《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
27-3.出頭
(このルートなら行ける)
ソマ帝国の警備が手薄なルートを見出して、カザハナは怪物城に戻った。
アルテミスだけこの森から連れ出して、魔神がいるという都市シェークスへと逃げ込む算段を立てていた。
が――。
「アルテミスさま?」
いない。
怪物城に避難していた者たちの様子がおかしかった。
「アルテミスさまの行方は知らない?」
と、尋ねてみても、誰も返事をしようとはしなかった。
そのなかでも最高齢のエルフに尋ねてみた。
いくら老けないエルフでも歳をとれば、運動能力は落ちる。
その老婆も見た目は若いが、もう足腰が動かなくなっていた。
その老婆の名を、ウイキョウと言う。
ここのエルフたちをまとめている族長でもあった。
「アルテミスさまは、出て行かれた」
と、ウイキョウは言った。
ウイキョウもほかのエルフと同様に、ブロンドの髪をしているが、さすが高齢なだけあって、ずいぶんとその髪は長い。三つ編みにしてキツク縛っているが、それでも地面につくほどあった。
「出て行くってどこに?」
「ソマ帝国に出頭するということじゃった」
「どうしてそんなことを……。誰も止めようとしなかったの?」
「アルテミスさまが出頭してくだされば、私たちが襲われる理由はないんだからね。私たちは《光神教》に改宗するつもりだよ」
「なんてことを……」
すでにアルテミスに期待するエルフたちが少なくなっている。
それはカザハナも勘付いていた。
誰よりも敏感にそれを察知していたのは、アルテミス本人だろう。アルテミスのチカラが弱まるのは、信徒の想いが薄らいでいる証拠でもあるのだ。
自分がすでに必要とされていないことを理解して、アルテミスは自ら身を投げ出すようなマネをしたのだ。
そのアルテミスの心中察するには、あまりある。
「ウイキョウさまには幻滅したわ。エルフがこれまで、いったいどれだけアルテミスさまに助けられてきたのか、その恩義も忘れて」
カザハナがそう言うと、ウイキョウが言い返してきた。
「仕方なかろう。自分たちの命には代えられん。私には族長としてエルフたちを守る義務があるのでな」
子供が泣きだしてしまったので、カザハナは口を止めることにした。
これ以上、ここで言い合っていても仕方がない。
「……ちっ」
舌打ちを残して、カザハナはその場を離れることにした。
「どうする気だい」
と、ウイキョウの声が追いかけてきた。
「もちろん、アルテミスさまを連れ戻す。今ならまだ間に合うかもしれない」
「やめなさい。アルテミスさまが出頭してくだされば、エルフへの攻撃も止まるはずなんだから」
「そんなの……」
わからない。
たしかにソマ帝国の狙いは、異教徒の神であるアルテミスなのだろう。そしてエルフたちに、《光神教》への信仰を強要するのだろう。
しかしエルフたちを無事に、生かしておいてくれるという保証はない。
怪物城を出る。
冷たい空気が、カザハナをすこし冷静にしてくれた。
右目を閉ざし、大人しく雨に降られた。
冷静になってみれば、族長ウイキョウの言わんとしていたことも、理解できなくはなかった。
たしかにアルテミスひとりを犠牲にして、エルフたちの平穏を買ったほうが良いのだろう。そう思ったからこそ、あるアルテミスも出頭したのだ。
(否!)
