《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
28-3.戦いの足元にて
(これが神の闘争……)
3大神グングニエル。
魔神アラストル。
その両雄の闘争に、カザハナは瞠目し、怖れ、そしておののいた。
森には火炎と豪雨が入り乱れていた。熱風が吹きつけてきたかと思うと、次の瞬間には篠竹で突くような雨が降り注ぐのだ。
そんなさなか――。
(見つけた)
と、カザハナは隻眼を細めた。
ズタ袋をかぶせられているアルテミスの姿があった。
後ろには大きな斧を持った男が立っていた。刑吏だ。
大斧が振りあげられていた。
魔神のかがやきを受けて、その大斧は不気味な光をやどしていた。
アルテミスの処刑は、もっと大々的に行われるものだと思っていた。
魔神の登場によって事を急ぐことにしたのかもしれない。
幸いというべきか、魔神の登場によってあたりは混乱に陥っている。刑吏のほかに、敵になりそうな人影はなかった。
(間に合って……)
と、カザハナは咄嗟に矢をつがえた。
斧を振り上げている刑吏の頭部にに、照準を合わせた。
放つ。
カザハナの放った矢は、豪速で暗闇を突きぬけてゆき、そして刑吏の額に突き刺さった。
刑吏は後ろに倒れこんだ。
確認する間でもなく、死んでいるとわかった。
「アルテミスさま!」
駆け寄って、かぶせられているズタ袋を脱がせた。
外傷がないか見改めてみたが、目視で確認できるかぎり、ケガはないようだった。
すこし安心した。
「カザハナ。いったい何が起こっているのです?」
と、アルテミスは不安気に、カザハナに尋ねてきた。
「魔神アラストルが助太刀してくれているの。とにかくここから離れましょう」
アルテミスは麻縄で後ろ手に縛られていた。それを解きながら、カザハナはそう言った。
アルテミスの細い手首には、縛られた痕跡が赤く付与されていた。見ていて痛ましかった。
「どうしてアラストルが、このような場所に? カザハナが援護を求めたのですか?」
グングニエルとやりあっている魔神の姿を、アルテミスは見上げていた。
「そういうわけじゃないんだけど……。詳しいことは後で説明するから、とにかく今は、ここを離れるわよ」
「わかりました」
火の粉が降り注ぎ、木の葉を燃やしたかと思うと、今度は大雨のごとく水が降り注ぐ。ふたりの神の殴打の応酬は、さらに地鳴りまで起こしていた。
混乱のおかげで、《聖白騎士団》も散っているとはいえ、いつまたアルテミスを捕縛しにかかってくるかもわからない。
とにかく、この場所は危険だ。
「歩ける?」
「はい」
よろめくアルテミスを、カザハナが介助して立ち上がらせた。
アルテミスの身柄は、怪物城にいったん隠しておこうと思った。
魔神に同行していたメデュを、さきに怪物城に行かせてある。隠れ家なので大丈夫だとは思うが、万が一、襲われたときのためのことを思って任せてきたのだ。
メデュのチカラがどれほどのものなのか、カザハナには、
(わからない)
しかし、半神のメデュの名は、聞いたことぐらいはある。
それなりに戦えるはずだと見込んでいる。
グングニエルのことは、魔神に任せて、アルテミスを連れて獣道へと入った。
獣道へ入ってもなお、魔神のかがやきは届いていた。
「待ちな。その神を勝手に連れて行かれちゃ困る」
獣道の進行方向に2人の《聖白騎士団》が立ちはだかった。
2人ぐらいなら何とかなると思ったのだが、左右の木の幹の影からも3人。後ろには5人の《聖白騎士団》が現われた。
都合10人。
小隊で動いていた《聖白騎士団》に捕まってしまったようだ。
「貴様ら……」
と、カザハナはアルテミスをかばうように前に出た。
「その神を、こちらに渡してもらおうか。拒否するというのなら、ここでまとめて始末するだけだ」
天使を召喚されたら手に負えないと思ったのだが、幸いなことに呼び笛は持っていないようだった。
さりとて、この数を相手に突破するのは難しい。あと一息というところなのに……と、カザハナは歯噛みした。
魔神に援護を求めようにも、魔神はグングニエルとの闘争に熱が入っている。メデュも、怪物城のほうに置いてしまっている。
助けを求められるような相手は近くにはいなかった。
