バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて
XXⅢ
ショーマと温泉に行ってから私なりに普通に接しているつもり。
もちろんドキドキはする、毎週金曜は欠かさずお店にだって行く、だけど今までなかった嫉妬という感情が出てきたもんだから困りものだ。
今までならナイスバディなお姉さま方にお誘い受けてるな~、誘い受けちゃえばいいのにって思っていたのに…今じゃお姉さんと近すぎる、そんなニコニコしないで、ねぇその誘い受けないよね?と心配したり黒い感情が渦巻いている。
そんな自分が嫌だしムカつくけど、ショーマが私の為だけに作ってくれるカクテルとか私たちしか知らない話をしてる時は幸せなんだ。
「次も俺のオススメでいい?」
「ううん、次はカカオフィズ飲みたいな」
「…了解」
今日は金曜日、いつものように奥のカウンターに腰かけてカクテルを煽る。
今さっき頼んだカクテル、実は意味を分かってて頼んだんだ。
いつもはほとんどショーマにおまかせなんだけど、今日はちょっとカクテル言葉を調べてここに来た。
頼んだカカオフィズのカクテル言葉は【恋する胸の痛み】。
今の私にピッタリすぎるカクテルで、そのカクテルの名前を聞いたショーマは気づいてるはず。私が今新しい恋をしているということに。
ショーマに恋をしてるだなんて気づかれてはないと思うけど、こうやって自分から頼むなんてことないから気づかれて当たり前だ。
どうぞとコースターの上に置かれたグラスを持って口に流し込んだ後、まだ私の前に佇むショーマと目が合った。
「好きな人でもできた?」
ほらね、やっぱり気づいてる。
「えー、なんで?」
そうやってしらばっくれてみるけど、それが通用しないってのも分かってやるんだ。少しでも気持ちを隠すために。
「カカオフィズの意味は、恋する胸の痛み。それからこうやってリクエストしてくるなんて滅多にないからね」
それに今日はメイクも少し違うし、どこか落ち着きがないから、と全部を見破ってしまうその洞察力にはお手上げだ。
「だから、好きな人が出来た?か」
「それで、できたんだ?」
「うーん、どうだろう。好きになっても叶わないって分かってるからなぁ」
そうよね、ショーマ。だってアンタは私を女として見てくれないだろうから。もう一度カカオフィズを流し込んで荒れそうになった心を落ち着けた。
気づけ、気づけと思う反面気づくな、気づくなという2人の私がいて正直今どうすることが正解なのかが分からない。
本当恋って難しいものだなって思い知らされる。
「なんで叶わないって決めつけてるの?」
そんなこと言われたって、本人に直接言えるわけでもないし、あははっと笑ってごまかすしかなかった。
誤魔化す私を見て心配そうな、悲しそうな表情を見せたショーマを私は見逃すことができず、胸が締め付けられた。
「そか…でも、まだ諦めない方がいいんじゃない?少しでも可能性があるならさ」
「…うん。そうだね、頑張ってみるよ」
「応援してるから」
…っ、応援してるなんて…その言葉は聞きたくなかったな。
なんか他の人との恋を応援されてるみたいで、また胸が苦しい。
「ありがとう」
それなのに笑顔で御礼なんか言っちゃって本当馬鹿みたい。
なら、玉砕覚悟でショーマに自分の気持ちをぶつけてみてもいいんじゃないかって思うけど、やっぱり臆病な自分が邪魔をする。
脳内ではまた小さい私が何か言いながら走り回ってるし。好きでもどうにもならない恋をするのは、これで二度目だ。
ショーマは他のお客さんに呼ばれてそこに行ってしまい、口説かれると分かっているからそれを見ないようにとグラスに添えられたスライスレモンを回して弄りながら気を紛らわすけど、それでも気になってしまってちら見をしては少しばかり落ち込むから本当どうしようもない。
そんな時、店のドアが開かれカランカランと音がした。
いつもなら気にならない音のはずなのに、どうしてか音のした方を振り向き___目を見開いた。
「…ぇ、なんで」
店に入ってきた人物は店内を見渡して私に気づくと、迷いなく私へと近づいてきて目の前に立った。
「久しぶり、アヤナ」
目を、耳を疑った…だって。
「ユア…」
___だってその人物は、私を捨てた愛した男だったから。
息も、心臓も止まったような気がした。
いいよと言っていないのに躊躇なく座った男に私は唖然とした。
