《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
13-6.戦士へのあこがれ
ヘラの容態は深刻だということで、すぐにドワーフの里の治療場へと連れて行かれることになった。
一方でヴァルのほうは、たいしたケガではないということだった。
それでも、傷薬を塗られて、その上から包帯を巻かれることになった。ドワーフ秘伝の傷薬だ。塗ってもらうとすぐに傷口が閉じはじめていた。心なしか痛みもマシになった気がした。
治療場もドワーフたちの居室同様に壁穴になっている。多くのドワーフを収容できるように、大きな空洞になっていた。
地面を削って、いくつものベッドが造られている。土を盛り上げて粘土で固められたベッドだ。そのうえに藁を乗せている。
ヴァルはそのうちのひとつに寝かされていた。ヘラは重傷ということで、別室へと連れて行かれたので、ここにはいない。
「はぁ」
と、ヴァルは自分の手元を見つめた。
その手には、《輝光石》から彫りだしたボルトがあった。
ヘラにプレゼントしたものだ。
ここに運び込まれる途中で落としていた。目が覚めたらもう一度渡そうと思って拾っておいた。
(目、覚ますよな?)
それが心配である。
好きな人にプレゼントするんだと言っていた。
ヘラの好きな人というのが、誰だかは知らないが、思い半ばに死ぬようなことになるのは悲しい。
ヘラとは幼少のころからの友人だった。ほかの子どもたちが、「角なし」とヴァルのことを揶揄してきたさいには、よくカバってくれもした。
「おい。矢で撃たれた言うんのは、ホンマやったんか」
と、あわてた様子でヴェンドが、治療場に駆けこんできた。
ヴァルは持っていたボルトを、あわててポケットにしまい込んだ。
「父さん……」
「どこを撃たれたんや」
と、ヴェンドは足元に並べられているベッドを避けながら、ヴァルのもとに駆けてきた。
「足だよ」
「足か。それなら良かった」
と、ヴェンドはドワーフにしては大きなその図体を、ナでおろしていた。
「良かった?」
じゃあどこなら悪かったのだろうか。
尋ねる前に、ヴェンドの表情がいかめしいものへと変貌していた。
「このドアホ。なんで
《製鉄工場》なんかに行ってんや。さっさと避難しろって言うたやろ!」
その怒声が、治療場ないに響きわたった。
「ここは治療場なんだから、静かにしてよ」
「わかっとる」
とは言いつつもも、ヴェンドは気まずそうにアゴヒゲを引っ張っていた。
「ボルトを作ってくれって頼まれてたんだ。それを渡しに行ってただけ」
「ホンマやろな? まさか戦いたいから行ったんとちゃうやろな?」
「だって、ソマ帝国の兵隊が入り込んでいるなんて、思ってもなかったし」
「まぁ、それはそうか」
と、ヴェンドは納得したようだった。
「オレなんかよりも、ヘラのほうが重体だよ。胸を矢で射抜かれて、しかも剣で斬られてた」
その胸に突き立った矢を、ヘラは自力で引っ張り出していたのだ。出血も激しかったように思う。
「ヘラの容態はどうなんや?」
「まだわからないみたい」
「ヘラは小隊長に任ぜられてたんやろ。戦士やったら、そういうこともあるやろ」
と、ヴェンドはたいして興味なさげに言った。
ヘラのことは一人前の戦士として見ているが、ヴァルのことはまだまだガキとしか見ていない。
そういう感じにも見えたので、ヴァルはあまり良い気はしなかった。
「レイアさんには会った?」
「軽く挨拶だけはした。ディーネ伯爵が寄越してくれた援軍やろ」
「話しはした?」
いや、まだや――とヴェンドは頭を振った。
「お前が撃たれたって聞いたから、それどころやなかった」
「あの人が、オレのこと助けてくれたんだ。すごい剣技だった。それに……ゴツイ背中だった」
「そんな大きかった感じはなかったで。人間やったら、あんなもんや」
「うん」
見かけの大きさだけを言ったわけではないのだが、レイアの凄まじさは、あの戦いを見ていない者には伝わらないことだろう。
緋色の法衣をはためかせ、紅蓮の髪を逆立てて、ヴァルのことを守ってくれたのだ。
また会いたい。
そう思った。
(会えるだろうか?)
