《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
21-4.その女の出自
「魔神アラストルさまが、3大神エクスカエルを倒した。その情報を耳にしたとき、魔神さまこそ私の夫となる御方だと確信したのじゃ」
ふたたび馬車は進みはじめていた。
オレはプロメテの膝の上に座り、そして向いの席にメデュが座るというカッコウだった。
メデュは髪の色に合わせたのか、紫色のコタルディを着ていた。メデュの幼さもプロメテに似通っている点だが、その腰のあたりまで伸ばしている髪の長さも似ていた。
ただメデュの髪は独特なうねりを帯びていた。そのうねりがときおりヘビに見える。
「主神ティリリウスの娘なんだろ?」
「私はたしかに《光神教》の主神ティリリウスの血を引いておる。じゃが、ワラワは父を激しく憎んでおってな。父をブッ飛ばしてくれる御方がおらんと思うておったところじゃ」
父と呼ぶのも吐き気がするわ、とメデュは舌打ちした。
「王都まではまだ時間がある。話は聞くが」
「ワラワの母は、ふつうの人間じゃが、ムリヤリ父に犯された」
「強姦ってことか」
「うむ」
「神がそんなことを?」
「神は供物とか生贄とか、そういうのが好きじゃろう。ワラワの母は主神ティリリウスの御めがねにかなうほどの美人で、生贄として差し出すことを要求しおったわけじゃな」
「それは胸糞の悪い話だな」
「それだけではありゃせん」――と、メデュは頭を振ってつづける――「主神ティリリウスから逃げようとした母は結局、巨大なヘビに変えられてしもうた。ワラワはヘビに変えられた母から生まれた」
「ずいぶんと勝手な神様なことだ」
似たような話は、地球にもよくある。たとえばメデューサやラミアなんかは、神によってヘビに変えられてしまった悲劇の女たちだ。
神話に登場する神というのは、ずいぶんと横暴だという印象がある。それはこのオルフェスでも変わらないらしい。
「しかし仮にも、主神ティリリウスの血を引いておるでな。セパタ王国という辺境の血で、公爵の座をいただくことが出来た――というわけじゃ」
「母は健在か?」
そう尋ねた。
ヘビに変えられたという女性の末路が気にかかった。
「さあの。ワラワの母は、所在不明じゃ。ワラワを生んだ後、森のなかに姿を消してしまったのでな。人間だったころの意識があるのかもわからん」
「悪い。辛いことを尋ねたな」
「いやいや。魔神さまはには聞いてもらいたかったのじゃ。ワラワのダンナさまになる御方じゃからな」
「ダンナ……って言われても……」
「ワラワは人の形をしておるが、半神じゃからな。魔神さまのツガイになるには都合が良いじゃろう?」
あ、あの――とプロメテが、か細い声で割り込んだ。しかし声はか細くとも、オレが入ったカンテラを抱くチカラは強い。
「魔神さまは私の召喚した神なのです。ですから、勝手に結婚とかされると困るのですよ」
「なんじゃ。大司教どのは、嫉妬しておるのかえ?」
「う、うぅ」
と、プロメテは困ったようにうつむいた。うつむいたって言うか、オレのほうを見つめている。
「ほぉ。ワラワに魔神さまを奪われると思って、嫉妬しておるんじゃな」
「……」
否定するかと思ったのだが、プロメテはただ黙してオレのことを抱きしめていた。
「心配せんでも、魔神さまを奪ったりはせん。神さまなんじゃから、妻なんていくらおっても良かろう。ワラワは第二夫人という形でも、側室でも妾という形でもかまわんぞ。本妻の座は大司教どのにゆずるつもりじゃ」
「わ、私が魔神さまの本妻……」
と、プロメテの顔が赤くなっていた。
なんだか尻が落ちつかないというか、居たたまれない空気になってきた。オレは、コホン、と咳払いをはさんだ。
妻だの、告白だのと言われて、たじろいでしまったが、おそらくは揶揄の類いなのだろう。
しかしメデュの発したタリスマンのチカラは本物だったので、なかば本心も入っているのかもしれない。
「その気持ちはありがたいがな。いかんせんオレはこんな姿なもんで、人のツガイになることは出来ない」
「魔神さま、女を抱いたことは?」
と、メデュがあけすけのない語調で尋ねてきた。
「あるはずないだろ。焼き殺してしまう」
「ワラワで試してみても良いぞ」
と、メデュはコタルディのイチバン上のボタンを外して、前かがみになった。白い素肌から浮かび上がる鎖骨があらわになっていた。
「カラカウのはよせ」
「ワラワは本気なのじゃがな」
うふふ、とメデュは微笑むと、オレに向かって息を吹きかけてきた。むせ返るほど甘ったるい香りをした吐息だった。
