《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
26-3.……そのトラウマの克服
「魔神さま。今です!」
エイブラハングが突き刺した槍によって、クロイはその場に縫いとめられていた。
クロイは逃れようとして暴れていた。
「よし来た!」
オレに、つかみかかっていた無数の手も、エイブラハングの槍の一撃によってチカラが緩んでいた。
簡単に振りほどくことが出来た。
縫いとめられているクロイ本体に急いだ。そしてヘルムを開いた。
ヘルムを開くと、そこにはオレの本体がある。
『おのれティリリウスめ』
といった声が、そのクロイかたまた聞こえた。
やはりこのクロイがしゃべっているようだった。
「聞こえたか?」
と、オレはその声がエイブラハングにも聞こえたのか確認してみた。
「はい。たしかに。やはり《崇夜者》なのでしょう」
「ティリリウスがどうとか言っていたな」
「治していただけますか?」
そうだな。
オレはうなずき、
「ふーっ」
と、息を吹きかけた。
暗闇症候群を治すときと同じ手段である。クロイの全身から、闇が剥げ落ちてゆく。
「え?」
と、オレは声を漏らすことになった。
意外なものが出てきたのだ。
中から現れたのは1匹の巨大なヘビだった。
すこし大きいとかいうレベルではない。小さい人家ぐらいなら丸のみしてしまいそうなほどの大きさがあった。
純白のヘビだ。
エイブラハングの槍はそのヘビの頭を貫いて、地面に縫いとめているのであった。人の頭部ほどもある黄色い目玉が、ジッとオレのことを見据えていた。
「なんでしょうか。この巨大なヘビは」
「こっちが聞きたいぐらいだ。オルフェスにはこんな巨大なヘビが棲息してるのか? ってか、ヘビもクロイになるのか?」
「そんな話は聞いたこともありませんが」
さらに息を吹きかける。
そのヘビの全身は縮んでいくことになった。
長大なヘビの姿は、やがてひとりの女性となった。紫がかった長い髪の女性である。白いコタルディをまとっていた。うつ伏せに倒れているために、顔はわからない。
エイブラハングの槍は、女性の髪を地面に突き刺すようなカッコウになっていた。
幸いと言うべきなのか、女性に目立ったケガはない。
「もう槍を離しても大丈夫だと思うぞ」
「そうですね。しかしさっきのヘビの姿はいったい?」
と、エイブラハングは、槍を引っ込めた。
その槍の穂先には女性の髪がからみついていた。
「信じられん」
と、言ったのはメデュである。
うつ伏せに倒れている女性に駆け寄ったメデュは、その女性を仰向けに転がした。その顔を見て、オレはまた驚かされることになった。ソックリだったのだ。メデュの顔に。
「もしかしてこの女性――」
「うむ。何度か話していると思うが、ワラワの母じゃ」
主神ティリリウスに強姦されたあげく、ヘビに変えられたと聞いていた。
するとさっきの巨大なヘビの姿は、ティリリウスにかけられた呪いによる姿だったのだろう。
「メデュの母親だったということか」
「どうやら魔神さまのおチカラによって、ティリリウスの呪いも解けたようじゃ。しかしまさか、このような場所に母がいようとは思わなんだ」
「生きてるか? まさかメデュの母親とは思わなかったから、殴ったりしてしまったが」
オレがそう問いかけると、メデュは母の胸元に耳を押し当てていた。鼻元に指をやって呼吸を確認したりしていた。
「どうやら息はあるようじゃ。しかし、まさかこのような場所にいようとは……」
メデュはそう言うと、昏倒している母親の胸に突っ伏した。
そのまま顔をあげない。
肩が小刻みに震えていた。泣いているのかもしれない。
オレとエイブラハングは顔を見合わせた。
ソッとしておいてやることにした。その場にメデュを置いて、オレとエイブラハングはすこし離れることにした。
「槍で突き刺してしまいました」
と、エイブラハングは申し訳なさそうにそう言った。
「突き刺さっていたのは髪の毛のところだったみたいだし、あの女性にケガはなかったっぽいから大丈夫だと思うぞ」
「だと良いのですが」
「それにまさか、メデュの母親だとは思わなかったしな」
「ええ」
オレとエイブラハングは、巨木の幹に寄りかかった。そうすると上に茂っている緑葉のおかげで、雨をしのぐことが出来た。
メデュは濡れることも構わず、まだ母親の胸元に伏せていた。
「見事だった」
と、オレはそう言った。
「見事だなんてとんでもない。魔神さまを踏み台にしてしまいました」
と、エイブラハングが頭を振った。
エイブラハングのベリーショートと言える短い髪は、もうグショグショに濡れて額に張り付いていた。
そうやって髪が濡れるとますます少年らしく見える。
「クロイが苦手だと言っていたが、メデュの母親を救い出すことが出来たじゃないか。エイブラハングのおかげだよ」
「いえ。魔神さまがいてくれたからこそです」
「オレの働きもあったかもしれんが、エイブラハングの活躍があったおかげで《崇夜者》になった者を癒すことが出来たんだ。決して腰抜けなんかじゃないさ」
「はい」
エイブラハングは照れ臭かったのか、はにかむように笑っていた。
そして茂みのなかに踏み入ると、巨大な葉っぱを摘み取ってきた。以前、プロメテがよく傘として利用していた葉っぱだった。
どうぞ、とオレの分も差し出してきたので、ありがたく受け取ることにした。
「治ったようだな」
と、オレはそう言葉にしたのだが、雨の音でエイブラハングには届かなかったようだ。
今までなら、そうやってひとりで暗闇に入ることも難しかったはずだ。
それが今、エイブラハングはなんの抵抗もなくやってのけたのである。
