《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
15-2.闇に紛れて
「おい、見えるか。あれがソマ帝国の軍勢だとよ。さすが帝国主義の怪物は迫力が違うねェ」
ヴァルはレイアの馬に乗せられることになった。
落っこちないように背中をつかんでいるように、とレイアに言われた。ヴァルは言われた通り、レイアの背中にしがみついていた。
レイアのカラダは筋肉質だったけれど、それでもヤッパリ女性らしい丸みが帯びられていた。
それに甘い香りがした。
(変なこと考えないようにしなくちゃ)
と、自分を戒めた。
レイアの好意で、ヴァルも戦場へと連れて行ってもらえることになったのだ。レイアの色気に気を散らしているようでは、その好意を無下にしているような気がしたのだった。
「おい。聞いているか?」
「は、はい!」
「暗いからわかりにくいかもしれねェけど、《輝光石》の光が見えるだろ」
「はい」
ドワーフの里めがけて、丘陵を進軍している。
レイアの言うように暗闇のなかで、その全貌を視認することは出来ない。
だがそれでも、その軍勢が持っている《輝光石》のきらめきと、大地を揺らすような軍靴の音は厭というほど感じることが出来る。
暗闇の奥で、人々が進軍するさまは、まるで闇そのものが揺曳しているかのようだった。
「まあまあな数を連れて来やがったな」
「ソマ帝国の軍勢は、《聖白騎士団》もあわせて3500人だとか、会議で言ってました」
その進軍をはために、迂回するように、レイアは馬を走らせていた。レイアの後ろからは、兵士たちが付いて走っている。
「ドワーフの里は実際、どれぐらい持ちこたえれるんだ?」
「わかりませんが、里は固いですよ」
ドワーフの里の入口は巨大な《輝光石》になっているが、それはいわば本丸だ。そこまで攻め込まれたら終わりである。
里の入口の周囲には、堀と塀が築かれている。鉱山の地形そのものが郭になっているのだ。そして、要所要所は地下でつながっているため、本丸との連携も密接だ。
そのドワーフの戦い方を、ヴァルはレイアに説明した。
「なるほど。地形そのものが城ってわけだ。数で負けてても、そんなすぐに落ちることはねェか」
立てこもれば3ヶ月は持つかね、とレイアは呟いていた。
「あの魔神さまは、いっしょには連れて行かれないのですか?」
魔神アラストル。
レイアの信奉する神は、里に残っているようだった。
「魔神さまは目立つからな。連れて行くわけにはいかねェ。それにあの御方を、危地に連れて行くわけにいかねェよ」
「なるほど」
レイアはよほど、魔神のことを大切に思っているようだった。レイアにそこまで思われている魔神という存在が、すこし妬ましく思った。
「ソマ帝国にも優秀な間諜がいると思います。《製鉄工場》への裏道を知られていましたから」
と、ヴァルは言った。
「あの裏道は、どうしたんだ?」
「敵に知られているので、すでに塞がれているはずです」
「そうかい」
「あの――。ですから奇襲をかけるなら気を付けてくださいね。こちらの動きも、向こうに知られているかもしれないので」
「この暗闇だ。その心配はねェだろ。そのために、てめェを連れて来てるんだしな」
「え?」
「敵の間諜に見つからないような道を、案内しろってことだよ。ドワーフならこのあたりの地形にも詳しいだろ」
「そのために、オレを連れて来てくれたんですか?」
「ああ」
てっきり自分の戦意を見込んで、連れて来てくれたのかと思っていた。そういう意図で連れて来られたのは、すこし不服だ。そんな道案内ではなくて、戦士として見込まれたいという思いがヴァルには強いのだった。
「はははッ」
と、レイアは馬を駆けさせながら高笑いをした。
「な、なんですか?」
「冗談だよ。ちゃんと、てめェの覚悟も見込んで連れて来てやってんだ。奮戦して見せろよ」
「はい!」
(この人は――)
ふざけているようで、ヴァルの気持ちを汲んでくれているのだ。
嬉しかった。
「敵は北から進軍して来ている」
と、レイアは敵部隊のほうを指差して言った。
「そうですね」
「兵站はその北東のシンベリン行路を通って来てる」
「わかるんですか?」
「うちの青ヒゲ伯爵の予想だ。私もそうだと見込んでる。私たちはそのシンベリン行路に入って、敵の前線部隊と後方部隊との連絡を断ち切る。そうすりゃ前線部隊は孤立することになる。兵站も途切れるし、それなりの混乱を生むことが出来るはずだ」
「シンベリン行路になら、ここの右に獣道がありますから、そこを抜ければ入れると思います。すこし遠回りになりますが」
「でかした。その調子で道案内を頼むぜ」
「はい」
レイアにホめられると、たかが道案内でも腹の底がえぐられるような喜悦をおぼえた。
(この人の役に立てている)
それが嬉しかった。
レイアが、魔神アラストルのために動くのも、ヴァルがレイアに抱くのと同じような気持ちなのかもしれない。
