《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

16-4.神の下で

 魔神アラストルと3大神が闘っている間のことーー……


(なんつー戦いだよ)
 と、ゲイルは3大神と魔神の戦いを見ていた。


 3大神が剣を振るい、魔神がそのコブシを叩きこむ。
 剣が振るわれるたびに、突風が巻き起こる。コブシが振るわれるたびに、熱風が吹き荒れるのだった。


(まぁ、当たり前か)
 とも思う。


 なにせ人と人の戦いではないのだ。
 これは、神の対決。
 神話なのだ。


(しかしマズイんじゃないかね。これは)
 と、焦燥をおぼえる。


 3大神エクスカエルのほうが押されているように見えるのだ。さっきから何度か地面に叩き伏せられている。


 神はその信仰心によってチカラを得る。魔神にチカラを与えているのもまた、信者たちだ。そのもっとも大きな影響を及ぼしているのが、
(あの魔術師か)
 と、見据えた。


 魔神の背後で祈るように両手をからませていた。
 ならば――。


「《聖白騎士団》はオレにつづけ、あの女を殺れば、魔神の強さは弱体化するはずだッ」
 と、ゲイルは馬にまたがった。


「おっと、貴様らの相手は私だ」
 と、立ちはだかったものがいる。黒い髪の女だった。その手には槍を持っていた。穂先が《輝光石》になっているようだ。


「てめェは?」


「私はS級黒狩人のエイブラハングだ」


「S級だと……」


 その証拠に、エイブラハングは証明石を見せつけてきた。その証明石には、たしかにS級の証であるドラゴンの絵が彫り込まれていた。


 世界でたったの3人しかいないという、黒狩人のエキスパートのひとりだ。


「私の故郷は、ソマ帝国に滅ぼされたことがあってな。貴様たちには個人的な恨みがある」


「だからって、異教徒に成り下がったか」


「恨みから《紅蓮教》に入ったわけではない。私は魔神さまに救われたのだ。今も魔神さまなしでは、生きていけぬ」


《紅蓮教》は、これほどの人物をすでに抱きこんでいる。それは看過できないことだった。


 今の内に《紅蓮教》を叩いておかなければ、後々、厄介なことになる。ゲイルはそう直感した。


 魔神のコブシが、3大神を殴り飛ばしていた。殴られた3大神は大きな跳ね飛ばされていた。地面に叩きつけられた衝撃によって、地揺れが起こっていた。


「S級だろうと、たった1人で《聖白騎士団》に勝てはしまい」


「1人ではない」


「ドワーフどもと戦うつもりか? 連中は非戦闘員だろ」


 ドワーフたちもまた、みずからを守ってくれる存在と見込んだのか、魔神を応援しているようだった。
 その応援が、さらにいっそう魔神を強くする。早く片付けなければならない。


「そうではない」


「なに?」


 瞬間。
 馬蹄の音が響いていた。


 どこからか――。
 側面。


 森の中から斬りかかってくる人物がいた。幸か不幸か、魔神のおかげで当たり一帯は明るくなっている。おかげでその奇襲にも気づくことが出来た。


 咄嗟に馬から跳び下りることで、その一撃をかわすことが出来た。


「お初にお目にかかります。私はディーネ。都市シェークスの領主をやらせていただいております」

「……ッ」


 絶句である。
 ディーネならば今は、ドワーフの里にて戦の指揮を執っているはずだ。北の郭からの攻めは失敗したものの、城攻めそのものは、まだ続けているはずだ。


(いや)


 違う。


「あんたが、ここにいるってことは、城を攻めていた部隊を追い返したってことか」


「ええ。すでにこのあたりは私の手勢に包囲させています。あなたに逃げ場はありませんよ。ゲイル大隊長どの」


「そいつァ、やられちまったなァ。しかしオレがここにいるって、良くわかったな」


「これだけ派手な戦いが行われているのですから、世界の果てにいたってわかりますよ」
 と、ディーネは、3大神と魔神のほうを見た。


「それもそうか」


 これが――青ヒゲの伯爵か、とあらためてゲイルはディーネのことを見つめた。


 なぜか付けヒゲをつけていた。それが青ヒゲ伯爵と呼ばれるゆえんなのだろう。しかしフザケているようで、その実、知恵は回るのだ。この戦でも、見事にしてやられた。


(このオレが完敗か……)


 こんな女にしてやられたのだと思うと、悔しいを通り越して笑いをコボれる。


「完敗だ。投降しよう」
 と、ゲイルは両手をあげた。


 死を覚悟して特攻しようとなんて覇気は、ゲイルにはなかった。命あってのシロモノである。


「セパタ王国では捕虜は丁重にあつかう決まりになっているので、安心して投降してください。魔神さまのほうも、決着がついたようです」
 と、ディーネは楽しげに言った。


 見上げる。
 ゲイルの召喚した3大神エクスカエルのカラダが、闇に吠えるかのように燃え上がっていた。そのカラダは灰となって霧散していた。


(まさかねぇ……)
 と、ゲイルは震えた。


 この世界においてゼッタイと思われた《光神教》。その一角が今、崩されたのである。その衝撃がゲイルを震わせたのだった。

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