《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
33-3.最終戦争 ヴァル
ファルスタッフ砦――中庭。
聖火台は鋼鉄の甲羅のようなもので包まれている。それが火室の役目となっている。火室からは鉄パイプが伸びていて、蒸気銃へとつながっていた。
そのメンテナンスの総指揮を執っているのが、ドワーフのヴァルである。
「今良いか?」
と、オレはヴァルに声をかけた。
「あ、これは魔神さま。どうもです」
と、ヴァルは委縮するように頭を下げた。
ヴァルは石でできた特殊なヘルムをかぶっている。
個人的にあまり話したことはないけれど、レイアから話は聞いている。角が生えて来ないことに劣等感があるのだとも聞いている。
「蒸気銃の開発に貢献したんだってな。ディーネから聞いた」
ディーネはいまだ歩廊で指揮をとっていた。一斉に撃てェ、寄せ付けるなッ、と声が聞こえてくる。
「たいしたことはしてませんよ」
と、謙遜するようにヴァルは目を伏せた。
ヴァルがここで具体的に、どんな仕事をしているのか、オレにはわからない。邪魔をしては悪い。
率直に用件を切り出すことにした。
「レイアから、これを預かった」
「これは?」
「ドワーフの御守りだそうだな」
「オレが、レイアさんにあげたものです。縁結びの御守りなんです。どうしてこれを?」
「レイアは今から、敵の兵站をたたきに行く。落としちゃ悪いから、ヴァルに渡してくれと言われた」
ヴァルはそのボルトをまるで割れ物でも扱うかのように、両手で受け取った。
ヴァルの手は人のそれとは思えないほど、節くれだっていた。きっと日々の鍛冶仕事なんかでマメが出来ているのだろう。
「レイアさんはホントウに勇敢な御方です。これだけの数の敵を相手に、戦いに行くなんて」
「ヴァルだって、戦ってるじゃないか」
「オレなんて、ここでボイラーの調子を見てるだけですから」
「そう卑屈になることはない。蒸気銃は革新的なシロモノだ。これだけの大軍を相手に善戦してるんだからな」
「魔神さまにそう言ってもらえると、オレも頑張ろうって思えます」
「そうか」
べつにたいして思慮深い言葉でもなかったと思うが、オレから声をかけられるというだけで元気になれるという者は、修道士たちのなかには多かった。
レイアさんは――と、ヴァルはそのボルトを握りしめて、オレのヘルムのほうを見つめ返してきた。
ヴァルの目はコハク色をしていた。その目は、磨き上げた鉱石のようにも見えた。
「戻ってきますよね?」
「ああ。戻ってくるさ」
と、オレはそう断言した。
戻って来い、とオレは命令したのだ。
「だと良いんですけど」
と、ヴァルは不安気だった。
ヴァルがレイアに向ける感情は、なにか特別なものがあるのだろう。レイアが酒を飲み過ぎて、ヴァルがそれを心配する一幕が、修道院での生活のなかでもあったような気がする。
それは、わざわざ気に留めるような光景ではなかったけれど、何気ない日常の風景として、油絵のような色彩をもってオレの中に刻まれている。
修道院での生活は、他愛もないものだったが、温かくて楽しいものがあった。
「縁結びの御守りだと言ったな」
「はい」
「オレにもひとつ、作ってもらうことは出来ないか?」
プロメテにプレゼントしようと思った。
子供を授かりたいというプロメテの要望を聞くことは出来そうにない。代わり――にはならないが、気休めぐらいにはなるだろう。
「あ、それなら、いくつか持ってるので、これを」
と、ヴァルはポケットから別のボルトを取り出した。
「持ってたのか?」
「オレはこういう小物を作るのが趣味なんです。それで、いくつか偶然持っていました。でも、ただの縁起物ですから、その……効果がゼッタイにあるわけではないんです」
「大丈夫だ。わかってる」
と、オレはそのボルトをいただくことにした。
べつに何の変哲もないボルトだ。ガラクタと言えばガラクタなのだが、ヴァルが作ったというから、それなりに価値のあるもののようにも見えてくる。
突如。
気を付けろ、投石機が来るぞ――ッ、という声が砦内にひびいた。
何事かと思ってあたりを見渡した。
上空から何かが迫ってくる気配があった。巨岩。敵が投げつけてきたらしい。岩はボイラーに直撃しようとしていた。
「いけない!」
と、ヴァルが、ボイラーをかばうようにして前に出た。
ボイラーは蒸気銃を動かすための心臓である。ヴァルは身をもって、それを守り抜こうとしたようだ。
ヴァルの小柄なカラダでは――たとえ大柄であったとしても――投石を防ぐことなど出来るはずもない。
そんなことはヴァルだってわかっているはずだ。しかしそれでもボイラーを守り抜こうとするヴァルの勇猛さに、オレは感銘を受けた。
「ふぬっ」
