《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
15-6.戦士となって
『来いよ。ガキんちょ』
と、ヴァルのことを囲んでいる帝国兵が言った。
『ほら、戦士なら斬りかかって来いよ』
と、揶揄してくる者もいた。
しかし挑発には乗らなかった。
ヴァルの頭のなかは、
(レイアさんは無事だろうか?)
このことで占められていた。
意図せずヴァルが目立つことによって、レイアはまだ見つかっていないようだった。が、いつ見つかっても不思議ではない。
崩れた天幕の布をかぶせているだけなのだ。そもそもその隠し方が正解だったかもわからない。濡れた布をかぶせられて、窒息しているかもしれない。咄嗟のことだったので、そんなことまで気が回らなかったのだ。
(目を覚ましてくれていれば良いけど……)
すでに目を覚まして、この場から離脱してくれていれば良い。そう思った。そうであるならば、ここでヴァルが戦死することにも意味があるというものだ。
『どうした。来ねェのかよ』
ヴァルのことを取り囲んでいる帝国兵は、みんな皮の鎧をまとっていた。白い法衣をまとっていないということは、《聖白騎士団》ではないということだ。
《聖白騎士団》もけれど、どこか近くにいるのだろう。
そんなことがわかっても、苦境に立たされていることに変わりはない。
敵兵の数はおおよそ20人。それもヴァルを取り囲んでいる者たちだけで20人だ。この野営地のなかには、もっといることだろう。
どう考えても、戦って勝てる数ではない。1対1でも勝てるかどうか危ういのだ。オマケにヴァルは足にケガを負っている。
(死ぬ)
それは逃れられないことだった。
不思議と、怖い、という感覚はうすかった。
夢を見ているかのように、現実味がとぼしかったのだ。
右足の痛みも、この空気の冷たさも、降りそそぐ雨粒も、ただよう泥と血の臭いも、すべては幻のように感じた。あまりの恐怖に、感覚がマヒしてしまっているのかもしれない。
でも良かった。
ヴァルは安堵した。
イザというときに、恐怖で漏らしたり、泣きわめいたりするようなミットモナイ姿をさらすことにならなくて、ホントウに良かった――という安堵だった。
『来ないのなら、こっちから行くぞ。おらァ』
と、帝国兵がついに2人、ヴァルに向かって斬りかかってきた。死ぬとわかっていても、諦めたわけではない。
どうせなら、戦って散るつもりだ。
「ふーっ」
と、ヴァルは呼息を吐きだした。
向かってくる敵兵の手には、鉄鋼樹脂性の剣がにぎられている。
上段からの切りかかりだった。
ヴァルは腰に佩した剣の柄に手をかけた。呼気を止める。抜刀。闇のなかで、その白銀の剣はひらめいた。向かってきた2人の敵兵を斬ることに成功した。
「やった……」
と、思わずつぶやいた。
斬られた兵は、その場で倒れて悶えていた。仕留めることは出来なかったようだ。それでも戦場にて、敵を斬ったのだ。これでようやっと一人前の戦士になれたような気がした。
しかし自分1人で、成し遂げられたことだとは思えなかった。レイアから授かった剣があってこそだ。
『て、てめぇ、なんだその剣は』
『かまわねぇ、やっちまえ』
『かかれ、かかれ!』
と、周りからいっきに敵兵が、ヴァルにむかって押し寄せてきた。20人以上はいると思われる数だ。
(さすがにもうダメだな)
と、悟った。
敵の手で殺されるぐらいならば、自決しようと思った。レイアから授かった剣の切っ先を、みずからの腹に向けた。そして突き刺そうとしたその瞬間だった。
『うわっ』
『おわっ』
と、敵兵たちが倒れはじめたのだった。
(なんだ……いったい……?)
ヴァルは自分のヘルムの泥をぬぐった。鼻当てに埋め込まれている《輝光石》の明かりを取り戻したのだ。たいした明かりにはならないが、すこしは闇を照らしてくれるだろうと期待した。
そうしている間にも、1人また1人と倒れている。
(あれは……)
敵兵の群集のなかを縫うようにして、ひとつの人影が高速で移動している人の輪郭を見出すことが出来た。
緋色の法衣に、紅蓮の髪が目印になった。
「レイアさん!」
「よぉ。無事だったかよ」
と、レイアは敵兵の群れのなかから跳びだしてきたのだった。
「助かりました」
「助かったのはこっちだ。ジャリンコのくせに、立派だったじゃねェか。てめェは立派な戦士だよ」
「……はい」
レイアにそう言われたことに安心してしまって、ヴァルは全身からチカラが抜けていった。急に足の痛みが現実味を増してきて、その場にヒザをつくことになった。
「悪いな。ジャリンコ。その剣。返してもらうぜ」
ヴァルの持っていた剣を、レイアは手にとった。そしてレイアはその剣を振るった。ヴァルのことを取り囲んでいた兵たちは、1人また1人と切り伏せられてゆくことになった。
返り血を受けて戦うさまは、一騎当千。まるで鬼神だった。レイアの全身から紅色の闘気が発せられているようにすら見えたほどだ。
と、ヴァルのことを囲んでいる帝国兵が言った。
『ほら、戦士なら斬りかかって来いよ』
と、揶揄してくる者もいた。
しかし挑発には乗らなかった。
ヴァルの頭のなかは、
(レイアさんは無事だろうか?)
