《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
25-7.アルテミスの森へ
「なるほど。アルテミスの森か。たしかにあそこならば、魔力を回復する手段があるやもしれぬ」 そう言うのは、メデュである。
過呼吸に陥ったエイブラハングを休ませるために、一度、修道院の礼拝堂に戻ってきた。
いつもならばオレは祭壇に腰かけているところであるが、今は装甲のおかげで自分の足で立つことが出来ていた。
メデュはと言うと、ドワーフの見送りから帰ってきたところだ。
そんなメデュに、プロメテの病気と、黒狩人組合の支部で聞いてきた情報を伝えたのだ。
「メデュは、アルテミスの森を知ってるのか?」
「黒狩人支部なんかに行くのならば、先にワラワに尋ねるべきであったな。ワラワの出自を忘れたわけではあるまい。ワラワはこう見えても半神じゃぞ。魔法のこともすこしは知っておる」
「あ……」
失念していた。
そう言えば、メデュの父親は主神ティリリウスなのだ。
そして人間だった母は、ヘビに変えられたと言っていた。
「まったくもぅ。魔神さまってば。ワラワの出自を忘れておったな」
と、メデュはオレの真ん前に立つと、むくれた顔で見上げてきた。
今のオレは普段よりも背が高いために、おのずとメデュを見下ろすことになるのだった。
「悪い」
まぁ良い――とメデュはすぐに表情をやわらげると、その紫色の髪先でオレのカラダをくすぐってきた。こんなカラダでは、くすぐったくも何ともないのだが。
「アルテミスの森には、エルフたちの信奉する神。アルテミスがおるはずじゃ」
「エルフにも神がいるのか」
「しかし、エルフたちはソマ帝国にこっぴどくやられておるからな。もうかなり衰退してしまっておるがな」
と、メデュは肩を落としてそう言った。
この都市シェークスに流れてくる難民のなかには、エルフの数もすくなくない。それだけ寄る辺をなくしたエルフが多いということだ。
「そこに行けば、プロメテを治す方法も何かわかるということか」
「アルテミスは、木々を生やしたり、特別な果実を作り上げたりすることが出来る。アルテミスの作りだす薬草は、万病を癒すなどと言われておる。じゃから、可能性としては充分ある」
と、メデュはうなずいた。
「でも、聞いた話だと、なんだかバケモノがいるとかなんとか。S級の黒狩人が逃げ帰って来たとも言っていたぞ」
ふむ、とメデュは老婆のような声をあげた。
メデュは見た目は少女であるが、半神と言うから、実際の年齢は定かではない。
いたいけな少女の面と、老練なる女の面を巧みに使い分けているような気がする。
「さっきも言うたように、ソマ帝国にこっぴどくやられて、アルテミスは酷く弱っているとも聞いておる。森を統治しきるチカラがないのじゃろうな。それで災厄級クロイなどが出てくるのやもしれんな」
「会いに行く価値はありそうだな」
そうと決まれば、すぐにでも出立したい。
プロメテの病が、どういうものかはわからない。今は安定しているようだが、もしかすると容態が急変する可能性もある。
一刻もはやくそのアルテミスに会いたいと、気持ちが急いた。
「ただのぉ」
と、メデュは紫色の髪を指でもてあそび、憂いを帯びた声音を発した。
「なんだ?」
「先日、アルテミスの森は、ソマ帝国の攻撃を受けて、無条件降伏したと聞いておる。つまり今は、ソマ帝国の植民地じゃ」
「踏み入るのはマズイか?」
下手に手を出すと戦争の口実を作ることになったり、してしまうかもしれない。
もっとも、ディーネ率いる新生セパタ王国はすでに、バチバチにやり合っているようだが。
「いや。マズイことはない」
「じゃあなんだ?」
「すでにアルテミスは、ソマ帝国の者に抹殺されてるやもしれん――という心配はある」
「じゃあなおさら、急がなくちゃならん」
「ワラワも行こう」
メデュはずっとオレのカラダにくっ付くようにしていたが、パッと離れると、その場で踊るように一回転して見せた。
紫色のウェーブのかかった髪が、ふわりとふくらんで、花の香りを散らした。
「え? メデュも?」
「魔神さまとデートじゃ。ワラワはアルテミスの森への道も知っておるし、アルテミスともいちおう顔を合わせたこともあるんでな」
