉぉっ↑りゅぅぅぅべっ↑くぅぅぅ~っ!!(エデルトルート・リューベック)』
観客席では一際大きな歓声が上がり、第2ゲートから一人の女性が歩み出てくる。黄色い声援が飛ぶ中、観客に向け軽く手を振っているが、少しひきつった笑顔なのはファンキーなアナウンスが原因だろう。
近年、競技のエンターテイメント性が高まり、公式大会でも場を盛り上げるようなアナウンスが主流となっている。紹介の仕方は、所属・二つ名・騎士名の3つが含まれていれば、解説者の裁量に任されている。今回の解説者は、おもしろトーク系のようだ。
ちなみに二つ名は他称で呼ばれていることが前提で、自称では名乗れない暗黙のルールがある。
今年20歳になるエデルトルートは淡いブラウンの髪をシニヨンに纏め、バレッタ型の簡易VRデバイスで髪を止めており、170cmの半ばに近い長身が相まって大人の雰囲気を醸し出している。少しソバカスが残った白い肌と濃い水色の瞳も良いアクセントとなっている。
強化プラスチック製の鎧は、少し黄色がかった胴鎧、同じ色で合わせた、腕鎧(上腕鎧、前腕鎧、手甲《ガントレット》を纏めて呼称したもの、脚鎧
彼女は幼いころより二つ名が【姫騎士】と呼ばれることを夢見た騎士。
異常な執念を燃やし、ようやく二つ名【姫騎士】が定着してきた。
しかし、世界には二つ名【姫騎士】で呼ばれる騎士が何人もいた。
だから彼女は【姫騎士】の頂点を目指す。
他の【姫騎士】を蹴散して。
そして世界中に、自分が【姫騎士】であると認識させる。
それを阻むものがあれば、何者であってもて打ち砕く。
――Und ist sie in die Höhe gekommen?――
2156年2月13日 金曜日。
折しも降り始めた小雪が、まだ春が遠いことを臭わせる。しかし、ニーダーエスターライヒ州ザンクト・ペルテン屋内競技場では、外の寒さなど関係ないと言わんばかりの熱気が渦巻く。
今日は、4日に渡るChevalerie競技エスターライヒ全国大会の最終日。これから始まるのはDuelの部、3位決定戦。観客席上部に複数設置されたインフォメーションスクリーンには、試合を行う騎士のプロフィール紹介や戦績データ、過去の試合動画などが流れ、場内を彩る。試合開始の待ち時間でも観客は熱狂的に盛り上がり、その熱量を利用する術さえあれば公共事業の一つも賄えるのでは、と錯覚してしまう程である。
女性解説者がトーク番組の如く、軽快に解説を添える度に歓声が上がり、熱狂冷めやらぬ、と言ったところか。
そもそも、過剰とも言える盛り上がりを見せる理由は、シュヴァルリ競技が国際大会となり30年目の節目であること。そして、次の試合が、昨年度の全国大会優勝者であり、世界選手権大会に連続出場を果たしているプロ契約中の騎士と、2年連続最年少上位入賞を果たした、今もっとも注目を浴びる騎士が出場する好カードだからであろう。今年は、TV放送もネット動画配信も何時もより多くの放送局が入場している。公式競技くじも売り上げは上々だ。
ここで、「Chevalerie競技」について、簡単に説明しておく。
21世紀から22世紀にかけ、VRやARなどの仮想現実技術は一般に浸透し、生活の一部となっていた。仮想現実技術の内、MR(複合現実)技術の派生で、「SHS」と言う技術が誕生する。これは、「SHF」と呼称した、特定の条件を満たした環境下にて疑似的な質量を付与したホログラムを投影する技術と、そのホログラムに干渉する物質(既存の金属系素材と科学薬品による合成物。HCと呼ばれる)の組み合わせにより、「触れることが出来る映像」を作り出すシステムであった。
この技術から作られたシステム「Système de compétition Chevalerie(通称SDC)」を用い、ホログラムで出来た武器とHCを混ぜたプラスチック製の鎧を纏い、現実空間にて中世騎士道物語を剣戟競技として体現したのがChevalerie競技となる。
蛇足ではあるが、第1回世界選手権大会から10連覇を成し遂げた女性騎士が熱狂的な人気を博し、その影響から競技者人口の7割が未だに女性である。
閑話休題。
――インフォメーションスクリーンの表示が試合会場のカメラ映像に切り替わる。試合開始直前の何時もの状況であることを察し、観客の騒めきは波打つように静まる。
選手入場のアナウンスが流れる。
『皆様、お待たせいたしました。これよりデュエルの部、3位決定戦の騎士入場です。』
そのアナウンスを女性解説者が引き継ぐ。
『皆さんGrüß Gott! 本日Duel担当の公式アナウンサーである、私こと、孤高の解説者アンネリース・ペルファルがお送りいたしまっす!』
『第2ゲートから入場するのはー、あー、私もコレの一気飲みで下らん上司からのストレスをぶっ飛ばしてますっ! いつもお世話になってます! 羽も生えます! 世界中で長~いこと人気のアノ清涼飲料水メーカーとくれば! Red Pull GmbH!! そして所属のプロチーム「Salzfestung(ザルツフェストゥンク:塩の砦)」のリーダーー! 二つ名【砦の軍師】(壮大な溜め中)…↓るぇぇ↑ーでるとるぅぅーとぉぉっ↑りゅぅぅぅべっ↑くぅぅぅ~っ!!(エデルトルート・リューベック)』
観客席では一際大きな歓声が上がり、第2ゲートから一人の女性が歩み出てくる。黄色い声援が飛ぶ中、観客に向け軽く手を振っているが、少しひきつった笑顔なのはファンキーなアナウンスが原因だろう。
近年、競技のエンターテイメント性が高まり、公式大会でも場を盛り上げるようなアナウンスが主流となっている。紹介の仕方は、所属・二つ名・騎士名の3つが含まれていれば、解説者の裁量に任されている。今回の解説者は、おもしろトーク系のようだ。
ちなみに二つ名は他称で呼ばれていることが前提で、自称では名乗れない暗黙のルールがある。
今年20歳になるエデルトルートは淡いブラウンの髪をシニヨンに纏め、バレッタ型の簡易VRデバイスで髪を止めており、170cmの半ばに近い長身が相まって大人の雰囲気を醸し出している。少しソバカスが残った白い肌と濃い水色の瞳も良いアクセントとなっている。
強化プラスチック製の鎧は、少し黄色がかった胴鎧、同じ色で合わせた、腕鎧(上腕鎧、前腕鎧、手甲《ガントレット》を纏めて呼称したもの、脚鎧
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