《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
25-3.未だにトラウマは解消されず……
「ヤッパリ人間には見えないか?」
と、オレはそう問うた。
「いえ。すこし大柄ですが、人間に見えなくもありませんよ」
眠りこんでいるプロメテのことは、レイアや他の修道士たちが看ていてくれることになった。
オレとエイブラハングのふたりは、黒狩人組合の前に来ていた。
黒狩人組合は、修道院よりは規模の小さな石造りの建物だった。急傾斜の屋根からは、ジョロジョロと雨水が流れ落ちていた。
おそらく黒狩人なのだろうと思われる者たちが、その建物を出入りしていた。行き交う人たちが、オレの姿を振り返って見てくる。
そんなオレは今、人の輪郭をしていた。
超蒸気装甲をまとっているのだ。装甲の頭部には火室と呼ばれる空間があった。オレ本体はそこに居るので、人間の形を得たという実感は正直、あまりない。が、周りから見れば、いちおう人の姿として見えているはずである。
「自分で歩けるというのは便利なもんだな」
しかし人間だったころの感覚とは、かけ離れている。巨大ロボットにでも乗っているような心地である。
おおまかな駆動は蒸気によるチカラだが、手足指先を動かすのはオレの意思によるものだ。これは神経のかわりに魔力を通している。
「カンテラの中におられる魔神さまも、可愛いと思いますがね」
「か、可愛いか……」
まさか可愛いなんて言われると思っていなかったので、照れ臭くなった。
「失礼しました。御無礼をお許しください」
「いや。そう堅苦しくなる必要はない。それにここではエイブラハングのほうが偉いんだ。そうだろ」
「は?」
と、エイブラハングは呆けたような顔をした。
「ここは黒狩人組合だ。世界で3人しかいない。S級黒狩人なんだろ。みんなエイブラハングのことを崇めてるんじゃないのか」
「昔の話です。今の私はもう……」
と、エイブラハングは顔を伏せた。
「どうした」
「クロイと戦うのが怖くなってしまいました。あれ以来、私はもうクロイと戦っていないので」
「災厄級の件か」
「はい」
そんなこともあった。
この都市シェークスを襲ってきたクロイがいたのだ。たしかそのとき、エイブラハングは暗闇症候群を患っている。
「暗闇症候群になったら、またオレが治してやるじゃないか」
「もちろん。魔神さまが付いてくれているかぎり、私は奮い立つことが出来ます。しかしどうも……」
エイブラハングは頭を振った。
エイブラハングの髪はベリーショートと言えるぐらいに短い。余計なものをそぎ落としたような魅力がある。頭を振っても、髪が乱れるようなことはなかった。
「そうか。まぁ、ムリすることはない」
と、月並みな言葉しか出てこなかったのだが、
「魔神さまにそう言ってもらえると、気持ちが安らぎます」
と、エイブラハングは肩をナでおろしていた。
「あと、オレの呼び方なんだが、ストールということにしておこう」
「ストール?」
「アラストルのもじりだ。魔神さまと呼ばれたら、セッカク素性を隠してる意味もなくなるしな。正体がバレると、いろいろとメンドウだろう」
「は……いや、しかし――ですね」
「変か?」
「いえ。魔神さまを、呼び捨てにするのは、いかがなものかと。罰とか当たりませんか?」
と、エイブラハングが大真面目な顔で尋ねてくる。
「いオレが呼び捨てにしてくれと頼んでるんだから、罰を当てるのは理不尽だろ。オレはそんなに怒りっぽくないつもりだ」
「そうなのですが。魔神さまを呼び捨てにするのは、私には荷が重いと言いますか」
「じゃあ、ストールさまってことにするか」
「はい。そうさせていただきます」
こくこく、とエイブラハングはうなずいた。
S級黒狩人であるエイブラハングに、「さま」を付けて呼ばれると、周りから違和感を抱かれかねない。が、どうしても厭だと言うのならば、まぁ仕方がない。
そもそも、こうしてオレ自身が、黒狩人組合に来ていること事態が、ある種のワガママであるのだ。
オレは神様として、ずっと礼拝堂で鎮座しておくべきなんだろう。そのほうが信徒たちも安心するというものだ。
それがわかっていても、プロメテが苦しんでるあいだ、座って待ってることは出来そうになかった。
「それでは、中にまいりましょう」
