地面への近道

ノベルバユーザー531768

記事

 ある映像記録の訳。
 ヴェゲル・ドルドンゴル訳。


 はぁい愛しき読者の皆様、クラウンのお時間ですよぉ。今回、うつつに生きるお人形の皆様に知識をお送りするのはジョラルクックでございます(ジョラルクックはたわけ者の意)。クラウンもついに千八百回目を迎えましたねぇ皆さんのおかげですよ。ごほん、さて、記念日に贈る知識はレバンナ国のお話にしましょうか、丁度、あちら様も建国百八十年でしたね。これも何かの縁でございましょう!(直訳すると〝不可思議な力の曖昧なつながり〟)


 そんなレバンナの首都がある星をご存知の方はいらっしゃいますか?そう!レバンナ不思議話(全く有名ではない)、首都をキリュと勘違いする、ですね。殆どの行政機能はそこにありますし政府も実質的な首都と認めています。では何故、首都をキリュにしないのでしょうか。面倒くさいことに、レバンナ国の生い立ちが関わっておりましてね(手に持っている端末を後ろに投げる)。首都の名前は通称〝貧民街〟。なんと不遇な名称なのか、ですが紐解いていくと面白いですよ。しかしぃ、クラウンではそんな水っぽいお話はしません!傀儡の皆さんには単純明快(意訳)で空っぽの頭にスッと入ってさっと抜けていく入らない知識を望んでいることでしょうに!
 皆さん?今日の知識はコレ、レバンナの首都は貧民街。


 本日のクラウン、終了!以上ジョラルクックでしたぁ。






 歴史研究家、(グルータチィ・)ジェムリァルクン作『レバンナの建国神話』より一部抜粋。翻訳、ケテラスー。


 前文
 我々は(グルータチィの故郷の人々)失われた歴史となるものが寔に重要であると痛く認知している。世界に惑わされ過去を捨てた国が如何なるかは我々が最も後悔していることである。


 私はエナタルン・ザバヌより手紙(電子メールと認識)を授かった。ザバヌはレバンナのキリュに住む生粋の愛国者である。手紙の内容は彼女の叔父の故郷、キュプラリ、俗称貧民街の調査依頼であった。その頃私は大学(所謂専門学校)で歴史を生徒に教えていたが長期休暇で仕事が無かった。研究をしようにも他の研究者に有名どころは抑えられており、小さなところでは行き帰りの運賃すら払えぬ様な端金であった為に生活に困窮していた。そんな中である。彼女からの手紙には金銭面の援助も記載されており彼女の真剣さが伺えるものであった。
 私は飢えたスルチロ(悪食な宇宙生物)の様に飛びつくこととなる。


 まず初めに取り掛かったのは銀河における貧民街の立地である。聖都カナタリアからは銀河の反対に位置するが貧民街の属する部露族の国家の首都から見れば程近い。しかし、貧民街の周辺には旧大戦の残骸に機雷、さらには自立戦闘隊もうよつく危険地帯であり接近は容易くない。即ち、貧民街は外からの物流を遮断されていたとなる。だがここにある人物の手記がある、その手記には物流に関して事細かなことが記載されており、決して貧民街は物流が遮断されていたわけではない様だ。詳しく調べてみると抜け穴、現地民にはスラッグと呼ばれている安全な道があったらしい。この道は強力な電磁波が飛び交っており、自立戦闘隊は入れず、機雷も誤作動を起こすほどであった。きちんと対策をして入ると無傷で貧民街までたどり着くとなる訳である。


(中略)


 私が便乗した商人の船には食料や飲料水が大量に置かれていた。疑問に思い彼に問いただしてみると、彼は焦げた口をモゴモゴ動かし、ポケットの中からくしゃくしゃの所管を取り出した。雑に投げると私はそれを受け取った。後々の調査でわかる名前だった。ルン・バルクホルンの要求書だったのだ。貧民街が当時の状態の限り食料と飲料水を売ってくれと書いてある。目の前の彼はコレをずっと大切に、くしゃくしゃになりながらも破いて捨ててはいないのだ。一体何があったかは知らないが、歴史の歯車に彼は当然入っているだろう。


(後、貧民街に着いてからの陳述が二百行続く)


 第三章
 ルン・バルクホルンの活躍は記録には残されていない。彼は道の途中で暗殺されたと思われる。恐らく国の暗殺者が行ったと推測できる、しかし彼のそばには腕利きの友人がそばにいた為不可能で重過ぎる責任により自殺となるが真相は不明だ。さりとて、友人はルン・バルクホルンに協力的だった、となるよりは親友で信頼の厚い人物だったらしく、彼を殺害する事はないと判断された。これはレバンナの生い立ちに関わった反信者集団の聴き込みに因る。
 不可解なことが一点あり、彼の友人は妹がいた事まで分かっているが友人の妹の痕跡は見つからず、更には兄弟が関わったとされている物品は既にこの世に存在しなかった。架空の人物と化してしまったルン・バルクホルンの親友、こればかりは調査のしようがない。
 いや、私の力不足な故に違いない。もしこの者について知り得るなら、是非公表願いたい。


(何章かに分画され貧民街の細かな様相が記される)


 結章(近しい単語がなかったので造語、希望ある終わりの章の意)


 彼女、エナタルン・ザバヌの手紙の意に添えたかと思われたが、調査結果を報告すると大変に喜ばれた。無粋ながら調査を依頼した理由を伺うと彼女はこう言った。叔母さまの故郷を知りたかったのよ、と。
 立て掛けられた写真は遥か昔を思い起こさせる風貌の人物が写っていた。ユニコーンの壁絵を背景に少女が真ん中に、二人の兄と思われる男性が左右に立ち三人とも笑顔を破裂させている。その写真は確かに貧民街の家屋に酷似していたが華やかな点が違った。真ん中に立つ少女が彼女の叔母だという。
 これ以上の深入りは避けた。私の仕事は貧民街の調査であり彼女に問いただすことではない。ここで聞けばまだ他に何か新たな事実が発見される可能性はあるが、報酬金は貰ったのでこれ以上調査する意味はない。


 レバンナにおける貧民街の立ち位置は摩訶不思議なものだ。キリュに訪れるとよくわかる。繁栄を謳歌する星と旧時代以前の、貧相な暮らしを細々と続ける星。しかし誰も今では忘れとしまっただろう。革命の火は貧民から始まったことに。


 終

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