ふたたび馬車は進みはじめていた。
オレはプロメテの膝の上に座り、そして向いの席にメデュが座るというカッコウだった。
メデュは髪の色に合わせたのか、紫色のコタルディを着ていた。メデュの幼さもプロメテに似通っている点だが、その腰のあたりまで伸ばしている髪の長さも似ていた。
ただメデュの髪は独特なうねりを帯びていた。そのうねりがときおりヘビに見える。
「主神ティリリウスの娘なんだろ?」
「私はたしかに《光神教》の主神ティリリウスの血を引いておる。じゃが、ワラワは父を激しく憎んでおってな。父をブッ飛ばしてくれる御方がおらんと思うておったところじゃ」
父と呼ぶのも吐き気がするわ、とメデュは舌打ちした。
「王都まではまだ時間がある。話は聞くが」
「ワラワの母は、ふつうの人間じゃが、ムリヤリ父に犯された」
「強姦ってことか」
「うむ」
「神がそんなことを?」
「神は供物とか生贄とか、そういうのが好きじゃろう。ワラワの母は主神ティリリウスの御めがねにかなうほどの美人で、生贄として差し出すことを要求しおったわけじゃな」
「それは胸糞の悪い話だな」
「それだけではありゃせん」――と、メデュは頭を振ってつづける――「主神ティリリウスから逃げようとした母は結局、巨大なヘビに変えられてしもうた。ワラワはヘビに変えられた母から生まれた」
「ずいぶんと勝手な神様なことだ」
似たような話は、地球にもよくある。たとえばメデューサやラミアなんかは、神によってヘビに変えられてしまった悲劇の女たちだ。
神話に登場する神というのは、ずいぶんと横暴だという印象がある。それはこのオルフェスでも変わらないらしい。
「しかし仮にも、主神ティリリウスの血を引いておるでな。セパタ王国という辺境の血で、公爵の座をいただくことが出来た――というわけじゃ」
「母は健在か?」
そう尋ねた。
ヘビに変えられたという女性の末路が気にかかった。
「さあの。ワラワの母は、所在不明じゃ。ワラワを生んだ後、森のなかに姿を消してしまったのでな。人間だったころの意識があるのかもわからん」
「悪い。辛いことを尋ねたな」
「いやいや。魔神さまはには聞いてもらいたかったのじゃ。ワラワのダンナさまになる御方じゃからな」
「ダンナ……って言われても……」
「ワラワは人の形をしておるが、半神じゃからな。魔神さまのツガイになるには都合が良いじゃろう?」
あ、あの――とプロメテが、か細い声で割り込んだ。しかし声はか細くとも、オレが入ったカンテラを抱くチカラは強い。
「魔神さまは私の召喚した神なのです。ですから、勝手に結婚とかされると困るのですよ」
「なんじゃ。大司教どのは、嫉妬しておるのかえ?」
「う、うぅ」
と、プロメテは困ったようにうつむいた。うつむいたって言うか、オレのほうを見つめている。
「ほぉ。ワラワに魔神さまを奪われると思って、嫉妬しておるんじゃな」
「……」
否定するかと思ったのだが、プロメテはただ黙してオレのことを抱きしめていた。
「心配せんでも、魔神さまを奪ったりはせん。神さまなんじゃから、妻なんていくらおっても良かろう。ワラワは第二夫人という形でも、側室でも妾という形でもかまわんぞ。本妻の座は大司教どのにゆずるつもりじゃ」
「わ、私が魔神さまの本妻……」
と、プロメテの顔が赤くなっていた。
なんだか尻が落ちつかないというか、居たたまれない空気になってきた。オレは、コホン、と咳払いをはさんだ。
妻だの、告白だのと言われて、たじろいでしまったが、おそらくは揶揄の類いなのだろう。
しかしメデュの発したタリスマンのチカラは本物だったので、なかば本心も入っているのかもしれない。
「その気持ちはありがたいがな。いかんせんオレはこんな姿なもんで、人のツガイになることは出来ない」
「魔神さま、女を抱いたことは?」
と、メデュがあけすけのない語調で尋ねてきた。
「あるはずないだろ。焼き殺してしまう」
「ワラワで試してみても良いぞ」
と、メデュはコタルディのイチバン上のボタンを外して、前かがみになった。白い素肌から浮かび上がる鎖骨があらわになっていた。
「カラカウのはよせ」
「ワラワは本気なのじゃがな」
うふふ、とメデュは微笑むと、オレに向かって息を吹きかけてきた。むせ返るほど甘ったるい香りをした吐息だった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
238
-
-
337
-
-
15254
-
-
89
-
-
1
-
-
26950
-
-
4
-
-
969
-
-
22803
コメント