バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XXⅡ

「アヤナ?なんでそんな赤くなってんの?」

「いや、別に何でもないからっ。そう!気にしないで!」



なに?変なアヤナ、て言われたけど変なのは自分でも十分分かってるんだ。
挙動不審にもほどがある…ほら、もう心配そうな目で見られてる。

ショーマ寝よう!とお誘いすればおいで___と手を引かれ、布団の中へと誘(いざな)われた。

あまりに突然のことに軽くプチパニックの私はアワアワすることしかできず、そんな反応をするあたしを見てショーマはクスクス笑った。



「こうやって一緒に寝るの何年振りかな」

「あ、あたしが小学4年生の時が最後で、そのときショーマは中2くらいだったんじゃないかなぁ」

「11年前、くらいか」



あはは…そうなんだよ、そうなんだよ!
一緒に寝てたとか11年も前の話だよ?今一体何歳だと思ってるの?

あの頃のピュアな私はどこにもいない!て言いたくないけど、いろいろ経験してきたからそこまでピュアなハートなんて持ってないんだよ。

今日はショーマにずっとドキドキしっぱなしで死にそうなんだけど。本当どうしてくれるんだ…。



「アヤナ、こっち向いて」



恥ずかしさのあまり、ショーマに背を向けて眠りにつこうとしている私を自分の方に向かせようと、名前を読んだり背中をツンツンつついたりしてくるショーマ。

しまいには背中を上から下へとなぞられ、喘ぎに近いような変な声が出てしまった。
とっさに口を塞いだけど時すでに遅しというやつで、部屋にばっちり響いたから最悪。



「ショーマ」

「何?」

「今の記憶から抹消して」

「無理」

「いやいや、無理じゃないって何なら私が抹消して差し上げようか?ねぇ、抹消してあげるよ」



顔はこやかに晴れやかに笑っているのにきっと目は笑っていなくて、その顔をショーマに向けてさっきの記憶を抹消してあげようとしたら、組み敷かれて両腕を拘束され身動きが取れなくなってしまった。



「なに、すんのっ」

「それはこっちのセリフ。さっきの可愛かったよ」



一生消えることのない記憶になっちゃったなー、なんて言ってるから余計に記憶を消してあげたくなってジタバタするけどショーマの力が強くて抵抗の“て”の字にもなっていない。

こんなことされると、ショーマをさらに男に感じてしまう。

意識してるって自覚した瞬間ブワァって顔が熱くなり、両手で隠したいのは山々なんだけど拘束されてしまっているせいで隠しきれない。



「アヤナ…顔真っ赤」

「い、言わないでッ」



こちとら恥ずかしくて死にそうなんだよ!なんでそんな平然としてられるの。
あ…あぁ、そっかそっかあたしが女として意識されていないからか。

なんだ、そうだよ意識しちゃってるの私だけじゃん。なにそれ余計恥ずかしいじゃん。

___ショーマ、お願いだからそのことに気づかないで。



「ねぇ、もしかして俺の事意識してる?」



バレないでほしかったのに、さすがに勘のいいショーマはすぐに気づいてしまった。
もう、こうなったら仕方ない。開き直るしかないでしょ。



「当たり前でしょッ。こんなことされたら誰だって意識するでしょ…」



思ったことを口にするのはやっぱり恥ずかしくて、語尾はどんどん小さくなっていく。
そんなあたしを見つめ続けるショーマは引くどころか口の端をゆるりと上げて見せた。

その表情にドキリと心臓が大きく震える。



「アヤナ可愛すぎ。あーもう、本当勘弁して」

「え、な…何、何が?」



嬉しそうに笑いながらそんなことを口にするショーマに、あたしは訳が分からず混乱中。
このまま脳がショートして死んでしまいそうだなんて馬鹿なことを考えた。



「ふ……何もしないから安心して」

「…ぇ」

「あれ?してほしかった?」

「えぇっ」



ショーマはあたしの上から退くと自分の布団に寝転がり私を見つめる。
何故か今日のショーマは意地悪すぎておかしいんですけど一体どうしたらいいのか分からないっていうか、どうした方が正解なのか誰か教えてほしい。

でも、ショーマは本当に何もしてこないようであたし自身何を期待していたんだと恥ずかしくなった。
そうだよ、幼馴染だし妹みたいにしか見られてないのに何勝手にドキドキして色々妄想知っちゃってるんだか。

ショーマはそっとあたしの手を握ってきて、それに体を少し震わせた。



「手、握らせて」



そんな風に言われたらあたしが断れないの知っているくせに、そうやっていうのは狡い。

いいよと返事をすれば「おやすみ」と額におやすみのキスが降ってきてあたしは余計に眠れる状態じゃなくなってしまったにもかかわらず、ショーマはというとあっという間に寝息が聞こえてきたから…少しだけ寂しい気持ちになった。

やっぱり、意識してるのはあたしだけなんだと。

といってもショーマを幼馴染から男の人として始めたのは最近の事なのに、強く惹かれてしまってるあたしがいる。


今ここで気持ちにストップをかけないと後戻りできなくなってしまうと気付いていながらも、好きになりたいと気持ちが勝る。
あたしは叶わぬ恋をしてしまった、恋をしてはいけない人に恋をしてしまったんだと気付いてしまった。

お姉さんの言っていた言葉が頭の中でリピートされる。


“誰かに盗られるわよ”


嗚呼、胸が痛くて苦しい。


【カカオフィズ/恋する胸の痛み】

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