お見舞いぐらいは来てくれるかもしれない――と淡い期待を抱いた。レイアのことを考えると、なぜか胸の奥が熱くなる。
「お前を救ってくれたんや。あのレイアっちゅう戦士には、足向けて寝られへん。あとでお礼言っとかなあかんな」
お前が元気そうで良かったわ、とヴェンドは腕組みをして大きなため息を落としていた。
そうやって座り込んで腕を組んでいると、まるで一塊の岩を見ているかのようだった。
「レイアさんは、剣を持ってた。たぶん鉄製の剣だった」
「鉄やと? 見間違いやないか?」
と、ヴェンドは髭面の奥にある目を細めた。
「わからないよ。でも、ふつうの剣じゃないのは確かだったよ。相手の鉄鋼樹脂性の剣を叩き斬ったんだ」
今でもヴァルの脳裏に焼き付いて離れない。レイアの全身を使ったなぎ払い。デイゴンの首を獲ったその一閃。
あれこそ、戦士。
あの一幕は、ヴァルの心臓を昂ぶらせるものがあった。
「族長がディーネ伯爵と話をする言うてる。その際にはレイアも参加するやろ。オレも出てくれって言われてるから。その際に、詳しい話を聞くことになると思う」
「だったらオレも――」
アホ、とヴェンドはその大きな手のひらを、ヴァルの頭――正確には石のノルマンヘルムをかぶった頭――にかぶせた。
「お前は避難組や。思ったよりもソマ帝国の動きが速い。さっさと避難してもらわなあかん」
「でもこの足じゃ、避難もできないよ」
「だったら誰かに運ばせる。オレはもう行かなあかん。避難の手伝いするために人を呼んでくるからな。ここでジッとしとるんやで」
ヴェンドはそう言い残すと、治療場を立ち去って行った。
ヴァルは、自分の足の痛みを感じていた。
痛みが酷いわけではない。
その痛みとともに思い出すのは、レイアに矢を引っこ抜かれたときのことだ。
『なんだよ。情けねェ。ドワーフって言うと、もっと強靭な連中を想像してたんだがな』
そう言われたのだ。
(このままでは、引き下がれない)
ここにいてもヘラの容態が良くなるわけではない。重体ということで、会うことも出来ない。
なら――。
と、ヴァルは立ち上がった。
ドワーフには族長と副族長。くわえて軍務執政官に内務執政官。そして戦士長という5人の長たちによって統治されている。
その5人と、ディーネとの話し合いが行われる。それにはレイアも参加するとヴェンドは言っていた。
その話し合いが行われる場所は、
(たぶん執務室だ)
と、ヴァルへ見当をつけた。
ドワーフの看護師から松葉杖をもらって、ヴァルは治療場を抜け出た。
杖があっても、歩くのはヤッパリ痛い。
だが、治療場にいたら、すぐにヴェンドの遣わせた迎えが来て、ヴァルのことを避難させてしまうことだろう。逃げるのだけは厭だった。
(角がなくたって、ゴツイ男になって見せる)
その一心である。
一方でヴァルのほうは、たいしたケガではないということだった。
それでも、傷薬を塗られて、その上から包帯を巻かれることになった。ドワーフ秘伝の傷薬だ。塗ってもらうとすぐに傷口が閉じはじめていた。心なしか痛みもマシになった気がした。
治療場もドワーフたちの居室同様に壁穴になっている。多くのドワーフを収容できるように、大きな空洞になっていた。
地面を削って、いくつものベッドが造られている。土を盛り上げて粘土で固められたベッドだ。そのうえに藁を乗せている。
ヴァルはそのうちのひとつに寝かされていた。ヘラは重傷ということで、別室へと連れて行かれたので、ここにはいない。
「はぁ」
と、ヴァルは自分の手元を見つめた。
その手には、《輝光石》から彫りだしたボルトがあった。
ヘラにプレゼントしたものだ。
ここに運び込まれる途中で落としていた。目が覚めたらもう一度渡そうと思って拾っておいた。
(目、覚ますよな?)
