《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

20-2.……その懊悩の答え

「あの、魔神さま」
 と、プロメテが口をはさんだ。


「どうした?」 


「このゲイルという人が、ホントウに信用できるのか、判別する方法があります」


「良い方法が?」


「これを使えば一発でわかります」


 そう言って、プロメテが取り出したのは、小さなカンテラだった。親指ぐらいの大きさしかないホントウに小さなカンテラだった。


「それは?」


「実は、ドワーフのヴァルさんに作っていただいていたのです。カンテラのアクセサリーです」


「しかしそんなもので、どうやって……」


「今から私が、このカンテラに魔法を施します。そうすればこのカンテラはタリスマンになります」


 プロメテは強い語調でつづけた。


「タリスマンからチカラを引き出すのに必要なのは、信仰心です。もしもホントウに魔神さまを信仰する決意があるならば、タリスマンのチカラを使うことが出来るはずです」


「でも、良いのか?」


 プロメテは、タリスマンを作りたくないと言っていた。
 あの落とされた穴底で、プロメテの真意を聞いた。


 タリスマンから火を発することによって、プロメテが周囲から必要とされなくなる。それが怖いと言っていた。


 そんなことはない――とオレは言ったし、今でも思っている。が、プロメテが厭だと言うのなら、強引にタリスマンを作らせようとは思わなかった。


「決意はできています」
 と、プロメテの白銀の目に、ひときわ強い光が宿された。


「べつにムリして作ることはないんだよ」


 タリスマンを作るには、魔法による加工が必要だと言っていた。魔法を使いたくないというのも、プロメテの本心のはずだ。
 今まで、プロメテが魔法を使う場面を、見たことがないのだから。


「私はもう、自分の愚かさで、魔神さまを危険にさらすわけにはいかないのです。いつまでも甘えているわけにはいきません。たまには私が魔神さまの助けになりたいのです」


 あの落とし穴で、プロメテは自分の身を犠牲にして、オレのことを助けようとしてくれた。あのときの勇姿を、オレは決して忘れない。


「助けてばかりじゃない。助けられてもいるさ」


「魔神さまはお優しいのです。ですが、その優しさに甘えているばかりでは、私自身が自分を許せないのですよ」


 プロメテはそう言うと、その小さなカンテラを両手の掌に置いた。プロメテの小さな手が青白く光った。


 おおっ――と、修道士たちがドヨめいた。


 オルフェス最後の魔術師と呼ばれるだけあって、やはり魔法を使えたのだ。プロメテの手の光は、カンテラのなかに収束していった。


「これで完成しました。このカンテラは、タリスマンとして機能します。信仰心があるならば、炎を発することが出来るはずです」


 プロメテはそう言って、かしずいているゲイルに渡した。
 ゲイルはそのカンテラを受け取った。


「これが《紅蓮教》のタリスマンか……」
 と、ゲイルはしげしげと、そのカンテラを見つめていた。


「使い方はわかりますか?」


「わかるとも。もともと《光神教》のタリスマンを使っていたんだからな。しかし、タリスマンでオレの信仰心を試すとはね。たしかにこれがイチバン賢いやり方だ」


「魔神さまに命を捧げる覚悟があるならば、そのタリスマンのチカラを引き出して見せてください」


「おうよ」
 ゲイルはそう言うと、カンテラを握りしめ瞑目していた。


 しばしの静寂。
 レイアとエイブラハングも言い争いをやめて、ゲイルの顛末を見つめていた。
 ほかの修道士もしわぶき1つ声を発することはなかった。
 雨の降る音だけが、静かに聞こえていた。


 刹那。
「熱ッ」
 と、ゲイルはタリスマンを落とした。カランコロン。金属音が鳴りひびいた。転がり落ちたタリスマンは炎を宿していた。


「これでどうだい? 信じてくれたかね?」
 と、ゲイルはまるで水を払うかのように、手を振りながら言った。熱かったのだろう。


 はい、とプロメテはうなずいた。


「魔神さま。タリスマンを欺くことは出来ません。このゲイル・ガーディス。この先、心変わりすることがなければ、信用できます。私の命にかけて」


「わかった」
 プロメテが導き出してくれた結果だ。さすがにそこまで疑おうとは思わない。


「我が魂を捧げますよ。魔神さま」
 と、ゲイルはもう一度、その場にかしずいたのだった。


 ゲイルの発動させたタリスマンは、まだ火を宿して床に転がっていた。その火がおさまったときに、プロメテが拾いあげた。


『さすがプロメテ大司教さまッ』
 と、修道士の誰かが声をあげた。


『タリスマンを作ることが出来たのですねッ』
『どうか我らにも、タリスマンを授けてくださいませ』
 と、次々と声が上がることになった。


 魔法を使うことで周囲を怯えさせることもなければ、プロメテがないがしろにされることもなさそうだ。


 プロメテは照れ臭そうに、修道士たちをいさめていた。


 修道士たちに囲まれているプロメテを見て、ひとつ気づいたことがある。


 チョットだけ背が伸びたように見えたのである。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品