このことで占められていた。
意図せずヴァルが目立つことによって、レイアはまだ見つかっていないようだった。が、いつ見つかっても不思議ではない。
崩れた天幕の布をかぶせているだけなのだ。そもそもその隠し方が正解だったかもわからない。濡れた布をかぶせられて、窒息しているかもしれない。咄嗟のことだったので、そんなことまで気が回らなかったのだ。
(目を覚ましてくれていれば良いけど……)
すでに目を覚まして、この場から離脱してくれていれば良い。そう思った。そうであるならば、ここでヴァルが戦死することにも意味があるというものだ。
『どうした。来ねェのかよ』
ヴァルのことを取り囲んでいる帝国兵は、みんな皮の鎧をまとっていた。白い法衣をまとっていないということは、《聖白騎士団》ではないということだ。
《聖白騎士団》もけれど、どこか近くにいるのだろう。
そんなことがわかっても、苦境に立たされていることに変わりはない。
敵兵の数はおおよそ20人。それもヴァルを取り囲んでいる者たちだけで20人だ。この野営地のなかには、もっといることだろう。
どう考えても、戦って勝てる数ではない。1対1でも勝てるかどうか危ういのだ。オマケにヴァルは足にケガを負っている。
(死ぬ)
それは逃れられないことだった。
不思議と、怖い、という感覚はうすかった。
夢を見ているかのように、現実味がとぼしかったのだ。
右足の痛みも、この空気の冷たさも、降りそそぐ雨粒も、ただよう泥と血の臭いも、すべては幻のように感じた。あまりの恐怖に、感覚がマヒしてしまっているのかもしれない。
でも良かった。
ヴァルは安堵した。
イザというときに、恐怖で漏らしたり、泣きわめいたりするようなミットモナイ姿をさらすことにならなくて、ホントウに良かった――という安堵だった。
『来ないのなら、こっちから行くぞ。おらァ』
と、帝国兵がついに2人、ヴァルに向かって斬りかかってきた。死ぬとわかっていても、諦めたわけではない。
どうせなら、戦って散るつもりだ。
「ふーっ」
と、ヴァルは呼息を吐きだした。
向かってくる敵兵の手には、鉄鋼樹脂性の剣がにぎられている。
上段からの切りかかりだった。
ヴァルは腰に佩した剣の柄に手をかけた。呼気を止める。抜刀。闇のなかで、その白銀の剣はひらめいた。向かってきた2人の敵兵を斬ることに成功した。
「やった……」
と、思わずつぶやいた。
斬られた兵は、その場で倒れて悶えていた。仕留めることは出来なかったようだ。それでも戦場にて、敵を斬ったのだ。これでようやっと一人前の戦士になれたような気がした。
しかし自分1人で、成し遂げられたことだとは思えなかった。レイアから授かった剣があってこそだ。
『て、てめぇ、なんだその剣は』
『かまわねぇ、やっちまえ』
『かかれ、かかれ!』
と、周りからいっきに敵兵が、ヴァルにむかって押し寄せてきた。20人以上はいると思われる数だ。
(さすがにもうダメだな)
と、悟った。
敵の手で殺されるぐらいならば、自決しようと思った。レイアから授かった剣の切っ先を、みずからの腹に向けた。そして突き刺そうとしたその瞬間だった。
『うわっ』
『おわっ』
と、敵兵たちが倒れはじめたのだった。
(なんだ……いったい……?)
ヴァルは自分のヘルムの泥をぬぐった。鼻当てに埋め込まれている《輝光石》の明かりを取り戻したのだ。たいした明かりにはならないが、すこしは闇を照らしてくれるだろうと期待した。
そうしている間にも、1人また1人と倒れている。
(あれは……)
敵兵の群集のなかを縫うようにして、ひとつの人影が高速で移動している人の輪郭を見出すことが出来た。
緋色の法衣に、紅蓮の髪が目印になった。
「レイアさん!」
「よぉ。無事だったかよ」
と、レイアは敵兵の群れのなかから跳びだしてきたのだった。
「助かりました」
「助かったのはこっちだ。ジャリンコのくせに、立派だったじゃねェか。てめェは立派な戦士だよ」
「……はい」
レイアにそう言われたことに安心してしまって、ヴァルは全身からチカラが抜けていった。急に足の痛みが現実味を増してきて、その場にヒザをつくことになった。
「悪いな。ジャリンコ。その剣。返してもらうぜ」
ヴァルの持っていた剣を、レイアは手にとった。そしてレイアはその剣を振るった。ヴァルのことを取り囲んでいた兵たちは、1人また1人と切り伏せられてゆくことになった。
返り血を受けて戦うさまは、一騎当千。まるで鬼神だった。レイアの全身から紅色の闘気が発せられているようにすら見えたほどだ。
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