《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
28-4.VSグングニエル戦③
「ちッ」
と、オレは舌打ちをした。
グングニエルを仕留めきれない。
いまひとつカラダに、チカラが漲らない。
この場所がオレへの信仰の薄い場所でもあり、そして今は、プロメテがいないということも影響しているのだろう。
「どうした。ウワサに聞いていた魔神とはその程度か」
と、水をまとったコブシで、グングニエルが殴りつけてきた。
そのたびに、水蒸気が吹き上がり、オレのカラダの炎の威力が弱まっていく。
「そっちこそ、ソマ帝国ほどの大国の庇護がありながら、その程度のチカラしかないのか。信者の想いもたかが知れてるな」
と、オレは殴り返した。
殴られたグングニエルは後ろによろめいた。
オレの炎のコブシは、確実にグングニエルに効いている。効いているように見えるが、グングニエルはふたたび態勢を立て直した。
「オレはしょせん3大神だからな。エクスカエルにしても、アイギスフォンにしてもそうだ。しょせん我らは主神ではない」
「何が言いたい?」
「《光神教》の信仰心は結局のところ、主神ティリリウスさまのもとに集まる。3大神であるオレたちなぞ、お飾りのようなもの。そんなオレごときに苦戦しているようでは、貴様はゼッタイに主神ティリリウスさまには勝てんということだ。しょせんは邪心。しょせんは魔術師の生み出した悪魔だ」
「言いたいことは、それだけか?」
「なに?」
「《紅蓮教》は着実に大きくなっている。このまま行けば、いずれは《光神教》よりも大きくなる。そうなるのも時間の問題だ」
事実、新生セパタ王国の成長は目覚ましいものがある。国王ディーネみずからが先陣を切って、戦場を駆けまわっているとすら聞いている。
「このオルフェスにおいて歴史を築き上げてきた《光神教》が、ポッと出の邪教なんかに呑まれるものか!」
グングニエルのコブシがオレの頬を打ちつけてきた、が、同時にオレのコブシも、グングニエルの顔面に入っていた。
互いに後ろに突き飛ばされた。
グングニエルもオレも、地面に背中をつけることになった。カザハナからは、遠慮なく暴れても良いと聞いているが、誰か下敷きにしていないか心配だ。
仰向けに倒れているオレに、グングニエルが馬乗りになってきた。
グングニエルの全身は水のヴェールのようなもので包まれていた。そんなグングニエルのカラダと接触することで、オレのカラダがどんどん気化してゆく。どんどん肉体がこそぎ落とされてゆくかのようだった。
ダメか……。
ここで死ぬかもしれない。
そういう思いが胸裏をよぎった。
どこか慢心があったのだ。
オレならば、オレぐらいの実力があるなら、何とでもなるだろうという慢心があった。
プロメテの体調が悪いということと、超蒸気装甲があったことで、オレはエイブラハングとメデュのふたりだけを連れて、アルテミスの森にやって来た。
それが軽率だったのかもしれない。
目立つことなくアルテミスの森にやって来られたのは良かったが、ここはソマ帝国の植民地なのだ。
プロメテのために急いでいたとはいえ、ディーネと相談して軍を動かしてもらうなり、《紅蓮騎士団》を動かすべきだったのかもしれない。
「くそ……」
意識が薄らいでいく。
「このまま消し去ってやる」
と、グングニエルの手が、オレの首を絞めつけてきた。
転瞬。
「今こそ鍛錬の成果を見せるときッ。今こそ奮起せよッ。オルフェスのため、魔神さまのために――ッ」
突撃――ッ。
森が震えるような鬨の声に合わせて、大地を踏み鳴らして、何かが猛進してくる気配があった。
なんだ?
