仇討浪人と座頭梅一

克全

第60話:探索

 盗賊団の探索は着々と進んでいた。
 池原雲伯と立石新次郎の話しで、告発状が複数書かれている事が分かった。
 それを手に入れることができれば、一橋家を窮地に追い込むことはできる。
 だがそれだけでは、本当の敵討ちにはならない。
 大道寺長十郎はそう考えていた。

「立石新次郎という者の言葉は信じられぬ。
 一橋と田沼が黒幕のはずだ」

 梅一から二人の交渉内容を聞かされた長十郎はそう口にした。

「そうですね、確かに一橋が知らないとは思えません。
 ですが田沼の方は分かりませんよ。
 絶対に暗殺に加わっていたとは言い切れないのではありませんか。
 旦那もそう思っていたからこそ、今まで調べ続けていたのではありませんか。
 旦那ほどの腕があれば、殿中で二人を殺す機会もあったでしょう。
 お話の内容から想像するに、旦那は大納言様の側近だったのでしょう」

 梅一の言う通りだった。
 長十郎には思い当たることがあったのだ。
 徳川家基は最初田沼意次をとても毛嫌いしていた。
 それは白河松平家に養子にやられた松平定信と、久松松平家に養子にやられた松平定国から、散々田沼意次の悪口を聞かされていたからだ。

 だが安政七年の一月、千住筋の鶴御成り同行した田沼意次と直接話をした事で、色々と誤解していた事に徳川家基は気がついた。
 それでも田沼意次に言いくるめられたかもしれないと思った徳川家基は、父である将軍の徳川家治に三人の言い分を話して公平に判断してもらっていた。
 いや、徳川家治だけに聞いたのではなかった。

 大道寺長十郎を始めとする小姓や、小納戸や御進物番、はては御庭番にまで話を聞いて、三人の言い分を確かめていた。
 その結論として、松平定信と松平定国の言っている事の方が嘘だと分かった。
 二人田沼意次への悪口が、田安家を明屋形のされた逆恨みだと分かったのだ。
 そして御三卿を明屋形にするのは八代将軍徳川吉宗の意命であり、将来徳川家基に次男三男が生まれた時の為だとも分かったのだ。

「確かにその通りだな。
 大納言様と田沼様は和解されていた。
 和解された以上、見つかれば九族皆殺しになる大逆を行われるはずもない。
 大納言様弑逆に田沼様が加担されておられない可能性は高い。
 だが絶対とも言い切れぬ。
 何としても証拠の依頼書を手に入れてくれ」

「分かっておりますよ、旦那。
 今選りすぐりの者たちが池原の隠した依頼書と告白状を探しています。
 見つけるまでにそう時間はかからないと思われます。
 問題は一橋家がどう動くかです。
 一橋家の動きで、旦那が欲しがっていた情報が手に入るでしょう。
 あっしたちは池原や一橋だけでなく田沼も見張らしています。
 田沼が大納言様暗殺に加担していたら、一橋と一緒に池原を始末しようとするでしょうが、加担していなければ何の動きもないでしょう」

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