「でもメデュはいちおう、この都市シェークスの領主だろう。本人が行くのはどうかと思うがな」
常日頃からこの修道院に入り浸っているのもどうかと思う。用事があるとき以外は、修道院に顔を出さなかったディーネとは大違いである。
領主がどんな仕事をしているのかオレは知らないし、べつにメデュの怠慢を責めるつもりはないが、大丈夫なのかと心配にはなる。
メデュはイタズラめいた表情で笑った。
「魔神さまに言われとぉない。それを言うならば、魔神さまだってこの修道院におるべきじゃろう」
「災厄級のクロイとかが出るって言うのなら、オレが行ったほうが良いだろう。オレならばクロイが出ても平気だからな。ソマ帝国と争うことになっても、対処できる自信はある」
「そう言うて、ホントウは、大司教ちゃんのために働きたいだけじゃろう」
「う……っ」
図星である。
気持ちのうえでは、たしかにそうだ。
チロ子爵に穴底に落とされたとき、プロメテは命を張ってオレを助けようとしてくれた。あの気持ちに応えたい。プロメテの体調不良に気づけなかったという悔いを払拭する意味もある。
いや。
「あれがあったから」とか「こういう理由で」……とか、そういったものは、些細な動機に過ぎない。
オレ自身が、プロメテのために出来ることをしたい。それだけだ。
「羨ましいのぉ。魔神さまにそんなに思われるなんて」
と、メデュは身をくねらせた。
「メデュのことも心配だから、残ったほうが良いと言ってるんであって、べつに蔑ろにしてるつもりはないよ」
「都市でお留守番してるより、魔神さまのとなりにおったほうが安全じゃろう」
「守り切れるかは、わからん」
たしかにオレはこのオルフェスという世界において、けっこう強い存在なのだろう。ここまでの経験でわかる。さりとて、オレだってカンペキではない。カンペキだったら、落とし穴にはまるようなヘマはしない。
「まぁ。安心するが良い。こう見えてワラワは自分を守るだけのチカラはある」
「そう――なのか?」
「ワラワも、多少は魔法を使えるでな。それだけは、ティリリウスの血を引いたおかげと言うべきか」
言うておくが、ワラワはそこいらの騎士よりかは強いぞ――と、メデュはそう言った。
「それは初耳だ」
魔術師ではないが、半神として魔法が使えるのだろう。
「それにな。アルテミスの森へは、ワラワもいずれ足を運ぶつもりにしておった。ディーネも気にかけておった。あそこには、あれがあるのじゃ」
「あれ?」
壁にかかっていたタイマツに、メデュは息を吹きかけた。まるで羞恥に身をくねらせるように、その火が揺らめいた。
「聖火台じゃ」
「聖火台があるのか」
「ソマ帝国が、このタイミングでアルテミスの森を支配下に置いたのも、聖火台が目当てやもしれん」
「オレに火を灯させないという魂胆か?」
「そういうことじゃな」
「じゃあ、またひとつアルテミスの森へ行く理由が増えたな。アルテミスを助け出して、聖火台に火を灯す必要がある」
聖火台は残り3つ。
プロメテの贖罪は、着実に遂行されようとしている。
私もお供してよろしいでしょうか――と、声が割り込んだ。
エイブラハングが、礼拝堂に入ってくるところだった。
「もう体調は良いのか?」
「ご迷惑をおかけしました。ただの過呼吸ですから、べつに体調に支障があるわけではありません」
「だが、アルテミスの森には、災厄級のクロイがいるかもしれんぞ」
だからこそです――と、エイブラハングはつづけた。
「魔神さまは、私を腰抜けではないと、そうおっしゃってくださった」
「ああ」
「ならば、その魔神さまのご期待を裏切りたくはない。私はクロイを克服したい。だからこそその災厄級のクロイがいるかもしれないという森へ行きたいと存じます」
「ムリはするなよ」
「はい」
オレはホントウに、エイブラハングのことを勇猛果敢な戦士だと思っている。だから酔っ払いの男たちにからまれたときにも、怒りをおぼえた。
その言葉が、エイブラハングを責付くことになってしまったのなら申し訳ない。
「ワラワは、魔神さまとふたりが良かったが、まぁ良かろう」
と、メデュもうなずいていた。
