仇討浪人と座頭梅一

克全

第31話:養父の親心

 梅一は正宝寺の賭場に来ていた。
 梅一たちが盗みに入って四日は賭場は開かれなかった。
 だが五日目には賭場が再開されていた。
 情けない話だが、梅一が借用証文を返してやった御家人が来ていた。
 まだ座敷牢の準備ができていないのか、それとも博打狂いの屑親が怖くて、家族がなにもできないのか、梅一には判断できなかった。

 それに梅一には独自の思惑があった。
 住職などの生臭坊主と博徒を皆殺しにすれば、ここの賭場は閉鎖される。
 屑親が新しい賭場に行けば、そこを潰せばいい。
 いや、暗殺者として賭場を潰さなくても、蓄えを全て盗めばいい。
 桜子小僧が賭場を狙うと分かれは、御府内で賭場を開帳する者がいなくなる。
 梅一はそう考えていたのだ。

 そう、梅一は知らなかったのだ。
 一橋家の権力者が、生臭坊主たちの後ろ盾になった事を。
 少々のことでは賭場を潰せなくなっている事を、梅一は知らなかったのだ。
 だがそれもしかたのない事だった。
 養父の大盗賊団から独り立ちした梅一には、全く人手がなかった。

 だがここで養父の親心が生きてきた。
 梅一の事を心から愛する養父は、梅一には内緒で正宝寺を探らせていた。
 動員した配下は、梅一に大盗賊団を率いてもらいたい小頭以下の古参幹部たち。
 それと若い衆のなかでも盗賊の掟を守ろうとする気概のある者たち。
 そんな連中が正宝寺の周りを徹底的に探っていた。
 そしてその情報は一旦小頭に集められ、小頭から養父に伝えられていた。

「お頭、生臭坊主が一橋の上屋敷に入り一刻以上も過ごしました」

「賄賂を贈るまで間で待たされたという事はないな。
 それなりの人間と話し合ったと思うべきだな」

 養父は全てを見抜いているような目で小頭に話しかけていた。

「はい、賄賂を贈るだけなら下役が受け取っておしまいです。
 時間がかかったと言うのなら、間違いなく何か話し合ったはずです」

「臭うな、鼻が曲がりそうになるくらい臭うな」

 養父が意味深な目で小頭に話しかける。

「はい、梅一殿の差配で盗みに入った水谷屋敷も賭場を開いていましたが、主は一橋家の家老でした。
 生臭坊主が会いに行ったのも一橋家です。
 お頭のお考え通り、賭場の開帳に一橋家が係わっている可能性が高いです」

「調べておくべきだな」

「はい、一家総出て生臭坊主と一橋家を調べます。
 その為には、今梅一殿に生臭坊主を殺されては困ります。
 お頭から梅一殿に殺しを待つように言ってもらえませんか」

「それはお前から言っておけ。
 お前の願い通り、梅一が次の頭目になるのなら、補佐をするのはお前になる。
 今から諫言する形にしておく方がいい」

「分かりました、そのようにさせて頂きます」

 養父の親心のお陰で、梅一は多くの情報を手に入れることができた。

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品