《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
18-7.タルルの持ち込む情報
「ここだ」
と、しゃぶり枝で、石段を指差した。
上に行けるようになっているようだ。
ここから《紅蓮教》の修道院に行けるということだった。
地下水道から石段をのぼってゆくと、天井に突き当たった。一見すると行き止まりだったが、
「よっこらせ」
と、ゲイルが天井を持ち上げた。
どうやら石盤になっていたようだ。天井から地上へと抜け出る隙間ができた。
先にゲイルが出て、タルルが出るまでその石盤を持ち上げてくれていた。タルルも這うようにして、その隙間から地上に抜け出した。
タルルが抜けると、石盤が勢いよく閉められた。
「ここは……?」
地下水道から出ると、雨に降られることになった。空からの水滴が、タルルの頬を濡らした。
周囲を見渡すと、芝の生えそろった地面が広がっていた。
「《紅蓮教》の修道院の敷地内だ。礼拝堂の裏手だよ」
「こんなところに、抜け道を作っていたなんて……」
「まぁ、地下水路はもともとあったもんだ。そこをつなげたってだけの話だ。なぁ、タルルくん。これで少しはオレのことを信用してもらえたかい?」
「ええ……」
ディーネとゲイルのふたりだけが知っていた地下水路。それをゲイルは惜しみなく教えてくれたのだ。
信用しないわけにはいかない。
「しかし、ずいぶんと派手にやってるねぇ」
と、ゲイルが言う。
たしかに各地から怒声やら蛮声が聞こえてくる。馬のいななきや、武具の衝突するような音が響いている。
こうして内部にいると、石造りの城壁によって外の様子は見えない。だが、この修道院は、チロ子爵の手勢によって完全に包囲されているのだ。
「とにかく、魔神さまに接触しないと」
チロ子爵は「魔神を始末した」と言っていた。だが、タルルはその言葉を信用していなかった。
礼拝堂隣にある鐘楼には、今日もあんなにも猛々しい炎が灯されているのだ。
「魔神さまは、どこにいるんだい?」
「たぶん礼拝堂に」
「それじゃお目通り願おうか。魔神さまに会ったら、タルルくんのほうからオレのことを説明してくれよ。敵だと思われて、燃やされちまったらたまったもんじゃねェからな。あの御方の怖ろしさは、オレは厭というほど知ってんだ」
と、ゲイルは身震いした。
ゲイルのおおきなカラダが揺れると、まるで岩か何かが振動するかのようだった。
『魔神さまはどこに行かれたのだッ』
『わかんねェよ。今、私の部下に探させてるところだッ』
『じきに火が消えてしまう。消えてしまったら、私はどうすれば良いのだッ』
『うるせェ。チョットは大人しくしてろッ』
礼拝堂。
タルルがトビラを開けると、なかではふたりの女性が言い争っていた。
レイアとエイブラハングのふたりだった。
凄まじい剣幕で、口をはさむのがはばかられた。
タルルの来訪には、気づいていないようだった。
『私はまだ治ってないんだよ。暗闇が怖いんだ。暗かったら、私はもうダメなんだ。魔神さまがいないと』
『この腰抜けが。S級黒狩人の肩書きが泣いてるぜ』
『私はもうダメだ。暗闇が怖くて仕方ないんだよ』
エイブラハングはそう言うと、頭を抱えてうずくまってしまった。
口論に間隙が生じた。
「あ、あのー」
と、タルルはようやっと口をはさむことが出来た。
「ん? あれ? 青ヒゲ伯爵の補佐官じゃねェーか。ンなところで何やってんだ。って後ろにいるのはソマ帝国のオッサンじゃねェーかッ」
と、レイアが身構えていた。
「違うんです。違うんです。話を聞いてください」
あわや斬りかかってくるところだったので、タルルはあわてて説明することにした。
ゲイルは協力者であること。
地下水路を通ってやって来たこと。
そしてディーネが連れ去られたので、《紅蓮教》のチカラを貸してもらいたい――といった内容を、タルルはまくしたてた。
レイアは礼拝堂にあった長椅子に腰かけて、タルルの話を聞いてくれた。
が――。
「言いたいことはわかった。あのロードリ公爵に上手くやられた――ってわけだ」
「はい」
「チカラになってやりたいのはヤマヤマだがな。あいにく魔神さまの行方が知れねェんだよ」
「魔神さまが?」
「ああ。今朝からずっと探してるんだな。魔術師の嬢ちゃんと魔神さまの2人の姿が見当たらねェ」
「でも、礼拝堂の火は健在ですよね」
この礼拝堂の壁にかけられたタイマツや、カンテラにも火は灯っている。
「神さまの生態は良くわからん。でもこの火は魔神さまから分け与えてもらった火だ。だからたぶん健在だとは思うんだが、行方はわかんねェ」
レイアはそう言うと、火の入ったカンテラを持ち上げて見せた。
(チロ子爵の言っていたことは、ホントウだったのか?)
