《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
29-5.もうひとりの魔術師?
膜は、頑強だった。
殴ったり蹴ったりしてみたのだが、亀裂ひとつ入らない。
膜を破壊するために、本気でコブシを叩きこんだりしたら、今度は聖火台を破壊しかねない。
「これは困ったな」
と、オレとディーネとプロメテの3人は、セッカクの聖火台を前に立ち往生することになった。
「ディーネさまーッ」
と、石段の下から呼びかけてくる者がいた。
クリーム色の髪をした少年。
よくよく見てみると、タルルだった。
このまま聖火台の前で佇んでいるわけにもいかないし、オレとプロメテも一度、石段を下ることにした。
大司教さま、お久しぶりです、そちらは魔神さまですか? またお会いすることが出来て光栄です――とかタルルは、早口でまくしたてた。タルルも相変わらず元気にしているようで良かった。
「それでタルルくん。どうかしましたか? まさかお宝でも発見しましたか?」
と、ディーネが面白がるように尋ねていた。
「魔術師がおります」
「ん?」
「ですから、魔術師がいたんですって」
その意味が、オレにはすぐにはわからなかった。
プロメテはさっきから、ここにいる。
オレと同じように、ディーネにも意味がわからなかったようだ。
「何を言っているのですか。タルルくん。プロメテちゃんなら、ここにいるではありませんか」
と、ディーネがプロメテの頭に、ぽん、と手のひらをかぶせた。
いえ、そうじゃないんです、とタルルは頭を振った。
濡れたクリーム色の髪から、水滴が散った。
「大司教さまではなくてですね。別の魔術師がいたんですよ」
と、塔のほうを指差して言った。
「べつの、魔術師?」
「ええ。間違いないですよ。白銀の髪に白銀の目をしています。自分でも魔術師だと名乗っています。いかがしますか?」
「おやおや。タルルくんも冗談が上手くなりましたね」
と、ディーネは笑っていたが、
「冗談じゃないですってば」
と、タルルは怒ったようにそう言い返していた。
さすがに冗談を言っているようには見えない。冗談を言う意味もない。
「まさか、プロメテちゃんのほかにも魔術師が?」
ディーネにとっても驚きだったようで、愕然とした表情でオレとプロメテのことを見た。
「聞いたことないのですよ」
と、プロメテが頭を振った。
いかがいたしますか――と、タルルはもう一度、そう尋ねてきた。
「会って、確認してみましょうか。タルルくん。その魔術師とやらがいるところに案内してください」
「案内するので、付いてきてください」
もしホントウに魔術師がいるならば、プロメテにとっては親戚ということになる。他人事ではない。
聖火台は気になるが、膜のようなものが邪魔で、手出しができない。
いつまでも立ち往生しているわけにもいかないし、オレたちもタルルの案内に付いて行くことにした。
馬場と思われる広場を迂回するようにタルルは小走りで、塔へと向かった。
その道中でオレはプロメテに問いかけてみた。
「プロメテはどう思う?」
わからないのです、とプロメテは続けた。
「ですが、私はオルフェス最後の魔術師と呼ばれていました。父も母も、自分たちが最後の生き残りだと言ってましたから」
「前にも話したように、ひとりの英雄――原初の魔術師から、魔術師の歴史ははじまりました」
と、ディーネが続ける。
「原初の魔術師はその後、ひとりの女性と出会い10人の子を生んだとされています。その生まれた10人はみんな白銀の髪と白銀の目をしていた」
「生まれた子も魔術師だったわけか」
おそらく、とディーネはさらにつづける。
「その10人が、親族同士での結婚をしていったそうです。これは魔術師に限らず、一部の上流貴族なんかは、同じように近しい者同士で結婚をくりかえしています」
「ああ」
と、オレはうなずいた。
地球の歴史に置いても、外の血を入れたがらない名門貴族というのは、けっこう存在していたようだ。
