《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
15-4.タリスマンというチカラ
「踏み蹴散らせ! 今こそ勇躍のときッ!」
レイアはそう吠えた。
その声を受けて、馬も奮起するかのようにいなないた。
駆けた。
闇のなかをえぐるように駆ってゆく。そんなレイアを先頭に、後続もつづいた。
ソマ帝国の野営地を突っ込んで行く。
『何者だ!』
『止まれ!』
野営地の出入り口には、2人の門兵がいた。
ふたりの門兵は、手に槍をもって突きかかってきた。
そんな2人をレイアは、苦も無く切り伏せた。切り伏せたさいに、派手に血がしぶいた。
木造柵を踏み倒して、野営地に押し入った。
ソマ帝国の軍兵は、あわてた様子で天幕のなかから出てきた。
まさか攻められるとは思っていなかったのだろう。簡単な防具しかつけておらず、レイアたちの騎兵によって踏みつぶされて行くことになった。
(まるで嵐の中にいるみたいだ)
と、ヴァルは思った。
降りかかる雨、周囲から感じる暴風、そして殺気と怒号が飛び交っていた。
(これが戦……)
《製鉄工場》で、ヴァルはデイゴンとの戦を経験している。が、あんなものはただの小競り合いだったのだ。そう思わせられるほどの、激しさがあった。
目を開けているのもやっとだったが、ヴァルはマブタを閉ざさないようにと決めていた。戦っているレイアの姿が見たかったのだ。
レイアの背中に、ヴァルはしがみついている。距離が近すぎるため、良く見て取ることが出来ない。
それでも――。
(美しい)
そう感じた。
緋色の服をまとい、紅蓮の髪を逆立てて戦うレイアからは、怯懦のカケラすら見いだせなかった。
果敢に馬を走らせて、敵を切り伏せて行く。
この野営地はすぐにレイアたちによって制圧されることだろう。
そう思っていたのだが――。
『迎え撃てッ』
野営地のなかに、隊を組んでいる者がいた。みんな白い法衣をまとっている。《聖白騎士団》だ。
『放て!』
《聖白騎士団》の者たちからは、白い光の球が放たれた。
「撤退!」
と、レイアが大音声を発した。
光の球がいくつも飛来してくる。
「ジャリンコ。無事か?」
「ええ」
「……っ」
光の玉のひとつがレイアに直撃した。その衝撃で意識をうしなったのかレイアのカラダからチカラが抜けてゆくのが、しがみついているヴァルにはわかった。
レイアの命令を受けた仲間たちは、どんどん引き返していくのだが、レイアの馬だけは依然として前へと進んでいた。
「レイアさん!」
呼びかけても応答がなかった。
それでも馬は走りつづけている。
(このままでは、マズイ)
そう思ってヴァルはあわてて手綱を引っ張った。乱暴に引いたせいか、馬がサオダチになった。
レイアのカラダごと、ヴァルは落馬することになった。叩きつけられるように地面に落っこちたけれど、さいわいと言うべきか、泥でぬかるんでいたために、さして痛くはなかった。
レイアが乗っていた馬は、そのあたりを暴れまわると、あらぬ方へと駆けて行った。
「レイアさん。大丈夫ですか?」
ぬかるんだ地面に、レイアは顔面から落っこちていた。窒息しないように泥中から、引っ張り上げた。
顔が泥に汚れていた。気を失ってしまっているようだ。
いまだ白い光の球は、放たれ続けている。
(これは……)
信仰のチカラだ。
タリスマン。
そう呼ばれる道具は、所有者の信仰心を特殊なチカラに変えるのだ。
《聖白騎士団》が使うとされている道具だ。その信仰のチカラを、目撃するのはヴァルは、はじめてのことだった。
「レイアさん。起きてください。このままでは……」
ここは敵の野営地。
レイアとヴァルだけが取り残されることになる。
レイアが率いてきた兵隊たちは、もうほとんど引き返してしまっている。
レイアのことを揺すっても反応はなかった。死んでいるのではないかと心配になったが、呼吸はしているので気絶しているだけのようだ。
(どうする)
と、ヴァルは焦った。
敵はまだ光の玉を放ちつづけている。他の兵士たちも混乱している様子で、レイアとヴァルの落馬には、敵も味方も気づいていないようだった。この暗闇が味方してくれているのだ。
(オレだけなら――)
逃げられる。
そのことに気づいた。
全力で走れば野営地から脱することが出来る。ほかの者たちと合流できるかは、わからないが。ひとまずこの場から逃げることは出来るのだ。
が――。
(この人を殺させるわけにはいかない)
その思いのほうが強かった。
「すみません。引きずりますよ」
と、気絶しているレイアに断りを入れて、仰向けに倒れているレイアの両手を、ヴァルは持った。
そしてそのままレイアのカラダを引きずって行くことにした。
雨で滑って、レイアの手を上手くつかむことが出来ない。レイアの上半身を抱えもつことに変えた。
はじめからそうすれば良かったのだが、女性の肉体に触れて良いものかという躊躇があったのだ。
レイアのことを羽交い絞めにするように、背後から抱き留めて引きずって行く。
「……ッ」
と、ヴァルはうめいた。
矢で射抜かれた足が痛むのだった。
レイアのカラダを運ぶには踏ん張る必要があった。チカラを込めるために、傷口が開いてしまったようだ。
(見捨てちゃうか?)
