《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
33-1.最終戦争 ディーネ
「盾兵。構えッ」
ディーネの指示が発せられて、歩廊にひかえていた盾兵たちが、ラウンド・シールドを掲げた。
敵兵から射かけられた矢が、カキンコキンと金属音をたてて、盾にはじかれていった。
弾かれた矢が、そのあたりに散らばって行く。
その1本を拾い上げて、はーははッ、とディーネが豪快に笑った。
「見たか。ソマ帝国の弱兵どもがッ。これがセパタ王国特製の鋼鉄製のラウンド・シールドだ。貴様らのような鉄鋼樹脂でつくられたヤジリなど、1本たりとも通すものかッ。それお返しだ」
銃兵構え、放てッ――と、ディーネがふたたび指示を発した。
歩廊(アリュール)に配備された銃兵たちが轟音とともに撃ちかえしていた。
夜陰のような暗がりのなかを、弾丸が突き抜けていった。
「うわぁぁッ」
と、押し寄せる帝国軍が崩れて行くのが見て取れる。
ディーネはいまにも矢狭間から乗りださんとするように、足をかけていた。
そしてさきほど拾いあげた矢を、勢いよく敵に向かって投げつけていた。べつに投げつけても攻撃にはならないし、勢い余っての行為だったのだろう。
「見たか。腰抜けどもッ。これぞセパタ王国最新兵器の蒸気銃だッ。人の知恵をナめるなよ。神にすがることしか出来ん下郎どもがッ」
「おい、落ちるなよ」
と、オレは心配になって、そう声をかけた。
「おっと。これは失敬。すこし興奮しすぎてしまいました。お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
と、ディーネは矢狭間から身を引いて、付けヒゲをととのえていた。
「ホントウに戦が好きなんだな。まるで人が変わったかのようだったぞ」
「誤解のないように言っておきますが、べつに人を殺すのが好きというわけじゃありませんよ」
「ディーネがそんな殺戮者だとは思っちゃいないさ」
むしろ多民族を受け入れたり、積極的に暗闇症候群の者を受け入れたりしている面もあるし、温厚な面だってあるのだ。
まぁ、すべては計算の内なのかもしれないが。
「どうです。この最新兵器。蒸気銃は」
「また変わったものを作り上げたな」
「聖火台を利用した蒸気機関による武器です。かつてはこの世界にも銃というものがありましたが、火薬は湿気て使い物になりませんからね。火打石だって《火禁雨》のせいで火を出せない。しかしこういう形ならば、銃が出来る」
ファルスタッフ砦。
広間にあった聖火台を利用して、ディーネはボイラーを作り上げた。
そのボイラーからは、触手のように幾本ものパイプが伸びている。パイプがつながっている先は、歩廊に配備された銃兵たちの蒸気銃だ。
「すごい多才だな」
「ありがとうございます。怪物城の仕組みから着想を得ることが出来ました。しかしこれは、ヴァルくんの協力がなければ、出来なかったことですよ」
聖火台を利用したボイラーのそばには、ひとりのドワーフが居座っている。
ドワーフのヴァルだ。
この機関の製造に大きくかかわったと聞いている。石炭の投入や、メンテナンスに関してもヴァルが指揮を任されている。
「しかし大きな戦だ」
ソマ帝国が総攻撃を仕掛けてくるという情報をキャッチして、ディーネはこのファルスタッフ砦を改築して、堅牢な要塞を築きあげた。
そしてその情報は正しかった。
ソマ帝国正規軍と《聖白騎士団》あわせて100万近い兵が押し寄せてきた。戦争に100万の動員なんて、チョット信じられない。
これが帝国主義の暴竜、大国ソマの物量ということだろう。
砦からのぞむ茫漠たる丘陵には一面、帝国兵で埋められることになった。
暗闇のせいで見通しは悪いが、マッタク見えないというわけじゃない。
このファルスタッフ砦には、各地にオレから分与された火が灯っている。
それに、ソマの大軍はみんな《輝光石》を携帯しているため、その光景は闇のなかで輝く満天の星のようだった。
