《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

25-4.酔っ払い

「ストールさまに、黒狩人組合の証明石を上梓じょうしすることが出来ないとは、どういうことだ!」


 黒狩人組合は、どうやら酒場としても機能しているようだった。鉄鋼樹脂性の長机がいくつも置かれていた。そこで酒を飲んで賑わっている者たちがいた。


 この場所にもオレの影響があるようで、壁や天井には燭台やカンテラが設置されていた。


 カウンターテーブル。
 受付嬢を相手に、エイブラハングが怒鳴っていた。


 と――いうのも、オレに黒狩人の証明石を作ってもらえないという話が発端だった。


「ですから、エイブラハングさまもご承知のように、黒狩人の証明石は、クロイを倒した功績が必要ですので」
 と、受付嬢は、ネコ耳をひょこひょこと動かして困っていた。


「もう良いよ。大丈夫だから」
 と、怒れるエイブラハングを、オレがいさめることにした。


「申し訳ありません。ストールさまの偉大さがわからない連中だとは思いませんでした」


「そりゃまぁ素性を隠してるわけだからな」


 わかられては逆に困るのだ。
 それに、べつに黒狩人になりに来たわけじゃない。


「おいおい。肩書きだけの腰抜けS級さまだぜ」 と、茶化すような声が割り込んだ。


 話しかけてきたのは、赤ら顔の3人の男だった。酒を飲んでいたのだろう。嗅覚がツンとするほどの酒気を、全身から発していた。


「……」
 エイブラハングは黙って、その男たちを見つめていた。


「修道院に入り浸って、もうクロイと戦わなくなったそうじゃないか。腰抜けのS級さまよ」
 と、男たちがエイブラハングを揶揄していた。


 黙って聞いていることが出来なかったので、オレはエイブラハングをかばうように前に出た。


「エイブラハングには、別の仕事があったというだけだ。お前たちに揶揄される筋合いはない」


 たしかにエイブラハングは、ここしばらくクロイを狩るのをやめているようだ。本人もそのことを気にしている様子だった。


 しかしそんなこと気にする必要はないのだ。


 ドワーフの里での戦のさいには、おおいに活躍してくれた。先日、水没しているオレとプロメテを救ってのもエイブラハングだし、ディーネ救出のさいにも同行してくれている。


 その活躍は、決して誰かに揶揄されて良いものではない。


「なんだ。てめェ? ずいぶんとでけェな」


 男がそう言うと、オレの腹のあたりをコブシで叩きつけてきた。
 カツン、と硬い音が鳴り響いた。
 叩かれてももちろん、オレの肉体そのものではないので、べつに痛くもかゆくもない。


 オレのカラダの内部は超高温になっているが、特殊な金属でも使われているのか、その高熱が外皮に伝導されていることはないようだ。


「ところで尋ねたいことがあるんだが」


「はぁ?」


「魔力を回復できる方法を知らないか」


「魔力だァ?」


「いや。知らないのなら、けっこうだ」


 まぁ、知らないだろう。


 そもそも魔術師がプロメテひとりしかいないのだから、魔力を回復する手段が、世界に流通しているはずがないのだ。


 何かわかるかもしれないと期待して、ここに訪れたものの、その期待は決して大きなものではなかった。


「おい。それよりオッサン」


「お……オッサン?」


「オッサンじゃねェのかよ。そんなでかい甲冑を着てるんだから、オッサンだろうが」


「う、うむ?」


 たしかに女子供には、この甲冑を着るのはムリだろう。自然とオッサンだと認識されているらしい。
 召喚されてこの方、オッサンなどと呼ばれるのは、はじめてだったので新鮮な気持ちだった。


 オッサンに見えるということは、この甲冑によって上手く素性は隠せている証でもある。


「口出ししてんじゃねェよ。オレはそこの女に用事があるんだ。S級の腰抜けさんによ」


「エイブラハングのことを腰抜けと言うな」


「クロイと戦えなくなった、黒狩人を腰抜けと言って何が悪い」


「これ以上、エイブラハングを侮辱するようならば、ただじゃ済まさんぞ」


 男たちは笑った。


「ただじゃ済まないだって? オレたちはA級さまだぜ。これが見えねェのかよ。この節穴野郎が」


 男たちはそう言うと、証明石を見せつけてきた。石には尾がヘビになっている、ライオンの絵が描かれていた。キマイラだ。


「ケンカするつもりで来たわけじゃないんだがな」


「おう? なんだ。エイブラハングが腰抜けなら、その付き人も腰抜けってか? ビビってんのかよ」


 どうやらオレのほうが付き人と思われているらしい。エイブラハングは、S級だから、そう見られるのだろう。


「いや。止そう」


 酔っ払い相手にムキになっても仕方がない。


 オレはエイブラハングを連れて、その場を離れようとした。が、オレのその足を止めるセリフをブツけられることになった。


「魔力がどうこうとか言ってたな。デカブツ」


「何か知ってるのか?」


「さてね。ここでオレとやり合って、勝てたなら教えてやっても良い」


「なんだ? 腕相撲でもするか?」


「なにバカなこと言ってんだよ。やり合うって言ったら、ひとつしかねェだろうが」


 男はそう言うと、イキナリ殴りかかってきた。 オレはそのコブシを受け止めた。


「いや。止めた方が良いと思うが。すこし頭を冷やしたらどうだ」


「ウルセェ。オレに勝てたら、魔力を回復する方法を教えてやるよ。代わりにオレが買ったら、そのでけぇ甲冑を寄越せよ。高く売れそうだ」


「……わかった」
 と、オレはそのケンカを受けることにした。


 この甲冑を渡すわけにはいかなかったが、負けないだろうという自負があったため、引き受けることにした。


 勝てば、魔力を回復する方法を教えてくれると言うのだ。


 この酔っ払いの言うことが当てになるのかは曖昧だが、いまはどんな些細な情報でも欲しいところだ。


 周りの連中が、「おっ、いいぞ、いいぞー」「やっちまえ」「オレはでけぇほうに賭けるぜ」……などと盛り上がっていた。


 それもまた、退くに退けなくなった理由のひとつである。

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