未だに現状が理解できていなくて、なんでここにいるんだとか、どうして私の隣に座ったんだとか、彼女はどうしたの?だとか訊きたいことはいくつもあるのに驚きのあまり口から一音さえも出てこない始末。
今どうするべきだろうと考えた結果、とりあえずカカオフィズを飲み干して鞄を手にお手洗いに行くことだった。
あのまま逃げようとすれば追いかけてきそうだったから、ひとまずトイレに逃げ込むしかないと思った。
「…なんっで、ユアがここにいるの」
意味分かんないっ。
マジで彼女はどうしたわけ?黙ってこんな所に来たの?1人で。
しかも、捨てた女に自ら会いに来るって一体どういう神経してるんだあの男。
荒れた感情をとりあえず深呼吸を何回かして落ち着かせると「よしっ」と何の気合いか分からない気合を入れて女子トイレから出たと同時に隣の男子トイレに引きずり込まれた。
悲鳴を上げる暇もなく口を押えられ、ジタバタ暴れようとすれば「俺だから安心して」と、声を聞いただけで誰だか分かった。
押さえられていた口も解放され、喋れる状態になると「ショーマ」と彼の名前を口にした。
「なんでこんなとこに引きずり込むの」
「ここじゃないと話せないから」
「話って何?」
「あの男、セフレだった男でしょ」
「…っ」
何故気づかれたのか分からない…けどショーマは何も答えない私を見て確信したようで、思い溜め息をついた。
「なんでアイツがここに来てるの?」
「分からないよ。私も驚いたんだから…」
「まさか、アイツの事まだ好き?」
「は?…ないない!あり得ないっ」
好きとか全然ないし、むしろマユやショーマが言う通り別れて正解だと思ってるくらいだし。
首も手もブンブン横に振って好きという感情がないことを表すと分かってくれたようで、安心したような顔をした彼。
「なら、アイツは何しに来たの?」
彼女が出来て幸せじゃなかったんじゃないの?って言われたけど、それは私が訊きたいくらい。
「さぁ、私にも分からない。だからちょっと訊こうと思って」
「アイツと飲むわけ?」
俺あんな奴のお酒なんて作りたくないって顔してる。顔に出しすぎだよ。
「大丈夫、隙を見て帰るから」
「分かった、でも俺がタクシー呼ぶからそれに乗って帰ってね」
「うん」
行っていいよ、そう背中を押され外を確認しながら男子トイレから出ると元の席に戻った。
やっぱり隣にはあの時から何も変わらないユアがいて、あの頃は胸をキュンキュンさせていた笑顔を向けられたのにそれにももう不思議とキュンとくるものがないから本当にユアへの気持ちはこれっぽっちもないと再確認。
「で、何の用?」
以前の私ならユアにこんな態度とるなんて絶対にあり得ない。
だからほら、ユアも私がそんなことを言うと思っていなかったからだろう。目を少し見開いて驚いた顔をしている。
そういう反応はどうでもいいから早く用件を言ってほしいな、なんて思う私は冷たいだろうか。
だって、愛しい彼女がいるっていうのに何を思ってか元セフレにこんな時間にこんな所に会いに来るなんて絶対おかしい。
「アヤナ、変わったな」
「そう?ユアは変わらないね」
少しだけ寂しそうな表情を見せたかと思えばいつもの表情に戻っていて、さっきのは気のせい?と首を傾げた。
用は何?そうもう一度訊けば「会いたかった」とぬかした彼に私は唖然で呆れて開いた口が塞がらない状態。
「なに、言ってるの?」
私たちはもう終わっているというか、ユアが勝手に終わらせたっていうのに今更会いに来たって言われても嬉しくもなんともない。
湧き上がるのは嫌悪感だけ。
本当、なんなの。自分で何を言ってるか分かってる?
私は相当ひどい顔をしていたのか、ショーマがタイミングよく「新しいのお作りしましょうか?」と割って入ってくれて私とユアのものを作ってくれた。
ユアはそれを飲みながら話を切り出した。
「あの子とは別れた」
それは思っても見なかった言葉で、私は驚いたものの、それを顔に出すことはせず「そう」とだけ返した。
別れたって…あんなに幸せそうな顔をしてたじゃん。あの光景を目の当たりにした私がどれだけ泣いたか知らないくせに別れたって…。
一体何があったわけ。今は気持ちがなくとも過去に好きだった男。
彼が付き合っていた筈の可愛らしい彼女と別れた理由を少しばかり気になった。
「セフレがいたのがバレて、怒らせた」
「は?」
「アイツと付き合う直前までいたのがバレて、それが原因で無理、そんな人は嫌だって言われて昨日別れた」
それは…何が言いたいの?私のせいにしたいわけ?
