気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

134 お持ち帰りしたときはとりあえず謝ろう


 アンナの超絶カワイイ、メイドさんのおかげで俺のオムライスは世界で一番美味しくなれた。
 そのあと、二人で談笑しながら昼食を楽しむ。

 店員が最悪な態度のメイドカフェだったが、アンナの萌え度が爆上がりしたので、これはこれで良しとしよう。

 食べ終わって店を出るときも、メイドさんは舌打ちしながら「ありやとやしたぁ」とキレ気味にご挨拶。
 いったいどんなコンセプトなんだ、このメイドカフェ……。


 とりあえず、店を出てまた天神を歩く。
 今度はどこに行こうか? なんて二人で話していると突然俺のスマホが鳴った。

「誰だろう?」
 着信画面を見ると見知らぬ電話番号が。
 見たことない市外局番だ。
 所謂サギっぽい番号ではない。
 まあ変なやつだったら速攻で切ってやろう。
 
「もしもし?」
『おい、坊主か』
 ドスの聞いた若い女性の声だった。
 坊主? 俺は出家した覚えはない。
 間違い電話では。

「あの、失礼ですがどちらさまですか?」
『あたいだよ! 忘れたのか!?』
 名乗れよ、あたいってどこの田舎もんだ。
 うーん、誰だっけ?
「すいません、ちょっとわからないですね」
『バカヤロー! ヴィッキーちゃんだよ!』
 怒鳴りつけられて、一瞬で思い出した。
 そうだ、ミハイルの姉であり、アンナのいとこという設定のお姉さん。
 古賀 ヴィクトリアだ。
 
「あ、お久しぶりっす」
 目の前にいるわけでもないのに、背筋がピンっとする。
『おう、思い出したか。ところで坊主はミーシャが今どこにいるか知ってるか?』
 ギクッ! 隣りにいますよ。女装した弟が……。

 俺がアンナと目を合わせると、彼女はなにもしらずニコッと笑う。
「どうしたの、タッくん?」
 あなたのお姉さんが探しているんですよ。

 慌てて受話器を手で覆う。
 アンナの声が聞こえないように。
 だが最近のスマホは性能が高いようだ。いや、ハイスペックすぎる。

『おい、今ミーシャの声が聞こえたな……坊主、もしかして一緒にいるのか?』
「うっ……」
 なにも答えられない。
 言い訳が思いつかないからだ。
『聞いてんのか? あのよ、ウチではお泊りするときはよ。ちゃんと一言連絡するっつうルールがあんだわ』
 こ、こわい。
「は、はい…」
 ヴィクトリアはため息を吐きだすと、呆れた声でこういった。
『ミーシャと夜遊びしたんなら、それはそれでいいけどよ。ちゃんと連絡はよこしてくれやぁ!』
 もう説教に変わっていた。
 俺はとりあえず、相槌するしかない。
『まあなにがあったか知らんけど……今すぐミーシャをとっと帰せ!』
「いや、しかしですね……」
『隣りにいるんだろうがっ! 電話に変われ! あいつスマホの電源切ってやがんだ!』
 そうだった。
 だが、なぜヴィクトリアは俺の番号を知っていたんだろうか?

 しかし、変われと言われても、今のミハイルはミハイルではない。
 あくまでもアンナの設定だ。
 ここで電話に変わってしまうと、彼女の正体がヴィクトリアにバレてしまう。
 そしてミハイルが一番隠したい相手、そうこの‟俺自身が気がついている”ということも暴かれる。
 なるべく傷つけたくはない。

「あ…なんですか……。声が……途切れて…」
 一芝居うって逃げる方法を選んだ。
『こらぁ、坊主! ふざけてんのかぁ!』
「あれ? 聞こえない? どうしよう……」
 そう言って、俺もアンナと同様にスマホの電源を切ろうとした。
 すると断末魔のようにヴィクトリアの叫び声が受話器から漏れる。
『おい! まだ話は終わって……ブチッ』
「……ふむ、これでよし」
 と自分に言い聞かせるように呟く。

 気がつくとアンナは近くのデパートに設置されたショーケースを眺めていた。
 フリルがふんだんに使われたワンピースが人形に着せられて、飾ってある。
「かわいい~」

 まったく本人は何も知らないんだな。
 しかし、このままデートを続けると姉のヴィクトリアが俺の家に突撃してくるかもしれない。
 ここは名残惜しいが、彼女をすぐに家へ帰そう。
 そうしないと、なんかヤバそう……。


「アンナ、悪いが今日の取材はここまでにしよう」
 俺がそう言うと彼女は寂しそうに眉をひそめる。
「えぇ、まだおやつ前の時間だよ?」
 あなた、もうそんな年じゃないでしょうが。
「いや、そういうことじゃなくてだな……」
 俺が言葉に詰まっていると、彼女がその理由を代弁してくれた。
「もしかして、さっきの電話の相手のこと?」
 察しがいいな。

「そうだ、俺は急遽、小説の編集と打ち合わせが出来てな……悪いが仕事なんだ」
 よし、この流れだ。
「そっかぁ……お仕事なら仕方ないよね…」
 シュンとするアンナもカワイイ。
「だから今から編集のロリババアと会うから、アンナは先に帰ってくれ」
「うん……でもまだ遊び足りないよぉ」
 唇をとんがらせて、上目遣いで俺に詰め寄る。
 胸の前で祈るように両手を握っちゃったりして……。
 クッ、なんて可愛い仕草なんだ。
 俺だってまだ遊びたいわ!

「急用なんだ、すまんが分かってくれ……」
「じゃあ、また今度埋め合わせしてよね?」
 俺の心臓あたりを人差し指でピンと当てる。
 頬を膨らませて怒っているようだが、なんとも愛くるしい顔つきだ。
 その証拠に持ち前のグリーンアイズが潤ってキラキラ輝いてる。
 泣くのを我慢しているようだ。

「ああ、約束だ」
「やくそく☆」
 そう言って小指と小指で誓いを交わす。

 俺は「またな」と言って彼女に背を向ける。
 だが、その前に釘を打っておかねば……。
 振り返ると、寂しげに縮こまっているアンナがじっと俺を見つめていた。

「どうしたの、タッくん。忘れ物?」
 なぜか嬉しそうに話す。
「あのな……悪いことはいわんから、すぐに家に帰るんだ!」
 語気を強めて忠告する。
「アンナの家? なんで?」
 言えないよ。
「と、とりあえず、早く家に帰るんだ! これは彼氏命令だ!」
「え……カレシ?」
 ヤベッ、勢いにまかせて自ら彼氏発言してしまった。
 アンナといえば、驚きを隠せないようで口を大きく開いていた。
 頬を朱に染め、俺の顔をじっと見つめている。

「ア、アンナは大事な取材対象だからだ!」
 無理やりなこじつけだった。
「うん……アンナのことが心配だからだよね」
 ポジティブに受け取ってしまったようだ。
 まあそれでいいや。
「そういうことだ。じゃあ、すぐに帰れよ、帰宅したら連絡をくれ!」
 俺はそう言うと改めて彼女に背を向け、人通りの多い渡辺通りを走り出した。
 振り返りはしなかった……。
 なぜならば、今の俺は赤ダルマのように顔が真っ赤だろうから。
 
「彼氏って言っちゃったよぉ」
 恥を忘れるかのように、天神を猛スピードで走り抜けた。
 ゴールなんてないのにね。

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