《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

18-5.……この男を頼りに

(なんて強さだ)
 と、タルルは魅入られることになった。


 チロ子爵の手勢が、《紅蓮教》の修道院を包囲していた。その群衆のなかを、2騎の騎兵が駆けまわっていた。
 レイアとエイブラハングである。


「鬼神」
 と、伝令官が称したのもうなずける。


 10人20人と切り伏せては、修道院のなかへと引き返して行く。引き返したかと思うと、ふたたび突っ込んでくる。


 チロ子爵の手勢は、スッカリ怯えきってしまい、レイアとエイブラハングの2騎を相手に潰走するというブザマをさらしていた。


 その2騎のカラダからは、真紅の鬼気オーラが発しているようにさえ見えたほどだ。


 どうしてもチカラでは押しきれないので、
「包囲しろ」
 と、チロ子爵が命令を出した。


 修道院は、チロ子爵の手勢によって包囲されることになった。


《紅蓮教》の修道院はまだ、自給自足といった設備までは整っていない。包囲してさえいれば、チロ子爵が有利になるというわけだ。


 ディーネを救い出すためには、
(《紅蓮教》のチカラを借りるしかない)


 それがタルルの思いであった。


《紅蓮教》の設立にはディーネもかなりの心血を注いでいたし、救出のためにはチカラを貸してくれるはずだ。


 が――。
(どうやって接触すれば良いんだ)


 それが問題である。


 修道院は、城壁に寄り添うように建てられている。城壁を増設することによって、修道院を囲んでいる。


 築城修道院である。


 城壁は背高く、出入口となる門も、いまは固く閉ざされている。その周囲を、チロ子爵の手勢が囲んでいるカッコウだ。


 そう簡単に忍び込めるものでもない。


 この修道院の設計は、ディーネが手掛けたものだ。


(もしかして、こうなることを予期してたのかも)
 とも思う。


 ディーネは智謀の才がある。予期していたとしても不思議なことではない。


 そんなディーネならば、今回のロードリ公爵からの攻撃だって、予期していたはずである。


 もっともディーネだって万能ではないから、見落としていたとしても不思議ではないのだが、
(あの人のことだ。予期していたはずだ)
 と、タルルはそう思うのだ。


 ならば、どうして易々と連れて行かれるような事態に陥ってしまったのか。それもまたディーネの思惑通りという可能性もある。


(待てよ……)
 タルルは、そのとき閃いた。


 この事態すらディーネが予測していたのならば、ディーネはタルルにどう動くべきか指示をあらかじめ伝えているはずだ。


 そして思い出した。


『私のもしものことがあったら、ゲイルを頼ってみてください。ゲイルが信用できるかどうかは、タルルくんが見極めてください』


 そう言っていたではないか。
 そう思いついてタルルはすぐさま、修道院から離れた。


 城に戻って、ゲイルが捕えられている牢へと向かうことにした。


 跳ね橋をわたると、城の下中庭に入ることが出来る。下中庭には穀物個やら武器庫やら厩舎といった設備があった。


 そのなかに囚人を捕えておくための棟もあった。監獄棟などと呼ばれている。背の高い石造りの建物だ。


 普段タルルはあまり出入りすることのない場所だった。罪人が収容されている場所なんかには頼まれても出入りなんかしたくない。が、今回ばかりはディーネの命がかかっているのだ。


「ごくり」
 と、生唾を飲んで、その監獄塔のトビラを押し開けた。


 暗闇が広がっていた。完全な暗闇ではない。いちおう《輝光石》が照明として用いられている。獣じみた臭いが強く、思わずタルルは鼻をつまんだ。


「すみませーん」


 入口には、牢番たちの詰所があるのだが、今は誰もいないようだった。チロ子爵の騒動や、《紅蓮教》との戦いなどでゴタゴタしているせいだろう。


 詰所にあった「502」のカギを取って、タルルは上層へと向かった。


 どこの階層にも、左右に牢屋があって、石造りの通路がまっすぐ伸びているという構造になっていた。


 だから通路を進もうとすると、どうしても左右の囚人たちの視線をもらうことになる。


「おい、出してくれよォ」
 だとか、
「飯はまだかよッ」
 とか、
「ぶっ殺すぞ」
 といった暴言などをもらった。


 入れられている連中はロクな連中ではない。強姦で捕まった者もいれば、殺人で捕まっている者もいるのだ。


 鉄格子をはさんでいるとは言っても、その迫力はタルルの肝を縮みあがらせた。


 なるべく相手にしないように、下を向いて足速に抜けることにした。


 502――。
 ようやくその牢屋を見つけた。


「よォ。飯の時間か? 今日は見かけないヤツだな。ずいぶんと若い牢番じゃないか」


 檻のなか。
 ゲイルは藁のベッドに腰かけて、しゃぶり枝を吸っていた。


「えっと、オレは牢番じゃないんです。あなたにチカラなってもらいたくて」


「ふぅん。ってことは、あの青ヒゲの伯爵に何かあったのかい」


「わかるんですか」


「伯爵さんから聞いてるからね。もしも私の身に何かあったときは、タルルという少年が訪れるだろう――ってね」


「伯爵さまは、そこまで?」


「おう。あの青ヒゲの伯爵さんとは、何度か話をしたことがある。ときおり、しゃぶり枝を差し入れてもらってもいた」
 と、ゲイルはしゃぶり枝を口さきで上下させて見せた。


「伯爵さまは、ロードリ公爵の手の者に連れて行かれてしまいました。処刑されるとかなんとか」


「オレに何をして欲しいんだい?」
 と、ゲイルは立ち上がった。


 立ち上がると、そのカラダの大きさが良くわかった。なんという偉丈夫か。タルルの2倍ぐらいの大きさがあるのだ。


 檻を挟んでも、威圧感をおぼえるほどだった。


「《紅蓮教》の修道院が今、チロ子爵の手の者に包囲されてしまっているんです。どうにか、《紅蓮教》の人たちと接触をはかりたいんです」


「ああ。いいよ」
 と、ゲイルは簡単に返してきた。


 あまりに簡単に応じてきたために、意表をつかれた。


「いいよ――って、何か方法が?」


「あるけど、この檻を開けてくれなくちゃ、どうにも出来ねェ」


 ゲイルは、しゃぶり枝を指でつまんで、それでトビラのカギを指示した。


「今、開けます」


 詰所から持ってきたカギを、鍵穴に挿しこんだ。挿しこんだは良いが、回すことができなかった。


(開けても良いのか?)
 という躊躇があったのだ。


 このゲイルという男は、もともとソマ帝国の大隊長をやっていた男なのだ。信用するのは、あまりに危険だ。


 冷や汗をおぼえたし、心臓が緊張で高鳴る感触もあった。


 が、それでも――。


(伯爵さまは、言ったんだ)


 この男に頼れ――と。


 そして信用できる男かどうか見定めろとも言っていた。ならばその言葉に従うまでだ――とタルルは、なかばヤケになってカギを回した。


 カチャリ。錠の開く感触が、指先に伝わってきた。


「ふぅーっ。久々にシャバに出られるぜ」
 と、ゲイルはカラダを屈めるようにして、檻から出てきたのだった。

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