括目。
隻眼を開いた。
誰かの犠牲のもとに、ホントウの平穏など築けるものか。なによりアルテミスの護衛こそが、カザハナの使命である。
今でもはじめて、アルテミスの護衛役を任命されたときのことを、鮮明に思い出すことが出来る。
35年前。その当時はまだエルフも、今ほどは衰退していなかった。アルテミスの護衛役を志願する者たちが集って、闘技大会が行われた。そのトップに立ったのが当時15歳のカザハナだった。
当時から続く使命をマットウするまでのことだ。
(まだ間に合うかもしれない)
まだソマ帝国の連中のもとにまでは行ってないかもしれない。
そう思って、カザハナはエルフたちの住む森のほうへと急いだ。
ソマ帝国の警備が手薄なルートを見出して、カザハナは怪物城に戻った。
アルテミスだけこの森から連れ出して、魔神がいるという都市シェークスへと逃げ込む算段を立てていた。
が――。
「アルテミスさま?」
いない。
怪物城に避難していた者たちの様子がおかしかった。
「アルテミスさまの行方は知らない?」
と、尋ねてみても、誰も返事をしようとはしなかった。
そのなかでも最高齢のエルフに尋ねてみた。
いくら老けないエルフでも歳をとれば、運動能力は落ちる。
その老婆も見た目は若いが、もう足腰が動かなくなっていた。
その老婆の名を、ウイキョウと言う。
ここのエルフたちをまとめている族長でもあった。
「アルテミスさまは、出て行かれた」
と、ウイキョウは言った。
ウイキョウもほかのエルフと同様に、ブロンドの髪をしているが、さすが高齢なだけあって、ずいぶんとその髪は長い。三つ編みにしてキツク縛っているが、それでも地面につくほどあった。
「出て行くってどこに?」
「ソマ帝国に出頭するということじゃった」
「どうしてそんなことを……。誰も止めようとしなかったの?」
「アルテミスさまが出頭してくだされば、私たちが襲われる理由はないんだからね。私たちは《光神教》に改宗するつもりだよ」
「なんてことを……」
すでにアルテミスに期待するエルフたちが少なくなっている。
それはカザハナも勘付いていた。
誰よりも敏感にそれを察知していたのは、アルテミス本人だろう。アルテミスのチカラが弱まるのは、信徒の想いが薄らいでいる証拠でもあるのだ。
自分がすでに必要とされていないことを理解して、アルテミスは自ら身を投げ出すようなマネをしたのだ。
そのアルテミスの心中察するには、あまりある。
「ウイキョウさまには幻滅したわ。エルフがこれまで、いったいどれだけアルテミスさまに助けられてきたのか、その恩義も忘れて」
カザハナがそう言うと、ウイキョウが言い返してきた。
「仕方なかろう。自分たちの命には代えられん。私には族長としてエルフたちを守る義務があるのでな」
子供が泣きだしてしまったので、カザハナは口を止めることにした。
これ以上、ここで言い合っていても仕方がない。
「……ちっ」
舌打ちを残して、カザハナはその場を離れることにした。
「どうする気だい」
と、ウイキョウの声が追いかけてきた。
「もちろん、アルテミスさまを連れ戻す。今ならまだ間に合うかもしれない」
「やめなさい。アルテミスさまが出頭してくだされば、エルフへの攻撃も止まるはずなんだから」
「そんなの……」
わからない。
たしかにソマ帝国の狙いは、異教徒の神であるアルテミスなのだろう。そしてエルフたちに、《光神教》への信仰を強要するのだろう。
しかしエルフたちを無事に、生かしておいてくれるという保証はない。
怪物城を出る。
冷たい空気が、カザハナをすこし冷静にしてくれた。
右目を閉ざし、大人しく雨に降られた。
冷静になってみれば、族長ウイキョウの言わんとしていたことも、理解できなくはなかった。
たしかにアルテミスひとりを犠牲にして、エルフたちの平穏を買ったほうが良いのだろう。そう思ったからこそ、あるアルテミスも出頭したのだ。
(否!)
括目。
隻眼を開いた。
誰かの犠牲のもとに、ホントウの平穏など築けるものか。なによりアルテミスの護衛こそが、カザハナの使命である。
今でもはじめて、アルテミスの護衛役を任命されたときのことを、鮮明に思い出すことが出来る。
35年前。その当時はまだエルフも、今ほどは衰退していなかった。アルテミスの護衛役を志願する者たちが集って、闘技大会が行われた。そのトップに立ったのが当時15歳のカザハナだった。
当時から続く使命をマットウするまでのことだ。
(まだ間に合うかもしれない)
まだソマ帝国の連中のもとにまでは行ってないかもしれない。
そう思って、カザハナはエルフたちの住む森のほうへと急いだ。
コメント