したくを済ませてオレたちは、アルテミスの森へと向かうことになったのである。
過呼吸に陥ったエイブラハングを休ませるために、一度、修道院の礼拝堂に戻ってきた。
いつもならばオレは祭壇に腰かけているところであるが、今は装甲のおかげで自分の足で立つことが出来ていた。
メデュはと言うと、ドワーフの見送りから帰ってきたところだ。
そんなメデュに、プロメテの病気と、黒狩人組合の支部で聞いてきた情報を伝えたのだ。
「メデュは、アルテミスの森を知ってるのか?」
「黒狩人支部なんかに行くのならば、先にワラワに尋ねるべきであったな。ワラワの出自を忘れたわけではあるまい。ワラワはこう見えても半神じゃぞ。魔法のこともすこしは知っておる」
「あ……」
失念していた。
そう言えば、メデュの父親は主神ティリリウスなのだ。
そして人間だった母は、ヘビに変えられたと言っていた。
「まったくもぅ。魔神さまってば。ワラワの出自を忘れておったな」
と、メデュはオレの真ん前に立つと、むくれた顔で見上げてきた。
今のオレは普段よりも背が高いために、おのずとメデュを見下ろすことになるのだった。
「悪い」
まぁ良い――とメデュはすぐに表情をやわらげると、その紫色の髪先でオレのカラダをくすぐってきた。こんなカラダでは、くすぐったくも何ともないのだが。
「アルテミスの森には、エルフたちの信奉する神。アルテミスがおるはずじゃ」
「エルフにも神がいるのか」
「しかし、エルフたちはソマ帝国にこっぴどくやられておるからな。もうかなり衰退してしまっておるがな」
と、メデュは肩を落としてそう言った。
この都市シェークスに流れてくる難民のなかには、エルフの数もすくなくない。それだけ寄る辺をなくしたエルフが多いということだ。
「そこに行けば、プロメテを治す方法も何かわかるということか」
「アルテミスは、木々を生やしたり、特別な果実を作り上げたりすることが出来る。アルテミスの作りだす薬草は、万病を癒すなどと言われておる。じゃから、可能性としては充分ある」
と、メデュはうなずいた。
「でも、聞いた話だと、なんだかバケモノがいるとかなんとか。S級の黒狩人が逃げ帰って来たとも言っていたぞ」
ふむ、とメデュは老婆のような声をあげた。
メデュは見た目は少女であるが、半神と言うから、実際の年齢は定かではない。
いたいけな少女の面と、老練なる女の面を巧みに使い分けているような気がする。
「さっきも言うたように、ソマ帝国にこっぴどくやられて、アルテミスは酷く弱っているとも聞いておる。森を統治しきるチカラがないのじゃろうな。それで災厄級クロイなどが出てくるのやもしれんな」
「会いに行く価値はありそうだな」
そうと決まれば、すぐにでも出立したい。
プロメテの病が、どういうものかはわからない。今は安定しているようだが、もしかすると容態が急変する可能性もある。
一刻もはやくそのアルテミスに会いたいと、気持ちが急いた。
「ただのぉ」
と、メデュは紫色の髪を指でもてあそび、憂いを帯びた声音を発した。
「なんだ?」
「先日、アルテミスの森は、ソマ帝国の攻撃を受けて、無条件降伏したと聞いておる。つまり今は、ソマ帝国の植民地じゃ」
「踏み入るのはマズイか?」
下手に手を出すと戦争の口実を作ることになったり、してしまうかもしれない。
もっとも、ディーネ率いる新生セパタ王国はすでに、バチバチにやり合っているようだが。
「いや。マズイことはない」
「じゃあなんだ?」
「すでにアルテミスは、ソマ帝国の者に抹殺されてるやもしれん――という心配はある」
「じゃあなおさら、急がなくちゃならん」
「ワラワも行こう」
メデュはずっとオレのカラダにくっ付くようにしていたが、パッと離れると、その場で踊るように一回転して見せた。
紫色のウェーブのかかった髪が、ふわりとふくらんで、花の香りを散らした。
「え? メデュも?」
「魔神さまとデートじゃ。ワラワはアルテミスの森への道も知っておるし、アルテミスともいちおう顔を合わせたこともあるんでな」
「でもメデュはいちおう、この都市シェークスの領主だろう。本人が行くのはどうかと思うがな」
