《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

30-1.怪物城にて療養

「どうも新生セパタ王国で国王をやらせていただいているディーネです」


「どうも、チカラ不足ながらエルフたちの神をやっております。アルテミスです」
 と、ディーネとアルテミスは、お互い奇妙な自己紹介をして、握手をかわしていた。


 アルテミスも女性にしてはすこしばかり身長が高いように見えるが、ディーネと並ぶと頭ひとつ小さかった。


 ディーネとアルテミスは、すぐに打ち解けることが出来たようだし、ディーネの訪問も快く歓迎してくれた。


 怪物城――療養室。


 傍から見れば山のような大きさがあるから、怪物城のなかはそれ相応の広さがある。


 療養室には6台のベッドが設置されている。そのイチバン奥のベッドに、魔術師らしき少女を寝かせていた。


 窓がある。窓からはファルスタッフ砦を見下ろすことが出来た。


「魔神さま。どうぞ」
 と、プロメテがカンテラのなかに、薪を差し入れてきた。


「ありがとう」


 超蒸気装甲ビッグ・ボーイは便利なのだが、いちいち石炭と水を消費してしまう。


 水は無限にあるが、石炭には限りがある。


 この怪物城には、ドワーフから提供してもらった石炭が積んであるが、節約するに越したことはない。


 それに気絶している魔術師が寒そうにしていたため、オレがカラダをさらけ出しているほうが良い。
 オレのおかげで――と言うと、なんか偉そうに聞こえるが――室内は温かくなっている。


 プロメテもディーネも、オレに両手をかざして暖を取っていた。


「なんか久しぶりに、この姿になると心細いものがあるな」
 と、ただ一抹の炎となった自分の姿を確認した。


「そうなのです?」


「服を着てないような感じというかな。自分で歩くことも出来ないしな」


「私は、こっちの魔神さまのほうが好きなのですよ。装甲を着ているときの魔神さまは、頼もしいですが、可愛げがないのですよ」


 それはつまり、この姿は可愛いということか。


 そう言えば以前に、エイブラハングも、そんなことを言っていた気がする。可愛いと言われるのは、神としてどうなのだろうか。
 でもまぁ、チョット嬉しい。


「しかしこの姿だと、いろいろとプロメテに迷惑をかけることになるからな」


「それが良いのですよ。大司教として、魔神さまの召喚主として、私なんかでも役立つことがあるのですから」


「そうやってすぐに自分のことを卑下するのは、プロメテの悪い癖だと思うがな。大司教さまらしく、ドンと構えていれば良い」


「ありがと、なのです」
 と、プロメテは言った。


 何にたいするお礼だったのか、良くわからなかったが、
「ああ」
 と、応じておいた。


「たしかにこうして見ると、なんだか頼りなさげね。装甲を着ているときのほうがカッコウ良いわ。私はあの装甲を着ている魔神さまに助けられたから、そっちのほうに魅力を感じるのかもしれないけどね」
 と、カザハナが言った。


「こらっ。魔神さまに失礼ですよ」
 と、アルテミスが咎めていた。


「わかってるわよ」
 と、カザハナはツッケンドンな調子でそう応じていた。


 アルテミスとカザハナの関係を見ていると、面白いなと感じる。


 神さまにたいしてはふつう、敬う態度を見せるものだ。敬うというか、崇められる対象なのだ。


 プロメテだって、オレにたいしては常に、良くも悪くも敬意をしめしてくれる。


 それがカザハナとアルテミスは逆なのだ。


 アルテミスのほうが、カザハナを慕っているようにも見える。神と民にも、そういう関係がありうるのかと思うと、チョットうれしくなる。


 神だって、この世界から疎外された存在ではないのだと思わせられるからだ。


 もちろんオレだって、プロメテたちから疎外されているとは思っちゃいない。


 プロメテに至っては、子供を生もうと考えているぐらいだ。
 ただ、ヤッパリ同じ目線で生きていくのは難しいかもしれないとは思っていた。その小さな格差が、アルテミスとカザハナにはないように思う。


「それで、魔術師の具合はどうだろうか?」
 と、オレはアルテミスに尋ねた。


「はい。診察させていただきましたが、べつに病気を患っているというようなことはないようですよ。疲れているだけだと思います」


「そうか。ってことは、このまま寝かせていると、いずれ目を覚ますということか」


「ええ。おそらく。ただ気がかりなのは……」
 と、アルテミスは言葉を濁した。


「どうした?」


「気のせいかもしれませんが、この娘のお腹のなかに、もうひとつの生命力を感じます。もしかすると、子供がいるのかもしれません」


「に、妊娠してるのか? こんな小さい子が?」


「勘違いかもしれません。それぐらいかすかな気配です。とりあえず、何か元気の出るようなものを食べさせてあげれば良いかと思います」


「元気の出るようなものか……」


 真っ先に思い浮かぶのは、レバーとかニンニクだとか、そういったものだったけれど、この世界にそれがあるのかはわからない。
 すぐに用意できるかもわからない。


「私が調理場のほうで何か作ってきましょう」
 と、一礼するとアルテミスは退室した。


 カザハナもアルテミスに付いて部屋を出て行った。


 この怪物城には、調理場もついている。そしてなにより助かるのは、エルフたちが、料理に精通していることだ。
 木の実や草木。それにキノコや昆虫といった、森の資源に詳しい。


 そのうえアルテミスは自在に植物を生やす能力を持っているため、料理にはわりと自由がきくのだった。


「それでは私も、一度、部隊のほうに戻ります。ここに新拠点の建築をしなければならないので」 と、ディーネが言った。


「わかった。何かチカラになれることがあれば言ってくれ」


「それでは、お言葉に甘えてひとつお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ん?」


「時間があるときで良いのですが、自治都市ハムレットのほうに顔を出してやってください」


「この近くにあるらしいな」


 ハムレットというのは、地球において有名な悲劇の名前であるから、その自治都市の名は、オレの記憶にも残っていた。


「はい。教会も建立していますが、しかしいまだ司祭は決まっておりませんし、魔神さまの偉大さも、自治都市の連中はいまひとつわかっていないところがあります。魔神さまが一度、姿を見せれば、自治都市ハムレットでも大勢の信徒を獲得することが出来るかと」


「わかった。都合を見て、顔を出してみよう」


「お願いします」
 と、ディーネも部屋を出て行った。


 療養室にはオレとプロメテ、それから眠っている魔術師の3人が残されることになった。


 勘違いかもしれないと言っていたが、
「子供がいるかもしれない」
 というアルテミスの言葉が気にかかる。


 あらためてオレは、ベッドに寝かされている魔術師を見つめた。

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