バーテンダーに落ちて酔わされ愛されて

花厳曄

XV


翌日、いつものように仕事をこなし、カタカタとキーボードを叩く。


手を止めれば「私の口からは言えない」というマユのセリフがリピートされる。



でもあの後すぐに「いずれ知るときが来るから。必ず来る」と言われたけど、ショーマのことを分かってるつもりでいたあたしとしてはアレがあまりにショックでそのセリフが中々頭に入ってこなかった。



あたしの知らないことをどうしてマユが知ってるの?って疑問に思った。



ショーマはどうしてあたしには教えてくれないのにマユには教えてるの?って思った。



なんだか仲間外れにされた気分。



マユの中にあたしの知らないショーマがいるような感じがしてとても嫌だった。



マユが悪いわけじゃない、ショーマが悪いわけでもない…ただ、あたしが嫉妬してるんだ。



こんなんじゃダメじゃん、ショーマに彼女が出来たらどうするの…いや、すでにいる可能性もあるけど。


昨日のマユの言動で、あたしはショーマ離れをしていないんだと気付いた。


まさかこんなにモヤモヤして嫉妬するなんて自分でもビックリだ。




「んー、疲れた…ご飯食べよご飯」




お昼時間を知らせるメロディーが流れ周りは外に食べに行ったり、お弁当をデスクで食べ始めたり、社食に行ったりする人がいて皆様々だ。



あたしはと言うと、今日は弁当を持参していてこれからいつもの場所でマユと2人で食べる。


そこに行けばすでにマユがいて、マユも今日はお弁当を作ってきたみたい。



同時にオープンすれば色とりどりの可愛らしいマユのお弁当に対し、あたしは和食中心でいかにも健康弁当ですって感じの可愛いと言うにはちょっとだけ無理があるようなお弁当。




「何そのおばぁちゃんの手作り弁当のようなメニューは」


「仕方ないじゃん。これが食べたかったんだから」


そう、今日はきんぴらや肉じゃがとかの気分だったから仕方がないんだ。




「でも、美味しそうだから一口ちょうだい」




マユは肉じゃがの肉の方をかっさらっていったから、あたしはすかさずウインナーを掻っ攫った。




「あっ、ウインナー!」


「お互い様」


「くそぅ」


「ちょっと、レディーがそんな言葉遣いしない」


「何よそれ」




レディーはレディーだよ、別にプリンセスでもいいんだよ?


プリンセスって言われるのはさすがに嫌かなぁって思ったからレディーにしたのに、それでもお気に召さないわけ?


「とりあえず、もうレディーって言わないでね」




痛いし超キザだからね、て言われてしまいなんか…少し凹んだ。




「それはそうと、アンタ今日も行くの?」


「行くってどこに?」


「ショーマさんのBARよ」




あぁ、ショーマのところか。


今日は金曜日だし本当はいこうかなって、さっき昼前まで考えてたんだけど、




「3日連続で行っちゃったから今日は止めておこうかなった思ったり」


「行かないんだ。ショーマさん待ってるんじゃない?」



「そんなことないよ。連続で行ってるし、そもそもなんで私なんか待つわけ」




待ってもらう理由が見つからない。




「今日はいいの。また来週行くし」


「…そう」




そう呟いたマユはどこか違和感で、何かを気にしながら弁当を食べ進めた。


それがなんなのかあたしにはまったく見当もつかないけど、気にするだけ無駄なんだろうと私も弁当の残りを食べ終えた。



そして今日も予定通り終日デスクで仕事を終えた私は「ん~っ」とひと伸びしてからパソコンの電源を落とし、帰宅準備を始めた。




「よし、5時なので帰りまーす」


「ねぇ、本当に行かないの?」


鞄のひもを肩にかけてもう帰る気満々のあたしを呼びとめたマユはそう問いかけ、あたしは昼間答えた時と同じように「来週行くって」とだけ笑って言って退社した。



___ルンルンで帰るその後ろ姿をマユが少しだけ切なそうな顔をして見ていたなんて私は知らない。



帰宅してすぐ服を全て脱ぎ捨てると、下着のままふかふかのベッドに飛び込んで1週間分の疲れを沈む体と共に疲れも沈んで取れてなくればいいのにと思う。




「金曜日にBARに行かないなんて初めて…」




オープンしてから毎週金曜は欠かさず行っていたのに、行かないなんて初めてで、今日BARにあたしが姿を現さなかったら不思議に思うだろう。



でも、3日続けて行ったのも初めてだからさすがに4日続けては無理。


連続で言ったからそれで十分じゃない?と思うのは間違い?



