《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
13-2.青年は恋を知らず……
ボルトを作って欲しいと頼んできた友人の壁穴に向かったのだが、本人はいないとのことだった。
家の者にどこへ行ったのかと尋ねると、《製鉄工場》のほうに行ったと言う。
(戦うにしろ、逃げるにしろ、届けてからだな)
もしかすると、この戦いの騒乱によって、渡せなくなってしまうかもしれないのだ。
《製鉄工場》は、ドワーフの里の外れにある。そこまで向かうことにした。
ひたすら《輝光石》に囲まれた大空洞の中をすすんだ。
道中――。
石垣が築かれた場所がある。石垣の上には、聖火台が鎮座ましましている。かつては火が盛っていたというが、今は寝静まっている。ただの大きな器だ。
「おーっ。ヴァルじゃないか」
石垣の上から声が落ちてきた。見上げる。デ・ヘラがいた。
ヴァルと同い年なのだが、ヴァルよりもシッカリとした体躯をしている。そのうえ、ヴェンドほどではないが角が大きい。
かぶっていた石製のノルマンヘルムから、角が飛び出している。
ボルトを作ってくれるように頼まれていた相手だ。
「何してるの?」
「聖火台を見ていたんだよ。お前も上って来いよ」
「うん」
言われたように、石垣にある石段を上って行くことにした。
「かつてはこの聖火台に火が灯っていたんだぜ」
ヘラは聖火台の前でアグラをかいていた。
ヴァルも、ヘラのとなりに座り込んだ。
「知ってるよ。だけど《火禁雨》が降るようになってからは、消えちゃったみたいだけど」
ここは洞窟の中だ。
雨に降られることはない。けれど、火がつかない。ただの雨ではないのだろう。いかなる炎も許さぬ神威の雨なのだ。
「主神ティリリウスをはじめとする神たちは、ドワーフの鍛冶能力を高く買ってた。だから神々のヤツらは、ドワーフの造り武器が防具を徴収していたんだ。オレたちドワーフは神の奴隷だった」
「歴史の授業はカンベンしてよ」
そう言うなよ、とヘラは神妙な表情でつづけた。
「やがて天界から魔法を盗み出した魔術師が、ここに聖火台を作ってくれた。常に燃える火があれば、鉄鋼鍛冶に便利だろうと造り上げてくれたんだ。でも、それがいけなかったんだな。神の怒りを買った」
「魔術師のせいで、この世界は火が許されなくなった――って話でしょ。有名な話じゃないか」
「ドワーフの被害はもっと大きいだろう。火を奪われて、製鉄や鍛冶の技術を活かせなくなったんだから」
「うん」
「だからオレたちドワーフは、《光神教》なんかに降るわけにはいかないんだ。1000年前の御先祖さまは、神々に奴隷として使役されていたんだから」
「なんで今さら、そんな話を?」
ふーっ、とヘラは呼気とともに、カラダのチカラを抜いていた。
「今だからこそだよ。これからソマ帝国が攻めてくるって言うじゃないか。戦意を上げておこうと思ってな」
「ヘラはヤッパリ戦士として戦うの?」
「もちろん、オレは《製鉄工場》の護衛を任されてるんだ。小隊長としてな」
「小隊長!」
と、ヴァルからはスットンキョウな声が漏れた。
自分でも変な声が漏れたという自覚があったので、赤面をおぼえた。照れ臭さをごまかすように咳払いをかました。
「なんだよ。オレが小隊長じゃオカシイかよ」
と、ヘラのほうも照れ臭そうに頬をカいていた。
「いや。すごいなーって思って。オレなんか、まだガキだから戦うなって言われてるぐらいなのにさ」
「そんな悲観することないだろ。お前は手先が器用なんだし、他に出来ることがイッパイあるだろ」
と、ヘラは元気づけるつもりだったのか、ヴァルの背中を軽くたたいた。
「そんなことが出来ても、男らしくないよ。オレは――」
父さんみたいな、ゴツイ男になりたかったんだ。
と、胸裏で言葉をつづけた。
「そう言えば、頼んでいたボルトは出来上がったか」
「ああ。出来たよ」
と、持ってきたボルトを渡した。
「へえ。よく出来てるじゃないか。さすがだな。お前に頼んで良かったよ。ゲ・ズィの爺さんより出来が良い」
と、ヘラはそのボルトをつまみあげて、しげしげと見つめていた。
「それは言いすぎだって。オレの場合は、ただの手慰みなんだし」
ゲ・ズィというのはずっと《輝光石》でアクセサリを作る職人の名だ。ドワーフたちのあいだでは有名な老爺だった。
「言いすぎなんかじゃないさ。お前はマジで手先が器用だよ」