「渡さぬと言うのならば、ここでまとめて死ね」 と、《聖白騎士団》の連中が剣を抜いた。
瞬間。
あちこちの木陰から、矢が飛来してきた。
さらなる敵襲かと思って、カザハナはアルテミスとともに身を伏せた。が、飛来してきた矢は、的確に《聖白騎士団》のことを討ちぬいていた。
10人いた《聖白騎士団》はあまさず、その場に死んでいた。
「誰?」
とカザハナは、矢が飛んできた木陰にむかって誰何した。
「私たちじゃ」
と、姿をあらわしたのは、エルフの族長であるウイキョウだった。
ウイキョウは、若々しい姿をしているが、それでも杖に頼って立っていた。木陰からは、ぞくぞくとエルフたちが姿を現した。
「ウイキョウさま? それにみんなも?」
「魔神の助力に奮起させられた者たちじゃ。我らとて、アルテミスさまを差し出すのは、骨身を断たれるような策であった。差し出さずに良いのならば、そのほうが良い」
「そう……。立ち上がってくれたのね」
一度は、アルテミスのことを見捨てたくせにという不満は、カザハナのなかに少しはあった。
が、それも仕方なかったことだ。
アルテミスを差し出すことで、エルフたちが助かるならば――というウイキョウの考えも、理解できなくはなかった。
何はともあれ、アルテミスのことを守り、ソマ帝国と戦う決意を持ってくれたことは、喜ばしいことだった。
「で、これからどうする? カザハナには何か考えがあるのかい?」
「ひとまずアルテミスさまは、怪物城のほうに避難してもらおうと考えてるわ。私は魔神さまの援護をするつもりよ」
「良かろう。ならば、アルテミスさまの身柄はこちらで預かる。怪物城まで護衛させてもらおう」
「任せたわ」
ありがとうね、カザハナ――とアルテミスは、カザハナの耳元でささやくようにそう言った。
アルテミスの身柄は無事に、エルフたちに保護されることになった。
怪物城のほうまで逃げれば安全なはずである。
(問題は……)
と、カザハナは振り返った。
魔神と3大神による殴り合い。援護するとは言ったものの、一介のエルフが手を出せるような隙はない。
「うっ」
と、飛んできた火の粉に、カザハナは目をくらませた。
3大神グングニエル。
魔神アラストル。
その両雄の闘争に、カザハナは瞠目し、怖れ、そしておののいた。
森には火炎と豪雨が入り乱れていた。熱風が吹きつけてきたかと思うと、次の瞬間には篠竹で突くような雨が降り注ぐのだ。
そんなさなか――。
(見つけた)
と、カザハナは隻眼を細めた。
ズタ袋をかぶせられているアルテミスの姿があった。
後ろには大きな斧を持った男が立っていた。刑吏だ。
大斧が振りあげられていた。
魔神のかがやきを受けて、その大斧は不気味な光をやどしていた。
アルテミスの処刑は、もっと大々的に行われるものだと思っていた。
魔神の登場によって事を急ぐことにしたのかもしれない。
幸いというべきか、魔神の登場によってあたりは混乱に陥っている。刑吏のほかに、敵になりそうな人影はなかった。
(間に合って……)
と、カザハナは咄嗟に矢をつがえた。
斧を振り上げている刑吏の頭部にに、照準を合わせた。
放つ。
カザハナの放った矢は、豪速で暗闇を突きぬけてゆき、そして刑吏の額に突き刺さった。
刑吏は後ろに倒れこんだ。
確認する間でもなく、死んでいるとわかった。
「アルテミスさま!」
駆け寄って、かぶせられているズタ袋を脱がせた。
外傷がないか見改めてみたが、目視で確認できるかぎり、ケガはないようだった。
すこし安心した。
「カザハナ。いったい何が起こっているのです?」
と、アルテミスは不安気に、カザハナに尋ねてきた。
「魔神アラストルが助太刀してくれているの。とにかくここから離れましょう」
アルテミスは麻縄で後ろ手に縛られていた。それを解きながら、カザハナはそう言った。
アルテミスの細い手首には、縛られた痕跡が赤く付与されていた。見ていて痛ましかった。
「どうしてアラストルが、このような場所に? カザハナが援護を求めたのですか?」
グングニエルとやりあっている魔神の姿を、アルテミスは見上げていた。
「そういうわけじゃないんだけど……。詳しいことは後で説明するから、とにかく今は、ここを離れるわよ」