オレは両手を広げているヴァルの、さらにその前に出た。
空から落ちてきた巨岩を受け、全身で止めた。
衝撃がカラダに伝わってきたが、止めきれないことはない。
オレがチカラを込めると、それに呼応するように、ピー、と全身から蒸気が吹き出した。
岩を人のいない広間へと投げ捨てた。ドスン、と大きな地揺れが起こった。
「ま、魔神さま……」
「ケガはないか。ヴァル?」
「ありません。御守りくださって、ありがとうございます」
「見事だった」
「え?」
「決死の覚悟でボイラーを守ろうとした姿は、見事だった。何がボイラーの調子を見ているだけだ。あんなことが出来るのは、勇敢な戦士にほかならないよ」
「ううっ……」
オレの言葉が、よほどうれしかったのか、ヴァルはぶるっとカラダを震わせると、泣きはじめてしまった。
「ど、どうかしたか?」
あまりにおおげさな反応だったので、オレはたじろいだ。
「いえ。オレ、男らしくなりたかったんですよ。だから魔神さまに勇敢な戦士と言ってもらえるのがうれしくて」
と、手の甲で目元をコスっていた。
「そ、そうか」
何気ない一言に、そんなに感動されるとは思わなかったので、チョットうろたえてしまった。
「この戦で活躍すれば、たとえ後方支援でも、オレは勇敢な漢として認めてもらえますかね?」
男とか女とか、オレはあんまり気にしないのだが、それはヴァルにとってはよほど重要なことらしい。
泣いたと思ったら、期待に顔を輝かせてそう尋ねてきた。
「そりゃそうだろう。歴史に名前が刻まれるかもな」
「この戦でオレ、漢になってみせます。レイアさんに恥ずかしくないような漢に」
と、言った。
ヴァルはレイアに気があるのかもしれない。前々からそんな予感はしていた。
レイアにその気があるのかはわからないが、実ると良いなと思った。これではますますレイアに無事に戻って来てもらわないと困る。
「また投石が来るかもしれん。ここをやられたら大損害だ。しばらくオレは、ここを死守しよう」
「お願いします」
と、ヴァルが配下の者たちに指示を出しはじめた。
「シリンダーの圧力を確認せよ。異常がなければ、バイパス弁を開放! シリンダー排水弁を開き、凝水を排出!」
砦内の火に照らされて、ヴァルの顔が赤く照らされていた。その指示を出すさまは、まさに隊長の風格があった。
役割は違えど、レイアに負けず劣らず立派な戦士の姿にしか見えなかった。
聖火台は鋼鉄の甲羅のようなもので包まれている。それが火室の役目となっている。火室からは鉄パイプが伸びていて、蒸気銃へとつながっていた。
そのメンテナンスの総指揮を執っているのが、ドワーフのヴァルである。
「今良いか?」
と、オレはヴァルに声をかけた。
「あ、これは魔神さま。どうもです」
と、ヴァルは委縮するように頭を下げた。
ヴァルは石でできた特殊なヘルムをかぶっている。
個人的にあまり話したことはないけれど、レイアから話は聞いている。角が生えて来ないことに劣等感があるのだとも聞いている。
「蒸気銃の開発に貢献したんだってな。ディーネから聞いた」
ディーネはいまだ歩廊で指揮をとっていた。一斉に撃てェ、寄せ付けるなッ、と声が聞こえてくる。
「たいしたことはしてませんよ」
と、謙遜するようにヴァルは目を伏せた。
ヴァルがここで具体的に、どんな仕事をしているのか、オレにはわからない。邪魔をしては悪い。
率直に用件を切り出すことにした。
「レイアから、これを預かった」
「これは?」
「ドワーフの御守りだそうだな」
「オレが、レイアさんにあげたものです。縁結びの御守りなんです。どうしてこれを?」
「レイアは今から、敵の兵站をたたきに行く。落としちゃ悪いから、ヴァルに渡してくれと言われた」
ヴァルはそのボルトをまるで割れ物でも扱うかのように、両手で受け取った。
ヴァルの手は人のそれとは思えないほど、節くれだっていた。きっと日々の鍛冶仕事なんかでマメが出来ているのだろう。
「レイアさんはホントウに勇敢な御方です。これだけの数の敵を相手に、戦いに行くなんて」
「ヴァルだって、戦ってるじゃないか」
「オレなんて、ここでボイラーの調子を見てるだけですから」
「そう卑屈になることはない。蒸気銃は革新的なシロモノだ。これだけの大軍を相手に善戦してるんだからな」
「魔神さまにそう言ってもらえると、オレも頑張ろうって思えます」
「そうか」
べつにたいして思慮深い言葉でもなかったと思うが、オレから声をかけられるというだけで元気になれるという者は、修道士たちのなかには多かった。
レイアさんは――と、ヴァルはそのボルトを握りしめて、オレのヘルムのほうを見つめ返してきた。
ヴァルの目はコハク色をしていた。その目は、磨き上げた鉱石のようにも見えた。
「戻ってきますよね?」
