《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
17-3.現状
「ずいぶんと様になっているではありませんか」
礼拝の後。
そう言って教会に入ってきたのは、ディーネだった。
すこし髪が伸びたようだ。その青い髪を、後ろでポニーテールにまとめていた。そして相変わらず付けヒゲをしている。
「おはようございます」
と、プロメテは頭を下げた。
「おはよう」
と、ディーネはプロメテのことを抱き寄せると、わしゃわしゃとその頭をナでていた。
セッカク整えていた白銀の髪が乱れていたが、プロメテはべつに厭そうではなかった。
「ディーネさんのおかげなのですよ。修道院を大きくしてくださいましたし、私に大司教という立場をくださったのも、ディーネさんなのです」
「いえいえ。私は自分のために、あなたがたを利用しているだけですよ。私もそれだけの恩恵をもらっていますから」
「そう――ですか」
ところで大司教さま、と茶化すようにディーネが言う。
プロメテでけっこうなのですよ、とプロメテが応じる。
「ではお言葉に甘えて、プロメテちゃん」
「はい」
「今日はひとつお願い――というか、話し合いに来ましてね」
「私にでしょうか? それとも、魔神さまに?」
「まぁ、おふたりに――と言うべきでしょうかね」
「あ、チョット待っていてくださいね。お茶を入れるのです」
プロメテはそう言うと、そそくさと司祭室のほうへと引っ込んだ。
すぐに2人分のお茶を入れてきた。御茶――と言っても、茶葉から煮出したものではない。ハーブから煮出したものだ。いわゆるハーブティである。レモンのような柑橘系の香りがしていた。
「いい香りですね。それに温かい」
コップを受け取ったディーネは、「くんくん」とそのハーブティの香りをかいでいた。
「今までは水出ししか出来ませんでしたが、魔神さまのおかげで煮出すことが出来るようになったのです。おかげで温かい飲み物もいただけるのです」
ずずず……と、ディーネはお茶をすすっていた。
それで話というのはなんだ――とオレのほうから尋ねた。
「おっと、お茶を楽しんでいる場合ではありませんね。今後と現状のことについて話そうと思いましてね」
と、ディーネは教会の長椅子に腰かけた。
「ほお?」
「私はいま、魔神さまのチカラを利用して、何か出来ることはないか――と、いろいろと手を広げております」
「ずいぶん精力的に活動していると、ウワサでは聞いてるぞ」
「時間がありませんからね」
「時間?」
「セパタ王国が、いつまでも私の行動を看過してくれているとは限りません。いつかは強硬手段に出てくることでしょう。ソマ帝国だって、このまま黙っているはずがない。すこしでも早くチカラをつける必要があります。世界と戦うチカラを」 と、ディーネは不敵に微笑んだ。
今までのディーネの狡猾さを見てきたからか、ディーネの笑みからはどことなく策謀を隠しているような印象を受けるようになった。
「世界と戦うチカラか」
なんという豪胆な人物か。
この都市ひとつからはじまって、世界を敵に回す腹積もりである。
「ドワーフたちのチカラを借りて、武具の強化は順調に進んでいます。こちらの工房では、アクセサリーなどの装飾品も作っていただいておりますしね」
ドワーフの里から提供されるものは、鉄だけではない。鉱石関連のものが、続々と手に入っている。
「ふむ」
と、オレはうなずく。
正直、アクセサリーなどの装飾品を、ディーネがどう利用しているのかはわからない。ディーネ自身が着飾っている様子はない。まぁ、ディーネのことだから、何か思惑があるのだろう。
「私が今、イチバン尽力しているのが、製塩です」
「塩は強いな」
地球の歴史上においても、塩は政府の専売になることが多かったようだ。莫大な富を得ることが出来る。
オレのカラダが揺れた。
べつに意味はない。
それに合わせて、礼拝堂内の陰影も揺らめくこととなった。
「今まで塩は、蜥蜴族の利権でした。蜥蜴族は海水や海藻から塩をつくりだす独自技術を持っているようです」