「私だって、こんなに大きな戦ははじめてです。ですが、これで決まります。オルフェスの最終戦争ですよ」
雨に濡れるのもいとわずに、ディーネはこの歩廊で指揮を執っている。
その青い髪がぐっしょりと濡れそぼっていた。濡れた髪は、ディーネの頬に張り付いていた。
「しかしこれは防衛戦だろう。勝ってもソマが潰れるわけじゃない」
いいえ、とディーネは頭を振った。
「ここで勝てば、ソマは潰れます。完勝でなくても良いんです。追い返すことが出来れば、それだけでソマは潰れます」
と、ディーネは確信に満ちた表情でそう言った。
「どうしてそう言える?」
オレはべつに戦に詳しいわけじゃない。だが、戦というのは敵の王を討たねば、終わらないんじゃないか、と思う。
「これはセパタ王国とソマ帝国の戦争であり、そして《光神教》と《紅蓮教》の戦争です」
「ああ」
事実、ファルスタッフ砦には、オレの威光を示すかのように、炎が灯っている。そして紅の戦旗が砦の各地にも立てかけられている。
「これで私たちが、ソマ帝国を追い返すことが出来れば、その風聞はこのオルフェス全域に広がることでしょう。この戦は世界が注目している。あのソマが負けた。あの《光神教》が《紅蓮教》に負けた――という風聞は、すぐに広まることでしょう」
「ソマ帝国は面目が潰れるということか」
「《光神教》が、この総力戦で負けたとなれば、それはもう《紅蓮教》のほうが強いということになる。世界に《紅蓮教》の威光が示されることになるのです。そうなればもう、ソマ帝国はあの大国を維持できなくなってしまう」
宗教というものは、信者の想いで形成されるものですからね――と、ディーネは付けくわえた。
「面目を潰せさえすれば、こっちの勝ちということか。さすが国王さまだな。ホントウによく考えてる」
照れたのかディーネはコメカミのあたりを、指で掻いていた。
「お褒めに授かり光栄です。しかし、これもすべては魔神さまのおかげです」
「オレはべつに、何もしてないさ」
多少は謙遜もふくまれていたが、ホントウにオレは自分の功績だとは思わなかった。
ドワーフとのつながりを築いていたのもディーネだし、こうして蒸気銃を作りあげたのも、砦を改修したのだってディーネだ。
「すべての根底には、魔神さまの火があった。私をここまで押し上げてくれたのも魔神さまのチカラですよ」
「そこまで言われると照れるな」
「魔神さまのチカラがあったからこそ、こんなにも大きな戦が出来た。これだけの戦が出来ればもう満足ですよ。感謝いたします」
と、ディーネはまるで舞台上にいるかのように、深々と頭を下げた。
「そう言うのは、勝ってから言って欲しいな。負ければすべて終わりだ」
負ければオレたちは無事では済まないだろう。プロメテをはじめとする《紅蓮教》の仲間たちだって殺されてしまう。
「負けはしませんよ」
どうせ戦うなら、勝たなくては――とディーネは言った。
「オレのチカラが必要ならいつでも言ってくれ。気炎万丈の準備はいつでも出来てる」
「いえ。魔神さまは温存しておいてください。今回の戦、おそらくヤツが出てきますから」
「ヤツ?」
「主神ティリリウスですよ」
「あれか……」
実際に会ったことはない。
しかしあの日……。
オレがはじめて召喚された日、レイアたち《紅蓮党》を名乗る者たちの暗闇症候群を治したときのことだ。
その教会には、主神ティリリウスの石像があった。あのときのことを、オレはまだ覚えている。自分といずれ衝突するであろう巨大な存在を感じさせられたのだ。
「主神ティリリウスを止められるのは、魔神さましかおりません。ヤツを炙り出すまでは、私にお任せください」
「そうか」
「まぁ、私はこの戦を自分のチカラで楽しみたいですだけなんですがね」
と、ディーネは不敵に笑って見せた。
敵の数は圧倒的だ。
しかし、なぜか負ける気がマッタクしない。
