仇討浪人と座頭梅一

克全

第26話:いかさま賭博

 梅一が熊の旦那に話していた通り、町奉行所が入れない寺社地の正宝寺内に、博徒が賭場を開いていた。
 しかもそこには座頭がいて、負けて一文無しになった客を相手に、高利の金を貸しているのだ。

 熊の旦那は博打場の雰囲気を嗅ぎ分けていた。
 明らかに特定の人間を狙っている視線が感じられた。
 その男は御家人のようだったが、剣の修業はろくにしていないと分かった。
 少しでも剣の修業をしていれば、自分を狙う視線に気がつくはずだ。
 そして、使われている賽子に細工がしてあることにもだ。

 熊の旦那はとても慎重になっていた。
 仇討ちを成し遂げるまでは絶対に死ねないと思っていた。
 だからこそ、賭場に出入りする前に学べることは全て学んでいた。
 一時同僚であった長谷川平蔵に頭を下げで、賭場の作法を教えてもらった。
 若い頃には本所の鐵とまで言われた長谷川平蔵は、賭場の色々な作法や事情を教えてくれたが、その中にはいかさまを見抜く方法もあったのだ。

 この賭場で行われているいかさまは、鳴針入の賽子を使ったものだった。
 賽子に小さな針を付けていて、壺を引いた時に鳴る音で賽の目を知るのだ。
 そして壺を引くときに思いのままの賽の目にする。
 ここには御家人の客が多いから、粉引きや都奈技の賽子を使ったり、床下に人を潜ませて賽子を転がしたりしたら、見抜かれる可能性があるから鳴針入の賽子を使っているのだろう。

「旦那、狙われている御家人の娘さんは本所でも美人で有名なんですよ。
 このまま上手くいけば、その娘さんを吉原に売ることができます。
 何なら直接御大尽に売る事も出来ます」

「ふむ、御家人の娘ならば、家ごと乗っ取るという方法も使えるか」

「はい、そうなんです。
 美人の娘さんと結婚して養嗣子となり、徒士の御家人株を手に入れる。
 客からは最低でも千両を引き出すことができます。
 それをいかさま博打に引き込んで百両ほどで手に入れる。
 丸々千両の金が手に入ります」

 梅一が抑えきれない怒りの感情を見せながら話す。

「親が娘だけ売って御家人株を売らなかったらどうする」

 こんな話を聞かされても、熊の旦那の冷徹さは変わらなかった。

「いかさま博打にのめり込んだ客は、そう簡単に博打を止められません。
 適度に勝たせながら、徐々に千両まで負けるようにするでしょう。
 もしかしたら、検校の誰かが裏にいるかもしれません。
 だとしたら千両どころか万両だって惜しみませんよ」

「才のない者が御家人でなくなるのは仕方のない事だ。
 武士としてちゃんと己を鍛えていれば、いかさまなど簡単に見破れる。
 それで、今直ぐやるのか、それとも貯めた金を盗んでからやるのか。
 某はどちらでも構わんぞ」

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