と、タルルは冷や汗をおぼえた。
魔神は始末した。
そう言っていたのだ。
もしも魔神が死んでしまったのなら、すべてがオジャンである。
ディーネがソマ帝国と戦おうとしていることも、ドワーフと手を組んだことも、すべての努力が水泡に帰す。
いや。
(待てよ)
と、タルルはひとつ大事な情報を思い出すことになった。
「都市の外です」
と、あわててそう言ったため、唾液がノドにからんだ。タルルは咳き込んだが、すぐに言葉をつづけた。
「たしかチロ子爵は言ってました。絞首刑場の近くに落とし穴を掘った――って」
「ホントウか!」
そう鋭い声で尋ねてきたのは、レイアではなく、うずくまってしまっていたエイブラハングだった。
思わぬほうから声が飛んできたので、タルルは驚いて、カラダを跳ねさせてしまった。そんなタルルの両肩を、エイブラハングはがっしりと掴んで前後に揺すってきた。
「え……ええ。たしかそう言ってたと思います」
「なるほど。たしかに絞首刑場は都市からすこし離れているし、探しても見つからないわけだ。しかし絞首刑場まで行けば、魔神さまの明かりが目印になる。すぐに見つけられるに違いない」
でかしたぞ、よくその情報を持って来てくれた――エイブラハングはそう言うと、礼拝堂を跳びだして行った。
「あ、ちょっとッ」
修道院の外は、チロ子爵の手勢に包囲されているのだ。場所がわかっても、簡単には外に出られない。
地下水路を使って抜け出したほうが良い。そう提案しようとしたのだが、エイブラハングはすでに外に跳びだしていた。
「良いんですか。ひとりで行かせても」
と、タルルはレイアに問いかけた。
心配はねェさ――と、レイアは応じた。
「あの女ァ、尋常じゃねェ強さだ。ひとりでも魔神さまの救出に向かうだろうさ」
と、しゃぶり枝で、石段を指差した。
上に行けるようになっているようだ。
ここから《紅蓮教》の修道院に行けるということだった。
地下水道から石段をのぼってゆくと、天井に突き当たった。一見すると行き止まりだったが、
「よっこらせ」
と、ゲイルが天井を持ち上げた。
どうやら石盤になっていたようだ。天井から地上へと抜け出る隙間ができた。
先にゲイルが出て、タルルが出るまでその石盤を持ち上げてくれていた。タルルも這うようにして、その隙間から地上に抜け出した。
タルルが抜けると、石盤が勢いよく閉められた。
「ここは……?」
地下水道から出ると、雨に降られることになった。空からの水滴が、タルルの頬を濡らした。
周囲を見渡すと、芝の生えそろった地面が広がっていた。
「《紅蓮教》の修道院の敷地内だ。礼拝堂の裏手だよ」
「こんなところに、抜け道を作っていたなんて……」
「まぁ、地下水路はもともとあったもんだ。そこをつなげたってだけの話だ。なぁ、タルルくん。これで少しはオレのことを信用してもらえたかい?」
「ええ……」
ディーネとゲイルのふたりだけが知っていた地下水路。それをゲイルは惜しみなく教えてくれたのだ。
信用しないわけにはいかない。
「しかし、ずいぶんと派手にやってるねぇ」
と、ゲイルが言う。
たしかに各地から怒声やら蛮声が聞こえてくる。馬のいななきや、武具の衝突するような音が響いている。
こうして内部にいると、石造りの城壁によって外の様子は見えない。だが、この修道院は、チロ子爵の手勢によって完全に包囲されているのだ。
「とにかく、魔神さまに接触しないと」
チロ子爵は「魔神を始末した」と言っていた。だが、タルルはその言葉を信用していなかった。
礼拝堂隣にある鐘楼には、今日もあんなにも猛々しい炎が灯されているのだ。
「魔神さまは、どこにいるんだい?」
「たぶん礼拝堂に」
「それじゃお目通り願おうか。魔神さまに会ったら、タルルくんのほうからオレのことを説明してくれよ。敵だと思われて、燃やされちまったらたまったもんじゃねェからな。あの御方の怖ろしさは、オレは厭というほど知ってんだ」
と、ゲイルは身震いした。
ゲイルのおおきなカラダが揺れると、まるで岩か何かが振動するかのようだった。