「そりゃすごい。ドワーフだけじゃなくて、各種族がいろんな知識を持っているものだな」
「しかし火があることによって、この都市でも製塩が可能になります。今後の交渉においても、塩はかなり大きな役目をになうことになるはずです」
「通貨は問題なく機能してるのか?」
オレはそれが気になっていた。
今まではオルフェスは《輝光石》を通貨として用いていたようだ。それはこの闇に閉ざされた世界において、《輝光石》そのものに非常に大きな価値があったからだ。が、オレの登場によって、《輝光石》の価値は下がったと言えよう。
「それは私も懸念しておりました。通貨を作ろうかとも考えていましたが、今は問題ありません」
「そうなのか」
「魔神さまの火は、この都市に浸透しておりますが、この都市でも、まだ魔神さまに不審を抱く者もおります」
「まぁ、それは仕方ないな」
みんながみんなオレのことを信奉しているわけではない。それを強要しようとも思わない。
「それに都市のみならず、各地の農村などには火は行き渡りません。ほかの国々も《輝光石》を通貨として用いております。人がまだ《輝光石》を通貨として用いている以上は、心配ないようですね」
「オレのせいで暴落とか起きたら、どうしようかと思ったぐらいだ」
その言葉を冗談として受け取ったのか、ディーネは小さく笑っていた。が、冗談で言ったわけではない。
以前、エクスカエルに言われたことがある。
『召喚された分際で、我々の世界に横やりを入れるな』。
その言葉にも一理ある。
たしかにオレは、召喚された分際だ。
本来はこの世界にいるはずない存在なのだろう。
そして、この世界をおおきく変えてしまうチカラがあるかもしれない。
変えてしまうこと、変わってしまうこと、そういった1つひとつに責任が伴う。世界を変えてしまう責任をとることは出来ない。
それが、すこし怖い。
世界に影響を及ぼすことに恐怖があるからこそ、果敢に世界に挑もうとするディーネの豪胆さがよくわかるのだ。
礼拝の後。
そう言って教会に入ってきたのは、ディーネだった。
すこし髪が伸びたようだ。その青い髪を、後ろでポニーテールにまとめていた。そして相変わらず付けヒゲをしている。
「おはようございます」
と、プロメテは頭を下げた。
「おはよう」
と、ディーネはプロメテのことを抱き寄せると、わしゃわしゃとその頭をナでていた。
セッカク整えていた白銀の髪が乱れていたが、プロメテはべつに厭そうではなかった。
「ディーネさんのおかげなのですよ。修道院を大きくしてくださいましたし、私に大司教という立場をくださったのも、ディーネさんなのです」
「いえいえ。私は自分のために、あなたがたを利用しているだけですよ。私もそれだけの恩恵をもらっていますから」
「そう――ですか」
ところで大司教さま、と茶化すようにディーネが言う。
プロメテでけっこうなのですよ、とプロメテが応じる。
「ではお言葉に甘えて、プロメテちゃん」
「はい」
「今日はひとつお願い――というか、話し合いに来ましてね」
「私にでしょうか? それとも、魔神さまに?」
「まぁ、おふたりに――と言うべきでしょうかね」
「あ、チョット待っていてくださいね。お茶を入れるのです」
プロメテはそう言うと、そそくさと司祭室のほうへと引っ込んだ。
すぐに2人分のお茶を入れてきた。御茶――と言っても、茶葉から煮出したものではない。ハーブから煮出したものだ。いわゆるハーブティである。レモンのような柑橘系の香りがしていた。
「いい香りですね。それに温かい」
コップを受け取ったディーネは、「くんくん」とそのハーブティの香りをかいでいた。
「今までは水出ししか出来ませんでしたが、魔神さまのおかげで煮出すことが出来るようになったのです。おかげで温かい飲み物もいただけるのです」
ずずず……と、ディーネはお茶をすすっていた。
それで話というのはなんだ――とオレのほうから尋ねた。