ホめてくれているつもりなのだろうが、戦士には向いていないと言われているようで、ヴァルはあまり良い気はしなかった。
「そのボルトをどうするの?」
と、尋ねた。
「実はさ、オレ好きな人がいてさ。この戦で結果を出せたら、告白しようかな――って思ってて」
と、照れ臭かったのかヘラは、かぶっていたノルマンヘルムの位置を調整していた。
「へー」
「なんだよ、その間の抜けた返事」
「好きな人とか、オレにはいまいち良くわかんないから」
「好きな人いないのかよ」
「まぁ……」
どこの壁穴に住んでいる娘はどうだとか、あそこに住んでいる娘は可愛いとか、そんな他愛もない話をしばらく交わすことになった。
(そりゃ可愛い娘とかはいるけどさ)
可愛いと思うのと、好きだと思うのとは、また別だろうとも思うのだった。
「じゃあ、オレはそろそろ行くよ」
と、ヘラは立ち上がった。
「もう戦?」
「ソマ帝国はすでに、こっちに向かって進軍して来てるって、斥候から連絡があった。けど開戦まではまだもう少し時間があるはずだ」
「じゃあ、そんなに急ぐことないでしょ」
「《製鉄工場》の護衛を任されてるんだ。下見でもしておこうかと思ってさ。あれはドワーフが先祖から受け継いだ遺産なんだ。間違っても傷つけるわけにはいかないだろ」
じゃあな、お前は早く避難しとけよ――とヘラは、ヴァルにそう言うと、石段を下りはじめた。
その言葉にヴァルはすこしムッとした。
ヴァルの心境としては、
(まだ避難するなんて言ってないのにさ――)
なのである。
ヴァルには戦えないのだと決めつけられているように思えたのだ。
その感情に任せて、ヴァルは言い返した。
「オレも連れて行ってよ」
「はぁ? どこに?」
「だから《製鉄工場》の下見にだよ。小隊長なんだったら、オレのことを隊に入れてくれよ」
「バカ言ってんじゃないよ。オレにそんな権限ないよ。それにお前は戦えないだろ」
ヘラは困ったような声音で言った。
「オレだって戦える」
ドワーフの英雄と呼ばれたヴェンドの息子なのに、戦わずして避難することなど、屈辱的だった。
「ムリすんなって。お前にもしものことがあったら、ヴェンドさんに顔向けできねェよ」
「だったら下見だけでも」
ヘラはすこし困っていたようだが、
「まぁ――。下見ぐらいならな」
と、うなずいてくれた。
家の者にどこへ行ったのかと尋ねると、《製鉄工場》のほうに行ったと言う。
(戦うにしろ、逃げるにしろ、届けてからだな)
もしかすると、この戦いの騒乱によって、渡せなくなってしまうかもしれないのだ。
《製鉄工場》は、ドワーフの里の外れにある。そこまで向かうことにした。
ひたすら《輝光石》に囲まれた大空洞の中をすすんだ。
道中――。
石垣が築かれた場所がある。石垣の上には、聖火台が鎮座ましましている。かつては火が盛っていたというが、今は寝静まっている。ただの大きな器だ。
「おーっ。ヴァルじゃないか」
石垣の上から声が落ちてきた。見上げる。デ・ヘラがいた。
ヴァルと同い年なのだが、ヴァルよりもシッカリとした体躯をしている。そのうえ、ヴェンドほどではないが角が大きい。
かぶっていた石製のノルマンヘルムから、角が飛び出している。
ボルトを作ってくれるように頼まれていた相手だ。
「何してるの?」
「聖火台を見ていたんだよ。お前も上って来いよ」
「うん」
言われたように、石垣にある石段を上って行くことにした。
「かつてはこの聖火台に火が灯っていたんだぜ」
ヘラは聖火台の前でアグラをかいていた。
ヴァルも、ヘラのとなりに座り込んだ。
「知ってるよ。だけど《火禁雨》が降るようになってからは、消えちゃったみたいだけど」
ここは洞窟の中だ。
雨に降られることはない。けれど、火がつかない。ただの雨ではないのだろう。いかなる炎も許さぬ神威の雨なのだ。
「主神ティリリウスをはじめとする神たちは、ドワーフの鍛冶能力を高く買ってた。だから神々のヤツらは、ドワーフの造り武器が防具を徴収していたんだ。オレたちドワーフは神の奴隷だった」
「歴史の授業はカンベンしてよ」
そう言うなよ、とヘラは神妙な表情でつづけた。
「やがて天界から魔法を盗み出した魔術師が、ここに聖火台を作ってくれた。常に燃える火があれば、鉄鋼鍛冶に便利だろうと造り上げてくれたんだ。でも、それがいけなかったんだな。神の怒りを買った」
「魔術師のせいで、この世界は火が許されなくなった――って話でしょ。有名な話じゃないか」
