《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

28-3.戦いの足元にて

(これが神の闘争……)


 3大神グングニエル。
 魔神アラストル。


 その両雄の闘争に、カザハナは瞠目し、怖れ、そしておののいた。


 森には火炎と豪雨が入り乱れていた。熱風が吹きつけてきたかと思うと、次の瞬間には篠竹で突くような雨が降り注ぐのだ。


 そんなさなか――。


(見つけた)
 と、カザハナは隻眼を細めた。


 ズタ袋をかぶせられているアルテミスの姿があった。
 後ろには大きな斧を持った男が立っていた。刑吏だ。
 大斧が振りあげられていた。


 魔神のかがやきを受けて、その大斧は不気味な光をやどしていた。


 アルテミスの処刑は、もっと大々的に行われるものだと思っていた。


 魔神の登場によって事を急ぐことにしたのかもしれない。


 幸いというべきか、魔神の登場によってあたりは混乱に陥っている。刑吏のほかに、敵になりそうな人影はなかった。



(間に合って……)
 と、カザハナは咄嗟に矢をつがえた。


 斧を振り上げている刑吏の頭部にに、照準を合わせた。


 放つ。


 カザハナの放った矢は、豪速で暗闇を突きぬけてゆき、そして刑吏の額に突き刺さった。
 刑吏は後ろに倒れこんだ。
 確認する間でもなく、死んでいるとわかった。


「アルテミスさま!」
 駆け寄って、かぶせられているズタ袋を脱がせた。


 外傷がないか見改めてみたが、目視で確認できるかぎり、ケガはないようだった。


 すこし安心した。


「カザハナ。いったい何が起こっているのです?」
 と、アルテミスは不安気に、カザハナに尋ねてきた。


「魔神アラストルが助太刀してくれているの。とにかくここから離れましょう」


 アルテミスは麻縄で後ろ手に縛られていた。それを解きながら、カザハナはそう言った。


 アルテミスの細い手首には、縛られた痕跡が赤く付与されていた。見ていて痛ましかった。


「どうしてアラストルが、このような場所に? カザハナが援護を求めたのですか?」


 グングニエルとやりあっている魔神の姿を、アルテミスは見上げていた。


「そういうわけじゃないんだけど……。詳しいことは後で説明するから、とにかく今は、ここを離れるわよ」


「わかりました」


 火の粉が降り注ぎ、木の葉を燃やしたかと思うと、今度は大雨のごとく水が降り注ぐ。ふたりの神の殴打の応酬は、さらに地鳴りまで起こしていた。


 混乱のおかげで、《聖白騎士団》も散っているとはいえ、いつまたアルテミスを捕縛しにかかってくるかもわからない。


 とにかく、この場所は危険だ。


「歩ける?」


「はい」


 よろめくアルテミスを、カザハナが介助して立ち上がらせた。


 アルテミスの身柄は、怪物城にいったん隠しておこうと思った。


 魔神に同行していたメデュを、さきに怪物城に行かせてある。隠れ家なので大丈夫だとは思うが、万が一、襲われたときのためのことを思って任せてきたのだ。


 メデュのチカラがどれほどのものなのか、カザハナには、


(わからない)


 しかし、半神のメデュの名は、聞いたことぐらいはある。
 それなりに戦えるはずだと見込んでいる。


 グングニエルのことは、魔神に任せて、アルテミスを連れて獣道へと入った。
 獣道へ入ってもなお、魔神のかがやきは届いていた。


「待ちな。その神を勝手に連れて行かれちゃ困る」


 獣道の進行方向に2人の《聖白騎士団》が立ちはだかった。


 2人ぐらいなら何とかなると思ったのだが、左右の木の幹の影からも3人。後ろには5人の《聖白騎士団》が現われた。


 都合10人。
 小隊で動いていた《聖白騎士団》に捕まってしまったようだ。


「貴様ら……」
 と、カザハナはアルテミスをかばうように前に出た。


「その神を、こちらに渡してもらおうか。拒否するというのなら、ここでまとめて始末するだけだ」


 天使を召喚されたら手に負えないと思ったのだが、幸いなことに呼び笛は持っていないようだった。


 さりとて、この数を相手に突破するのは難しい。あと一息というところなのに……と、カザハナは歯噛みした。


 魔神に援護を求めようにも、魔神はグングニエルとの闘争に熱が入っている。メデュも、怪物城のほうに置いてしまっている。


 助けを求められるような相手は近くにはいなかった。


「渡さぬと言うのならば、ここでまとめて死ね」 と、《聖白騎士団》の連中が剣を抜いた。


 瞬間。
 あちこちの木陰から、矢が飛来してきた。


 さらなる敵襲かと思って、カザハナはアルテミスとともに身を伏せた。が、飛来してきた矢は、的確に《聖白騎士団》のことを討ちぬいていた。


 10人いた《聖白騎士団》はあまさず、その場に死んでいた。


「誰?」
 とカザハナは、矢が飛んできた木陰にむかって誰何すいかした。


「私たちじゃ」  
 と、姿をあらわしたのは、エルフの族長であるウイキョウだった。


 ウイキョウは、若々しい姿をしているが、それでも杖に頼って立っていた。木陰からは、ぞくぞくとエルフたちが姿を現した。


「ウイキョウさま? それにみんなも?」


「魔神の助力に奮起させられた者たちじゃ。我らとて、アルテミスさまを差し出すのは、骨身を断たれるような策であった。差し出さずに良いのならば、そのほうが良い」


「そう……。立ち上がってくれたのね」


 一度は、アルテミスのことを見捨てたくせにという不満は、カザハナのなかに少しはあった。


 が、それも仕方なかったことだ。


 アルテミスを差し出すことで、エルフたちが助かるならば――というウイキョウの考えも、理解できなくはなかった。


 何はともあれ、アルテミスのことを守り、ソマ帝国と戦う決意を持ってくれたことは、喜ばしいことだった。


「で、これからどうする? カザハナには何か考えがあるのかい?」


「ひとまずアルテミスさまは、怪物城のほうに避難してもらおうと考えてるわ。私は魔神さまの援護をするつもりよ」


「良かろう。ならば、アルテミスさまの身柄はこちらで預かる。怪物城まで護衛させてもらおう」


「任せたわ」


 ありがとうね、カザハナ――とアルテミスは、カザハナの耳元でささやくようにそう言った。


 アルテミスの身柄は無事に、エルフたちに保護されることになった。
 怪物城のほうまで逃げれば安全なはずである。


(問題は……)
 と、カザハナは振り返った。


 魔神と3大神による殴り合い。援護するとは言ったものの、一介のエルフが手を出せるような隙はない。


「うっ」
 と、飛んできた火の粉に、カザハナは目をくらませた。

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