気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

352 読書は趣味じゃないらしいっすよ……


 翌日の朝。
 俺は博多駅へと向かった。
 指定された銅像の前で、ひとり彼女を待つ。

 考えたら、昔に待ち合わせしていた場所も、この黒田節の像だったな。
 ガキの頃だったけど。
 ひょっとして、無意識のうちに、あの頃の癖が抜けないのか?

 そんなことを考えていると、一人の小柄な少女が目の前に現れた。

 黒を基調としたシンプルなデザインのミニワンピース。
 胸元には白くて大きなリボン。
 細く長い2つの脚は、黒いタイツで覆われている。
 ローヒールのパンプスにも、白いリボンがついていた。
 
 ピンクやフリルを好むアンナとは、正反対のファッションだ。
 だが、似ているところと言えば、その顔だ。

 小さな顔に反して、大きな瞳が2つ。
 美しい金色の長い髪を肩まで下ろして、微笑む。
 双子ってぐらい、アンナとそっくりだ。
 違うところは、瞳の色が、ブルーサファイアってことぐらい。


「おはよう。タクト」
「……」

 その姿に、思わず見惚れてしまった。
 彼女の挨拶に答えることもできず……。

「タクト?」
 低身長だから、自然と上目遣いになる。
「あ、ああ……。すまん、マリア。おはよう」
 慌てる俺を見て、なんだか嬉しそうに笑うマリア。
「ふふ。どうしたのかしら? なんだか、10年前とは違うわね。あの横柄な態度の彼はどこに行ったのかしら」
「う、うるさい……」

 あの頃とは違う。
 どことなく、成長した大人としての女性に感じる。
 もうガキ扱いはできない。
 彼女の言う通り、友達の関係じゃないような気がした。

  ※

 はかた駅前通りを二人で歩く。
「ふぁあ……」
 小さな口に手を当てて、あくびを繰り返すマリア。
 碧の瞳に薄っすらと涙を浮かべて。

 それを隣りで見ていた俺が問いかける。

「どうした? 映画でも徹夜したのか?」
「いいえ……読んでいた小説が楽しくて、朝まで読んじゃったから」
 そう言いながらも、あくびをしている。
「は? 小説を徹夜した? 寝ろよ。今日はタケちゃんの映画を観る取材だろ」
 ちょっと、キレ気味になってしまった。
「怒らないでくれる? タクトなら知っているでしょ。私の活字好きが」
「え、わからん……」
 俺がそう答えると、彼女はガクッとうなだれてしまう。

「あのね……だからタクトを作家として、応援していたのでしょ?」
「はぁ……」
「なによ、その反応。タクトって仮にも作家なんでしょ? あなたも小説ぐらい読むでしょ?」
 俺はその問いに、キッパリと答える。
「読まないぞ」
 マリアはそれを聞いて、小さな口を大きく開いて、驚いていた。

「あなた……そんなんだから、作家として大成できないんじゃない?」
 冷たい視線を感じる。
「他の作者の小説なんて、読まないな。文字を読むのが面倒だからな……強いて言うならば、タケちゃんの作品ぐらいだ」
「はぁ……タクト。もうちょっと、色んな作者さんの作品を読んだ方が良いわよ」

 ダメね、この子みたいなお母さん的な目で、見られてしまった。

「そうか? 俺は映画で充分だ」

 深いため息をついたあと、マリアはこう持論を展開させる。

「あのね。文章力や描写とか。他の作者さんが描く文章を読めば、色々と学べるはずよ。私は読む事しかしないけど……毎日5冊ぐらいは読むわよ?」
 俺はそれを聞いて絶句する。
「ちょっと待て……5冊ってことは、一冊を10万字と仮定して、50万字も読んでいるのか!?」
 書き専からすると、驚愕の数字になる。
 だが、マリアは真顔でこう答えた。

「普通のことでしょ。読書なんて、人間の三大欲求の1つに近いものよ。よく履歴書とかに趣味として『読書です』とか答える文学少女もどきを見かけるけど……文字を読むって呼吸に近しいことだから、生きるために必要なことじゃない」
「……」

 ちょっと、作家業をやめてきて良いですか。
 もう、僕は映画監督を目指してきます……。

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