肉染む憎しみ

とある学園の教師

第3話

だから、人の形をしたモノは神に手を差し伸べた。
今までの恩情を、還すように。
神は彼らのみを赦し、お互いに手を取り合った。
その楔こそが、クローヴェルだった。






「でもさぁ、人如きが私達を待たせるのって、癪じゃない?」
バヘムツがニヤリと。
「まぁ、言いたいことはわかる。少し脅かそうか」
スルトが、無表情で。
「それもいいなぁ、何する?」
クローヴェルも不気味な笑みで。
「あ、なら私に案が___」
オルフィーまで、乗り気のようだ。
「わぁ、神々の遊戯ですね」
………ソフィアはそれを見て笑っていた。
止めるものは誰一人としていなかった。



「すまないすまない、遅れてしまった」
嫌な顔をした細身の男、小太りの男諸々がゆっくりと歩いてくる。
「あぁ?」
スルトが睨む。
クローヴェルの申し訳なさそうな表情が空気を重くする。
「いやぁ、『何時になったら始まるんだ』って怒りだしちゃって………」
オルフィーも、困り顔で言うので男は萎縮してしまった。ソフィアも
「も、申し訳ない」
悪びれた様子の男だが、スルトが更に詰る。
「ふむ………ここ一帯を焼き尽くすのもやぶさかではないが…………」
無論、今の彼に出来る訳がない。
クローヴェルお墨付きの脅しである。
「お、おやめください!私の努力を踏みにじる気ですか!」
「大木にマッチで火を放つのと変わらない」
飄々と言うスルトに、男達は青白む。
「それで」
先程の優しい笑みから一転。
凄まじい威圧の眼差しを向ける。
「遅れた理由は?」
「は、はい?」
拍子抜けしたかのように、細身の男が間抜けな顔になる。
「ま、迷っておりました………」
「ダウトー」
オルフィーが親指を上に突き立てた拳を掲げる。
「この人達、ちゃーんと真っ直ぐ来てたもんね」
「それは地図を見てたから………」
大柄な男が響く声で。
「あー、あはははは」
クローヴェルが、苦笑う。
「オルフィー、落ち着けよ。な?」
「許せないよ!私に嘘つくなんて!地図なんて持ってないでしょ!?みんな手ぶらなんだもんそんなことすぐわかるよ!ここは階層案内も無いし実物みてからじゃないとあんなまっすぐ来れないよ!」
まるであたかも、『見てました』という口振りで言うので男達は怯えてしまっている。
「お、憶測ですよね?」
「うんん?見てたよ?」
怒気を孕む声で、低く言う。
勿論、演技だ。普段は温厚な彼女がここまで怒る訳が無い。
「『神も堕ちたもんだな』とか『コキ使えるなんて俺達すげー』とか思ってるんでしょ!?」
「おい、オルフィー。やり過ぎ」
「クローヴェルは黙って!」
「はい………」
あまりの威圧感に宥める彼まで怯えてしまう。
「貴方達が偉いんじゃないんだよ………元はと言えば、その腐ったプライドのせいで、神様は弱ってしまったんだよ………貴方達のせいなんだよ………」
悔しそうに言う。俳優顔負けの嘘泣きまでセットで。
「なーんて冗談はさておき、ご飯冷めちゃうから食べよー」
と、彼女が叫んでる間に気まずそうに(演技)スタッフが並べた料理をパクリと食べる。
細身の男他数人は腰を抜かし、他の職員は気が抜けて棒立ちである。
「どうしたの?美味しいよ?」
オルフィー。
紛れもない悪の女である。



「すげぇ顔してたな」
クローヴェルが彼らの帰る後ろ姿を見ながら言う。
「あぁ、スッキリした。………フフッ」
珍しくスルトが笑う。
クローヴェルも釣られて。
「ふはっ、確かに。やられっぱじゃつまらねぇしな」
「ね、楽しかったね。しかもクローヴェルのあの顔!」
「おじさんあんな顔できるんだね〜」
「雰囲気まで弄ってましたよね」
「まぁ、物理的にちょちょいって?」
得意げなクローヴェルとオルフィー。
「スルトさんも相当でしたけどね」
「あんな鬼みたいな顔初めて見たよ」
「若い頃を思い出したよ」
「洒落にならなーい」
バヘムツの快活な笑いにみんなが笑う。
あぁ、今日みたいな日が続けばいいのに。
クローヴェルは、密かに思った。



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