追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~

黒雫

23話 side最強の矛《ゲイボルグ》5


 マスター室で書類を読み終えたイツツシは、声を荒げてマザマージらを呼ぶよう指示。

 イツツシが怒り心頭だと聞いたマザマージは、徹底的にロードとリュミナスを潰してくれるだろうと期待しながらマスター室へと入った。

「お呼びでしょうか、マスター」

「ああ、ギルド本部から返答が来たぞ。これがその書類だ」

 そう言って、執務机の上に書類を放り投げる。

 いつもの冷静で落ち着きのあるイツツシらしくない行動を訝しみつつ、手に取って書類に目を通していくマザマージ。

 だが、そこには期待されていたような内容は一切書かれておらず、むしろ自分たちを非難及び追及するような内容がつらつらと書き連ねられていた。

「な……?! ど、どういうことだ?!」

「それはむしろ俺が聞きたいくらいだ。一体どういうことだ? お前たちの話とまるで違うようだが??」

「そ、そんなはずはないんです! 本当にあいつが邪魔してきて……!」

「そうか。だが、討伐隊に参加した全員がそんな事実はないと否定しているどころか、むしろお前たちの行動に大変問題があったと報告しているそうだが?」

「そ、そう! きっとあいつが、巧妙に隠しながら邪魔していたんですよ! それなら、連中が見ていないというのも頷ける! きっとそうに違いないです!! その結果、俺たちと討伐隊の歩調が乱れ、問題行動に見えてしまったんですよ!!」

 思いつきだけで口にしたマザマージと、その言葉を聞いて小さくため息をつくイツツシ。

「では、逆に聞くが。それが事実であるなら、ロードはあの場にいたカイエンを含むA級冒険者たちの目を欺き、かつお前たちを妨害するだけの実力がある。と、そういうことか?」

「そ、それは……」

「もしそれが本当なら、ぜひとも我がクランに戻って来てもらわなければな」

「なっ?!」

 驚愕するマザマージに、淡々と言葉を続けるイツツシの視線はひどく冷ややかなものだった。

「だってそうだろう? 『空の彼方』と『空蝉』といえば、長年A級で活躍してきた実力ある冒険者たちだ。そんな彼らの目を欺けるということは、言い換えればロードには彼ら以上の実力がある、ということだ。違うか?」

「それはその、そうなりますが……。ですが、やつには絶対にそんな実力はありません! なんせ、あいつのスキルは弱い魔物の血をすすって支配下に置くだけの、中途半端なゴミスキルですから!!」

「そうか……。では、お前の言っていることが間違いで、彼らの報告が正しいということになるが?」

「ぐっ……。いや、そんなことは……」

「まぁ良い。すでにギルドは今回の抗議を退けると明言して来ているからな。これ以上の抗議をするならば、それこそ国へと訴え出ねばならん。だが、そこまでするほどの内容でもないだろう。違うか?」

「は、はい……」

 イツツシは暗にこれ以上騒ぎ立てるなと釘を刺した訳だが、マザマージのひどく不満そうな態度にとある決断を下す。

「ああ、それと。お前には今日付けで降格を命じる。副マスター候補として、改めてお前の真価を俺に示してくれ」

「なっ?! な、なぜ俺が降格に?! 悪いのは、全てロードのやつじゃないですか!!」

「ああ、そうなのかもしれん。だが、現に俺たち『天翔』がギルドへと楯突いたことになったばかりか、今まで築き上げて来た信頼はひどく傷つくことになってしまった。その責任を、部外者であるロードに取らせることなどできないだろう? なに、お前が役立たずだと追放クビにしたんだ。邪魔をしてくるかもしれないと用心していれば、防ぐことなど容易いはず。違うか?」

「も、もちろんです! もうあんなやつに邪魔されることなどありえません!!」

「ならば何も問題はないな。最強の矛ゲイボルグならばすぐに私とギルドの信頼を取り戻し、副マスターに返り咲くことができるだろう。ああ、当然のことだが。再び追放者風情に踊らされ、街の笑いものになるような失態を演じたら――どうなるかわかっているだろうな?」

 鋭い眼光で睨まれたマザマージは、ただ頷くことしかできなかった。

 マスター室を後にしたマザマージは、泣く泣く副マスター室にあった必要な書類や私物を纏め、新たに宛がわれた幹部用の個室へと移動。

「くそっ! くそッ!! くそがァァァアアアッッ!!! なんでこうなる?! なんで俺さまが、あんなゴミのせいで降格させられなきゃならねぇ?!」

 怒りに任せて備え付けのゴミ箱を蹴り飛ばしながら、何度も何度も床を蹴りつける。

 しばらくすると話を聞いたヒリテスとシルストナがやって来たが、それでもマザマージの怒りは収まらなかった。

「どうする? いっそのこと、ロードの野郎を叩きのめしてやるか?!」

「そうしてやりたいのはやまやまだけど、今は状況が良くないわ。表立って動けば、真っ先に疑われかねないもの」

「あー、イライラすんなぁ! あたいの拳で、あいつの顔をボッコボコに殴ってやろうと思ったのによぉ!」

 自分の手のひらを音がするほどの力で殴りながら、苛立ちを顕にするシルストナ。

 冷静に止めたシルストナとて、思わず頭の中でロードに火球を放つところを妄想するくらいには苛立っていた。

「アリスと良いリュミナスと良い、どうして吸血コウモリヤローの味方をしやがんだ……? あんな役立たずで態度だけでかい、気持ち悪いヤローなのに……」

「何か弱みを握られてるとか?」

「ありえなくはないけど、アリスのバックには聖天教会がついているのよ? いざとなれば、あんなゴミを一人消すくらい訳ないと思うわ」

「まぁそうだよなぁ……。なんせ、いずれは聖女候補に上がるかも、なんて期待されてるらしいし」

「私は単純に、理由はわからないけどアリスがあの吸血コウモリのことを気に入ってるからだと思うわ。思い返してみれば、アリスはよくあいつについて回ってたもの」

「あー、確かに言われてみればそんな気も……」

 と、同意するシルストナ。

「そんなことはどうだっていいんだよ!! 問題は、どうすればあいつに落とし前をつけさせることができて、アリスを正気に戻せるかだろ?! アリスがパーティーを抜けたお陰で、聖天教会からの援助も打ち切られたんだぞ!」

 アリスがロードを気に入っている。

 考えないようにしていた事実を二人に実感させられ、さらに苛立ったマザマージは大きな怒鳴り声をあげる。

 ヒリテスはややムッとしつつ反論するようなことはせず、シルストナはシュンとした様子で謝罪。

 それから夜遅くまで、3人はどうやってロードに痛い思いをさせつつ、アリスを呼び戻すかの議論を重ねるのだった。

 だが、その翌日。

 三人に更なる追い打ちがかけられることとなる。

 国から、『最強の矛ゲイボルグが報告に上げた件のスケルトン亜種個体について、その個体の捜索、及び発見を天翔へと命ず』という勅命が下ったのだ―――。


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