しかし他の血を嫌って、魔術師は親族同士の結婚をしていたわけではないだろう。
世界から、嫌われていたせいだと、オレにも察しはつく。
「魔術師は、迫害を受ける身。世間の風当たりも強く、少しずつ衰退していったと。私はそこまで聞いています。プロメテちゃんが、てっきり最後の魔術師だと思っていたのですがね」
「私にも、わからないのですよ」
と、プロメテは首をかしげていた。
「まぁ、見てみないことには、何とも言えませんね」
こっちです、とタルルが言った。
タルルは中庭にあった塔の中に入って行った。塔はラセン階段になっていた。タルルは2段飛ばして、その階段を上がって行った。
階段の途中にあった一室にて、タルルは足を止めた。
「あそこに」
部屋――。
ディーネの兵が2人いた。2人とも手にカンテラを持っている。おかげで部屋を見通すことが出来た。
大きな鉄格子がはめられていた。通行止めかと言うように、壁一面に鉄格子が張り巡らされている。
その鉄格子の向こう。石造りの空間には、首輪をかけられ、鎖で壁につながれている少女がいたのである。
「たしかに」
と、オレは思わず声を漏らした。
白銀の髪に、白銀の双眸をした少女であった。
プロメテと同じくその髪を長く伸ばしている。年齢も同じぐらいか。そのためどことなく、プロメテに似ているように見える。
ただ、顔立ちはさすがに違っている。
プロメテは穏やかな顔立ちをしている。童顔なのだ。対して、眼前の檻にいる少女の目は、やけに鋭く切れ上がっていた。禍々しい目をしている。
「お助けください」
と、その魔術師はしわがれた声で呟いたのだった。
その言葉を最後に気絶したようだった。
「この鉄格子のカギは?」
と、ディーネは鉄格子をつかんで前後に揺すっていた。ガシャンガシャンと派手な音が響いたが、もちろんのこと開く気配はない。
「いえ。それが、なかなか見つからなくて」
と、タルルは気まずそうに応えていた。
なら、オレが開けよう――と、オレはその鉄格子をつかんで、左右に引きちぎった。焼いたチーズのようにぐにゃりと鉄格子が曲がった。
「さすが魔神さま」
と、ディーネがちいさく拍手をした。
「まぁ、このチカラは装甲の馬力のおかげだ。それよりあの少女を」
「ええ」
壁に鎖でつながれている少女を、ディーネが解放した。
鎖のほうは簡単に外すことが出来たようだが、首輪そのものは外れないようだった。
オレのチカラならムリに外すことも出来るだろうが、下手をするとか細い少女の首も傷つけてしまいかねない。
首輪を外すのは後でも良いだろう、ということになった。
「気絶してしまってるみたいだな……。ケガは?」
「見る限り、ケガをしている様子はありませんね。出血もありません。しかし、しばらく休ませる必要はありそうですね」
話を聞きたかったのですがね――と、ディーネは残念そうに肩をすくめた。
「どこか休ませられるような場所はあるか?」
「私たちセパタ王国軍は、自治都市ハムレットのほうに身を寄せさせてもらってますので、そちらなら療養させる場所もあるかと。ただ、すこし歩く必要がありそうですが」
「怪物城はどうだ?」
怪物城にはアルテミスも同乗している。
以前、体調を崩したプロメテを診てくれたこともある。アルテミスは、人の体調を癒す特殊なチカラを持っている。
「では、怪物城にお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか? 私も怪物城の中身を見ておきたいので」
「オレは構わんが、後でいちおうエルフたちに了解をもらっておこう」
「魔神さまが口をきいてくれるなら、エルフたちも厭とは言わないでしょう」
このファルスタッフ砦の聖火台は気にかかるが、あの不思議な膜が張られていてはどう仕様もない。
プロメテにも異論がないか確認してみたが、プロメテもその魔術師のことを優先したいとのことだった。
そりゃそうだ。