この感覚を、ディーネも持っているのかもしれない。
ディーネの指示が発せられて、歩廊にひかえていた盾兵たちが、ラウンド・シールドを掲げた。
敵兵から射かけられた矢が、カキンコキンと金属音をたてて、盾にはじかれていった。
弾かれた矢が、そのあたりに散らばって行く。
その1本を拾い上げて、はーははッ、とディーネが豪快に笑った。
「見たか。ソマ帝国の弱兵どもがッ。これがセパタ王国特製の鋼鉄製のラウンド・シールドだ。貴様らのような鉄鋼樹脂でつくられたヤジリなど、1本たりとも通すものかッ。それお返しだ」
銃兵構え、放てッ――と、ディーネがふたたび指示を発した。
歩廊(アリュール)に配備された銃兵たちが轟音とともに撃ちかえしていた。
夜陰のような暗がりのなかを、弾丸が突き抜けていった。
「うわぁぁッ」
と、押し寄せる帝国軍が崩れて行くのが見て取れる。
ディーネはいまにも矢狭間から乗りださんとするように、足をかけていた。
そしてさきほど拾いあげた矢を、勢いよく敵に向かって投げつけていた。べつに投げつけても攻撃にはならないし、勢い余っての行為だったのだろう。
「見たか。腰抜けどもッ。これぞセパタ王国最新兵器の蒸気銃だッ。人の知恵をナめるなよ。神にすがることしか出来ん下郎どもがッ」
「おい、落ちるなよ」
と、オレは心配になって、そう声をかけた。
「おっと。これは失敬。すこし興奮しすぎてしまいました。お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
と、ディーネは矢狭間から身を引いて、付けヒゲをととのえていた。
「ホントウに戦が好きなんだな。まるで人が変わったかのようだったぞ」
「誤解のないように言っておきますが、べつに人を殺すのが好きというわけじゃありませんよ」
「ディーネがそんな殺戮者だとは思っちゃいないさ」
むしろ多民族を受け入れたり、積極的に暗闇症候群の者を受け入れたりしている面もあるし、温厚な面だってあるのだ。
まぁ、すべては計算の内なのかもしれないが。
「どうです。この最新兵器。蒸気銃は」
「また変わったものを作り上げたな」
「聖火台を利用した蒸気機関による武器です。かつてはこの世界にも銃というものがありましたが、火薬は湿気て使い物になりませんからね。火打石だって《火禁雨》のせいで火を出せない。しかしこういう形ならば、銃が出来る」
ファルスタッフ砦。
広間にあった聖火台を利用して、ディーネはボイラーを作り上げた。
そのボイラーからは、触手のように幾本ものパイプが伸びている。パイプがつながっている先は、歩廊に配備された銃兵たちの蒸気銃だ。
「すごい多才だな」
「ありがとうございます。怪物城の仕組みから着想を得ることが出来ました。しかしこれは、ヴァルくんの協力がなければ、出来なかったことですよ」
聖火台を利用したボイラーのそばには、ひとりのドワーフが居座っている。
ドワーフのヴァルだ。
この機関の製造に大きくかかわったと聞いている。石炭の投入や、メンテナンスに関してもヴァルが指揮を任されている。
「しかし大きな戦だ」
ソマ帝国が総攻撃を仕掛けてくるという情報をキャッチして、ディーネはこのファルスタッフ砦を改築して、堅牢な要塞を築きあげた。
そしてその情報は正しかった。
ソマ帝国正規軍と《聖白騎士団》あわせて100万近い兵が押し寄せてきた。戦争に100万の動員なんて、チョット信じられない。
これが帝国主義の暴竜、大国ソマの物量ということだろう。
砦からのぞむ茫漠たる丘陵には一面、帝国兵で埋められることになった。
暗闇のせいで見通しは悪いが、マッタク見えないというわけじゃない。
このファルスタッフ砦には、各地にオレから分与された火が灯っている。
それに、ソマの大軍はみんな《輝光石》を携帯しているため、その光景は闇のなかで輝く満天の星のようだった。
「私だって、こんなに大きな戦ははじめてです。ですが、これで決まります。オルフェスの最終戦争ですよ」