と、エイブラハングが、黒狩人組合支部のトビラを開けたのだった。
と、オレはそう問うた。
「いえ。すこし大柄ですが、人間に見えなくもありませんよ」
眠りこんでいるプロメテのことは、レイアや他の修道士たちが看ていてくれることになった。
オレとエイブラハングのふたりは、黒狩人組合の前に来ていた。
黒狩人組合は、修道院よりは規模の小さな石造りの建物だった。急傾斜の屋根からは、ジョロジョロと雨水が流れ落ちていた。
おそらく黒狩人なのだろうと思われる者たちが、その建物を出入りしていた。行き交う人たちが、オレの姿を振り返って見てくる。
そんなオレは今、人の輪郭をしていた。
超蒸気装甲をまとっているのだ。装甲の頭部には火室と呼ばれる空間があった。オレ本体はそこに居るので、人間の形を得たという実感は正直、あまりない。が、周りから見れば、いちおう人の姿として見えているはずである。
「自分で歩けるというのは便利なもんだな」
しかし人間だったころの感覚とは、かけ離れている。巨大ロボットにでも乗っているような心地である。
おおまかな駆動は蒸気によるチカラだが、手足指先を動かすのはオレの意思によるものだ。これは神経のかわりに魔力を通している。
「カンテラの中におられる魔神さまも、可愛いと思いますがね」
「か、可愛いか……」
まさか可愛いなんて言われると思っていなかったので、照れ臭くなった。
「失礼しました。御無礼をお許しください」
「いや。そう堅苦しくなる必要はない。それにここではエイブラハングのほうが偉いんだ。そうだろ」
「は?」
と、エイブラハングは呆けたような顔をした。
「ここは黒狩人組合だ。世界で3人しかいない。S級黒狩人なんだろ。みんなエイブラハングのことを崇めてるんじゃないのか」
「昔の話です。今の私はもう……」
と、エイブラハングは顔を伏せた。
「どうした」
「クロイと戦うのが怖くなってしまいました。あれ以来、私はもうクロイと戦っていないので」
「災厄級の件か」
「はい」
そんなこともあった。
この都市シェークスを襲ってきたクロイがいたのだ。たしかそのとき、エイブラハングは暗闇症候群を患っている。
「暗闇症候群になったら、またオレが治してやるじゃないか」
「もちろん。魔神さまが付いてくれているかぎり、私は奮い立つことが出来ます。しかしどうも……」
エイブラハングは頭を振った。
エイブラハングの髪はベリーショートと言えるぐらいに短い。余計なものをそぎ落としたような魅力がある。頭を振っても、髪が乱れるようなことはなかった。
「そうか。まぁ、ムリすることはない」
と、月並みな言葉しか出てこなかったのだが、
「魔神さまにそう言ってもらえると、気持ちが安らぎます」
と、エイブラハングは肩をナでおろしていた。
「あと、オレの呼び方なんだが、ストールということにしておこう」
「ストール?」
「アラストルのもじりだ。魔神さまと呼ばれたら、セッカク素性を隠してる意味もなくなるしな。正体がバレると、いろいろとメンドウだろう」
「は……いや、しかし――ですね」
「変か?」
「いえ。魔神さまを、呼び捨てにするのは、いかがなものかと。罰とか当たりませんか?」
と、エイブラハングが大真面目な顔で尋ねてくる。
「いオレが呼び捨てにしてくれと頼んでるんだから、罰を当てるのは理不尽だろ。オレはそんなに怒りっぽくないつもりだ」
「そうなのですが。魔神さまを呼び捨てにするのは、私には荷が重いと言いますか」
「じゃあ、ストールさまってことにするか」
「はい。そうさせていただきます」
こくこく、とエイブラハングはうなずいた。
S級黒狩人であるエイブラハングに、「さま」を付けて呼ばれると、周りから違和感を抱かれかねない。が、どうしても厭だと言うのならば、まぁ仕方がない。
そもそも、こうしてオレ自身が、黒狩人組合に来ていること事態が、ある種のワガママであるのだ。
オレは神様として、ずっと礼拝堂で鎮座しておくべきなんだろう。そのほうが信徒たちも安心するというものだ。
それがわかっていても、プロメテが苦しんでるあいだ、座って待ってることは出来そうになかった。
「それでは、中にまいりましょう」
と、エイブラハングが、黒狩人組合支部のトビラを開けたのだった。
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