エイブラハングが突き刺した槍によって、クロイはその場に縫いとめられていた。
クロイは逃れようとして暴れていた。
「よし来た!」
オレに、つかみかかっていた無数の手も、エイブラハングの槍の一撃によってチカラが緩んでいた。
簡単に振りほどくことが出来た。
縫いとめられているクロイ本体に急いだ。そしてヘルムを開いた。
ヘルムを開くと、そこにはオレの本体がある。
『おのれティリリウスめ』
といった声が、そのクロイかたまた聞こえた。
やはりこのクロイがしゃべっているようだった。
「聞こえたか?」
と、オレはその声がエイブラハングにも聞こえたのか確認してみた。
「はい。たしかに。やはり《崇夜者》なのでしょう」
「ティリリウスがどうとか言っていたな」
「治していただけますか?」
そうだな。
オレはうなずき、
「ふーっ」
と、息を吹きかけた。
暗闇症候群を治すときと同じ手段である。クロイの全身から、闇が剥げ落ちてゆく。
「え?」
と、オレは声を漏らすことになった。
意外なものが出てきたのだ。
中から現れたのは1匹の巨大なヘビだった。
すこし大きいとかいうレベルではない。小さい人家ぐらいなら丸のみしてしまいそうなほどの大きさがあった。
純白のヘビだ。
エイブラハングの槍はそのヘビの頭を貫いて、地面に縫いとめているのであった。人の頭部ほどもある黄色い目玉が、ジッとオレのことを見据えていた。
「なんでしょうか。この巨大なヘビは」
「こっちが聞きたいぐらいだ。オルフェスにはこんな巨大なヘビが棲息してるのか? ってか、ヘビもクロイになるのか?」
「そんな話は聞いたこともありませんが」
さらに息を吹きかける。
そのヘビの全身は縮んでいくことになった。
長大なヘビの姿は、やがてひとりの女性となった。紫がかった長い髪の女性である。白いコタルディをまとっていた。うつ伏せに倒れているために、顔はわからない。
エイブラハングの槍は、女性の髪を地面に突き刺すようなカッコウになっていた。
幸いと言うべきなのか、女性に目立ったケガはない。
「もう槍を離しても大丈夫だと思うぞ」
「そうですね。しかしさっきのヘビの姿はいったい?」
と、エイブラハングは、槍を引っ込めた。
その槍の穂先には女性の髪がからみついていた。
「信じられん」
と、言ったのはメデュである。
うつ伏せに倒れている女性に駆け寄ったメデュは、その女性を仰向けに転がした。その顔を見て、オレはまた驚かされることになった。ソックリだったのだ。メデュの顔に。
「もしかしてこの女性――」
「うむ。何度か話していると思うが、ワラワの母じゃ」
主神ティリリウスに強姦されたあげく、ヘビに変えられたと聞いていた。
するとさっきの巨大なヘビの姿は、ティリリウスにかけられた呪いによる姿だったのだろう。
「メデュの母親だったということか」
「どうやら魔神さまのおチカラによって、ティリリウスの呪いも解けたようじゃ。しかしまさか、このような場所に母がいようとは思わなんだ」
「生きてるか? まさかメデュの母親とは思わなかったから、殴ったりしてしまったが」
オレがそう問いかけると、メデュは母の胸元に耳を押し当てていた。鼻元に指をやって呼吸を確認したりしていた。
「どうやら息はあるようじゃ。しかし、まさかこのような場所にいようとは……」
メデュはそう言うと、昏倒している母親の胸に突っ伏した。
そのまま顔をあげない。
肩が小刻みに震えていた。泣いているのかもしれない。
オレとエイブラハングは顔を見合わせた。
ソッとしておいてやることにした。その場にメデュを置いて、オレとエイブラハングはすこし離れることにした。
「槍で突き刺してしまいました」
と、エイブラハングは申し訳なさそうにそう言った。
「突き刺さっていたのは髪の毛のところだったみたいだし、あの女性にケガはなかったっぽいから大丈夫だと思うぞ」
「だと良いのですが」
「それにまさか、メデュの母親だとは思わなかったしな」
「ええ」
オレとエイブラハングは、巨木の幹に寄りかかった。そうすると上に茂っている緑葉のおかげで、雨をしのぐことが出来た。
メデュは濡れることも構わず、まだ母親の胸元に伏せていた。
「見事だった」
と、オレはそう言った。
「見事だなんてとんでもない。魔神さまを踏み台にしてしまいました」
と、エイブラハングが頭を振った。
エイブラハングのベリーショートと言える短い髪は、もうグショグショに濡れて額に張り付いていた。
そうやって髪が濡れるとますます少年らしく見える。
「クロイが苦手だと言っていたが、メデュの母親を救い出すことが出来たじゃないか。エイブラハングのおかげだよ」
「いえ。魔神さまがいてくれたからこそです」
「オレの働きもあったかもしれんが、エイブラハングの活躍があったおかげで《崇夜者》になった者を癒すことが出来たんだ。決して腰抜けなんかじゃないさ」
「はい」
エイブラハングは照れ臭かったのか、はにかむように笑っていた。
そして茂みのなかに踏み入ると、巨大な葉っぱを摘み取ってきた。以前、プロメテがよく傘として利用していた葉っぱだった。
どうぞ、とオレの分も差し出してきたので、ありがたく受け取ることにした。
「治ったようだな」
と、オレはそう言葉にしたのだが、雨の音でエイブラハングには届かなかったようだ。
今までなら、そうやってひとりで暗闇に入ることも難しかったはずだ。
それが今、エイブラハングはなんの抵抗もなくやってのけたのである。
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