「ドワーフの被害はもっと大きいだろう。火を奪われて、製鉄や鍛冶の技術を活かせなくなったんだから」
「うん」
「だからオレたちドワーフは、《光神教》なんかに降るわけにはいかないんだ。1000年前の御先祖さまは、神々に奴隷として使役されていたんだから」
「なんで今さら、そんな話を?」
ふーっ、とヘラは呼気とともに、カラダのチカラを抜いていた。
「今だからこそだよ。これからソマ帝国が攻めてくるって言うじゃないか。戦意を上げておこうと思ってな」
「ヘラはヤッパリ戦士として戦うの?」
「もちろん、オレは《製鉄工場》の護衛を任されてるんだ。小隊長としてな」
「小隊長!」
と、ヴァルからはスットンキョウな声が漏れた。
自分でも変な声が漏れたという自覚があったので、赤面をおぼえた。照れ臭さをごまかすように咳払いをかました。
「なんだよ。オレが小隊長じゃオカシイかよ」
と、ヘラのほうも照れ臭そうに頬をカいていた。
「いや。すごいなーって思って。オレなんか、まだガキだから戦うなって言われてるぐらいなのにさ」
「そんな悲観することないだろ。お前は手先が器用なんだし、他に出来ることがイッパイあるだろ」
と、ヘラは元気づけるつもりだったのか、ヴァルの背中を軽くたたいた。
「そんなことが出来ても、男らしくないよ。オレは――」
父さんみたいな、ゴツイ男になりたかったんだ。
と、胸裏で言葉をつづけた。
「そう言えば、頼んでいたボルトは出来上がったか」
「ああ。出来たよ」
と、持ってきたボルトを渡した。
「へえ。よく出来てるじゃないか。さすがだな。お前に頼んで良かったよ。ゲ・ズィの爺さんより出来が良い」
と、ヘラはそのボルトをつまみあげて、しげしげと見つめていた。
「それは言いすぎだって。オレの場合は、ただの手慰みなんだし」
ゲ・ズィというのはずっと《輝光石》でアクセサリを作る職人の名だ。ドワーフたちのあいだでは有名な老爺だった。
「言いすぎなんかじゃないさ。お前はマジで手先が器用だよ」
ホめてくれているつもりなのだろうが、戦士には向いていないと言われているようで、ヴァルはあまり良い気はしなかった。
「そのボルトをどうするの?」
と、尋ねた。
「実はさ、オレ好きな人がいてさ。この戦で結果を出せたら、告白しようかな――って思ってて」
と、照れ臭かったのかヘラは、かぶっていたノルマンヘルムの位置を調整していた。
「へー」
「なんだよ、その間の抜けた返事」
「好きな人とか、オレにはいまいち良くわかんないから」
「好きな人いないのかよ」
「まぁ……」
どこの壁穴に住んでいる娘はどうだとか、あそこに住んでいる娘は可愛いとか、そんな他愛もない話をしばらく交わすことになった。
(そりゃ可愛い娘とかはいるけどさ)
可愛いと思うのと、好きだと思うのとは、また別だろうとも思うのだった。
「じゃあ、オレはそろそろ行くよ」
と、ヘラは立ち上がった。
「もう戦?」
「ソマ帝国はすでに、こっちに向かって進軍して来てるって、斥候から連絡があった。けど開戦まではまだもう少し時間があるはずだ」
「じゃあ、そんなに急ぐことないでしょ」
「《製鉄工場》の護衛を任されてるんだ。下見でもしておこうかと思ってさ。あれはドワーフが先祖から受け継いだ遺産なんだ。間違っても傷つけるわけにはいかないだろ」
じゃあな、お前は早く避難しとけよ――とヘラは、ヴァルにそう言うと、石段を下りはじめた。
その言葉にヴァルはすこしムッとした。
ヴァルの心境としては、
(まだ避難するなんて言ってないのにさ――)
なのである。
ヴァルには戦えないのだと決めつけられているように思えたのだ。
その感情に任せて、ヴァルは言い返した。
「オレも連れて行ってよ」
「はぁ? どこに?」
「だから《製鉄工場》の下見にだよ。小隊長なんだったら、オレのことを隊に入れてくれよ」
「バカ言ってんじゃないよ。オレにそんな権限ないよ。それにお前は戦えないだろ」
ヘラは困ったような声音で言った。
「オレだって戦える」
ドワーフの英雄と呼ばれたヴェンドの息子なのに、戦わずして避難することなど、屈辱的だった。
「ムリすんなって。お前にもしものことがあったら、ヴェンドさんに顔向けできねェよ」
「だったら下見だけでも」
ヘラはすこし困っていたようだが、
「まぁ――。下見ぐらいならな」
と、うなずいてくれた。
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