オレが怪訝に思うと同時に、グングニエルもマッタク同じ疑問を抱いたのだろう。
オレと同じように、音のするほうを見ていた。
視界をおおう緑葉を突き破り、連中は跳びだしてきた。
万馬奔騰。
紅の衣を身にまとった騎馬隊である。その勢いたるや、まるで噴出する溶岩のようだった。
「御無事ですか。魔神さま!」
先頭を駆ける馬に乗っているのは、エイブラハングだ。
間隙。
オレに馬乗りになっているグングニエルを蹴りあげて、オレは上体を起こした。
「エイブラハング。どうしてここにいる? 都市シェークスに戻ったんじゃなかったのか?」
「はい。一度、メデュ公爵の母君を都市シェークスにお連れしました。ですが、《紅蓮騎士団》を率いて、こうして引き返して参ったしだいです」
「するとこれは……」
「紅蓮の旗のもとに集う信徒たちです。どうしても援護に行くのだと大司教さまが、おっしゃるものですから、騎士団を率いて参った次第です」
「プロメテが? 目を覚ましたのか?」
「いちおう、お目覚めになられました。ですが体調が悪いようで……。ムリをなされているのだと思うのですが、どうしても魔神さまのもとに行くのだと言い張っておられて」
「プロメテはどこに?」
「レイアの馬に乗っているはずです」
エイブラハングとレイアに鍛えられた《紅蓮騎士団》は、その場にいた《聖白騎士団》を蹴散らしていた。
紅が白を塗り替えてゆく。
そのなかに、オレへと向かってくる騎馬を見つけた。
レイアとプロメテだ。
プロメテは、レイアの背中にしがみつくカッコウで騎乗していた。
「魔神さま!」
「プロメテ……。カラダは大丈夫なのか?」
「私は大丈夫なのですよ」
「なんで、こんな場所にやって来た?」
大丈夫だとは言っているが、強がっているのは明白だった。
プロメテの顔色はいつも以上に青白くて、目のしたにはクマが出来ていた。
「そんなことより、勝手にどこかに行かないで欲しいのです」
いまにも泣きそうな様子でそう言うから、オレはたじろいでしまった。
療養しておくべきだろうと、咎める気持ちも失せてしまった。
「う、うむ」
「置いてかれたと思ったのです」
「べつにどこにも置いていかないさ。ただ、プロメテの病気を治してくれる神さまがいると聞いたもんだからな」
「その気持ちはうれしいのですが、傍からいなくなってると、不安になるのですよ」
子供みたいなことを言う。
考えてみればいままで、ひとりで身動きできないこともあって、オレがプロメテから離れたことなんて、ほとんどないのだ。
思いつくかぎり、ロードリに捕まったときぐらいか……あとはプロメテが風呂やトイレに行くときぐらいなものだ。
それだけ頼りにされているのだと思うと、なんだか無性にうれしくなった。
しかし頼られてばかりではない。
修道院で療養しておくべきだと叱りたかったが、それが出来ないのは、プロメテが来てくれたことによって、本領を発揮できるからである。魔神の本領を。
「結果的に来てくれて良かった。これでオレも本気を出せるというものだ」
オレは立ち上がった。
「話は終わったのか?」
と、グングニエルはすでに姿勢をととのえていた。
「待たせて悪かったな。そろそろカラダが温まってきたところだ。第2ラウンドに行こうか。もっとも今度はすぐにKOを取っちまうがな」
と、オレは舌打ちをした。
グングニエルを仕留めきれない。
いまひとつカラダに、チカラが漲らない。
この場所がオレへの信仰の薄い場所でもあり、そして今は、プロメテがいないということも影響しているのだろう。
「どうした。ウワサに聞いていた魔神とはその程度か」
と、水をまとったコブシで、グングニエルが殴りつけてきた。
そのたびに、水蒸気が吹き上がり、オレのカラダの炎の威力が弱まっていく。
「そっちこそ、ソマ帝国ほどの大国の庇護がありながら、その程度のチカラしかないのか。信者の想いもたかが知れてるな」
と、オレは殴り返した。
殴られたグングニエルは後ろによろめいた。
オレの炎のコブシは、確実にグングニエルに効いている。効いているように見えるが、グングニエルはふたたび態勢を立て直した。
「オレはしょせん3大神だからな。エクスカエルにしても、アイギスフォンにしてもそうだ。しょせん我らは主神ではない」
「何が言いたい?」
「《光神教》の信仰心は結局のところ、主神ティリリウスさまのもとに集まる。3大神であるオレたちなぞ、お飾りのようなもの。そんなオレごときに苦戦しているようでは、貴様はゼッタイに主神ティリリウスさまには勝てんということだ。しょせんは邪心。しょせんは魔術師の生み出した悪魔だ」
「言いたいことは、それだけか?」
「なに?」
「《紅蓮教》は着実に大きくなっている。このまま行けば、いずれは《光神教》よりも大きくなる。そうなるのも時間の問題だ」
事実、新生セパタ王国の成長は目覚ましいものがある。国王ディーネみずからが先陣を切って、戦場を駆けまわっているとすら聞いている。
「このオルフェスにおいて歴史を築き上げてきた《光神教》が、ポッと出の邪教なんかに呑まれるものか!」
グングニエルのコブシがオレの頬を打ちつけてきた、が、同時にオレのコブシも、グングニエルの顔面に入っていた。
互いに後ろに突き飛ばされた。
グングニエルもオレも、地面に背中をつけることになった。カザハナからは、遠慮なく暴れても良いと聞いているが、誰か下敷きにしていないか心配だ。
仰向けに倒れているオレに、グングニエルが馬乗りになってきた。
グングニエルの全身は水のヴェールのようなもので包まれていた。そんなグングニエルのカラダと接触することで、オレのカラダがどんどん気化してゆく。どんどん肉体がこそぎ落とされてゆくかのようだった。
ダメか……。
ここで死ぬかもしれない。
そういう思いが胸裏をよぎった。
どこか慢心があったのだ。
オレならば、オレぐらいの実力があるなら、何とでもなるだろうという慢心があった。
プロメテの体調が悪いということと、超蒸気装甲があったことで、オレはエイブラハングとメデュのふたりだけを連れて、アルテミスの森にやって来た。
それが軽率だったのかもしれない。
目立つことなくアルテミスの森にやって来られたのは良かったが、ここはソマ帝国の植民地なのだ。
プロメテのために急いでいたとはいえ、ディーネと相談して軍を動かしてもらうなり、《紅蓮騎士団》を動かすべきだったのかもしれない。
「くそ……」
意識が薄らいでいく。
「このまま消し去ってやる」
と、グングニエルの手が、オレの首を絞めつけてきた。
転瞬。
「今こそ鍛錬の成果を見せるときッ。今こそ奮起せよッ。オルフェスのため、魔神さまのために――ッ」
突撃――ッ。
森が震えるような鬨の声に合わせて、大地を踏み鳴らして、何かが猛進してくる気配があった。
なんだ?