もしかすると、親戚かもしれないのだ。
殴ったり蹴ったりしてみたのだが、亀裂ひとつ入らない。
膜を破壊するために、本気でコブシを叩きこんだりしたら、今度は聖火台を破壊しかねない。
「これは困ったな」
と、オレとディーネとプロメテの3人は、セッカクの聖火台を前に立ち往生することになった。
「ディーネさまーッ」
と、石段の下から呼びかけてくる者がいた。
クリーム色の髪をした少年。
よくよく見てみると、タルルだった。
このまま聖火台の前で佇んでいるわけにもいかないし、オレとプロメテも一度、石段を下ることにした。
大司教さま、お久しぶりです、そちらは魔神さまですか? またお会いすることが出来て光栄です――とかタルルは、早口でまくしたてた。タルルも相変わらず元気にしているようで良かった。
「それでタルルくん。どうかしましたか? まさかお宝でも発見しましたか?」
と、ディーネが面白がるように尋ねていた。
「魔術師がおります」
「ん?」
「ですから、魔術師がいたんですって」
その意味が、オレにはすぐにはわからなかった。
プロメテはさっきから、ここにいる。
オレと同じように、ディーネにも意味がわからなかったようだ。
「何を言っているのですか。タルルくん。プロメテちゃんなら、ここにいるではありませんか」
と、ディーネがプロメテの頭に、ぽん、と手のひらをかぶせた。
いえ、そうじゃないんです、とタルルは頭を振った。
濡れたクリーム色の髪から、水滴が散った。
「大司教さまではなくてですね。別の魔術師がいたんですよ」
と、塔のほうを指差して言った。
「べつの、魔術師?」
「ええ。間違いないですよ。白銀の髪に白銀の目をしています。自分でも魔術師だと名乗っています。いかがしますか?」
「おやおや。タルルくんも冗談が上手くなりましたね」
と、ディーネは笑っていたが、
「冗談じゃないですってば」
と、タルルは怒ったようにそう言い返していた。
さすがに冗談を言っているようには見えない。冗談を言う意味もない。
「まさか、プロメテちゃんのほかにも魔術師が?」
ディーネにとっても驚きだったようで、愕然とした表情でオレとプロメテのことを見た。
「聞いたことないのですよ」
と、プロメテが頭を振った。
いかがいたしますか――と、タルルはもう一度、そう尋ねてきた。
「会って、確認してみましょうか。タルルくん。その魔術師とやらがいるところに案内してください」
「案内するので、付いてきてください」
もしホントウに魔術師がいるならば、プロメテにとっては親戚ということになる。他人事ではない。
聖火台は気になるが、膜のようなものが邪魔で、手出しができない。
いつまでも立ち往生しているわけにもいかないし、オレたちもタルルの案内に付いて行くことにした。
馬場と思われる広場を迂回するようにタルルは小走りで、塔へと向かった。
その道中でオレはプロメテに問いかけてみた。
「プロメテはどう思う?」
わからないのです、とプロメテは続けた。
「ですが、私はオルフェス最後の魔術師と呼ばれていました。父も母も、自分たちが最後の生き残りだと言ってましたから」
「前にも話したように、ひとりの英雄――原初の魔術師から、魔術師の歴史ははじまりました」
と、ディーネが続ける。
「原初の魔術師はその後、ひとりの女性と出会い10人の子を生んだとされています。その生まれた10人はみんな白銀の髪と白銀の目をしていた」
「生まれた子も魔術師だったわけか」
おそらく、とディーネはさらにつづける。
「その10人が、親族同士での結婚をしていったそうです。これは魔術師に限らず、一部の上流貴族なんかは、同じように近しい者同士で結婚をくりかえしています」
「ああ」
と、オレはうなずいた。
地球の歴史に置いても、外の血を入れたがらない名門貴族というのは、けっこう存在していたようだ。
しかし他の血を嫌って、魔術師は親族同士の結婚をしていたわけではないだろう。
世界から、嫌われていたせいだと、オレにも察しはつく。
