《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

16-5.聖火台 其の弐

「よォ。大活躍だったそうじゃないか」
 ヴァルにむかってヘラがそう言った。


 ドワーフの里のなかでは勝利の祝杯があげられている。酒がふるまわれて、ドワーフたちはみんな赤ら顔になっていた。


 洞窟全体に酒の匂いが満ちていて、その芳香だけでヴァルも酔ってしまいそうだった。


「ケガはもう良いの?」


「動ける程度にはなったよ」


 ヘラの胸元には、包帯が巻きつけられていた。ヘラは松葉杖をついており、痛てて、と前かがみになっていた。


「座ろうか?」


「悪いな」


 ヴァルが手を貸して、ヘラはその場に座り込んだ。


 今回の勝利の祝杯のさいには、聖火台に炎が灯されることになっている。聖火台の石垣には、魔術師と魔神が上っているのが見て取れた。


 ドワーフたちは、その聖火台を囲むように座っている。


「べつにたいした活躍はしてないよ。オレはただ、戦士になろうと必死になってただけでさ」
 ヴァルはそう言った。


「謙遜すんなよ。レイアって女の人を、救ったんだろ」


「誰がそんなことを?」


「本人がそう言いふらしてるみたいだぜ」


「レイアさんが?」


「ヴァルってドワーフに命を救われたって、酔っ払いながら言いまわってる」


 本心からそう言っているのか、酔っているからそう言っているのか、わからなかった。


(まぁ、どっちでも良いか)
 と、思った。


「オレはもう戦士を目指すのはやめることにした。ヘラにもムリ言って悪かったよ」


「ムリ?」


「ムリヤリ《製鉄工場アイアン・ファクチュア》に連れて行ってもらっただろ」


「あぁ……。でも、お前が来てくれなかったら、結果的にオレは敵に襲われて死んでたかもしれないしな。そういう意味では、オレもお前に助けられた」


「オレじゃないよ。助けたのはレイアさんだ」


「まぁ、そうなのかもしれないけど、お前がいたおかげで――ってのも多少はあるよ」


 サンキュウな、とヘラは照れ臭そうにそう言った。
 なんだか気恥ずかしくなって、ヴァルも「うん」と短く応じた。


「そう言えば、これ落としてたよ」


《輝光石》から削りだして作ったボルトを、ヴァルはヘラにわたした。


「悪い。落としてたのか」


「落としてたのは仕方ないよ。いろいろあったし」


「これでペティに、告白することが出来るぜ」


「ペティ?」


「ほら、ゲ・ズィの爺さんの孫娘だよ。可愛いんだよ、あの娘。まだチョット話したことがあるんだけどさ。どう思うよ? 告白成功すると思うか?」


「さあ。オレに聞かれても……」
 と、ヴァルは首をかしげた。


「お前好きな人いない――って言ってたもんなぁ」


「……うん」


 たしかにそう言った。
 けれど今は、違う。


 ヴァルにも好きな人が出来た。
 しかし打ち明けるのは照れ臭いので、口には出さなかった。


「お前、里を出るんだろ」


「うん。レイアさんに付いて行くことにしたんだ。オレの手先が器用なのを買ってくれてさ」


「寂しくなるな」


「べつに今生の別れってわけじゃないし。オレはただ都市シェークスに行くだけだから。今後は都市シェークスとドワーフの里の関係も密接になるって聞いてるし」


 ドワーフの里は今まで通り運営されることになるが、いちおうシェークスの属領ということになったのだ。


 族長たちも、合意したと聞いている。ドワーフたちにも異論はない。


「たまには里に戻って来いよ」


「うん」


「灯るぞ」


 ドワーフの里の聖火台。そこに魔術師が炎を灯した。里のなかが、いっきに明るく照らされることになった。《輝光石》なんかとは、比べものにならない光だった。


(あれが……)
 と、ヴァルは目を細めた。


 聖火台の前に立っている、オルフェス最後の魔術師と、魔神アラストルの姿を見た。


 レイアも傾倒している《紅蓮教》の神だ。

 
 ドワーフの避難民たちを守ってくれた。そのおかげで、ドワーフたちも魔神への感謝を抱く者が多くいる。


 しかも、3大神を倒したという。絶対と思われた《光神教》。その一角が崩れたのだ。世界が変わりつつある。そう感じた。


「魔神さま、万歳!」
 と、ドワーフの里のなかに、そう声が響きわたることになった。

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