「わかりました」
火の粉が降り注ぎ、木の葉を燃やしたかと思うと、今度は大雨のごとく水が降り注ぐ。ふたりの神の殴打の応酬は、さらに地鳴りまで起こしていた。
混乱のおかげで、《聖白騎士団》も散っているとはいえ、いつまたアルテミスを捕縛しにかかってくるかもわからない。
とにかく、この場所は危険だ。
「歩ける?」
「はい」
よろめくアルテミスを、カザハナが介助して立ち上がらせた。
アルテミスの身柄は、怪物城にいったん隠しておこうと思った。
魔神に同行していたメデュを、さきに怪物城に行かせてある。隠れ家なので大丈夫だとは思うが、万が一、襲われたときのためのことを思って任せてきたのだ。
メデュのチカラがどれほどのものなのか、カザハナには、
(わからない)
しかし、半神のメデュの名は、聞いたことぐらいはある。
それなりに戦えるはずだと見込んでいる。
グングニエルのことは、魔神に任せて、アルテミスを連れて獣道へと入った。
獣道へ入ってもなお、魔神のかがやきは届いていた。
「待ちな。その神を勝手に連れて行かれちゃ困る」
獣道の進行方向に2人の《聖白騎士団》が立ちはだかった。
2人ぐらいなら何とかなると思ったのだが、左右の木の幹の影からも3人。後ろには5人の《聖白騎士団》が現われた。
都合10人。
小隊で動いていた《聖白騎士団》に捕まってしまったようだ。
「貴様ら……」
と、カザハナはアルテミスをかばうように前に出た。
「その神を、こちらに渡してもらおうか。拒否するというのなら、ここでまとめて始末するだけだ」
天使を召喚されたら手に負えないと思ったのだが、幸いなことに呼び笛は持っていないようだった。
さりとて、この数を相手に突破するのは難しい。あと一息というところなのに……と、カザハナは歯噛みした。
魔神に援護を求めようにも、魔神はグングニエルとの闘争に熱が入っている。メデュも、怪物城のほうに置いてしまっている。
助けを求められるような相手は近くにはいなかった。
「渡さぬと言うのならば、ここでまとめて死ね」 と、《聖白騎士団》の連中が剣を抜いた。
瞬間。
あちこちの木陰から、矢が飛来してきた。
さらなる敵襲かと思って、カザハナはアルテミスとともに身を伏せた。が、飛来してきた矢は、的確に《聖白騎士団》のことを討ちぬいていた。
10人いた《聖白騎士団》はあまさず、その場に死んでいた。
「誰?」
とカザハナは、矢が飛んできた木陰にむかって誰何した。
「私たちじゃ」
と、姿をあらわしたのは、エルフの族長であるウイキョウだった。
ウイキョウは、若々しい姿をしているが、それでも杖に頼って立っていた。木陰からは、ぞくぞくとエルフたちが姿を現した。
「ウイキョウさま? それにみんなも?」
「魔神の助力に奮起させられた者たちじゃ。我らとて、アルテミスさまを差し出すのは、骨身を断たれるような策であった。差し出さずに良いのならば、そのほうが良い」
「そう……。立ち上がってくれたのね」
一度は、アルテミスのことを見捨てたくせにという不満は、カザハナのなかに少しはあった。
が、それも仕方なかったことだ。
アルテミスを差し出すことで、エルフたちが助かるならば――というウイキョウの考えも、理解できなくはなかった。
何はともあれ、アルテミスのことを守り、ソマ帝国と戦う決意を持ってくれたことは、喜ばしいことだった。
「で、これからどうする? カザハナには何か考えがあるのかい?」
「ひとまずアルテミスさまは、怪物城のほうに避難してもらおうと考えてるわ。私は魔神さまの援護をするつもりよ」
「良かろう。ならば、アルテミスさまの身柄はこちらで預かる。怪物城まで護衛させてもらおう」
「任せたわ」
ありがとうね、カザハナ――とアルテミスは、カザハナの耳元でささやくようにそう言った。
アルテミスの身柄は無事に、エルフたちに保護されることになった。
怪物城のほうまで逃げれば安全なはずである。
(問題は……)
と、カザハナは振り返った。
魔神と3大神による殴り合い。援護するとは言ったものの、一介のエルフが手を出せるような隙はない。
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