てか、行く行かないはあたしの自由だから別に気にすることないじゃない、何を気にしてるのやら。


今日は何も予定の入ってない華金をどうすごすか、どうゆっくりするのかを考えるだけ。


たまには家でゆっくりのんびり飲んでみるのもいいのかもしれない。


そうと決まれば買いに行かないと。



思い立ったらすぐ行動、とはよく言われたもので、ラフな格好に着替えるとサンダルに足を通してペタペタ歩くたびに聞こえる靴音を聞きながらコンビニに向かっていたらあっという間に着いてしまった。



コンビニ独特の来店音に出迎えられてすぐ向かったのは酒類コーナーで、そこから生にチューハイを数本選んで籠に入れるとチーカマやイカなどのおつまみをがっさり籠の中に入れ込んでレジへとお会計を済ませに向かった。



ピ、ピと流れ作業でレジに商品を通していく店員は「1885円です」とハキハキ言いながら私から2千円を受けとって115円のおつりをいいただいた。



ちょっとだけルンルンな足で帰路を辿れば自然と鼻歌も歌ってしまい、すれ違う人すれ違う人に驚かれたような、変な人を見たような顔をされた。



きっとそれは選曲のせいなんだろうけど。


我ながら何でこの曲をチョイスしたのか分からないけど“森のクマさん”なんて選曲、大の大人がするものではないなと心の中で密かに思った。


それでも鼻歌を続行して家に帰るまで歌い続けてた。


どんだけ機嫌がいいんだって我ながら思う、というかこの前失恋したばかりよね?と自分で自分の地雷を踏むというバカをした。




「こういう時は飲むに限るっ」




夜ご飯を食べずにテーブルの上にはさっき買ったお酒におつまみを広げて、バラエティー番組を鑑賞しながら左手は摘みを右手にはビールを持って交互に味わう。




「っあ~、ビールなんていつぶりだろう」




お酒は基本週に1回、それもショーマのお店でしか飲まなかったからビールなんて自然と飲む機会が減り、気づけばカクテルばかり飲んでいた。




「ビールは1年半ぶりかな」


最後に飲んだ記憶を辿れば去年の飲み会が最期のような気がして、本当にショーマの作ったものしか飲んでいなかったことに改めて気づいた。



ショーマのものは飽きないし、美味しいからいいんだけど。




「美味しかった」




久々のビールは美味しく感じて2本目、3本目とすぐ空にしてしまい次はチューハイに手を出した。これもまたおいしいんだけど…。




「なんか足りないんだよね」




そう、何か足りなくて大満足とまではいかない。


なんだろう、何が足りないっていうんだろう?


イカを口の中に含みながら頭をひねってみるけど何が足りないのか思い当たらなくて…やっぱり何が足りないのか見当がつかない。


「ショーマのもの飲みすぎたせいかな」




ふとショーマの作った数々のカクテルを思い出す。


足りないと感じるのはもしかしたらそれのせいかもしれない。


そんなことを考えながらバラエティーに視線を向けてチビチビと飲んでいく。


だからビールのようにはすぐに減らなくて、30分経っても3分の1しか飲めていなかった。


さっきまでビールを煽るようにして飲んでいた自分はどこに行ったんだ、なんてツッコミを自分で入れたくなるくらいペースダウンしていて、早くもショーマのカクテルが恋しくて飲みたくなっている。



毎週金曜日に飲むというのが体が覚え、週間づいてしまっているせいか…体がうずうずして飲ませろーなんて声が聞こえてくるような気がする。



あたし、ショーマのカクテルに毒されてるな。


いつの間にか溺れさせられてる。


ショーマはそんなこと知りもしないでしょ?




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