《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

29-5.もうひとりの魔術師?

 膜は、頑強だった。


 殴ったり蹴ったりしてみたのだが、亀裂ひとつ入らない。
 膜を破壊するために、本気でコブシを叩きこんだりしたら、今度は聖火台を破壊しかねない。


「これは困ったな」
 と、オレとディーネとプロメテの3人は、セッカクの聖火台を前に立ち往生することになった。


「ディーネさまーッ」
 と、石段の下から呼びかけてくる者がいた。


 クリーム色の髪をした少年。
 よくよく見てみると、タルルだった。


 このまま聖火台の前で佇んでいるわけにもいかないし、オレとプロメテも一度、石段を下ることにした。


 大司教さま、お久しぶりです、そちらは魔神さまですか? またお会いすることが出来て光栄です――とかタルルは、早口でまくしたてた。タルルも相変わらず元気にしているようで良かった。


「それでタルルくん。どうかしましたか? まさかお宝でも発見しましたか?」
 と、ディーネが面白がるように尋ねていた。


「魔術師がおります」


「ん?」


「ですから、魔術師がいたんですって」


 その意味が、オレにはすぐにはわからなかった。


 プロメテはさっきから、ここにいる。
 オレと同じように、ディーネにも意味がわからなかったようだ。


「何を言っているのですか。タルルくん。プロメテちゃんなら、ここにいるではありませんか」
 と、ディーネがプロメテの頭に、ぽん、と手のひらをかぶせた。


 いえ、そうじゃないんです、とタルルは頭を振った。
 濡れたクリーム色の髪から、水滴が散った。


「大司教さまではなくてですね。別の魔術師がいたんですよ」
 と、塔のほうを指差して言った。


「べつの、魔術師?」


「ええ。間違いないですよ。白銀の髪に白銀の目をしています。自分でも魔術師だと名乗っています。いかがしますか?」


「おやおや。タルルくんも冗談が上手くなりましたね」
 と、ディーネは笑っていたが、
「冗談じゃないですってば」
 と、タルルは怒ったようにそう言い返していた。


 さすがに冗談を言っているようには見えない。冗談を言う意味もない。


「まさか、プロメテちゃんのほかにも魔術師が?」


 ディーネにとっても驚きだったようで、愕然とした表情でオレとプロメテのことを見た。


「聞いたことないのですよ」
 と、プロメテが頭を振った。


 いかがいたしますか――と、タルルはもう一度、そう尋ねてきた。


「会って、確認してみましょうか。タルルくん。その魔術師とやらがいるところに案内してください」


「案内するので、付いてきてください」


 もしホントウに魔術師がいるならば、プロメテにとっては親戚ということになる。他人事ではない。


 聖火台は気になるが、膜のようなものが邪魔で、手出しができない。
 いつまでも立ち往生しているわけにもいかないし、オレたちもタルルの案内に付いて行くことにした。


 馬場と思われる広場を迂回するようにタルルは小走りで、塔へと向かった。
 その道中でオレはプロメテに問いかけてみた。


「プロメテはどう思う?」


 わからないのです、とプロメテは続けた。
「ですが、私はオルフェス最後の魔術師と呼ばれていました。父も母も、自分たちが最後の生き残りだと言ってましたから」


「前にも話したように、ひとりの英雄――原初の魔術師から、魔術師の歴史ははじまりました」
 と、ディーネが続ける。


「原初の魔術師はその後、ひとりの女性と出会い10人の子を生んだとされています。その生まれた10人はみんな白銀の髪と白銀の目をしていた」


「生まれた子も魔術師だったわけか」


 おそらく、とディーネはさらにつづける。


「その10人が、親族同士での結婚をしていったそうです。これは魔術師に限らず、一部の上流貴族なんかは、同じように近しい者同士で結婚をくりかえしています」


「ああ」
 と、オレはうなずいた。


 地球の歴史に置いても、外の血を入れたがらない名門貴族というのは、けっこう存在していたようだ。


 しかし他の血を嫌って、魔術師は親族同士の結婚をしていたわけではないだろう。
 世界から、嫌われていたせいだと、オレにも察しはつく。


「魔術師は、迫害を受ける身。世間の風当たりも強く、少しずつ衰退していったと。私はそこまで聞いています。プロメテちゃんが、てっきり最後の魔術師だと思っていたのですがね」


