追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
14話 最善の決断
かつてこのブレルS級ダンジョンの探索を任され、未踏の30層までたどり着いた特A級冒険者パーティーが率いたレイド。
そんな彼らが大きな痛手を負わされ、その後撤退する原因になったと言われている相手が、ドラグオーガ――それも進化もしていない通常種3体との戦闘によるものだったという。
言い換えれば、S級ダンジョンを地下30層まで降りられるだけの一級以上の実力を持つレイドパーティーですら、通常個体相手にとても苦戦を強いられたという事だ。
その進化個体とあっては、いったいどれだけの戦力をかき集めれば討伐できるのか、ハッキリ言って想像もつかない。
「……なんとしても地上へとこの情報を届けなければ、ブレルはなす術なく壊滅しちまう」
7層への階段を駆け上がりながら、弱々しい声音でリュミナスが呟く。
リュミナスの頭の中では、すでに現段階で実行可能であろう様々な対策などが練られているのだろう。
S級ダンジョンでは帰還石が使えないが、幸いなことに発見は俺たちのほうが早かったため、あいつに抜かされない限りは俺たちのほうが先に外へと出られる。
誰かが見張りに残る必要はあるが、突然襲撃されるというような後手に回る状況を避けられるというのは、本当にでかい。
「7層に戻ったら、少しだけ時間をくれ。念のため、眷属に見張らせる」
俺の眷属化についての能力はリュミナスとメルシーに話していなかったため、首を傾げながらも了承してくれた二人。
特に詳しい説明も求められなかったので、この状況で俺が無駄なことをするはずがないと判断してもらえたんだろう。
階段を上り終えて7層へと戻った俺は、すぐさま手ごろな魔物を次々に眷属化し、階段から何かが上がってくる気配がしたらすぐに合図するよう指示。
すぐさま地上へと向けて再び進みだした。
「なんだありゃあ……。おい、あとでちゃんと説明しろよな?」
「アタシも凄く気になるわ。もちろん、隠し通せるなんて思わないことね?」
二人から突き刺すような視線を向けられ、俺は苦笑いで頷く。
説明する機会を得られること、そんな未来を期待しながら。
そこからはメルシーの索敵能力のお陰もあり、ほとんど時間をロスすることなく最短で上層へと駆けあがっていった俺たち。
1層に到着しても眷属からの合図はなく、ほっと胸を撫でおろしたのもつかの間。
ダンジョン入り口付近に差し掛かったところで、強烈な違和感を覚えた。
「……待て。何かおかしくないか? 1層に上がってから、一度も魔物と遭遇していない」
「あぁ?! そりゃ、メルシーが敵を避けてくれてたからだろ?!」
「……いいえ。魔物の気配が入り口から離れた部分に集中していたから、それこそ文字通りの最短ルートを進めたわ」
「……どういうことですか? 魔物は統率者がいない限り、基本的にまばらに生息しているはずでは……」
「おい、まさか……」
アリスの指摘を受け、顔を強張らせるリュミナス。
「いや、違う。この階層に統率者はいない。なぁ、そろそろ出てきたらどうだ??」
俺が入り口のほうへと大きく声をかけると、心底つまらなそうに顔を歪めながら、のそのそと出てくるドラグオーガの進化個体。
「えっ?! どうしてここにいるの?!」
気配察知にも引っかかっていなかったのだろう。
目を大きく見開き、驚愕するメルシー。
「グガァ? ガガガガガッ」
その様子を見た進化個体は、腹を抱えて笑い出した。
「おい、7層で見張りをつけていたんじゃないのか?! 第一、オレたちは一度もヤツに追いつかれてないはずだよな!!?」
冷や汗を流しながら、現実を受け入れられない――否、受け入れたくないリュミナスは、必死に目の前の進化個体を否定する。
「答え合わせは後でしましょう! 今は、目の前の魔物を相手するほうが先決です!」
アリスの叱咤で冷静さを取り戻した二人は、ようやく武器へと手をかけた。
妙なところで落ち着いてるのは、相変わらずだな。
「作戦は2つ。1、全員で相手して勝利。2、一人をなんとかこの場から脱出させて、救援を出しに行く。どっちにするよ?」
俺の問いかけに黙る一同。
ま、意地悪な質問だったのは認めるが。
「なら俺が決める、2だ。アリスとリュミナスは、悪いがここで俺と戦ってもらう。メルシーは俺たちのことは気にせず、隙があれば脱出してくれ」
「何を言っているの?! そんなの絶対に嫌よ! 仲間を見捨てろっていう訳?!」
「甘えんな! こんな職業だ、誰かを犠牲にしなきゃならないときなんていくらでもある! その覚悟をもって、冒険者になったんじゃねぇのか?!」
「そうです。今回は私たちの番だった、というだけの話。それより、優先すべきは街にいる住民の方々です」
「でも……」
メルシーも、頭ではそれが最善だと理解できているのだろう。
だが、心がそれ拒絶する。
逆の立場なら俺もそうなるだろうから、責められないけどな。
「なに、そう心配するな。俺たちだって、別にここで街のために犠牲になってやろうなんざ思っちゃいねぇさ。単純に、一番足が速いメルシーが適任ってだけだ。俺たちは俺たちで救援が来るまで生き残るつもりだし、そのあとあいつを倒すつもりなんだぜ?」
やれやれと肩を竦めながら、すこしおどけた感じで言ってやったらぽかんと口を開いたまま固まるメルシー。
「貴方って結構バカなのね? ……わかったわ、必ず救援を連れて戻るから、誰一人欠けることなく耐えてみせるって約束して? それができないなら、アタシはアタシの意志で動くわよ」
「約束するぜ。何が何でも生き残って、祝勝会をあげようや」
グッと親指を立てると、こくりと頷くメルシー。
あいつはそれを見越したかのように雰囲気を一変させると、俺たちに向かって駆けだしたのだった―――。
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