「おっと、お茶を楽しんでいる場合ではありませんね。今後と現状のことについて話そうと思いましてね」
と、ディーネは教会の長椅子に腰かけた。
「ほお?」
「私はいま、魔神さまのチカラを利用して、何か出来ることはないか――と、いろいろと手を広げております」
「ずいぶん精力的に活動していると、ウワサでは聞いてるぞ」
「時間がありませんからね」
「時間?」
「セパタ王国が、いつまでも私の行動を看過してくれているとは限りません。いつかは強硬手段に出てくることでしょう。ソマ帝国だって、このまま黙っているはずがない。すこしでも早くチカラをつける必要があります。世界と戦うチカラを」 と、ディーネは不敵に微笑んだ。
今までのディーネの狡猾さを見てきたからか、ディーネの笑みからはどことなく策謀を隠しているような印象を受けるようになった。
「世界と戦うチカラか」
なんという豪胆な人物か。
この都市ひとつからはじまって、世界を敵に回す腹積もりである。
「ドワーフたちのチカラを借りて、武具の強化は順調に進んでいます。こちらの工房では、アクセサリーなどの装飾品も作っていただいておりますしね」
ドワーフの里から提供されるものは、鉄だけではない。鉱石関連のものが、続々と手に入っている。
「ふむ」
と、オレはうなずく。
正直、アクセサリーなどの装飾品を、ディーネがどう利用しているのかはわからない。ディーネ自身が着飾っている様子はない。まぁ、ディーネのことだから、何か思惑があるのだろう。
「私が今、イチバン尽力しているのが、製塩です」
「塩は強いな」
地球の歴史上においても、塩は政府の専売になることが多かったようだ。莫大な富を得ることが出来る。
オレのカラダが揺れた。
べつに意味はない。
それに合わせて、礼拝堂内の陰影も揺らめくこととなった。
「今まで塩は、蜥蜴族の利権でした。蜥蜴族は海水や海藻から塩をつくりだす独自技術を持っているようです」
「そりゃすごい。ドワーフだけじゃなくて、各種族がいろんな知識を持っているものだな」
「しかし火があることによって、この都市でも製塩が可能になります。今後の交渉においても、塩はかなり大きな役目をになうことになるはずです」
「通貨は問題なく機能してるのか?」
オレはそれが気になっていた。
今まではオルフェスは《輝光石》を通貨として用いていたようだ。それはこの闇に閉ざされた世界において、《輝光石》そのものに非常に大きな価値があったからだ。が、オレの登場によって、《輝光石》の価値は下がったと言えよう。
「それは私も懸念しておりました。通貨を作ろうかとも考えていましたが、今は問題ありません」
「そうなのか」
「魔神さまの火は、この都市に浸透しておりますが、この都市でも、まだ魔神さまに不審を抱く者もおります」
「まぁ、それは仕方ないな」
みんながみんなオレのことを信奉しているわけではない。それを強要しようとも思わない。
「それに都市のみならず、各地の農村などには火は行き渡りません。ほかの国々も《輝光石》を通貨として用いております。人がまだ《輝光石》を通貨として用いている以上は、心配ないようですね」
「オレのせいで暴落とか起きたら、どうしようかと思ったぐらいだ」
その言葉を冗談として受け取ったのか、ディーネは小さく笑っていた。が、冗談で言ったわけではない。
以前、エクスカエルに言われたことがある。
『召喚された分際で、我々の世界に横やりを入れるな』。
その言葉にも一理ある。
たしかにオレは、召喚された分際だ。
本来はこの世界にいるはずない存在なのだろう。
そして、この世界をおおきく変えてしまうチカラがあるかもしれない。
変えてしまうこと、変わってしまうこと、そういった1つひとつに責任が伴う。世界を変えてしまう責任をとることは出来ない。
それが、すこし怖い。
世界に影響を及ぼすことに恐怖があるからこそ、果敢に世界に挑もうとするディーネの豪胆さがよくわかるのだ。
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