「私にも、わからないのですよ」
 と、プロメテは首をかしげていた。


「まぁ、見てみないことには、何とも言えませんね」


 こっちです、とタルルが言った。


 タルルは中庭にあった塔の中に入って行った。塔はラセン階段になっていた。タルルは2段飛ばして、その階段を上がって行った。


 階段の途中にあった一室にて、タルルは足を止めた。


「あそこに」


 部屋――。
 ディーネの兵が2人いた。2人とも手にカンテラを持っている。おかげで部屋を見通すことが出来た。


 大きな鉄格子がはめられていた。通行止めかと言うように、壁一面に鉄格子が張り巡らされている。


 その鉄格子の向こう。石造りの空間には、首輪をかけられ、鎖で壁につながれている少女がいたのである。


「たしかに」
 と、オレは思わず声を漏らした。


 白銀の髪に、白銀の双眸をした少女であった。


 プロメテと同じくその髪を長く伸ばしている。年齢も同じぐらいか。そのためどことなく、プロメテに似ているように見える。


 ただ、顔立ちはさすがに違っている。


 プロメテは穏やかな顔立ちをしている。童顔なのだ。対して、眼前の檻にいる少女の目は、やけに鋭く切れ上がっていた。禍々しい目をしている。


「お助けください」
 と、その魔術師はしわがれた声で呟いたのだった。
 その言葉を最後に気絶したようだった。


「この鉄格子のカギは?」
 と、ディーネは鉄格子をつかんで前後に揺すっていた。ガシャンガシャンと派手な音が響いたが、もちろんのこと開く気配はない。


「いえ。それが、なかなか見つからなくて」
 と、タルルは気まずそうに応えていた。


 なら、オレが開けよう――と、オレはその鉄格子をつかんで、左右に引きちぎった。焼いたチーズのようにぐにゃりと鉄格子が曲がった。


「さすが魔神さま」
 と、ディーネがちいさく拍手をした。


「まぁ、このチカラは装甲の馬力のおかげだ。それよりあの少女を」


「ええ」


 壁に鎖でつながれている少女を、ディーネが解放した。


 鎖のほうは簡単に外すことが出来たようだが、首輪そのものは外れないようだった。
 オレのチカラならムリに外すことも出来るだろうが、下手をするとか細い少女の首も傷つけてしまいかねない。
 首輪を外すのは後でも良いだろう、ということになった。


「気絶してしまってるみたいだな……。ケガは?」


「見る限り、ケガをしている様子はありませんね。出血もありません。しかし、しばらく休ませる必要はありそうですね」


 話を聞きたかったのですがね――と、ディーネは残念そうに肩をすくめた。


「どこか休ませられるような場所はあるか?」


「私たちセパタ王国軍は、自治都市ハムレットのほうに身を寄せさせてもらってますので、そちらなら療養させる場所もあるかと。ただ、すこし歩く必要がありそうですが」


「怪物城はどうだ?」


 怪物城にはアルテミスも同乗している。


 以前、体調を崩したプロメテを診てくれたこともある。アルテミスは、人の体調を癒す特殊なチカラを持っている。


「では、怪物城にお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか? 私も怪物城の中身を見ておきたいので」


「オレは構わんが、後でいちおうエルフたちに了解をもらっておこう」


「魔神さまが口をきいてくれるなら、エルフたちも厭とは言わないでしょう」


 このファルスタッフ砦の聖火台は気にかかるが、あの不思議な膜が張られていてはどう仕様もない。


 プロメテにも異論がないか確認してみたが、プロメテもその魔術師のことを優先したいとのことだった。


 そりゃそうだ。
 もしかすると、親戚かもしれないのだ。

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