でもそれは違うんじゃない?別れ話を私にして同情してほしいのか慰めてほしいのか分からないけど、別れたことをこうやって報告してくるのは違うんじゃないかって思う。
ユアは、何が目的なの。
「それで、私にどうしてほしいの」
何を求めているのか知らないけど、話くらいなら聞いてもいいかなって思う。
「やっぱりアヤナが一番だって気づいたんだ」
その言葉はあまりにも衝撃が強すぎて、私の脳を揺さぶった。何馬鹿なことを言ってるんだと、何戯けたことを言ってるんだと思う。
私がいい?私が一番?何それ、失って初めて気づきましたみたいな台詞やめてよ。
「そんなの嬉しくもなんともない」
そんな顔してバカなこと言わないでほしい。
「私を都合のいい女にするな」
これが私の本心だと伝えればユアは驚いたような表情を見せて、私はさらに呆れた。
もしかして、あんな捨てられ方をしておいて私がまだユアのこと好きだとでも思っていたの?
確かに好きだった、でもそれは過去形で…あの後マユにもショーマにも支えられて私はこの前の温泉旅行で彼のことが好きだと気付いた。
叶わない恋だとしても、それでも好き。
だから、ユア。
「私たちは終わったんだよ」
一度崩れたものは元に戻ることはない。
そうきっぱり目を見ていったはずなのに、ユアには聞こえていなかったのか、それとも届かなかったのか、
「俺は諦めない」
そんな馬鹿な答えが返ってきて倒れそうになった。
「諦めないも何も、私たちはそもそも付き合ってなかったし。私はもうあの関係に戻ろうとは思わない」
マジで終わったんだって、て言ってるのになんでそれが分からないかな。頭痛くなりそう。
「だったら付き合えばいい」
そしたらそんな答えが返ってきたもんだから、この男全然分かってないと頭を抱えたくなった。
もちろんドキドキはする、毎週金曜は欠かさずお店にだって行く、だけど今までなかった嫉妬という感情が出てきたもんだから困りものだ。
今までならナイスバディなお姉さま方にお誘い受けてるな~、誘い受けちゃえばいいのにって思っていたのに…今じゃお姉さんと近すぎる、そんなニコニコしないで、ねぇその誘い受けないよね?と心配したり黒い感情が渦巻いている。
そんな自分が嫌だしムカつくけど、ショーマが私の為だけに作ってくれるカクテルとか私たちしか知らない話をしてる時は幸せなんだ。
「次も俺のオススメでいい?」
「ううん、次はカカオフィズ飲みたいな」
「…了解」
今日は金曜日、いつものように奥のカウンターに腰かけてカクテルを煽る。
今さっき頼んだカクテル、実は意味を分かってて頼んだんだ。
いつもはほとんどショーマにおまかせなんだけど、今日はちょっとカクテル言葉を調べてここに来た。
頼んだカカオフィズのカクテル言葉は【恋する胸の痛み】。
今の私にピッタリすぎるカクテルで、そのカクテルの名前を聞いたショーマは気づいてるはず。私が今新しい恋をしているということに。
ショーマに恋をしてるだなんて気づかれてはないと思うけど、こうやって自分から頼むなんてことないから気づかれて当たり前だ。
どうぞとコースターの上に置かれたグラスを持って口に流し込んだ後、まだ私の前に佇むショーマと目が合った。
「好きな人でもできた?」
ほらね、やっぱり気づいてる。
「えー、なんで?」
そうやってしらばっくれてみるけど、それが通用しないってのも分かってやるんだ。少しでも気持ちを隠すために。
「カカオフィズの意味は、恋する胸の痛み。それからこうやってリクエストしてくるなんて滅多にないからね」
それに今日はメイクも少し違うし、どこか落ち着きがないから、と全部を見破ってしまうその洞察力にはお手上げだ。
「だから、好きな人が出来た?か」
「それで、できたんだ?」
「うーん、どうだろう。好きになっても叶わないって分かってるからなぁ」
そうよね、ショーマ。だってアンタは私を女として見てくれないだろうから。もう一度カカオフィズを流し込んで荒れそうになった心を落ち着けた。
気づけ、気づけと思う反面気づくな、気づくなという2人の私がいて正直今どうすることが正解なのかが分からない。
