《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
21-2.半神の女
横から馬車が衝突してきたために、オレたちの乗っていた馬車は止められることになった。
あわや横転するところだったのだが、こちらが止まると、衝突してきた相手の馬車も止まった。
「何があったのですか」
と、プロメテがキャリッジのトビラを開けて、オレを担いで外に出た。
キャリッジのなかにはオレの熱気がこもっていたのだが、急に外に出ると空気がいつもよりも冷たく感じた。
プロメテも寒かったのだろう。身をぶるっと震わせていた。
気づけば街道の周囲には、通行人がいなかった。王都へとつづく街道だから、それなりに人通りおりがあるはずだ。
代わりに、大勢の者たちが、オレたちのことを取り囲んでいた。タダモノではない。みんな武装していた。
「申し訳ありません。魔神さま。大司教さま。どうやら囲まれてしまったようです」
エイブラハングが槍を構えて、そう言った。
「あの連中はなんだ?」
と、オレが問う。
「わかりません。賊かもしれません」
もしやゲイルにハメられたのではないかと懸念した。
しかしそれは杞憂のようだ。
ゲイルもまた剣を構えていた。
「気炎万丈で追い払うか?」
「魔神さまには、ディーネ伯爵救出のさいのチカラを温存していてもらう必要があります。ここは私が請け負います」
「しかし数が多いぞ」
さっと見渡してみただけでも数百人はいる。
頭にはヘルム。革の鎧のようなものをまとっている。そしてその手には剣を装備している。鉄鋼樹脂性の剣だ。
レイアとエイブラハングは鉄製の剣と槍を持っている。そのため武器ではこっちのほうが有利だが、いくら2人でもこの数を追い払うのはむずかしいだろう。
「賊かもしれない」と、エイブラハングは言ったが、ただの賊の装備には思えない。
瞬間。
オレたちを取り囲んでいる謎の部隊から旗があがった。
旗印には、剣に蛇がからみつく絵が描かれていた。闇を吹く風によって旗は不気味にたなびいていた。
「あれはたしか……」
と、ゲイルが呟いた。
「知っているのか?」
「ええ。セパタ王国の公爵貴族メデュの旗印だったはずだ。ヤバいのと出くわしちまったな」
と、ゲイルは剣を構えたまま、しゃぶり枝をくわえていた。
「どうヤバい?」
「メデュ公爵と言えば、《光神教》の主神ティリリウスと、人間の女とのあいだに生まれた子供と言われている。詳しいことはわからんが、《光神教》と強い結びつきのある女貴族だぜ」
主神ティリリウスと、人間の女とのあいだに生まれた子供。
その言葉にオレは衝撃を受けた。
神が人とのあいだに子供を生んだというのか――。
つまり半神というヤツか。
「ゲイル。オレたちをハメたわけじゃないな?」 と、オレはいちおう確認した。
「もちろん。オレにこんな謀をする余裕はなかったぜ」
おい、魔神さまにタメきいてんじゃねェぞ、デカブツ野郎――と、レイアが口をはさんでいた。
「まぁ良い。ゲイルのことは信じるとしよう。しかしこうして囲まれているということは、こっちの作戦がバレているんじゃないか?」
オレはゲイルに捕えられているという態で王都へ向かう途中なのだ。攻撃をしてくるということは、それがウソだと見破られているということになる。
オレたちを取り囲んでいる部隊が、じりじりと輪を狭めてきた。
こうなれば仕方ない。気炎万丈で追い払うか。
そう考えていたときだ。
「こちらはセパタ王国の公爵。メデュじゃ。魔神アラストルさまと、大司教プロメテさまの身柄を、引き渡していただきたく参った次第。抵抗するというのならば、強引にでも奪いとる所存じゃ」
馬上より、そう呼びかけてきた少女の姿があった。
紫の長い髪をした少女だ。
その風貌はまだあどけなさがあり、プロメテとそう年齢差があるようには見えなかった。
それほどの年頃で、公爵の座を冠されるとは、いったいどういうことなんだろうか。いや。ゲイルの情報が正しければ、あの少女こそが主神ティリリウスと人間の半神なのだ。見かけにダマされてはいけない。
しかし、どうも違和感があった。
魔神アラストルさま、大司教プロメテさま――とそう言ったのだ。
オレと敵対する意思のある者が、わざわざ「さま」と呼称するだろうか?
