《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

33-2.最終戦争 レイア・ゲイル

「よォ。魔神さま」


 歩廊アリュールのほうはディーネに任せて、オレは中庭のほうに降りてきた。
 レイアとゲイルが待っていた。


「どうした? どこか行くのか?」
 レイアはヘルムをかぶって、防具をととのえ、馬を従えていた。


「私はこの間諜のオッサンといっしょに、ソマ帝国軍の兵站をたたきに行くのさ」
 と、レイアはとなりにいた、ゲイルのことを指差して言った。
 ゲイルは今日もしゃぶり枝をくわえている。


「ディーネの指示か?」


「ああ。だけど、あの青ヒゲ伯爵は自分の部下にやらせようとしてた。私はそれに自分から引き受けたんだよ」


 レイアはそう言って、歩廊アリュールにいるディーネのほうに目をやった。


 ディーネは依然として、勇ましく指揮を執っている。国王たるディーネは、もっと後方――いや、なんなら王都で待機しておくべきだと思うのだが、こうして前線に出たがるのは本人の性なのだろう。


「兵站を叩きに行くなんて危険じゃないか?」
 とオレは歩廊アリュールにいるディーネから、目の前にいるレイアのほうに視線をうつしてそう言った。


「そりゃ危ねェだろうな。ひょっとしたら、帰ってこれねェかも――なんてな」
 と、レイアはわざとらしく肩を上下に揺らしてそう言った。


「なら、なぜ引き受けた?」


 レイアの物言いは、冗談とも受け取れるものだったが、もしかするとホントウに帰って来ないかもしれないという憂慮もあった。


 ホントウに危険だからこそ、レイアはわざと茶化すように言ったようにも思えた。


「借りを返すなら、ここだと思ってよ」
 と、レイアは急に神妙な表情になった。


「借り?」


「私の命は魔神さまに助けられたものだ。魔神さまがいなけりゃ私は《崇夜者》だった。そうだろ?」


「たしかに治療したのはオレだが、もう恩義は返してもらったつもりだったがな」


「足りねェよ。ぜんぜん足りないね」
 と、レイアは頭を振った。


 緩かったのか、かぶっていたヘルムがズレていた。
 レイアはそれを、整えながらつづけた。


「この戦争が、最後になるらしいじゃねェか」


「ディーネの考えではな」


「ここ一番の大戦だ。私がこの戦いで兵站をたたくことが出来れば、大打撃をあたえることが出来る」


「これだけの数を動員してるんだ。兵站は向こうにとっては、命綱だろうな」


「この戦争で勝てば、《紅蓮教》は世界に名をとどろかすことになる。ソマ帝国を破って真の神を、世に知らしめることになる」


「ああ」


「私はその大事な一戦に関わることが出来た。その勝利を魔神さまにくれてやろうと思ってさ。このチッポケな命を燃やすなら、今だと思うのさ」 と、レイアは笑って見せた。


 レイアの口もとには八重歯が覗いていた。その八重歯によって、可憐さと野卑さの両方を、レイアからは感じさせられる。


「オレのためだと言うのなら、考え直せ。オレはレイアを失うことのほうが、寂しく思う」


「嬉しいことを言ってくれるね。大司教の嬢ちゃんが妬いちまうぜ」


 オレが黙っていたためか、奇妙な沈黙が生まれた。


 レイアはジッとオレのほうを見つめてきた。超蒸気装甲ビッグ・ボーイのなかから、オレはそれを見返した。


 レイアの紅色の双眸は、何かしらの光の反射によるものか、狂気めいた光がやどされていた。


 レイアは続けた。
「私は、自分の母が誰だかわからねェ。オヤジがそのへんの女に生ませたんだ。そのオヤジも早死にしまってさ。それからって言うものの、ずっと盗賊人生だった」


「有名な義賊だったそうだな」


《紅蓮教》という名前は、レイアの前身である盗賊団の《紅蓮党》という名前から影響を受けている。


「義賊だって言っても、しょせんはクズさ。そんな私に、ちゃんとした居場所をくれたのも魔神さまだった。《紅蓮教》はただの宗教じゃねェ。私にとっては家族だった。魔神さまのためなら私は命を張れる」


 レイアは一語一語にチカラを込めるようにしてそう言った。
 止めることは出来ないだろう。そう思わせられるものがあった。


「必ず、戻って来い。これは命令だ」
 と、オレはそうレイアに言うことしか出来なかった。


 都合が良いとは思うが、誰ひとりとして欠けて欲しくはなかった。


「魔神さまに言われちゃ仕方ないね。戻ってくるよ」


「ああ」


「そう言えば、ボイラーの管理をしてるヴァルに、これを渡してやってくれねェかな?」


 レイアはそう言うと、ボルトのようなものを差し出してきた。


「これは?」


「ドワーフたちにとっては、御守りみたいなもんらしい。前に、ヴァルからもらったんだけど、落としちまったら悪いからさ」


「自分でわたせば良いだろ」


「自分で渡してたら、カッコウつかないだろ。魔神さまから渡してくれよ」
 と、レイアにそう言われて、なかば強引にボルトを押し付けられることになった。


「この私が魔神さまのために、大金星を勝ちとって来てやるよ」


 レイアはそう言うと、飛び乗るようにして馬にまたがり、砦を出て行った。


 つづいてゲイルがオレの前に立った。


「お前も死ぬつもりか?」


「まさか。オレがそんな性質じゃないってことは、良くわかってるんじゃないですか」


「そう――だったかな」


「心配することはありませんよ。レイアの嬢ちゃんを殺させたりはしませんから。ここで命を散らしたらカッコウ良いとは思うけどね。魔神さまの御命令とあらば仕方ありません」


「任せたぞ」


 ホントウは気炎万丈のチカラを使って、オレが戦いところなのだが、温存しておくようにとディーネから言われている。


 ディーネの作戦に、間違いがあるとは思わない。従うべきだろうと考えていた。


「ええ」


 ゲイルはしゃぶり枝を指でつまんで、その場に投げ捨てた。しゃぶり枝は、水たまりのなかに落ちた。それをゲイルは踏みねじっていた。靴が水たまりに濡れることは、気にならないようだ。


「しかし変わった組み合わせだな。ゲイルとレイアか」


 そのふたりに、あまり関わりがあったようには思えなかったので、オレはそう尋ねた。


「個人的な絡みは少なかったでしたがね。でも向いてるんですよ、オレたちは、こういう仕事に」


「兵站を叩くことか?」


「奇襲にフイウチ。敵の裏を掻いて、敵地に潜りこむ。オレは間諜としての才能があるみたいですし、レイアの前身は盗賊だそうですからね」


「なるほど」
 適任と言えば、適任なのかもしれない。


「オレは《光神教》なんかよりも、魔神さまのほうが人の標たる存在だと思った。これで負けたらオレの目が曇ってたってことだ」


 じゃあオレも行ってきますよ――とゲイルもレイアにつづいて、砦を出て行った。


 オレの手元には、レイアから押し付けられたボルトが残されていた。

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