《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

21-1.王都へ

 ガタゴト……ガタゴト……


 馬車。
 おそらくは鉄鋼樹脂性だと思われる箱になっていた。


 その箱のなかには向かい合うように座席があった。4人まで乗ることが出来る余裕はあったが、座っているのはオレとプロメテの2人だった。


 座ると言っても、オレはプロメテのヒザの上に置かれている。
 なので実際には3席空いている。


 御者席のほうに、ゲイルとエイブラハングの2人が座っていた。


「この作戦。上手くいくでしょうか?」
 プロメテがそう問いかけてきた。


「ゲイルがどこまで信用できるか――ってところに、かかってるだろうな」


 後ろにもう1台、馬車が付いてきている。後ろの馬車には、レイアとタルルが乗っていた。


 ディーネを救い出す。
 そのために、王都へ向かっている途中だった。


 ゲイルが、オレとプロメテを捕えたことにして、オレのことを王都へと連れて行く――という作戦だ。


 ゲイルはもともとソマ帝国の人間であるから、相手を信用させることが出来るだろうということだった。


「ゲイルはタリスマンを使うことが出来たのです。タリスマンのチカラを引き出すためには、真の忠誠心が必要なのですよ」


「だが、ゲイルは少し前までは、《光神教》のタリスマンを使っていただろう」


「それはそうですが、魔神さまのタリスマンを使えたということは、すでにこちら側に心変わりはしているはずなのです」


「疑いすぎるのも良くはないな。チロ子爵の一件があったから、どうしても疑り深くなってしまう」


「あの件は、私の不注意だったのですよ」


「なんでも自分の責任にするな。お互いさまだ。そうだろ?」


 チロ子爵にまんまと連れて行かれたことは、オレの不注意でもあったのだ。


「魔神さまのせいにしてしまうのは、私の良心が痛むのですよ。魔神さまは、私の神さまですから……」 


 プロメテはそう言うと、オレが入れられているカンテラの取っ手のところを指でナでていた。その指使いには慈愛が込められているように感じた。


「ホントウは、こんなこと言うのは良くないのかもしれない。けど、オレに神の資格があるのか不安になることがある」


「神の資格?」


「言っただろ。オレはもともと人間なんだよ。異世界のな。心は人間だからさ。神さま面してても良いのかな――って」


「ふふふっ」
 と、プロメテはたおやかに微笑んだ。


「わ、悪い。変なことを言ったな」


「いえ。そんなこと気にすることはないのですよ」


「気にはなるよ。チャント神様としての威厳を保つことが、オレなんかに出来るのかな――って」


「ここに至るまでに、私は何度も魔神さまに救われてきたのです。魔神さまは、間違いなく私にとっては神さまなのですよ。絶望のどん底にいる人間を、ここまで引き上げることが出来るのは、あなたさましかいなかったのですよ」


 プロメテの言葉は、オレのなかに優しくしみこんでくるかのようだった。


「さすがは大司教さまだ。見事な説教だ」


「説教だなんて……」
 と、プロメテははにかむように笑った。


「いや。説教って、叱るとかいう意味じゃなくて、宗教的な意味合いの説教な」


「わかっているのですよ」


「悪かったな。弱味を見せてしまって」


 魔神の威厳を保つためには、この弱味を見せるべきではないのだろう。わかってはいたのだが、ついポロッと漏らしてしまったのだ。


「いえ。相談してくれて、嬉しいのですよ。いつまでも魔神さまに引っ張られる小娘ではなく、ともに歩んで行きたいのですよ。私も大司教なのですから」


 そういった感情的エモい言葉を、率直に口にすることが出来るのは、プロメテの魅力のひとつだろう。


 プロメテの言葉は不思議と重くのしかかることはなく、ぬるま湯のようにユラユラと心地よい。


 その透き通るような声が良いのかもしれない。


「もともと異世界で、魔神さまはどんな御人だったのですか」


「うん。いや、それが良くは覚えてないんだよ」


 思い出そうにも、思い出せない。
 まるで夢の出来事のような感覚だった。


「不安にはなりませんか」


「それは大丈夫」


 妻はいたのか? 子供はいたのか? それとも独り身だったのか? オレは大人だったのか、子どもだったのかすら良く覚えていない。


 覚えていないことが不安になる人もいるかもしれないが、オレにとってはそれが逆に気分を楽にした。
 そのおかげでスンナリと、こっちの世界に馴染めた。


「別の世界にいた魔神さまを、こっちに召喚してしまって申し訳なかったのです」


「謝ることはないよ。もしかしたら――」


「もしかしたら?」


「いや、なんでもない。そのことでプロメテが責任を感じることはない」


 もしかしたら前世では死んでいたのかもしれない、とも思う。


 異世界転生というと、だいたいトラックにひかれたとか、屋上から飛び降りたとか、死によって起こるものだ。


 空から降る雨の音。馬車の進む振動がひびいていた。


「良い作戦だと思う」
 と、オレは話題の軌道を戻すことにした。


「え?」


「今回の、ディーネ救出作戦だ。良い作戦だと思う。ゲイルがオレを捕えたってことにすれば、目立っても誰も怪しまないだろうからな。オレは捕まったフリをして、堂々と王都に入ることが出来る」


 オレがゲイルによって捕えられたという誤報は、すでに王都のほうにも使者によって伝わっているはずだ。


「たしかに魔神さまは、いつも輝いていますからね」


「王都にさえ入れば、こっちのものだ。あとは気炎万丈のチカラで、ディーネを救い出せば良いわけだから」


 間に合うかが問題だ。
 ディーネが処刑される日時はわからないが、おそらくは近日中だ。


「結局、最後は魔神さまのおチカラに頼ることになってしまうのです」


「気にするな。それがオレの役目だ」


 刹那――


 ドゴッ。
 馬車が揺れた。


 王都へとつづく街道を走っていたのか、横から衝突してくる別の馬車があったのだ。

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