オレが怪訝に思うと同時に、グングニエルもマッタク同じ疑問を抱いたのだろう。
オレと同じように、音のするほうを見ていた。
視界をおおう緑葉を突き破り、連中は跳びだしてきた。
万馬奔騰。
紅の衣を身にまとった騎馬隊である。その勢いたるや、まるで噴出する溶岩のようだった。
「御無事ですか。魔神さま!」
先頭を駆ける馬に乗っているのは、エイブラハングだ。
間隙。
オレに馬乗りになっているグングニエルを蹴りあげて、オレは上体を起こした。
「エイブラハング。どうしてここにいる? 都市シェークスに戻ったんじゃなかったのか?」
「はい。一度、メデュ公爵の母君を都市シェークスにお連れしました。ですが、《紅蓮騎士団》を率いて、こうして引き返して参ったしだいです」
「するとこれは……」
「紅蓮の旗のもとに集う信徒たちです。どうしても援護に行くのだと大司教さまが、おっしゃるものですから、騎士団を率いて参った次第です」
「プロメテが? 目を覚ましたのか?」
「いちおう、お目覚めになられました。ですが体調が悪いようで……。ムリをなされているのだと思うのですが、どうしても魔神さまのもとに行くのだと言い張っておられて」
「プロメテはどこに?」
「レイアの馬に乗っているはずです」
エイブラハングとレイアに鍛えられた《紅蓮騎士団》は、その場にいた《聖白騎士団》を蹴散らしていた。
紅が白を塗り替えてゆく。
そのなかに、オレへと向かってくる騎馬を見つけた。
レイアとプロメテだ。
プロメテは、レイアの背中にしがみつくカッコウで騎乗していた。
「魔神さま!」
「プロメテ……。カラダは大丈夫なのか?」
「私は大丈夫なのですよ」
「なんで、こんな場所にやって来た?」
大丈夫だとは言っているが、強がっているのは明白だった。
プロメテの顔色はいつも以上に青白くて、目のしたにはクマが出来ていた。
「そんなことより、勝手にどこかに行かないで欲しいのです」
いまにも泣きそうな様子でそう言うから、オレはたじろいでしまった。
療養しておくべきだろうと、咎める気持ちも失せてしまった。
「う、うむ」
「置いてかれたと思ったのです」
「べつにどこにも置いていかないさ。ただ、プロメテの病気を治してくれる神さまがいると聞いたもんだからな」
「その気持ちはうれしいのですが、傍からいなくなってると、不安になるのですよ」
子供みたいなことを言う。
考えてみればいままで、ひとりで身動きできないこともあって、オレがプロメテから離れたことなんて、ほとんどないのだ。
思いつくかぎり、ロードリに捕まったときぐらいか……あとはプロメテが風呂やトイレに行くときぐらいなものだ。
それだけ頼りにされているのだと思うと、なんだか無性にうれしくなった。
しかし頼られてばかりではない。
修道院で療養しておくべきだと叱りたかったが、それが出来ないのは、プロメテが来てくれたことによって、本領を発揮できるからである。魔神の本領を。
「結果的に来てくれて良かった。これでオレも本気を出せるというものだ」
オレは立ち上がった。
「話は終わったのか?」
と、グングニエルはすでに姿勢をととのえていた。
「待たせて悪かったな。そろそろカラダが温まってきたところだ。第2ラウンドに行こうか。もっとも今度はすぐにKOを取っちまうがな」
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