追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
5話 ダンジョンガチャ
美少女同士の喧嘩をなんとか止めた俺は、アリスを連れて噴水のある広場へと戻ってきた。
「ったく、何やってんだお前は」
「うぅ……すみません……。ミーナの顔を見ていると、つい本音が出てしまって……」
シュンとするアリス。
だが、俺はこれが演技であることも、本当はまったく反省していないことも知っている。
普段はお淑やかなイメージが強いアリスだが、ことミーナが関わる時だけはやたらと子供っぽくなるのだ。
今もきっと、内心ではあの女のせいでとか思ってるに違いない。
「まぁいい、それで本当に俺とパーティーを組むのか? マザマージたちが黙っていないと思うが」
「ロードさんがいたから我慢していましたが、いないのならあそこにいる意味はありません!」
身体の前で拳を作りながら、キッパリと言い切ったアスリ。
「前から不思議だったんだが、なんでそこまで俺にくっついて回るんだ? マザマージのように強くもないし、これと言ってメリットはないと思うんだが」
「え? 本気で言ってるんですか? あのパーティーを支えていたのはロードさんじゃないですか。あの人たち、確かに火力はありましたけどそれだけですよ? それに、直にロードさんの方が強くなりますよね」
真面目な顔で断言したアリス。
俺が首を傾げると、仕方ないですねと頬を赤く染めながら俺についての印象を聞かせてくれた。
1つ、マザマージたちの攻撃が当たっていたのは、俺が戦闘をしながら敵を誘導していたお陰であると思っていること。
2つ、驚くほどの速度で俺が強くなっていて、すでに総合戦闘能力ならマザマージに並んでいると思っていること。
3つ、俺のスキルは未知数ではあるが、絶対にとんでもないものであると確信していること。
「私、人を見る目には自信があるんですよ。なので、ロードさんから離れるつもりはありません! 不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「誤解されるような言い方をするんじゃねぇ!」
頭に軽くチョップすると、わざとらしくいたいですよーと涙目になるアリス。
ったく、なんてあざといやつだ。
ま、でも俺が頑張っていたことを見ててくれたと言うのは、素直に嬉しい。
何か打算があるのだとしても、アリスに騙されるのなら悪くないかもな。
「ま、アリスの気が変わるまで付き合ってやるか。俺もまだまだ冒険者を辞めるつもりはねーしな」
「本当ですか?! ありがとうございますっ!」
満面の笑みを浮かべたアリスは、街中だと言うのに勢いよく抱きついてくる。
だから胸が当た――じゃない、恥ずかしいだろ!
「ええい、乙女が簡単に引っ付くんじゃねぇ!」
「ロードさんだからですよー、役得でしょう?」
「だ・ま・れ!」
なんとか引き剥がすことに成功した俺は、とりあえず二人でどこまでやれるのかを確認するために手ごろなC級ダンジョンに向かうことにした。
ブレル近郊にあるC級ダンジョンの1つ、通称岩石洞窟。
現れるモンスターが石系のやつばかりだからこう呼ばれてるんだが、実はまだ行ったことないんだよな。
「へへへ、ロードさんとデートデートー」
「馬鹿かお前は。ダンジョンに行くんだって言ってんだろ。やる気がないなら置いてくぞ?」
「ロードさんが教えてくれたんですよ? ダンジョンに入るまでは適度な緊張感を保ちつつリラックスして、できる限り気力を温存すべしって」
「それがお前のリラックス方法だってのか……?」
「そうですよ?」
それがなにか? とさも当然かのように言ってのけるアリスに、反論するのをやめた。
『最強の矛』にいたときは、もっとまともだったんだけどなぁ。
鼻歌まじりに歩くアリスを連れつつ、岩石洞窟にたどり着いた俺は所持品の最終確認を行う。
アリスも言葉通り、ダンジョンにたどり着くと纏う雰囲気を一変させ、真剣な表情でポーチの中を確認していた。
どうやら本当に俺の余計なお世話だったらしいな。
「よし、行くか。俺が前、アリスが後ろでいいか?」
「はい、大丈夫です。それと、撤退の合図は絶対ですよね?」
「ああ、その通り。無茶して死んでたら元も子もないからな。いっちょ頑張りますか」
いつものように警戒しながら奥へと進みつつ、手頃な魔物を次々に眷属化していく。
今日のお供は石蛇と石狼、君に決めた! なんてな。
スキルにだいぶ慣れた今では、最大で10匹まで使役できる。
と言っても、眷属化を維持するのに常に魔力を奪われるから、ダンジョン内でだけの短い付き合いだけどな。
「いつ見ても凄いですね」
俺の命令通りにダンジョン内に散らばっていく石狼を見送りながら、感心した様子のアリス。
「便利だよな。テイマーのスキルを持つやつみたいに、常に同じパートナーを使役できりゃ一番なんだろうけど。ま、ないものねだりしてもしょーがねぇ」
「その場かぎりのお友達、ソフレですもんね」
「そういう嫌な言い方やめろよ……」
使役している石狼たちの動向は細かく把握できるので、魔物を見つけたときは右手を敵の数分だけ、下の階層への階段を見つけたときは左手を上げるよう指示している。
石蛇には俺の肩の上で熱感知の能力を使って壁などに擬態している魔物の索敵を命令してあるので、仮に俺たちが気付けなくても急襲される確率をグッと減らせるわけだ。
血と共に持ち主の情報が流れ込んでくる不思議な感覚も、最初こそ気分が悪くなったりしたが今では慣れたもんだな。
岩石洞窟に現れる魔物はC級ダンジョンということもあり、どれも俺たちの敵ではない。
あっという間に10階層にあるボス部屋へと辿り着いた。
「さてさて、今日のボスは誰だろう」
ワクワクする気持ちを抑え、扉を開く。
ボスは討伐されるたびに置き換わるので、ガチャガチャ的な要素もあって嫌いじゃない。
とはいえ大当たり的なポジションのボスは高価なアイテムが見つかる可能性が増す分、とんでもなく強いのでC級とはいえ油断はできないのだが。
中を覗いて見て、引き返すハメになるなんてこともあるくらいだからな。
欲に駆られて突っ込んじゃう奴は、だいたい早死にするんだ。
「あー……マジかよ……」
「どうしたんですか? って、あー……」
俺の反応に合点がいったようで、アリスも困った顔を浮かべた。
というのも、大当たりも大当たり、岩石洞窟では数回しか出現したことがないという魔物、ミスリルタートルが佇んでいるのだ。
名前の通り甲羅がミスリルで出来ているんだが、ミスリルは魔力を込めれば込めた分だけ硬度が上がる特殊な金属なため、個体の持つ魔力量によってはとんでもない防御力を持つことになる。
問題は甲羅だけでなく皮膚の表面にも薄いミスリルの膜を張っていることが多いので、甲羅以外を攻撃してもダメージを与えられない場合があるという部分だ。
見ただけではどれほどの魔力を保有しているのかわからないため、挑むのには少々リスクが高すぎる魔物と言えた。
とは言え、ミスリルはあらゆるものに応用が効く万能鉱石なので、倒すことができれば莫大な金額で売れることは間違いない。
中には身体だけデカくて魔力がほとんどない、駆け出しでも討伐できるくらい弱いミスリルタートルがいることも事実だ。
さて、どうしたもんか―――。
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