仇討浪人と座頭梅一

克全

第40話:大道寺権太郎直近

 大道寺長十郎は久しぶりに父親に会いに来ていた。
 大金を手に入れた事で、これからの事を相談する気になっていた。
 亡き主君の仇を討つのが、いつになるのかは分からない。
 十年二十年三十年かかっても成し遂げる気でいた。
 長くかかるが、だがその時には跡目相続の問題だけは心配しなくてもすむ。

 だが明日にも仇が見つかる可能性があるのだ。
 その時に家を守ることを考えなければいけない。
 愛する妻子を守らなければいけない。
 いや、ようやく部屋住みから脱する事のできた、十二人の家臣達の生活も守らねばならないのだ

「お久しぶりでございます、父上」

「本当に久しぶりだな。
 お前が役目を辞したのを叱って以来か」

「はい、意地を通させていただきました」

「まだ許したわけではないが、もう済んでしまった事だから、何も言うまい。
 それで、どうしても相談したい事とは何なのだ」

 長十郎は腹をくくって話しをする気になっていた。
 予想もしなかった大金を得た事で、少し考えが変わっていた。

「父上はお気づきでしょうが、某は亡き大納言様の仇を討つつもりです。
 そのために、はっきりとした証拠や証人を探し回っております」

 長十郎の父、大道寺権太郎直近は苦々し気な表情をした。

「長十郎の忠義の心を否定する事はできぬ。
 だがそんな事をすれば、大道寺一族が皆殺しにされかねない。
 いや、大道寺だけではなく、川勝などの親類も処罰されるのだぞ」

「分かっております、父上。
 ですから確かな証拠や証人が見つかるまでは、絶対に手出ししません。
 その事をこの場で誓わせていただきます。
 証拠や証人を手に入れることができても、公に訴え出たりはしません。
 訴え出ても内々で潰されてしまう事でしょう。
 ですから、この手で仇を斬って捨てます」

「待て、待て、待て、待つのだ長十郎。
 仇討ちをするのなら公に訴え出るのだ。
 何ならつてを頼って老中や御側御用取次を通さずに上様にお知らせする。
 だから待つのだ、長十郎。
 儂も孫十郎殿も小姓組番士だ。
 機会を見て上様に内々で知らせる機会も作れる。
 だから絶対に早まるな」

「分かっております、父上。
 内々に上様にお伝えできるような相手なら、無理はいたしません。
 問題は仇があまりにも力と上様の信頼を持っていて、訴えても信じてもらえない時だけです」

 そう聞いた大道寺権太郎は苦々し表情を更に歪めた。
 世上で噂されている大納言様を毒殺した相手が、長十郎の言葉通り、上様から絶対の信用信頼を得ている田沼意次だったからだ。

「それに、もし私が事に及ぶ場合は、事前に死亡届を出しておきます。
 顔を焼き誰だか分からないようにしておきます。
 家族にも親戚一同にも類が及ばないようにいたします」

 そう言われた大道寺権太郎は、瞬時に哀しそうな表情に変わった。
 長十郎ならば、亡き徳川家基の為なら平気で顔を焼くだろうと分かったからだ。

「その上で、早々に証拠や証人を手に入れた場合の相談をさせて頂きたいのです」

「……分かった、できるかぎり手助けしてやる」

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