《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

27-3.出頭

(このルートなら行ける)


 ソマ帝国の警備が手薄なルートを見出して、カザハナは怪物城に戻った。


 アルテミスだけこの森から連れ出して、魔神がいるという都市シェークスへと逃げ込む算段を立てていた。


 が――。


「アルテミスさま?」


 いない。
 怪物城に避難していた者たちの様子がおかしかった。


「アルテミスさまの行方は知らない?」
 と、尋ねてみても、誰も返事をしようとはしなかった。


 そのなかでも最高齢のエルフに尋ねてみた。
 いくら老けないエルフでも歳をとれば、運動能力は落ちる。
 その老婆も見た目は若いが、もう足腰が動かなくなっていた。
 その老婆の名を、ウイキョウと言う。
 ここのエルフたちをまとめている族長でもあった。


「アルテミスさまは、出て行かれた」
 と、ウイキョウは言った。


 ウイキョウもほかのエルフと同様に、ブロンドの髪をしているが、さすが高齢なだけあって、ずいぶんとその髪は長い。三つ編みにしてキツク縛っているが、それでも地面につくほどあった。


「出て行くってどこに?」


「ソマ帝国に出頭するということじゃった」


「どうしてそんなことを……。誰も止めようとしなかったの?」


「アルテミスさまが出頭してくだされば、私たちが襲われる理由はないんだからね。私たちは《光神教》に改宗するつもりだよ」


「なんてことを……」


 すでにアルテミスに期待するエルフたちが少なくなっている。
 それはカザハナも勘付いていた。


 誰よりも敏感にそれを察知していたのは、アルテミス本人だろう。アルテミスのチカラが弱まるのは、信徒の想いが薄らいでいる証拠でもあるのだ。


 自分がすでに必要とされていないことを理解して、アルテミスは自ら身を投げ出すようなマネをしたのだ。
 そのアルテミスの心中察するには、あまりある。


「ウイキョウさまには幻滅したわ。エルフがこれまで、いったいどれだけアルテミスさまに助けられてきたのか、その恩義も忘れて」


 カザハナがそう言うと、ウイキョウが言い返してきた。


「仕方なかろう。自分たちの命には代えられん。私には族長としてエルフたちを守る義務があるのでな」


 子供が泣きだしてしまったので、カザハナは口を止めることにした。
 これ以上、ここで言い合っていても仕方がない。


「……ちっ」
 舌打ちを残して、カザハナはその場を離れることにした。


「どうする気だい」
 と、ウイキョウの声が追いかけてきた。


「もちろん、アルテミスさまを連れ戻す。今ならまだ間に合うかもしれない」


「やめなさい。アルテミスさまが出頭してくだされば、エルフへの攻撃も止まるはずなんだから」


「そんなの……」
 わからない。


 たしかにソマ帝国の狙いは、異教徒の神であるアルテミスなのだろう。そしてエルフたちに、《光神教》への信仰を強要するのだろう。


 しかしエルフたちを無事に、生かしておいてくれるという保証はない。


 怪物城を出る。
 冷たい空気が、カザハナをすこし冷静にしてくれた。


 右目を閉ざし、大人しく雨に降られた。


 冷静になってみれば、族長ウイキョウの言わんとしていたことも、理解できなくはなかった。


 たしかにアルテミスひとりを犠牲にして、エルフたちの平穏を買ったほうが良いのだろう。そう思ったからこそ、あるアルテミスも出頭したのだ。


(否!)


 括目。
 隻眼を開いた。


 誰かの犠牲のもとに、ホントウの平穏など築けるものか。なによりアルテミスの護衛こそが、カザハナの使命である。


 今でもはじめて、アルテミスの護衛役を任命されたときのことを、鮮明に思い出すことが出来る。


 35年前。その当時はまだエルフも、今ほどは衰退していなかった。アルテミスの護衛役を志願する者たちが集って、闘技大会が行われた。そのトップに立ったのが当時15歳のカザハナだった。


 当時から続く使命をマットウするまでのことだ。


(まだ間に合うかもしれない)


 まだソマ帝国の連中のもとにまでは行ってないかもしれない。
 そう思って、カザハナはエルフたちの住む森のほうへと急いだ。

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