常日頃からこの修道院に入り浸っているのもどうかと思う。用事があるとき以外は、修道院に顔を出さなかったディーネとは大違いである。
領主がどんな仕事をしているのかオレは知らないし、べつにメデュの怠慢を責めるつもりはないが、大丈夫なのかと心配にはなる。
メデュはイタズラめいた表情で笑った。
「魔神さまに言われとぉない。それを言うならば、魔神さまだってこの修道院におるべきじゃろう」
「災厄級のクロイとかが出るって言うのなら、オレが行ったほうが良いだろう。オレならばクロイが出ても平気だからな。ソマ帝国と争うことになっても、対処できる自信はある」
「そう言うて、ホントウは、大司教ちゃんのために働きたいだけじゃろう」
「う……っ」
図星である。
気持ちのうえでは、たしかにそうだ。
チロ子爵に穴底に落とされたとき、プロメテは命を張ってオレを助けようとしてくれた。あの気持ちに応えたい。プロメテの体調不良に気づけなかったという悔いを払拭する意味もある。
いや。
「あれがあったから」とか「こういう理由で」……とか、そういったものは、些細な動機に過ぎない。
オレ自身が、プロメテのために出来ることをしたい。それだけだ。
「羨ましいのぉ。魔神さまにそんなに思われるなんて」
と、メデュは身をくねらせた。
「メデュのことも心配だから、残ったほうが良いと言ってるんであって、べつに蔑ろにしてるつもりはないよ」
「都市でお留守番してるより、魔神さまのとなりにおったほうが安全じゃろう」
「守り切れるかは、わからん」
たしかにオレはこのオルフェスという世界において、けっこう強い存在なのだろう。ここまでの経験でわかる。さりとて、オレだってカンペキではない。カンペキだったら、落とし穴にはまるようなヘマはしない。
「まぁ。安心するが良い。こう見えてワラワは自分を守るだけのチカラはある」
「そう――なのか?」
「ワラワも、多少は魔法を使えるでな。それだけは、ティリリウスの血を引いたおかげと言うべきか」
言うておくが、ワラワはそこいらの騎士よりかは強いぞ――と、メデュはそう言った。
「それは初耳だ」
魔術師ではないが、半神として魔法が使えるのだろう。
「それにな。アルテミスの森へは、ワラワもいずれ足を運ぶつもりにしておった。ディーネも気にかけておった。あそこには、あれがあるのじゃ」
「あれ?」
壁にかかっていたタイマツに、メデュは息を吹きかけた。まるで羞恥に身をくねらせるように、その火が揺らめいた。
「聖火台じゃ」
「聖火台があるのか」
「ソマ帝国が、このタイミングでアルテミスの森を支配下に置いたのも、聖火台が目当てやもしれん」
「オレに火を灯させないという魂胆か?」
「そういうことじゃな」
「じゃあ、またひとつアルテミスの森へ行く理由が増えたな。アルテミスを助け出して、聖火台に火を灯す必要がある」
聖火台は残り3つ。
プロメテの贖罪は、着実に遂行されようとしている。
私もお供してよろしいでしょうか――と、声が割り込んだ。
エイブラハングが、礼拝堂に入ってくるところだった。
「もう体調は良いのか?」
「ご迷惑をおかけしました。ただの過呼吸ですから、べつに体調に支障があるわけではありません」
「だが、アルテミスの森には、災厄級のクロイがいるかもしれんぞ」
だからこそです――と、エイブラハングはつづけた。
「魔神さまは、私を腰抜けではないと、そうおっしゃってくださった」
「ああ」
「ならば、その魔神さまのご期待を裏切りたくはない。私はクロイを克服したい。だからこそその災厄級のクロイがいるかもしれないという森へ行きたいと存じます」
「ムリはするなよ」
「はい」
オレはホントウに、エイブラハングのことを勇猛果敢な戦士だと思っている。だから酔っ払いの男たちにからまれたときにも、怒りをおぼえた。
その言葉が、エイブラハングを責付くことになってしまったのなら申し訳ない。
「ワラワは、魔神さまとふたりが良かったが、まぁ良かろう」
と、メデュもうなずいていた。
したくを済ませてオレたちは、アルテミスの森へと向かうことになったのである。
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