《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

13-6.戦士へのあこがれ

 ヘラの容態は深刻だということで、すぐにドワーフの里の治療場へと連れて行かれることになった。


 一方でヴァルのほうは、たいしたケガではないということだった。


 それでも、傷薬を塗られて、その上から包帯を巻かれることになった。ドワーフ秘伝の傷薬だ。塗ってもらうとすぐに傷口が閉じはじめていた。心なしか痛みもマシになった気がした。


 治療場もドワーフたちの居室同様に壁穴になっている。多くのドワーフを収容できるように、大きな空洞になっていた。


 地面を削って、いくつものベッドが造られている。土を盛り上げて粘土で固められたベッドだ。そのうえに藁を乗せている。


 ヴァルはそのうちのひとつに寝かされていた。ヘラは重傷ということで、別室へと連れて行かれたので、ここにはいない。


「はぁ」
 と、ヴァルは自分の手元を見つめた。
 その手には、《輝光石》から彫りだしたボルトがあった。


 ヘラにプレゼントしたものだ。


 ここに運び込まれる途中で落としていた。目が覚めたらもう一度渡そうと思って拾っておいた。


(目、覚ますよな?)


 それが心配である。
 好きな人にプレゼントするんだと言っていた。


 ヘラの好きな人というのが、誰だかは知らないが、思い半ばに死ぬようなことになるのは悲しい。


 ヘラとは幼少のころからの友人だった。ほかの子どもたちが、「角なし」とヴァルのことを揶揄してきたさいには、よくカバってくれもした。


「おい。矢で撃たれた言うんのは、ホンマやったんか」
 と、あわてた様子でヴェンドが、治療場に駆けこんできた。
 ヴァルは持っていたボルトを、あわててポケットにしまい込んだ。


「父さん……」


「どこを撃たれたんや」
 と、ヴェンドは足元に並べられているベッドを避けながら、ヴァルのもとに駆けてきた。


「足だよ」


「足か。それなら良かった」
 と、ヴェンドはドワーフにしては大きなその図体を、ナでおろしていた。


「良かった?」


 じゃあどこなら悪かったのだろうか。


 尋ねる前に、ヴェンドの表情がいかめしいものへと変貌していた。


「このドアホ。なんで
製鉄工場アイアン・ファクチュア》なんかに行ってんや。さっさと避難しろって言うたやろ!」


 その怒声が、治療場ないに響きわたった。


「ここは治療場なんだから、静かにしてよ」


「わかっとる」
 とは言いつつもも、ヴェンドは気まずそうにアゴヒゲを引っ張っていた。


「ボルトを作ってくれって頼まれてたんだ。それを渡しに行ってただけ」


「ホンマやろな? まさか戦いたいから行ったんとちゃうやろな?」


「だって、ソマ帝国の兵隊が入り込んでいるなんて、思ってもなかったし」


「まぁ、それはそうか」
 と、ヴェンドは納得したようだった。


「オレなんかよりも、ヘラのほうが重体だよ。胸を矢で射抜かれて、しかも剣で斬られてた」


 その胸に突き立った矢を、ヘラは自力で引っ張り出していたのだ。出血も激しかったように思う。


「ヘラの容態はどうなんや?」


「まだわからないみたい」


「ヘラは小隊長に任ぜられてたんやろ。戦士やったら、そういうこともあるやろ」
 と、ヴェンドはたいして興味なさげに言った。


 ヘラのことは一人前の戦士として見ているが、ヴァルのことはまだまだガキとしか見ていない。


 そういう感じにも見えたので、ヴァルはあまり良い気はしなかった。


「レイアさんには会った?」


「軽く挨拶だけはした。ディーネ伯爵が寄越してくれた援軍やろ」


「話しはした?」


 いや、まだや――とヴェンドは頭を振った。
「お前が撃たれたって聞いたから、それどころやなかった」


「あの人が、オレのこと助けてくれたんだ。すごい剣技だった。それに……ゴツイ背中だった」


「そんな大きかった感じはなかったで。人間やったら、あんなもんや」


「うん」


 見かけの大きさだけを言ったわけではないのだが、レイアの凄まじさは、あの戦いを見ていない者には伝わらないことだろう。


 緋色の法衣をはためかせ、紅蓮の髪を逆立てて、ヴァルのことを守ってくれたのだ。


 また会いたい。
 そう思った。


(会えるだろうか?)


 お見舞いぐらいは来てくれるかもしれない――と淡い期待を抱いた。レイアのことを考えると、なぜか胸の奥が熱くなる。


「お前を救ってくれたんや。あのレイアっちゅう戦士には、足向けて寝られへん。あとでお礼言っとかなあかんな」


 お前が元気そうで良かったわ、とヴェンドは腕組みをして大きなため息を落としていた。
 そうやって座り込んで腕を組んでいると、まるで一塊の岩を見ているかのようだった。


「レイアさんは、剣を持ってた。たぶん鉄製の剣だった」


「鉄やと? 見間違いやないか?」
 と、ヴェンドは髭面の奥にある目を細めた。


「わからないよ。でも、ふつうの剣じゃないのは確かだったよ。相手の鉄鋼樹脂性の剣を叩き斬ったんだ」


 今でもヴァルの脳裏に焼き付いて離れない。レイアの全身を使ったなぎ払い。デイゴンの首を獲ったその一閃。


 あれこそ、戦士。
 あの一幕は、ヴァルの心臓を昂ぶらせるものがあった。


「族長がディーネ伯爵と話をする言うてる。その際にはレイアも参加するやろ。オレも出てくれって言われてるから。その際に、詳しい話を聞くことになると思う」


「だったらオレも――」


 アホ、とヴェンドはその大きな手のひらを、ヴァルの頭――正確には石のノルマンヘルムをかぶった頭――にかぶせた。


「お前は避難組や。思ったよりもソマ帝国の動きが速い。さっさと避難してもらわなあかん」


「でもこの足じゃ、避難もできないよ」


「だったら誰かに運ばせる。オレはもう行かなあかん。避難の手伝いするために人を呼んでくるからな。ここでジッとしとるんやで」


 ヴェンドはそう言い残すと、治療場を立ち去って行った。


 ヴァルは、自分の足の痛みを感じていた。


 痛みが酷いわけではない。
 その痛みとともに思い出すのは、レイアに矢を引っこ抜かれたときのことだ。


『なんだよ。情けねェ。ドワーフって言うと、もっと強靭な連中を想像してたんだがな』


 そう言われたのだ。


(このままでは、引き下がれない)


 ここにいてもヘラの容態が良くなるわけではない。重体ということで、会うことも出来ない。


 なら――。
 と、ヴァルは立ち上がった。


 ドワーフには族長と副族長。くわえて軍務執政官に内務執政官。そして戦士長という5人の長たちによって統治されている。


 その5人と、ディーネとの話し合いが行われる。それにはレイアも参加するとヴェンドは言っていた。


 その話し合いが行われる場所は、
(たぶん執務室だ)
 と、ヴァルへ見当をつけた。


 ドワーフの看護師から松葉杖をもらって、ヴァルは治療場を抜け出た。


 杖があっても、歩くのはヤッパリ痛い。
 だが、治療場にいたら、すぐにヴェンドの遣わせた迎えが来て、ヴァルのことを避難させてしまうことだろう。逃げるのだけは厭だった。


(角がなくたって、ゴツイ男になって見せる)
 その一心である。

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