『魔神さまはどこに行かれたのだッ』
『わかんねェよ。今、私の部下に探させてるところだッ』
『じきに火が消えてしまう。消えてしまったら、私はどうすれば良いのだッ』
『うるせェ。チョットは大人しくしてろッ』
礼拝堂。
タルルがトビラを開けると、なかではふたりの女性が言い争っていた。
レイアとエイブラハングのふたりだった。
凄まじい剣幕で、口をはさむのがはばかられた。
タルルの来訪には、気づいていないようだった。
『私はまだ治ってないんだよ。暗闇が怖いんだ。暗かったら、私はもうダメなんだ。魔神さまがいないと』
『この腰抜けが。S級黒狩人の肩書きが泣いてるぜ』
『私はもうダメだ。暗闇が怖くて仕方ないんだよ』
エイブラハングはそう言うと、頭を抱えてうずくまってしまった。
口論に間隙が生じた。
「あ、あのー」
と、タルルはようやっと口をはさむことが出来た。
「ん? あれ? 青ヒゲ伯爵の補佐官じゃねェーか。ンなところで何やってんだ。って後ろにいるのはソマ帝国のオッサンじゃねェーかッ」
と、レイアが身構えていた。
「違うんです。違うんです。話を聞いてください」
あわや斬りかかってくるところだったので、タルルはあわてて説明することにした。
ゲイルは協力者であること。
地下水路を通ってやって来たこと。
そしてディーネが連れ去られたので、《紅蓮教》のチカラを貸してもらいたい――といった内容を、タルルはまくしたてた。
レイアは礼拝堂にあった長椅子に腰かけて、タルルの話を聞いてくれた。
が――。
「言いたいことはわかった。あのロードリ公爵に上手くやられた――ってわけだ」
「はい」
「チカラになってやりたいのはヤマヤマだがな。あいにく魔神さまの行方が知れねェんだよ」
「魔神さまが?」
「ああ。今朝からずっと探してるんだな。魔術師の嬢ちゃんと魔神さまの2人の姿が見当たらねェ」
「でも、礼拝堂の火は健在ですよね」
この礼拝堂の壁にかけられたタイマツや、カンテラにも火は灯っている。
「神さまの生態は良くわからん。でもこの火は魔神さまから分け与えてもらった火だ。だからたぶん健在だとは思うんだが、行方はわかんねェ」
レイアはそう言うと、火の入ったカンテラを持ち上げて見せた。
(チロ子爵の言っていたことは、ホントウだったのか?)
と、タルルは冷や汗をおぼえた。
魔神は始末した。
そう言っていたのだ。
もしも魔神が死んでしまったのなら、すべてがオジャンである。
ディーネがソマ帝国と戦おうとしていることも、ドワーフと手を組んだことも、すべての努力が水泡に帰す。
いや。
(待てよ)
と、タルルはひとつ大事な情報を思い出すことになった。
「都市の外です」
と、あわててそう言ったため、唾液がノドにからんだ。タルルは咳き込んだが、すぐに言葉をつづけた。
「たしかチロ子爵は言ってました。絞首刑場の近くに落とし穴を掘った――って」
「ホントウか!」
そう鋭い声で尋ねてきたのは、レイアではなく、うずくまってしまっていたエイブラハングだった。
思わぬほうから声が飛んできたので、タルルは驚いて、カラダを跳ねさせてしまった。そんなタルルの両肩を、エイブラハングはがっしりと掴んで前後に揺すってきた。
「え……ええ。たしかそう言ってたと思います」
「なるほど。たしかに絞首刑場は都市からすこし離れているし、探しても見つからないわけだ。しかし絞首刑場まで行けば、魔神さまの明かりが目印になる。すぐに見つけられるに違いない」
でかしたぞ、よくその情報を持って来てくれた――エイブラハングはそう言うと、礼拝堂を跳びだして行った。
「あ、ちょっとッ」
修道院の外は、チロ子爵の手勢に包囲されているのだ。場所がわかっても、簡単には外に出られない。
地下水路を使って抜け出したほうが良い。そう提案しようとしたのだが、エイブラハングはすでに外に跳びだしていた。
「良いんですか。ひとりで行かせても」
と、タルルはレイアに問いかけた。
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