馬を駆けるレイアの背中にしがみついていると、その温もりが伝わってくる。
ヴァルはレイアの馬に乗せられることになった。
落っこちないように背中をつかんでいるように、とレイアに言われた。ヴァルは言われた通り、レイアの背中にしがみついていた。
レイアのカラダは筋肉質だったけれど、それでもヤッパリ女性らしい丸みが帯びられていた。
それに甘い香りがした。
(変なこと考えないようにしなくちゃ)
と、自分を戒めた。
レイアの好意で、ヴァルも戦場へと連れて行ってもらえることになったのだ。レイアの色気に気を散らしているようでは、その好意を無下にしているような気がしたのだった。
「おい。聞いているか?」
「は、はい!」
「暗いからわかりにくいかもしれねェけど、《輝光石》の光が見えるだろ」
「はい」
ドワーフの里めがけて、丘陵を進軍している。
レイアの言うように暗闇のなかで、その全貌を視認することは出来ない。
だがそれでも、その軍勢が持っている《輝光石》のきらめきと、大地を揺らすような軍靴の音は厭というほど感じることが出来る。
暗闇の奥で、人々が進軍するさまは、まるで闇そのものが揺曳しているかのようだった。
「まあまあな数を連れて来やがったな」
「ソマ帝国の軍勢は、《聖白騎士団》もあわせて3500人だとか、会議で言ってました」
その進軍をはために、迂回するように、レイアは馬を走らせていた。レイアの後ろからは、兵士たちが付いて走っている。
「ドワーフの里は実際、どれぐらい持ちこたえれるんだ?」
「わかりませんが、里は固いですよ」
ドワーフの里の入口は巨大な《輝光石》になっているが、それはいわば本丸だ。そこまで攻め込まれたら終わりである。
里の入口の周囲には、堀と塀が築かれている。鉱山の地形そのものが郭になっているのだ。そして、要所要所は地下でつながっているため、本丸との連携も密接だ。
そのドワーフの戦い方を、ヴァルはレイアに説明した。
「なるほど。地形そのものが城ってわけだ。数で負けてても、そんなすぐに落ちることはねェか」
立てこもれば3ヶ月は持つかね、とレイアは呟いていた。
「あの魔神さまは、いっしょには連れて行かれないのですか?」
魔神アラストル。
レイアの信奉する神は、里に残っているようだった。
「魔神さまは目立つからな。連れて行くわけにはいかねェ。それにあの御方を、危地に連れて行くわけにいかねェよ」
「なるほど」
レイアはよほど、魔神のことを大切に思っているようだった。レイアにそこまで思われている魔神という存在が、すこし妬ましく思った。
「ソマ帝国にも優秀な間諜がいると思います。《製鉄工場》への裏道を知られていましたから」
と、ヴァルは言った。
「あの裏道は、どうしたんだ?」
「敵に知られているので、すでに塞がれているはずです」
「そうかい」
「あの――。ですから奇襲をかけるなら気を付けてくださいね。こちらの動きも、向こうに知られているかもしれないので」
「この暗闇だ。その心配はねェだろ。そのために、てめェを連れて来てるんだしな」
「え?」
「敵の間諜に見つからないような道を、案内しろってことだよ。ドワーフならこのあたりの地形にも詳しいだろ」
「そのために、オレを連れて来てくれたんですか?」
「ああ」
てっきり自分の戦意を見込んで、連れて来てくれたのかと思っていた。そういう意図で連れて来られたのは、すこし不服だ。そんな道案内ではなくて、戦士として見込まれたいという思いがヴァルには強いのだった。
「はははッ」
と、レイアは馬を駆けさせながら高笑いをした。
「な、なんですか?」
「冗談だよ。ちゃんと、てめェの覚悟も見込んで連れて来てやってんだ。奮戦して見せろよ」
「はい!」
(この人は――)
ふざけているようで、ヴァルの気持ちを汲んでくれているのだ。
嬉しかった。
「敵は北から進軍して来ている」
と、レイアは敵部隊のほうを指差して言った。
「そうですね」
「兵站はその北東のシンベリン行路を通って来てる」
「わかるんですか?」
「うちの青ヒゲ伯爵の予想だ。私もそうだと見込んでる。私たちはそのシンベリン行路に入って、敵の前線部隊と後方部隊との連絡を断ち切る。そうすりゃ前線部隊は孤立することになる。兵站も途切れるし、それなりの混乱を生むことが出来るはずだ」
「シンベリン行路になら、ここの右に獣道がありますから、そこを抜ければ入れると思います。すこし遠回りになりますが」
「でかした。その調子で道案内を頼むぜ」
「はい」
レイアにホめられると、たかが道案内でも腹の底がえぐられるような喜悦をおぼえた。
(この人の役に立てている)
それが嬉しかった。
レイアが、魔神アラストルのために動くのも、ヴァルがレイアに抱くのと同じような気持ちなのかもしれない。
馬を駆けるレイアの背中にしがみついていると、その温もりが伝わってくる。
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