「魔術師は、迫害を受ける身。世間の風当たりも強く、少しずつ衰退していったと。私はそこまで聞いています。プロメテちゃんが、てっきり最後の魔術師だと思っていたのですがね」
「私にも、わからないのですよ」
と、プロメテは首をかしげていた。
「まぁ、見てみないことには、何とも言えませんね」
こっちです、とタルルが言った。
タルルは中庭にあった塔の中に入って行った。塔はラセン階段になっていた。タルルは2段飛ばして、その階段を上がって行った。
階段の途中にあった一室にて、タルルは足を止めた。
「あそこに」
部屋――。
ディーネの兵が2人いた。2人とも手にカンテラを持っている。おかげで部屋を見通すことが出来た。
大きな鉄格子がはめられていた。通行止めかと言うように、壁一面に鉄格子が張り巡らされている。
その鉄格子の向こう。石造りの空間には、首輪をかけられ、鎖で壁につながれている少女がいたのである。
「たしかに」
と、オレは思わず声を漏らした。
白銀の髪に、白銀の双眸をした少女であった。
プロメテと同じくその髪を長く伸ばしている。年齢も同じぐらいか。そのためどことなく、プロメテに似ているように見える。
ただ、顔立ちはさすがに違っている。
プロメテは穏やかな顔立ちをしている。童顔なのだ。対して、眼前の檻にいる少女の目は、やけに鋭く切れ上がっていた。禍々しい目をしている。
「お助けください」
と、その魔術師はしわがれた声で呟いたのだった。
その言葉を最後に気絶したようだった。
「この鉄格子のカギは?」
と、ディーネは鉄格子をつかんで前後に揺すっていた。ガシャンガシャンと派手な音が響いたが、もちろんのこと開く気配はない。
「いえ。それが、なかなか見つからなくて」
と、タルルは気まずそうに応えていた。
なら、オレが開けよう――と、オレはその鉄格子をつかんで、左右に引きちぎった。焼いたチーズのようにぐにゃりと鉄格子が曲がった。
「さすが魔神さま」
と、ディーネがちいさく拍手をした。
「まぁ、このチカラは装甲の馬力のおかげだ。それよりあの少女を」
「ええ」
壁に鎖でつながれている少女を、ディーネが解放した。
鎖のほうは簡単に外すことが出来たようだが、首輪そのものは外れないようだった。
オレのチカラならムリに外すことも出来るだろうが、下手をするとか細い少女の首も傷つけてしまいかねない。
首輪を外すのは後でも良いだろう、ということになった。
「気絶してしまってるみたいだな……。ケガは?」
「見る限り、ケガをしている様子はありませんね。出血もありません。しかし、しばらく休ませる必要はありそうですね」
話を聞きたかったのですがね――と、ディーネは残念そうに肩をすくめた。
「どこか休ませられるような場所はあるか?」
「私たちセパタ王国軍は、自治都市ハムレットのほうに身を寄せさせてもらってますので、そちらなら療養させる場所もあるかと。ただ、すこし歩く必要がありそうですが」
「怪物城はどうだ?」
怪物城にはアルテミスも同乗している。
以前、体調を崩したプロメテを診てくれたこともある。アルテミスは、人の体調を癒す特殊なチカラを持っている。
「では、怪物城にお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか? 私も怪物城の中身を見ておきたいので」
「オレは構わんが、後でいちおうエルフたちに了解をもらっておこう」
「魔神さまが口をきいてくれるなら、エルフたちも厭とは言わないでしょう」
このファルスタッフ砦の聖火台は気にかかるが、あの不思議な膜が張られていてはどう仕様もない。
プロメテにも異論がないか確認してみたが、プロメテもその魔術師のことを優先したいとのことだった。
そりゃそうだ。
もしかすると、親戚かもしれないのだ。
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