「いったいオレに何の用だ? 危害をくわえると言うのならば、オレとして容赦は出来ん。この場が焼野原になることも覚悟してもらいたい」
と、オレが多少の脅しもまじえて応じた。
「ま、魔神さまであられるのじゃ?」
と、メデュと名乗った少女は驚いたような声でかえしてきた。
「そうだ」
「誤解しないでいただきたい。ワラワはディーネ伯爵に与する者じゃ」
「ディーネの……味方だと?」
「魔神さまが、ソマ帝国のゲイルという者に囚われたと聞いて、こうして助けにまいったのじゃ」
なるほど。
オレが捕えられたという情報を真に受けて、助けに来たと言うのならば、その理屈には合点がいく。
しかしその言葉を、信じて良いのかがわからない。
主神ティリリウスの血を引いた半神とすら聞いているのだ。そんな人物が、オレの味方をするはずがない。
「オレは捕えられてなどいない。オレが捕えられているというのは、王都に潜入するための反間苦肉の策である」
「真なのじゃ?」
「その証拠にオレはこうして自由の身である。もしもディーネの味方だと言うのなら、部隊を引いていただきたい」
しばしの沈黙があった。
メデュが手を大きく振り上げた。それを合図に、オレたちのことを囲んでいる部隊は後ろへ下がったのである。
あわや横転するところだったのだが、こちらが止まると、衝突してきた相手の馬車も止まった。
「何があったのですか」
と、プロメテがキャリッジのトビラを開けて、オレを担いで外に出た。
キャリッジのなかにはオレの熱気がこもっていたのだが、急に外に出ると空気がいつもよりも冷たく感じた。
プロメテも寒かったのだろう。身をぶるっと震わせていた。
気づけば街道の周囲には、通行人がいなかった。王都へとつづく街道だから、それなりに人通りおりがあるはずだ。
代わりに、大勢の者たちが、オレたちのことを取り囲んでいた。タダモノではない。みんな武装していた。
「申し訳ありません。魔神さま。大司教さま。どうやら囲まれてしまったようです」
エイブラハングが槍を構えて、そう言った。
「あの連中はなんだ?」
と、オレが問う。
「わかりません。賊かもしれません」
もしやゲイルにハメられたのではないかと懸念した。
しかしそれは杞憂のようだ。
ゲイルもまた剣を構えていた。
「気炎万丈で追い払うか?」
「魔神さまには、ディーネ伯爵救出のさいのチカラを温存していてもらう必要があります。ここは私が請け負います」
「しかし数が多いぞ」
さっと見渡してみただけでも数百人はいる。
頭にはヘルム。革の鎧のようなものをまとっている。そしてその手には剣を装備している。鉄鋼樹脂性の剣だ。
レイアとエイブラハングは鉄製の剣と槍を持っている。そのため武器ではこっちのほうが有利だが、いくら2人でもこの数を追い払うのはむずかしいだろう。
「賊かもしれない」と、エイブラハングは言ったが、ただの賊の装備には思えない。
瞬間。
オレたちを取り囲んでいる謎の部隊から旗があがった。
旗印には、剣に蛇がからみつく絵が描かれていた。闇を吹く風によって旗は不気味にたなびいていた。
「あれはたしか……」
と、ゲイルが呟いた。
「知っているのか?」
「ええ。セパタ王国の公爵貴族メデュの旗印だったはずだ。ヤバいのと出くわしちまったな」
と、ゲイルは剣を構えたまま、しゃぶり枝をくわえていた。
「どうヤバい?」
「メデュ公爵と言えば、《光神教》の主神ティリリウスと、人間の女とのあいだに生まれた子供と言われている。詳しいことはわからんが、《光神教》と強い結びつきのある女貴族だぜ」
主神ティリリウスと、人間の女とのあいだに生まれた子供。
その言葉にオレは衝撃を受けた。
神が人とのあいだに子供を生んだというのか――。
つまり半神というヤツか。
「ゲイル。オレたちをハメたわけじゃないな?」 と、オレはいちおう確認した。
「もちろん。オレにこんな謀をする余裕はなかったぜ」
おい、魔神さまにタメきいてんじゃねェぞ、デカブツ野郎――と、レイアが口をはさんでいた。
「まぁ良い。ゲイルのことは信じるとしよう。しかしこうして囲まれているということは、こっちの作戦がバレているんじゃないか?」
オレはゲイルに捕えられているという態で王都へ向かう途中なのだ。攻撃をしてくるということは、それがウソだと見破られているということになる。
オレたちを取り囲んでいる部隊が、じりじりと輪を狭めてきた。
こうなれば仕方ない。気炎万丈で追い払うか。
そう考えていたときだ。
「こちらはセパタ王国の公爵。メデュじゃ。魔神アラストルさまと、大司教プロメテさまの身柄を、引き渡していただきたく参った次第。抵抗するというのならば、強引にでも奪いとる所存じゃ」
馬上より、そう呼びかけてきた少女の姿があった。
紫の長い髪をした少女だ。
その風貌はまだあどけなさがあり、プロメテとそう年齢差があるようには見えなかった。
それほどの年頃で、公爵の座を冠されるとは、いったいどういうことなんだろうか。いや。ゲイルの情報が正しければ、あの少女こそが主神ティリリウスと人間の半神なのだ。見かけにダマされてはいけない。
しかし、どうも違和感があった。
魔神アラストルさま、大司教プロメテさま――とそう言ったのだ。
オレと敵対する意思のある者が、わざわざ「さま」と呼称するだろうか?
「いったいオレに何の用だ? 危害をくわえると言うのならば、オレとして容赦は出来ん。この場が焼野原になることも覚悟してもらいたい」
と、オレが多少の脅しもまじえて応じた。
「ま、魔神さまであられるのじゃ?」
と、メデュと名乗った少女は驚いたような声でかえしてきた。
「そうだ」
「誤解しないでいただきたい。ワラワはディーネ伯爵に与する者じゃ」
「ディーネの……味方だと?」
「魔神さまが、ソマ帝国のゲイルという者に囚われたと聞いて、こうして助けにまいったのじゃ」
なるほど。
オレが捕えられたという情報を真に受けて、助けに来たと言うのならば、その理屈には合点がいく。
しかしその言葉を、信じて良いのかがわからない。
主神ティリリウスの血を引いた半神とすら聞いているのだ。そんな人物が、オレの味方をするはずがない。
「オレは捕えられてなどいない。オレが捕えられているというのは、王都に潜入するための反間苦肉の策である」
「真なのじゃ?」
「その証拠にオレはこうして自由の身である。もしもディーネの味方だと言うのなら、部隊を引いていただきたい」
しばしの沈黙があった。
メデュが手を大きく振り上げた。それを合図に、オレたちのことを囲んでいる部隊は後ろへ下がったのである。
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