それが心配である。
好きな人にプレゼントするんだと言っていた。
ヘラの好きな人というのが、誰だかは知らないが、思い半ばに死ぬようなことになるのは悲しい。
ヘラとは幼少のころからの友人だった。ほかの子どもたちが、「角なし」とヴァルのことを揶揄してきたさいには、よくカバってくれもした。
「おい。矢で撃たれた言うんのは、ホンマやったんか」
と、あわてた様子でヴェンドが、治療場に駆けこんできた。
ヴァルは持っていたボルトを、あわててポケットにしまい込んだ。
「父さん……」
「どこを撃たれたんや」
と、ヴェンドは足元に並べられているベッドを避けながら、ヴァルのもとに駆けてきた。
「足だよ」
「足か。それなら良かった」
と、ヴェンドはドワーフにしては大きなその図体を、ナでおろしていた。
「良かった?」
じゃあどこなら悪かったのだろうか。
尋ねる前に、ヴェンドの表情がいかめしいものへと変貌していた。
「このドアホ。なんで
《製鉄工場》なんかに行ってんや。さっさと避難しろって言うたやろ!」
その怒声が、治療場ないに響きわたった。
「ここは治療場なんだから、静かにしてよ」
「わかっとる」
とは言いつつもも、ヴェンドは気まずそうにアゴヒゲを引っ張っていた。
「ボルトを作ってくれって頼まれてたんだ。それを渡しに行ってただけ」
「ホンマやろな? まさか戦いたいから行ったんとちゃうやろな?」
「だって、ソマ帝国の兵隊が入り込んでいるなんて、思ってもなかったし」
「まぁ、それはそうか」
と、ヴェンドは納得したようだった。
「オレなんかよりも、ヘラのほうが重体だよ。胸を矢で射抜かれて、しかも剣で斬られてた」
その胸に突き立った矢を、ヘラは自力で引っ張り出していたのだ。出血も激しかったように思う。
「ヘラの容態はどうなんや?」
「まだわからないみたい」
「ヘラは小隊長に任ぜられてたんやろ。戦士やったら、そういうこともあるやろ」
と、ヴェンドはたいして興味なさげに言った。
ヘラのことは一人前の戦士として見ているが、ヴァルのことはまだまだガキとしか見ていない。
そういう感じにも見えたので、ヴァルはあまり良い気はしなかった。
「レイアさんには会った?」
「軽く挨拶だけはした。ディーネ伯爵が寄越してくれた援軍やろ」
「話しはした?」
いや、まだや――とヴェンドは頭を振った。
「お前が撃たれたって聞いたから、それどころやなかった」
「あの人が、オレのこと助けてくれたんだ。すごい剣技だった。それに……ゴツイ背中だった」
「そんな大きかった感じはなかったで。人間やったら、あんなもんや」
「うん」
見かけの大きさだけを言ったわけではないのだが、レイアの凄まじさは、あの戦いを見ていない者には伝わらないことだろう。
緋色の法衣をはためかせ、紅蓮の髪を逆立てて、ヴァルのことを守ってくれたのだ。
また会いたい。
そう思った。
(会えるだろうか?)
お見舞いぐらいは来てくれるかもしれない――と淡い期待を抱いた。レイアのことを考えると、なぜか胸の奥が熱くなる。
「お前を救ってくれたんや。あのレイアっちゅう戦士には、足向けて寝られへん。あとでお礼言っとかなあかんな」
お前が元気そうで良かったわ、とヴェンドは腕組みをして大きなため息を落としていた。
そうやって座り込んで腕を組んでいると、まるで一塊の岩を見ているかのようだった。
「レイアさんは、剣を持ってた。たぶん鉄製の剣だった」
「鉄やと? 見間違いやないか?」
と、ヴェンドは髭面の奥にある目を細めた。
「わからないよ。でも、ふつうの剣じゃないのは確かだったよ。相手の鉄鋼樹脂性の剣を叩き斬ったんだ」
今でもヴァルの脳裏に焼き付いて離れない。レイアの全身を使ったなぎ払い。デイゴンの首を獲ったその一閃。
あれこそ、戦士。
あの一幕は、ヴァルの心臓を昂ぶらせるものがあった。
「族長がディーネ伯爵と話をする言うてる。その際にはレイアも参加するやろ。オレも出てくれって言われてるから。その際に、詳しい話を聞くことになると思う」
「だったらオレも――」
アホ、とヴェンドはその大きな手のひらを、ヴァルの頭――正確には石のノルマンヘルムをかぶった頭――にかぶせた。
「お前は避難組や。思ったよりもソマ帝国の動きが速い。さっさと避難してもらわなあかん」
「でもこの足じゃ、避難もできないよ」
「だったら誰かに運ばせる。オレはもう行かなあかん。避難の手伝いするために人を呼んでくるからな。ここでジッとしとるんやで」
ヴェンドはそう言い残すと、治療場を立ち去って行った。
ヴァルは、自分の足の痛みを感じていた。
痛みが酷いわけではない。
その痛みとともに思い出すのは、レイアに矢を引っこ抜かれたときのことだ。
『なんだよ。情けねェ。ドワーフって言うと、もっと強靭な連中を想像してたんだがな』
そう言われたのだ。
(このままでは、引き下がれない)
ここにいてもヘラの容態が良くなるわけではない。重体ということで、会うことも出来ない。
なら――。
と、ヴァルは立ち上がった。
ドワーフには族長と副族長。くわえて軍務執政官に内務執政官。そして戦士長という5人の長たちによって統治されている。
その5人と、ディーネとの話し合いが行われる。それにはレイアも参加するとヴェンドは言っていた。
その話し合いが行われる場所は、
(たぶん執務室だ)
と、ヴァルへ見当をつけた。
ドワーフの看護師から松葉杖をもらって、ヴァルは治療場を抜け出た。
杖があっても、歩くのはヤッパリ痛い。
だが、治療場にいたら、すぐにヴェンドの遣わせた迎えが来て、ヴァルのことを避難させてしまうことだろう。逃げるのだけは厭だった。
(角がなくたって、ゴツイ男になって見せる)
その一心である。
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