弱虫のささやきがあった。
が、そんな声は、すぐに振り払った。
ヴァルには、わかっていたのだ。
レイアは本来、あの光の球を避けることが出来たはずなのだ。なのに避けられなかった。なぜか? 後ろにヴァルという重荷があったからだ。
(もしオレが乗ってなかったら、レイアさんは撃たれてなかった)
それはヴァルの卑屈な考えから来るものではなかった。
光の球が飛んできたさいに、一瞬だけだったが、レイアはヴァルを気遣うような気配を見せたのだ。あれが間隙となってしまったのだ。
なら。
見捨てるわけにはいかないではないか。
『このあたりで何人か落馬したはずだ』
『見逃すなよ』
『見つけ次第殺せ』
という声が聞こえてきた。
捜索がはじまったようだ。
ヴァルはあわててみずからのヘルムの鼻当てに泥を塗りたくった。そこには《輝光石》が埋め込まれているのだ。この明かりを目印にされかねない。
すぐ近くで誰かの断末魔が響いた。同じく落馬した者が殺されているのだろう。風に乗って、血の臭いがただよってきた。
「レイアさん。大丈夫ですか? 起きてくださいってば」
「……」
ダメだ。
起きる様子はない。
どこかケガでもしているのかもしれないが、いかんせん治療している暇はもちろんのこと、ケガの具合を見る時間もない。
『たしかこのあたりだったはずだ』
『逃がすなよ。見つけ次第殺してしまえ』
声が、近い。
足音が近づいてくる。
逃げ切れない。このままでは2人とも見つかってしまう。レイアは気絶しているし、ヴァルの足はケガをしている。
なにより数が違いすぎる。
見つかれば、たいした抵抗の余地もなく殺されることだろう。
(どうすれば……)
すぐ近くに、白い布が転がっていた。馬に蹴散らされ、潰された天幕の布だ。
べつにヴァルに深い考えがあったわけではないが、咄嗟にその布をレイアにかぶせた。これで少しは敵の目を誤魔化せる。
(あとはオレが、時間を稼ぐしかない)
せめてレイアが目を覚ますぐらいの時間は稼いで見せる、と意を決した。
ヴァルは剣の柄に手をかけた。
腰に佩するは、レイアから貸してもらった鉄製の剣だ。
レイアはそう吠えた。
その声を受けて、馬も奮起するかのようにいなないた。
駆けた。
闇のなかをえぐるように駆ってゆく。そんなレイアを先頭に、後続もつづいた。
ソマ帝国の野営地を突っ込んで行く。
『何者だ!』
『止まれ!』
野営地の出入り口には、2人の門兵がいた。
ふたりの門兵は、手に槍をもって突きかかってきた。
そんな2人をレイアは、苦も無く切り伏せた。切り伏せたさいに、派手に血がしぶいた。
木造柵を踏み倒して、野営地に押し入った。
ソマ帝国の軍兵は、あわてた様子で天幕のなかから出てきた。
まさか攻められるとは思っていなかったのだろう。簡単な防具しかつけておらず、レイアたちの騎兵によって踏みつぶされて行くことになった。
(まるで嵐の中にいるみたいだ)
と、ヴァルは思った。
降りかかる雨、周囲から感じる暴風、そして殺気と怒号が飛び交っていた。
(これが戦……)
《製鉄工場》で、ヴァルはデイゴンとの戦を経験している。が、あんなものはただの小競り合いだったのだ。そう思わせられるほどの、激しさがあった。
目を開けているのもやっとだったが、ヴァルはマブタを閉ざさないようにと決めていた。戦っているレイアの姿が見たかったのだ。
レイアの背中に、ヴァルはしがみついている。距離が近すぎるため、良く見て取ることが出来ない。
それでも――。
(美しい)
そう感じた。
緋色の服をまとい、紅蓮の髪を逆立てて戦うレイアからは、怯懦のカケラすら見いだせなかった。
果敢に馬を走らせて、敵を切り伏せて行く。
この野営地はすぐにレイアたちによって制圧されることだろう。
そう思っていたのだが――。
『迎え撃てッ』
野営地のなかに、隊を組んでいる者がいた。みんな白い法衣をまとっている。《聖白騎士団》だ。
『放て!』
《聖白騎士団》の者たちからは、白い光の球が放たれた。
「撤退!」
と、レイアが大音声を発した。
光の球がいくつも飛来してくる。
「ジャリンコ。無事か?」
「ええ」
「……っ」
光の玉のひとつがレイアに直撃した。その衝撃で意識をうしなったのかレイアのカラダからチカラが抜けてゆくのが、しがみついているヴァルにはわかった。
レイアの命令を受けた仲間たちは、どんどん引き返していくのだが、レイアの馬だけは依然として前へと進んでいた。
「レイアさん!」
呼びかけても応答がなかった。
それでも馬は走りつづけている。
(このままでは、マズイ)
そう思ってヴァルはあわてて手綱を引っ張った。乱暴に引いたせいか、馬がサオダチになった。