雨に濡れるのもいとわずに、ディーネはこの歩廊で指揮を執っている。
その青い髪がぐっしょりと濡れそぼっていた。濡れた髪は、ディーネの頬に張り付いていた。
「しかしこれは防衛戦だろう。勝ってもソマが潰れるわけじゃない」
いいえ、とディーネは頭を振った。
「ここで勝てば、ソマは潰れます。完勝でなくても良いんです。追い返すことが出来れば、それだけでソマは潰れます」
と、ディーネは確信に満ちた表情でそう言った。
「どうしてそう言える?」
オレはべつに戦に詳しいわけじゃない。だが、戦というのは敵の王を討たねば、終わらないんじゃないか、と思う。
「これはセパタ王国とソマ帝国の戦争であり、そして《光神教》と《紅蓮教》の戦争です」
「ああ」
事実、ファルスタッフ砦には、オレの威光を示すかのように、炎が灯っている。そして紅の戦旗が砦の各地にも立てかけられている。
「これで私たちが、ソマ帝国を追い返すことが出来れば、その風聞はこのオルフェス全域に広がることでしょう。この戦は世界が注目している。あのソマが負けた。あの《光神教》が《紅蓮教》に負けた――という風聞は、すぐに広まることでしょう」
「ソマ帝国は面目が潰れるということか」
「《光神教》が、この総力戦で負けたとなれば、それはもう《紅蓮教》のほうが強いということになる。世界に《紅蓮教》の威光が示されることになるのです。そうなればもう、ソマ帝国はあの大国を維持できなくなってしまう」
宗教というものは、信者の想いで形成されるものですからね――と、ディーネは付けくわえた。
「面目を潰せさえすれば、こっちの勝ちということか。さすが国王さまだな。ホントウによく考えてる」
照れたのかディーネはコメカミのあたりを、指で掻いていた。
「お褒めに授かり光栄です。しかし、これもすべては魔神さまのおかげです」
「オレはべつに、何もしてないさ」
多少は謙遜もふくまれていたが、ホントウにオレは自分の功績だとは思わなかった。
ドワーフとのつながりを築いていたのもディーネだし、こうして蒸気銃を作りあげたのも、砦を改修したのだってディーネだ。
「すべての根底には、魔神さまの火があった。私をここまで押し上げてくれたのも魔神さまのチカラですよ」
「そこまで言われると照れるな」
「魔神さまのチカラがあったからこそ、こんなにも大きな戦が出来た。これだけの戦が出来ればもう満足ですよ。感謝いたします」
と、ディーネはまるで舞台上にいるかのように、深々と頭を下げた。
「そう言うのは、勝ってから言って欲しいな。負ければすべて終わりだ」
負ければオレたちは無事では済まないだろう。プロメテをはじめとする《紅蓮教》の仲間たちだって殺されてしまう。
「負けはしませんよ」
どうせ戦うなら、勝たなくては――とディーネは言った。
「オレのチカラが必要ならいつでも言ってくれ。気炎万丈の準備はいつでも出来てる」
「いえ。魔神さまは温存しておいてください。今回の戦、おそらくヤツが出てきますから」
「ヤツ?」
「主神ティリリウスですよ」
「あれか……」
実際に会ったことはない。
しかしあの日……。
オレがはじめて召喚された日、レイアたち《紅蓮党》を名乗る者たちの暗闇症候群を治したときのことだ。
その教会には、主神ティリリウスの石像があった。あのときのことを、オレはまだ覚えている。自分といずれ衝突するであろう巨大な存在を感じさせられたのだ。
「主神ティリリウスを止められるのは、魔神さましかおりません。ヤツを炙り出すまでは、私にお任せください」
「そうか」
「まぁ、私はこの戦を自分のチカラで楽しみたいですだけなんですがね」
と、ディーネは不敵に笑って見せた。
敵の数は圧倒的だ。
しかし、なぜか負ける気がマッタクしない。
この感覚を、ディーネも持っているのかもしれない。
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