《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
19-2.穴底からの脱出
「御無事ですか!」
頭上。
穴を覗きこんでいる人の姿があった。
エイブラハングだ。
エイブラハングは壁を蹴るようにして、下にくだって来た。そして槍を差し出してきた。
「捕まってください」
プロメテがその槍の柄をつかんだのを確認すると、エイブラハングはふたたび壁を蹴るようにして跳びあがった。
恐るべき跳躍力である。
そしてエイブラハングは、オレとプロメテのことを地上へと引き上げてくれたのである。
「助かった。間一髪だったよ」
「御無事でなによりです。魔神さまにもしものことがあったら、私は生きてゆけないところでした」
「オオゲサな」
「いいえ。オオゲサでも何でもありません。火があるからこそ、私は生きていけるのですから」
「まだ、治ってないのか?」
超人的な運動神経をほこるエイブラハングだが、一度、暗闇症候群にかかってからというものの、暗闇にたいして恐怖をおぼえているようだった。
「克服しなくてはならないとは思うのですが、光のないところに行くとカラダが震えてしまいます」
「そうか。……しかしオレたちの場所が良くわかったな」
オレが連れて来られたときは、窓もないキャリッジに入れられていたのだ。周りの景色がどうなっていたのか、オレも今、はじめて見ることになった。
大きな石台が置かれていた。そこには十字架が置かれており、首をつるような縄がつるされているのが見えた。風に吹かれて、縄が不気味に揺られていた。
「ここは絞首刑場だそうです。都市からはすこし離れています。あの青ヒゲ伯爵の補佐官であるタルルという者が、知らせてくださいました。場所さえわかれば、すぐにわかりました。穴から光が漏れていたので」
「そうか」
こんな場所に連れて来られていたとは、思いもしなかった。
絞首刑場と知ると、いっきに不気味な印象が増した。
「けほっ、けほっ」
と、プロメテが咳き込んできた。
「プロメテは、無事か?」
「はい。すこし水を飲んでしまいましたが、私は大丈夫なのですよ」
「強がってないだろうな?」
「いえ。ホントウに大丈夫なのです」
「なら良かった」
命の危機に瀕して、すこしキザったいセリフを吐いてしまったような気もするが、自分が何を言ったのかハッキリとは覚えていなかった。
それにプロメテも色々と感情のこもったことを言っていたしお互いさまだ。
プロメテはその白銀の神をぐっしょりと濡らしていた。そして「へくちっ」とクシャミをしていた。
魔神さま、とエイブラハングはつづけた。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、《紅蓮教》がチロ子爵の手勢によって包囲されているのです。向こうは今、レイアをはじめとする修道士たちが、抑えてくれていますが、攻め落とされるのも時間の問題かと」
「そうか」
どうやら危機に見舞われていたのはオレだけじゃないようだ。
「どうか修道院の救助に、おチカラをお貸しください」
むろんだ、応じた。
あの修道院は、オレやプロメテの居場所でもあるのだ。修道士のためというよりも、あの場所を守護するのはオレのためでもある。
「オレとプロメテのことを抹殺してくれようとした、チロ子爵には礼を返さなくてはならんしな」
「お供いたします」
と、エイブラハングはオレの前にかしずいた。
エイブラハングは馬を乗って来ていたようで、オレたちのことも乗せてくれた。
都市へ戻る道中にて、ディーネが連れ去られたことも教えてくれた。
ディーネの処刑を決定したのだ――とチロ子爵が言っていたので、ディーネが誘拐されていることを予想していたことだった。
それでも、あの智謀の徒が連れ去られたのだと思うと、オレのなかで衝撃はおおきかった。
「とにかく修道院を包囲している連中を追い払うのが先決だな。ディーネのことは、その後だ」
出来ればディーネも助けたいところだが、どこへ連れて行かれたのかも良くわからないし、助けに行く算段も立てなくてはならない。
「はい」
都市の城門棟には、今は門兵がいなかった。中がゴタついているためだろう。
門を抜け、ストリートを突きぬけて、修道院に到着した。
エイブラハングから聞いていた通り、チロ子爵の手勢が修道院を完全に包囲してしまっていた。
「エイブラハングはプロメテのことを頼む。ここの連中はオレが片付ける」
「承知しました」
魔神さま、どうかお気を付けください――とプロメテはそう言うと、カンテラのフタを開けて、石畳のストリートの上に置いた。
