《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

18-7.タルルの持ち込む情報

「ここだ」
 と、しゃぶり枝で、石段を指差した。


 上に行けるようになっているようだ。
 ここから《紅蓮教》の修道院に行けるということだった。


 地下水道から石段をのぼってゆくと、天井に突き当たった。一見すると行き止まりだったが、
「よっこらせ」
 と、ゲイルが天井を持ち上げた。


 どうやら石盤になっていたようだ。天井から地上へと抜け出る隙間ができた。


 先にゲイルが出て、タルルが出るまでその石盤を持ち上げてくれていた。タルルも這うようにして、その隙間から地上に抜け出した。


 タルルが抜けると、石盤が勢いよく閉められた。


「ここは……?」


 地下水道から出ると、雨に降られることになった。空からの水滴が、タルルの頬を濡らした。
周囲を見渡すと、芝の生えそろった地面が広がっていた。


「《紅蓮教》の修道院の敷地内だ。礼拝堂の裏手だよ」


「こんなところに、抜け道を作っていたなんて……」


「まぁ、地下水路はもともとあったもんだ。そこをつなげたってだけの話だ。なぁ、タルルくん。これで少しはオレのことを信用してもらえたかい?」


「ええ……」


 ディーネとゲイルのふたりだけが知っていた地下水路。それをゲイルは惜しみなく教えてくれたのだ。


 信用しないわけにはいかない。


「しかし、ずいぶんと派手にやってるねぇ」
 と、ゲイルが言う。


 たしかに各地から怒声やら蛮声が聞こえてくる。馬のいななきや、武具の衝突するような音が響いている。


 こうして内部にいると、石造りの城壁によって外の様子は見えない。だが、この修道院は、チロ子爵の手勢によって完全に包囲されているのだ。


「とにかく、魔神さまに接触しないと」


 チロ子爵は「魔神を始末した」と言っていた。だが、タルルはその言葉を信用していなかった。


 礼拝堂隣にある鐘楼には、今日もあんなにも猛々しい炎が灯されているのだ。


「魔神さまは、どこにいるんだい?」


「たぶん礼拝堂に」


「それじゃお目通り願おうか。魔神さまに会ったら、タルルくんのほうからオレのことを説明してくれよ。敵だと思われて、燃やされちまったらたまったもんじゃねェからな。あの御方の怖ろしさは、オレは厭というほど知ってんだ」
 と、ゲイルは身震いした。


 ゲイルのおおきなカラダが揺れると、まるで岩か何かが振動するかのようだった。



『魔神さまはどこに行かれたのだッ』


『わかんねェよ。今、私の部下に探させてるところだッ』


『じきに火が消えてしまう。消えてしまったら、私はどうすれば良いのだッ』


『うるせェ。チョットは大人しくしてろッ』


 礼拝堂。


 タルルがトビラを開けると、なかではふたりの女性が言い争っていた。


 レイアとエイブラハングのふたりだった。


 凄まじい剣幕で、口をはさむのがはばかられた。
 タルルの来訪には、気づいていないようだった。


『私はまだ治ってないんだよ。暗闇が怖いんだ。暗かったら、私はもうダメなんだ。魔神さまがいないと』


『この腰抜けが。S級黒狩人の肩書きが泣いてるぜ』


『私はもうダメだ。暗闇が怖くて仕方ないんだよ』


 エイブラハングはそう言うと、頭を抱えてうずくまってしまった。


 口論に間隙が生じた。
「あ、あのー」
 と、タルルはようやっと口をはさむことが出来た。


「ん? あれ? 青ヒゲ伯爵の補佐官じゃねェーか。ンなところで何やってんだ。って後ろにいるのはソマ帝国のオッサンじゃねェーかッ」
 と、レイアが身構えていた。


「違うんです。違うんです。話を聞いてください」


 あわや斬りかかってくるところだったので、タルルはあわてて説明することにした。


 ゲイルは協力者であること。
 地下水路を通ってやって来たこと。


 そしてディーネが連れ去られたので、《紅蓮教》のチカラを貸してもらいたい――といった内容を、タルルはまくしたてた。


 レイアは礼拝堂にあった長椅子に腰かけて、タルルの話を聞いてくれた。


 が――。
「言いたいことはわかった。あのロードリ公爵に上手くやられた――ってわけだ」


「はい」


「チカラになってやりたいのはヤマヤマだがな。あいにく魔神さまの行方が知れねェんだよ」


「魔神さまが?」


「ああ。今朝からずっと探してるんだな。魔術師の嬢ちゃんと魔神さまの2人の姿が見当たらねェ」


「でも、礼拝堂の火は健在ですよね」


 この礼拝堂の壁にかけられたタイマツや、カンテラにも火は灯っている。


「神さまの生態は良くわからん。でもこの火は魔神さまから分け与えてもらった火だ。だからたぶん健在だとは思うんだが、行方はわかんねェ」


 レイアはそう言うと、火の入ったカンテラを持ち上げて見せた。


(チロ子爵の言っていたことは、ホントウだったのか?)
 と、タルルは冷や汗をおぼえた。


 魔神は始末した。
 そう言っていたのだ。


 もしも魔神が死んでしまったのなら、すべてがオジャンである。


 ディーネがソマ帝国と戦おうとしていることも、ドワーフと手を組んだことも、すべての努力が水泡に帰す。


 いや。
(待てよ)
 と、タルルはひとつ大事な情報を思い出すことになった。


「都市の外です」
 と、あわててそう言ったため、唾液がノドにからんだ。タルルは咳き込んだが、すぐに言葉をつづけた。


「たしかチロ子爵は言ってました。絞首刑場の近くに落とし穴を掘った――って」


「ホントウか!」


 そう鋭い声で尋ねてきたのは、レイアではなく、うずくまってしまっていたエイブラハングだった。


 思わぬほうから声が飛んできたので、タルルは驚いて、カラダを跳ねさせてしまった。そんなタルルの両肩を、エイブラハングはがっしりと掴んで前後に揺すってきた。


「え……ええ。たしかそう言ってたと思います」


「なるほど。たしかに絞首刑場は都市からすこし離れているし、探しても見つからないわけだ。しかし絞首刑場まで行けば、魔神さまの明かりが目印になる。すぐに見つけられるに違いない」


 でかしたぞ、よくその情報を持って来てくれた――エイブラハングはそう言うと、礼拝堂を跳びだして行った。


「あ、ちょっとッ」


 修道院の外は、チロ子爵の手勢に包囲されているのだ。場所がわかっても、簡単には外に出られない。


 地下水路を使って抜け出したほうが良い。そう提案しようとしたのだが、エイブラハングはすでに外に跳びだしていた。


「良いんですか。ひとりで行かせても」
 と、タルルはレイアに問いかけた。


 心配はねェさ――と、レイアは応じた。


「あの女ァ、尋常じゃねェ強さだ。ひとりでも魔神さまの救出に向かうだろうさ」

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