「ああ。戻ってくるさ」
と、オレはそう断言した。
戻って来い、とオレは命令したのだ。
「だと良いんですけど」
と、ヴァルは不安気だった。
ヴァルがレイアに向ける感情は、なにか特別なものがあるのだろう。レイアが酒を飲み過ぎて、ヴァルがそれを心配する一幕が、修道院での生活のなかでもあったような気がする。
それは、わざわざ気に留めるような光景ではなかったけれど、何気ない日常の風景として、油絵のような色彩をもってオレの中に刻まれている。
修道院での生活は、他愛もないものだったが、温かくて楽しいものがあった。
「縁結びの御守りだと言ったな」
「はい」
「オレにもひとつ、作ってもらうことは出来ないか?」
プロメテにプレゼントしようと思った。
子供を授かりたいというプロメテの要望を聞くことは出来そうにない。代わり――にはならないが、気休めぐらいにはなるだろう。
「あ、それなら、いくつか持ってるので、これを」
と、ヴァルはポケットから別のボルトを取り出した。
「持ってたのか?」
「オレはこういう小物を作るのが趣味なんです。それで、いくつか偶然持っていました。でも、ただの縁起物ですから、その……効果がゼッタイにあるわけではないんです」
「大丈夫だ。わかってる」
と、オレはそのボルトをいただくことにした。
べつに何の変哲もないボルトだ。ガラクタと言えばガラクタなのだが、ヴァルが作ったというから、それなりに価値のあるもののようにも見えてくる。
突如。
気を付けろ、投石機が来るぞ――ッ、という声が砦内にひびいた。
何事かと思ってあたりを見渡した。
上空から何かが迫ってくる気配があった。巨岩。敵が投げつけてきたらしい。岩はボイラーに直撃しようとしていた。
「いけない!」
と、ヴァルが、ボイラーをかばうようにして前に出た。
ボイラーは蒸気銃を動かすための心臓である。ヴァルは身をもって、それを守り抜こうとしたようだ。
ヴァルの小柄なカラダでは――たとえ大柄であったとしても――投石を防ぐことなど出来るはずもない。
そんなことはヴァルだってわかっているはずだ。しかしそれでもボイラーを守り抜こうとするヴァルの勇猛さに、オレは感銘を受けた。
「ふぬっ」
オレは両手を広げているヴァルの、さらにその前に出た。
空から落ちてきた巨岩を受け、全身で止めた。
衝撃がカラダに伝わってきたが、止めきれないことはない。
オレがチカラを込めると、それに呼応するように、ピー、と全身から蒸気が吹き出した。
岩を人のいない広間へと投げ捨てた。ドスン、と大きな地揺れが起こった。
「ま、魔神さま……」
「ケガはないか。ヴァル?」
「ありません。御守りくださって、ありがとうございます」
「見事だった」
「え?」
「決死の覚悟でボイラーを守ろうとした姿は、見事だった。何がボイラーの調子を見ているだけだ。あんなことが出来るのは、勇敢な戦士にほかならないよ」
「ううっ……」
オレの言葉が、よほどうれしかったのか、ヴァルはぶるっとカラダを震わせると、泣きはじめてしまった。
「ど、どうかしたか?」
あまりにおおげさな反応だったので、オレはたじろいだ。
「いえ。オレ、男らしくなりたかったんですよ。だから魔神さまに勇敢な戦士と言ってもらえるのがうれしくて」
と、手の甲で目元をコスっていた。
「そ、そうか」
何気ない一言に、そんなに感動されるとは思わなかったので、チョットうろたえてしまった。
「この戦で活躍すれば、たとえ後方支援でも、オレは勇敢な漢として認めてもらえますかね?」
男とか女とか、オレはあんまり気にしないのだが、それはヴァルにとってはよほど重要なことらしい。
泣いたと思ったら、期待に顔を輝かせてそう尋ねてきた。
「そりゃそうだろう。歴史に名前が刻まれるかもな」
「この戦でオレ、漢になってみせます。レイアさんに恥ずかしくないような漢に」
と、言った。
ヴァルはレイアに気があるのかもしれない。前々からそんな予感はしていた。
レイアにその気があるのかはわからないが、実ると良いなと思った。これではますますレイアに無事に戻って来てもらわないと困る。
「また投石が来るかもしれん。ここをやられたら大損害だ。しばらくオレは、ここを死守しよう」
「お願いします」
と、ヴァルが配下の者たちに指示を出しはじめた。
「シリンダーの圧力を確認せよ。異常がなければ、バイパス弁を開放! シリンダー排水弁を開き、凝水を排出!」
砦内の火に照らされて、ヴァルの顔が赤く照らされていた。その指示を出すさまは、まさに隊長の風格があった。
役割は違えど、レイアに負けず劣らず立派な戦士の姿にしか見えなかった。
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