《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

33-1.最終戦争 ディーネ

「盾兵。構えッ」


 ディーネの指示が発せられて、歩廊アリュールにひかえていた盾兵たちが、ラウンド・シールドを掲げた。


 敵兵から射かけられた矢が、カキンコキンと金属音をたてて、盾にはじかれていった。


 弾かれた矢が、そのあたりに散らばって行く。


 その1本を拾い上げて、はーははッ、とディーネが豪快に笑った。


「見たか。ソマ帝国の弱兵どもがッ。これがセパタ王国特製の鋼鉄製のラウンド・シールドだ。貴様らのような鉄鋼樹脂でつくられたヤジリなど、1本たりとも通すものかッ。それお返しだ」


 銃兵構え、放てッ――と、ディーネがふたたび指示を発した。


 歩廊(アリュール)に配備された銃兵たちが轟音とともに撃ちかえしていた。


 夜陰のような暗がりのなかを、弾丸が突き抜けていった。


「うわぁぁッ」
 と、押し寄せる帝国軍が崩れて行くのが見て取れる。


 ディーネはいまにも矢狭間エンブライジャから乗りださんとするように、足をかけていた。


 そしてさきほど拾いあげた矢を、勢いよく敵に向かって投げつけていた。べつに投げつけても攻撃にはならないし、勢い余っての行為だったのだろう。


「見たか。腰抜けどもッ。これぞセパタ王国最新兵器の蒸気銃だッ。人の知恵をナめるなよ。神にすがることしか出来ん下郎どもがッ」


「おい、落ちるなよ」
 と、オレは心配になって、そう声をかけた。


「おっと。これは失敬。すこし興奮しすぎてしまいました。お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
 と、ディーネは矢狭間エンブライジャから身を引いて、付けヒゲをととのえていた。


「ホントウに戦が好きなんだな。まるで人が変わったかのようだったぞ」


「誤解のないように言っておきますが、べつに人を殺すのが好きというわけじゃありませんよ」


「ディーネがそんな殺戮者だとは思っちゃいないさ」


 むしろ多民族を受け入れたり、積極的に暗闇症候群の者を受け入れたりしている面もあるし、温厚な面だってあるのだ。
 まぁ、すべては計算の内なのかもしれないが。


「どうです。この最新兵器。蒸気銃は」


「また変わったものを作り上げたな」


「聖火台を利用した蒸気機関による武器です。かつてはこの世界にも銃というものがありましたが、火薬は湿気て使い物になりませんからね。火打石だって《火禁雨》のせいで火を出せない。しかしこういう形ならば、銃が出来る」


 ファルスタッフ砦。
 広間にあった聖火台を利用して、ディーネはボイラーを作り上げた。


 そのボイラーからは、触手のように幾本ものパイプが伸びている。パイプがつながっている先は、歩廊アリュールに配備された銃兵たちの蒸気銃だ。


「すごい多才だな」


「ありがとうございます。怪物城の仕組みから着想を得ることが出来ました。しかしこれは、ヴァルくんの協力がなければ、出来なかったことですよ」


 聖火台を利用したボイラーのそばには、ひとりのドワーフが居座っている。


 ドワーフのヴァルだ。


 この機関の製造に大きくかかわったと聞いている。石炭の投入や、メンテナンスに関してもヴァルが指揮を任されている。


「しかし大きな戦だ」


 ソマ帝国が総攻撃を仕掛けてくるという情報をキャッチして、ディーネはこのファルスタッフ砦を改築して、堅牢な要塞を築きあげた。


 そしてその情報は正しかった。


 ソマ帝国正規軍と《聖白騎士団》あわせて100万近い兵が押し寄せてきた。戦争に100万の動員なんて、チョット信じられない。


 これが帝国主義インペリアリズムの暴竜、大国ソマの物量ということだろう。


 砦からのぞむ茫漠たる丘陵には一面、帝国兵で埋められることになった。


 暗闇のせいで見通しは悪いが、マッタク見えないというわけじゃない。


 このファルスタッフ砦には、各地にオレから分与された火が灯っている。
 それに、ソマの大軍はみんな《輝光石》を携帯しているため、その光景は闇のなかで輝く満天の星のようだった。


