《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

15-2.闇に紛れて

「おい、見えるか。あれがソマ帝国の軍勢だとよ。さすが帝国主義インペリアリズムの怪物は迫力が違うねェ」


 ヴァルはレイアの馬に乗せられることになった。


 落っこちないように背中をつかんでいるように、とレイアに言われた。ヴァルは言われた通り、レイアの背中にしがみついていた。


 レイアのカラダは筋肉質だったけれど、それでもヤッパリ女性らしい丸みが帯びられていた。
それに甘い香りがした。


(変なこと考えないようにしなくちゃ)
 と、自分を戒めた。


 レイアの好意で、ヴァルも戦場へと連れて行ってもらえることになったのだ。レイアの色気に気を散らしているようでは、その好意を無下にしているような気がしたのだった。


「おい。聞いているか?」


「は、はい!」


「暗いからわかりにくいかもしれねェけど、《輝光石》の光が見えるだろ」


「はい」


 ドワーフの里めがけて、丘陵を進軍している。


 レイアの言うように暗闇のなかで、その全貌を視認することは出来ない。
 だがそれでも、その軍勢が持っている《輝光石》のきらめきと、大地を揺らすような軍靴の音は厭というほど感じることが出来る。
 

 暗闇の奥で、人々が進軍するさまは、まるで闇そのものが揺曳しているかのようだった。


「まあまあな数を連れて来やがったな」


「ソマ帝国の軍勢は、《聖白騎士団》もあわせて3500人だとか、会議で言ってました」


 その進軍をはために、迂回するように、レイアは馬を走らせていた。レイアの後ろからは、兵士たちが付いて走っている。


「ドワーフの里は実際、どれぐらい持ちこたえれるんだ?」


「わかりませんが、里は固いですよ」


 ドワーフの里の入口は巨大な《輝光石》になっているが、それはいわば本丸だ。そこまで攻め込まれたら終わりである。


 里の入口の周囲には、堀と塀が築かれている。鉱山の地形そのものが郭になっているのだ。そして、要所要所は地下でつながっているため、本丸との連携も密接だ。


 そのドワーフの戦い方を、ヴァルはレイアに説明した。


「なるほど。地形そのものが城ってわけだ。数で負けてても、そんなすぐに落ちることはねェか」


 立てこもれば3ヶ月は持つかね、とレイアは呟いていた。


「あの魔神さまは、いっしょには連れて行かれないのですか?」


 魔神アラストル。
 レイアの信奉する神は、里に残っているようだった。


「魔神さまは目立つからな。連れて行くわけにはいかねェ。それにあの御方を、危地に連れて行くわけにいかねェよ」


「なるほど」


 レイアはよほど、魔神のことを大切に思っているようだった。レイアにそこまで思われている魔神という存在が、すこし妬ましく思った。


「ソマ帝国にも優秀な間諜がいると思います。《製鉄工場アイアン・ファクチュア》への裏道を知られていましたから」
 と、ヴァルは言った。


「あの裏道は、どうしたんだ?」


「敵に知られているので、すでに塞がれているはずです」


「そうかい」


「あの――。ですから奇襲をかけるなら気を付けてくださいね。こちらの動きも、向こうに知られているかもしれないので」


「この暗闇だ。その心配はねェだろ。そのために、てめェを連れて来てるんだしな」


「え?」


「敵の間諜に見つからないような道を、案内しろってことだよ。ドワーフならこのあたりの地形にも詳しいだろ」


「そのために、オレを連れて来てくれたんですか?」


「ああ」


 てっきり自分の戦意を見込んで、連れて来てくれたのかと思っていた。そういう意図で連れて来られたのは、すこし不服だ。そんな道案内ではなくて、戦士として見込まれたいという思いがヴァルには強いのだった。


「はははッ」
 と、レイアは馬を駆けさせながら高笑いをした。


「な、なんですか?」


「冗談だよ。ちゃんと、てめェの覚悟も見込んで連れて来てやってんだ。奮戦して見せろよ」


「はい!」


(この人は――)
 ふざけているようで、ヴァルの気持ちを汲んでくれているのだ。


 嬉しかった。


「敵は北から進軍して来ている」
 と、レイアは敵部隊のほうを指差して言った。


「そうですね」


「兵站はその北東のシンベリン行路を通って来てる」


「わかるんですか?」


「うちの青ヒゲ伯爵の予想だ。私もそうだと見込んでる。私たちはそのシンベリン行路に入って、敵の前線部隊と後方部隊との連絡を断ち切る。そうすりゃ前線部隊は孤立することになる。兵站も途切れるし、それなりの混乱を生むことが出来るはずだ」


「シンベリン行路になら、ここの右に獣道がありますから、そこを抜ければ入れると思います。すこし遠回りになりますが」


「でかした。その調子で道案内を頼むぜ」 


「はい」


 レイアにホめられると、たかが道案内でも腹の底がえぐられるような喜悦をおぼえた。


(この人の役に立てている)


 それが嬉しかった。
 レイアが、魔神アラストルのために動くのも、ヴァルがレイアに抱くのと同じような気持ちなのかもしれない。


 馬を駆けるレイアの背中にしがみついていると、その温もりが伝わってくる。

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