本当恋って難しいものだなって思い知らされる。
「なんで叶わないって決めつけてるの?」
そんなこと言われたって、本人に直接言えるわけでもないし、あははっと笑ってごまかすしかなかった。
誤魔化す私を見て心配そうな、悲しそうな表情を見せたショーマを私は見逃すことができず、胸が締め付けられた。
「そか…でも、まだ諦めない方がいいんじゃない?少しでも可能性があるならさ」
「…うん。そうだね、頑張ってみるよ」
「応援してるから」
…っ、応援してるなんて…その言葉は聞きたくなかったな。
なんか他の人との恋を応援されてるみたいで、また胸が苦しい。
「ありがとう」
それなのに笑顔で御礼なんか言っちゃって本当馬鹿みたい。
なら、玉砕覚悟でショーマに自分の気持ちをぶつけてみてもいいんじゃないかって思うけど、やっぱり臆病な自分が邪魔をする。
脳内ではまた小さい私が何か言いながら走り回ってるし。好きでもどうにもならない恋をするのは、これで二度目だ。
ショーマは他のお客さんに呼ばれてそこに行ってしまい、口説かれると分かっているからそれを見ないようにとグラスに添えられたスライスレモンを回して弄りながら気を紛らわすけど、それでも気になってしまってちら見をしては少しばかり落ち込むから本当どうしようもない。
そんな時、店のドアが開かれカランカランと音がした。
いつもなら気にならない音のはずなのに、どうしてか音のした方を振り向き___目を見開いた。
「…ぇ、なんで」
店に入ってきた人物は店内を見渡して私に気づくと、迷いなく私へと近づいてきて目の前に立った。
「久しぶり、アヤナ」
目を、耳を疑った…だって。
「ユア…」
___だってその人物は、私を捨てた愛した男だったから。
息も、心臓も止まったような気がした。
いいよと言っていないのに躊躇なく座った男に私は唖然とした。
未だに現状が理解できていなくて、なんでここにいるんだとか、どうして私の隣に座ったんだとか、彼女はどうしたの?だとか訊きたいことはいくつもあるのに驚きのあまり口から一音さえも出てこない始末。
今どうするべきだろうと考えた結果、とりあえずカカオフィズを飲み干して鞄を手にお手洗いに行くことだった。
あのまま逃げようとすれば追いかけてきそうだったから、ひとまずトイレに逃げ込むしかないと思った。
「…なんっで、ユアがここにいるの」
意味分かんないっ。
マジで彼女はどうしたわけ?黙ってこんな所に来たの?1人で。
しかも、捨てた女に自ら会いに来るって一体どういう神経してるんだあの男。
荒れた感情をとりあえず深呼吸を何回かして落ち着かせると「よしっ」と何の気合いか分からない気合を入れて女子トイレから出たと同時に隣の男子トイレに引きずり込まれた。
悲鳴を上げる暇もなく口を押えられ、ジタバタ暴れようとすれば「俺だから安心して」と、声を聞いただけで誰だか分かった。
押さえられていた口も解放され、喋れる状態になると「ショーマ」と彼の名前を口にした。
「なんでこんなとこに引きずり込むの」
「ここじゃないと話せないから」
「話って何?」
「あの男、セフレだった男でしょ」
「…っ」
何故気づかれたのか分からない…けどショーマは何も答えない私を見て確信したようで、思い溜め息をついた。
「なんでアイツがここに来てるの?」
「分からないよ。私も驚いたんだから…」
「まさか、アイツの事まだ好き?」
「は?…ないない!あり得ないっ」
好きとか全然ないし、むしろマユやショーマが言う通り別れて正解だと思ってるくらいだし。
首も手もブンブン横に振って好きという感情がないことを表すと分かってくれたようで、安心したような顔をした彼。
「なら、アイツは何しに来たの?」
彼女が出来て幸せじゃなかったんじゃないの?って言われたけど、それは私が訊きたいくらい。
「さぁ、私にも分からない。だからちょっと訊こうと思って」
「アイツと飲むわけ?」
俺あんな奴のお酒なんて作りたくないって顔してる。顔に出しすぎだよ。
「大丈夫、隙を見て帰るから」
「分かった、でも俺がタクシー呼ぶからそれに乗って帰ってね」