気炎万丈。
これで片は付く。
頭上。
穴を覗きこんでいる人の姿があった。
エイブラハングだ。
エイブラハングは壁を蹴るようにして、下にくだって来た。そして槍を差し出してきた。
「捕まってください」
プロメテがその槍の柄をつかんだのを確認すると、エイブラハングはふたたび壁を蹴るようにして跳びあがった。
恐るべき跳躍力である。
そしてエイブラハングは、オレとプロメテのことを地上へと引き上げてくれたのである。
「助かった。間一髪だったよ」
「御無事でなによりです。魔神さまにもしものことがあったら、私は生きてゆけないところでした」
「オオゲサな」
「いいえ。オオゲサでも何でもありません。火があるからこそ、私は生きていけるのですから」
「まだ、治ってないのか?」
超人的な運動神経をほこるエイブラハングだが、一度、暗闇症候群にかかってからというものの、暗闇にたいして恐怖をおぼえているようだった。
「克服しなくてはならないとは思うのですが、光のないところに行くとカラダが震えてしまいます」
「そうか。……しかしオレたちの場所が良くわかったな」
オレが連れて来られたときは、窓もないキャリッジに入れられていたのだ。周りの景色がどうなっていたのか、オレも今、はじめて見ることになった。
大きな石台が置かれていた。そこには十字架が置かれており、首をつるような縄がつるされているのが見えた。風に吹かれて、縄が不気味に揺られていた。
「ここは絞首刑場だそうです。都市からはすこし離れています。あの青ヒゲ伯爵の補佐官であるタルルという者が、知らせてくださいました。場所さえわかれば、すぐにわかりました。穴から光が漏れていたので」
「そうか」
こんな場所に連れて来られていたとは、思いもしなかった。
絞首刑場と知ると、いっきに不気味な印象が増した。
「けほっ、けほっ」
と、プロメテが咳き込んできた。
「プロメテは、無事か?」
「はい。すこし水を飲んでしまいましたが、私は大丈夫なのですよ」
「強がってないだろうな?」
「いえ。ホントウに大丈夫なのです」
「なら良かった」
命の危機に瀕して、すこしキザったいセリフを吐いてしまったような気もするが、自分が何を言ったのかハッキリとは覚えていなかった。
それにプロメテも色々と感情のこもったことを言っていたしお互いさまだ。
プロメテはその白銀の神をぐっしょりと濡らしていた。そして「へくちっ」とクシャミをしていた。
魔神さま、とエイブラハングはつづけた。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、《紅蓮教》がチロ子爵の手勢によって包囲されているのです。向こうは今、レイアをはじめとする修道士たちが、抑えてくれていますが、攻め落とされるのも時間の問題かと」
「そうか」
どうやら危機に見舞われていたのはオレだけじゃないようだ。
「どうか修道院の救助に、おチカラをお貸しください」
むろんだ、応じた。
あの修道院は、オレやプロメテの居場所でもあるのだ。修道士のためというよりも、あの場所を守護するのはオレのためでもある。
「オレとプロメテのことを抹殺してくれようとした、チロ子爵には礼を返さなくてはならんしな」
「お供いたします」
と、エイブラハングはオレの前にかしずいた。
エイブラハングは馬を乗って来ていたようで、オレたちのことも乗せてくれた。
都市へ戻る道中にて、ディーネが連れ去られたことも教えてくれた。
ディーネの処刑を決定したのだ――とチロ子爵が言っていたので、ディーネが誘拐されていることを予想していたことだった。
それでも、あの智謀の徒が連れ去られたのだと思うと、オレのなかで衝撃はおおきかった。
「とにかく修道院を包囲している連中を追い払うのが先決だな。ディーネのことは、その後だ」
出来ればディーネも助けたいところだが、どこへ連れて行かれたのかも良くわからないし、助けに行く算段も立てなくてはならない。
「はい」
都市の城門棟には、今は門兵がいなかった。中がゴタついているためだろう。
門を抜け、ストリートを突きぬけて、修道院に到着した。
エイブラハングから聞いていた通り、チロ子爵の手勢が修道院を完全に包囲してしまっていた。
「エイブラハングはプロメテのことを頼む。ここの連中はオレが片付ける」
「承知しました」
魔神さま、どうかお気を付けください――とプロメテはそう言うと、カンテラのフタを開けて、石畳のストリートの上に置いた。
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