雨音

不知火

僕と彼女

三度目の旧校舎ともなると、最初感じていた陰鬱な空気にも慣れてきていた。
「まったく。あの子が人気なのは知ってたけどこんな奴まで…。」
初対面の女の子にこんな奴呼ばわりされるのはいくら僕とはいえ傷つく。
「私からの要求は一つ。あの子につきまとうのはやめろ。見たところコミュニケーションを取るのがいかにも下手くそだ。それを自覚してせめて相手に迷惑をかけない距離を意識しろ。」女の子とは思えないドスの効いた声で脅される。
「た、たぶん人違いだ、と思うよ。僕はつ、つきまとったりなんかし、してないよ。」
「けどあの子の傘をぶっ壊して無理矢理相合傘させたんだろう?」
思考が停止する。ナニヲイッテイルンダコノヒトハ。
「な、なにを言ってるの?そんなことするはずがな、ないよ。」
「けどこっちはそういうふうに聞いてるんだけど?」
僕のクラスのカースト上位たちの目が冷たく感じたのは間違いではなさそうだ。
「ま、まってよ。ぼ、僕はそんな強引なことできる度胸なんてない。た、たまたま傘のないあの子とい、一緒のタイミングで帰っただけだよ。お、同じ委員会だし。」
しばらく彼女はあの冷たい目で僕のことをじっと睨む。蛇に睨まれたカエルの気分がしみじみと理解できた。
「まあ、確かにお前にそんな度胸なさそうだな。それにあの子は基本的に傘を持たない。」嬉しくはないが今はこの度胸のなさそうな見た目に感謝しよう。
「この情報をくれた奴もウチとしては信用してないし、あんたの言い訳を認めてあげる。ただあんたも完全には信用してないから。」
「え、えっと、ありがとう。そ、その情報をくれた人ってだ、誰なの?」嫌な予感がする。

答えは予想通り彼だった。しかし彼のことを信用していないという彼女の発言は意外だった。
「あいつも去年あの子に告白して玉砕してるくせに、女々しくまだ引きずってるからな。」
そうだったのか。
「時間とって悪かったね。でも疑われるような行動はやめたほうがいいよ。あんた身なりも怪しいんだから。」
最後にトドメを刺された。
「それにあの子が苦しむのはもう見たくないから。」
もう?その言葉が少し引っかかったまま、彼女は教室へ戻っていった。

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