「私だって、こんなに大きな戦ははじめてです。ですが、これで決まります。オルフェスの最終戦争ですよ」


 雨に濡れるのもいとわずに、ディーネはこの歩廊アリュールで指揮を執っている。
 その青い髪がぐっしょりと濡れそぼっていた。濡れた髪は、ディーネの頬に張り付いていた。


「しかしこれは防衛戦だろう。勝ってもソマが潰れるわけじゃない」


 いいえ、とディーネは頭を振った。


「ここで勝てば、ソマは潰れます。完勝でなくても良いんです。追い返すことが出来れば、それだけでソマは潰れます」
 と、ディーネは確信に満ちた表情でそう言った。


「どうしてそう言える?」


 オレはべつに戦に詳しいわけじゃない。だが、戦というのは敵の王を討たねば、終わらないんじゃないか、と思う。


「これはセパタ王国とソマ帝国の戦争であり、そして《光神教》と《紅蓮教》の戦争です」


「ああ」


 事実、ファルスタッフ砦には、オレの威光を示すかのように、炎が灯っている。そして紅の戦旗が砦の各地にも立てかけられている。


「これで私たちが、ソマ帝国を追い返すことが出来れば、その風聞はこのオルフェス全域に広がることでしょう。この戦は世界が注目している。あのソマが負けた。あの《光神教》が《紅蓮教》に負けた――という風聞は、すぐに広まることでしょう」


「ソマ帝国は面目が潰れるということか」


「《光神教》が、この総力戦で負けたとなれば、それはもう《紅蓮教》のほうが強いということになる。世界に《紅蓮教》の威光が示されることになるのです。そうなればもう、ソマ帝国はあの大国を維持できなくなってしまう」


 宗教というものは、信者の想いで形成されるものですからね――と、ディーネは付けくわえた。


「面目を潰せさえすれば、こっちの勝ちということか。さすが国王さまだな。ホントウによく考えてる」


 照れたのかディーネはコメカミのあたりを、指で掻いていた。


「お褒めに授かり光栄です。しかし、これもすべては魔神さまのおかげです」


「オレはべつに、何もしてないさ」


 多少は謙遜もふくまれていたが、ホントウにオレは自分の功績だとは思わなかった。


 ドワーフとのつながりを築いていたのもディーネだし、こうして蒸気銃を作りあげたのも、砦を改修したのだってディーネだ。


「すべての根底には、魔神さまの火があった。私をここまで押し上げてくれたのも魔神さまのチカラですよ」


「そこまで言われると照れるな」


「魔神さまのチカラがあったからこそ、こんなにも大きな戦が出来た。これだけの戦が出来ればもう満足ですよ。感謝いたします」
 と、ディーネはまるで舞台上にいるかのように、深々と頭を下げた。


「そう言うのは、勝ってから言って欲しいな。負ければすべて終わりだ」


 負ければオレたちは無事では済まないだろう。プロメテをはじめとする《紅蓮教》の仲間たちだって殺されてしまう。


「負けはしませんよ」
 どうせ戦うなら、勝たなくては――とディーネは言った。


「オレのチカラが必要ならいつでも言ってくれ。気炎万丈の準備はいつでも出来てる」


「いえ。魔神さまは温存しておいてください。今回の戦、おそらくヤツが出てきますから」


「ヤツ?」


「主神ティリリウスですよ」


「あれか……」


 実際に会ったことはない。
 しかしあの日……。


 オレがはじめて召喚された日、レイアたち《紅蓮党》を名乗る者たちの暗闇症候群を治したときのことだ。


 その教会には、主神ティリリウスの石像があった。あのときのことを、オレはまだ覚えている。自分といずれ衝突するであろう巨大な存在を感じさせられたのだ。


「主神ティリリウスを止められるのは、魔神さましかおりません。ヤツを炙り出すまでは、私にお任せください」


「そうか」


「まぁ、私はこの戦を自分のチカラで楽しみたいですだけなんですがね」
 と、ディーネは不敵に笑って見せた。


 敵の数は圧倒的だ。


 しかし、なぜか負ける気がマッタクしない。
 この感覚を、ディーネも持っているのかもしれない。

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