「うん」
行っていいよ、そう背中を押され外を確認しながら男子トイレから出ると元の席に戻った。
やっぱり隣にはあの時から何も変わらないユアがいて、あの頃は胸をキュンキュンさせていた笑顔を向けられたのにそれにももう不思議とキュンとくるものがないから本当にユアへの気持ちはこれっぽっちもないと再確認。
「で、何の用?」
以前の私ならユアにこんな態度とるなんて絶対にあり得ない。
だからほら、ユアも私がそんなことを言うと思っていなかったからだろう。目を少し見開いて驚いた顔をしている。
そういう反応はどうでもいいから早く用件を言ってほしいな、なんて思う私は冷たいだろうか。
だって、愛しい彼女がいるっていうのに何を思ってか元セフレにこんな時間にこんな所に会いに来るなんて絶対おかしい。
「アヤナ、変わったな」
「そう?ユアは変わらないね」
少しだけ寂しそうな表情を見せたかと思えばいつもの表情に戻っていて、さっきのは気のせい?と首を傾げた。
用は何?そうもう一度訊けば「会いたかった」とぬかした彼に私は唖然で呆れて開いた口が塞がらない状態。
「なに、言ってるの?」
私たちはもう終わっているというか、ユアが勝手に終わらせたっていうのに今更会いに来たって言われても嬉しくもなんともない。
湧き上がるのは嫌悪感だけ。
本当、なんなの。自分で何を言ってるか分かってる?
私は相当ひどい顔をしていたのか、ショーマがタイミングよく「新しいのお作りしましょうか?」と割って入ってくれて私とユアのものを作ってくれた。
ユアはそれを飲みながら話を切り出した。
「あの子とは別れた」
それは思っても見なかった言葉で、私は驚いたものの、それを顔に出すことはせず「そう」とだけ返した。
別れたって…あんなに幸せそうな顔をしてたじゃん。あの光景を目の当たりにした私がどれだけ泣いたか知らないくせに別れたって…。
一体何があったわけ。今は気持ちがなくとも過去に好きだった男。
彼が付き合っていた筈の可愛らしい彼女と別れた理由を少しばかり気になった。
「セフレがいたのがバレて、怒らせた」
「は?」
「アイツと付き合う直前までいたのがバレて、それが原因で無理、そんな人は嫌だって言われて昨日別れた」
それは…何が言いたいの?私のせいにしたいわけ?
でもそれは違うんじゃない?別れ話を私にして同情してほしいのか慰めてほしいのか分からないけど、別れたことをこうやって報告してくるのは違うんじゃないかって思う。
ユアは、何が目的なの。
「それで、私にどうしてほしいの」
何を求めているのか知らないけど、話くらいなら聞いてもいいかなって思う。
「やっぱりアヤナが一番だって気づいたんだ」
その言葉はあまりにも衝撃が強すぎて、私の脳を揺さぶった。何馬鹿なことを言ってるんだと、何戯けたことを言ってるんだと思う。
私がいい?私が一番?何それ、失って初めて気づきましたみたいな台詞やめてよ。
「そんなの嬉しくもなんともない」
そんな顔してバカなこと言わないでほしい。
「私を都合のいい女にするな」
これが私の本心だと伝えればユアは驚いたような表情を見せて、私はさらに呆れた。
もしかして、あんな捨てられ方をしておいて私がまだユアのこと好きだとでも思っていたの?
確かに好きだった、でもそれは過去形で…あの後マユにもショーマにも支えられて私はこの前の温泉旅行で彼のことが好きだと気付いた。
叶わない恋だとしても、それでも好き。
だから、ユア。
「私たちは終わったんだよ」
一度崩れたものは元に戻ることはない。
そうきっぱり目を見ていったはずなのに、ユアには聞こえていなかったのか、それとも届かなかったのか、
「俺は諦めない」
そんな馬鹿な答えが返ってきて倒れそうになった。
「諦めないも何も、私たちはそもそも付き合ってなかったし。私はもうあの関係に戻ろうとは思わない」
マジで終わったんだって、て言ってるのになんでそれが分からないかな。頭痛くなりそう。
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