レイアのカラダごと、ヴァルは落馬することになった。叩きつけられるように地面に落っこちたけれど、さいわいと言うべきか、泥でぬかるんでいたために、さして痛くはなかった。
レイアが乗っていた馬は、そのあたりを暴れまわると、あらぬ方へと駆けて行った。
「レイアさん。大丈夫ですか?」
ぬかるんだ地面に、レイアは顔面から落っこちていた。窒息しないように泥中から、引っ張り上げた。
顔が泥に汚れていた。気を失ってしまっているようだ。
いまだ白い光の球は、放たれ続けている。
(これは……)
信仰のチカラだ。
タリスマン。
そう呼ばれる道具は、所有者の信仰心を特殊なチカラに変えるのだ。
《聖白騎士団》が使うとされている道具だ。その信仰のチカラを、目撃するのはヴァルは、はじめてのことだった。
「レイアさん。起きてください。このままでは……」
ここは敵の野営地。
レイアとヴァルだけが取り残されることになる。
レイアが率いてきた兵隊たちは、もうほとんど引き返してしまっている。
レイアのことを揺すっても反応はなかった。死んでいるのではないかと心配になったが、呼吸はしているので気絶しているだけのようだ。
(どうする)
と、ヴァルは焦った。
敵はまだ光の玉を放ちつづけている。他の兵士たちも混乱している様子で、レイアとヴァルの落馬には、敵も味方も気づいていないようだった。この暗闇が味方してくれているのだ。
(オレだけなら――)
逃げられる。
そのことに気づいた。
全力で走れば野営地から脱することが出来る。ほかの者たちと合流できるかは、わからないが。ひとまずこの場から逃げることは出来るのだ。
が――。
(この人を殺させるわけにはいかない)
その思いのほうが強かった。
「すみません。引きずりますよ」
と、気絶しているレイアに断りを入れて、仰向けに倒れているレイアの両手を、ヴァルは持った。
そしてそのままレイアのカラダを引きずって行くことにした。
雨で滑って、レイアの手を上手くつかむことが出来ない。レイアの上半身を抱えもつことに変えた。
はじめからそうすれば良かったのだが、女性の肉体に触れて良いものかという躊躇があったのだ。
レイアのことを羽交い絞めにするように、背後から抱き留めて引きずって行く。
「……ッ」
と、ヴァルはうめいた。
矢で射抜かれた足が痛むのだった。
レイアのカラダを運ぶには踏ん張る必要があった。チカラを込めるために、傷口が開いてしまったようだ。
(見捨てちゃうか?)
弱虫のささやきがあった。
が、そんな声は、すぐに振り払った。
ヴァルには、わかっていたのだ。
レイアは本来、あの光の球を避けることが出来たはずなのだ。なのに避けられなかった。なぜか? 後ろにヴァルという重荷があったからだ。
(もしオレが乗ってなかったら、レイアさんは撃たれてなかった)
それはヴァルの卑屈な考えから来るものではなかった。
光の球が飛んできたさいに、一瞬だけだったが、レイアはヴァルを気遣うような気配を見せたのだ。あれが間隙となってしまったのだ。
なら。
見捨てるわけにはいかないではないか。
『このあたりで何人か落馬したはずだ』
『見逃すなよ』
『見つけ次第殺せ』
という声が聞こえてきた。
捜索がはじまったようだ。
ヴァルはあわててみずからのヘルムの鼻当てに泥を塗りたくった。そこには《輝光石》が埋め込まれているのだ。この明かりを目印にされかねない。
すぐ近くで誰かの断末魔が響いた。同じく落馬した者が殺されているのだろう。風に乗って、血の臭いがただよってきた。
「レイアさん。大丈夫ですか? 起きてくださいってば」
「……」
ダメだ。
起きる様子はない。
どこかケガでもしているのかもしれないが、いかんせん治療している暇はもちろんのこと、ケガの具合を見る時間もない。
『たしかこのあたりだったはずだ』
『逃がすなよ。見つけ次第殺してしまえ』
声が、近い。
足音が近づいてくる。
逃げ切れない。このままでは2人とも見つかってしまう。レイアは気絶しているし、ヴァルの足はケガをしている。
なにより数が違いすぎる。
見つかれば、たいした抵抗の余地もなく殺されることだろう。
(どうすれば……)
すぐ近くに、白い布が転がっていた。馬に蹴散らされ、潰された天幕の布だ。
べつにヴァルに深い考えがあったわけではないが、咄嗟にその布をレイアにかぶせた。これで少しは敵の目を誤魔化せる。
(あとはオレが、時間を稼ぐしかない)
せめてレイアが目を覚ますぐらいの時間は稼いで見せる、と意を決した。
ヴァルは剣の柄に手をかけた。
腰に佩するは、レイアから貸してもらった鉄製の剣だ。
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