《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
12-1.卵も焼けます
《紅蓮教》――教会。
礼拝堂のとなりには司祭室がついてある。
ディーネという領主のもとに、プロメテは大司教に、レイアは司教に任じられている。
司祭に値する人間はいまのところいないのだが、1つの教会の代表者と言えば司祭になるから、その部屋はいちおう「司祭室」と呼ばれている。
プロメテとレイアは普段、そこで寝起きしている。
ベッドが2台。クローゼットが1つ。テーブルとイス。生活していくうえで最低限の家具だけは用意されている。
暖炉があって、そこがオレの寝床になっていた。
これまでのオルフェスの生活様式からかんがみて、暖炉なんてあるはずがない。なので、これはディーネが、気をきかせてしつらえてくれたものなのだ。
「おはようございます、魔神さま」
と、白いネグリジェをまとったプロメテがそう言った。
ネグリジェと言っても、地球のものとは違っている。綿のぎっしりと詰まったもので、ズボンのところもカボチャパンツみたいにふくらんでいた。防寒に優れた造りになっているようだ。
「髪がすごいことになってんぞ」
起きたところゆえか、プロメテの白銀の髪は酷い寝癖がついていた。台風みたいになっている。
へへへ、とプロメテは照れ臭そうにその寝癖をナでつけていたが、ぜんぜんもとに戻っていなかった。
「魔神さまは、昨晩はよく眠れましたか?」
「ああ。しかし四六時中、外が暗いからな。今が朝なのか夜なのかも、よくわからなくなってくる」
「今は、朝の8時前になるのです。もうすぐ朝の鐘が鳴ると思うのですよ」
と、プロメテは懐中時計を取り出してそう言った。その懐中時計は、時計盤のところがうすく光っていた。
言っている間に、ゴーン、ゴーン、ゴーン、と都市の鐘が鳴りひびいた。
「その時計、よく出来てるな」
「この時計は私の母からもらったものなのです。ドワーフさんたちが作ったものだと聞きました」
と、その懐中時計を、プロメテは胸もとで抱きしめるようにした。
「形見というわけか」
難民街にもいろんな種族の者たちがいたけれど、ドワーフはいまだ見ていない。
角の生えた小人をイメージしたが、あるいは巨人という可能性もある。
これから出会う機会もあるだろうから、楽しみにしておこう。
「ふぁーっ。おはよう」
と、レイアも目を覚ましたようで、ベッドで伸びをしていた。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか」
と、プロメテが気遣っていた。
「気にすんな。どのみち起きるつもりだった。腹減った。朝飯にするか。先日、青ヒゲの伯爵が持ってきてくれた卵と蛋白虫があるんだ」
レイアはそう言うと、バスケットに積まれた卵と、奇妙な昆虫を取り出した。
「なんだその虫は?」
人間の握りコブシほどもあって、真っ白い虫だった。レイアがそれをワシヅカミにしていた。その虫は、レイアの手から逃れようとモガいていた。
「魔神さまは、ご存知ねェのかい。こりゃ蛋白虫つって、だいたいどこの国でも主食として用いられてる」
「マジか。昆虫食か」
「けっこう美味いんだ。貴重な蛋白源にもなるしな」
と、レイアは握っていた蛋白虫の頭にかぶりついていた。
まぁ、こうも日差しが悪いと稲作もむずかしいだろうから、どうしても昆虫食に流れるのかもしれない。
昆虫食に馴染みがないオレにはチョット抵抗があったのだが、レイアの食べっぷりを見ていると、そんなに悪いものでもなさそうに見えた。見ようによっては、お餅に見えなくもない。
「魔神さまも、おひとつ食べてみますか?」
と、プロメテも蛋白虫をかぶりながら尋ねてきた。
「う……うん。いや。やめておこうかな」
興味はあったのだが、迷ったすえに遠慮しておくことにした。
「では、代わりに薪をどうぞなのです」
と、プロメテはオレに薪を与えてくれた。薪さえあれば、オレの腹は満たされる。パクリ。
「こっちは卵って言って、鳥が生んでくれるんだ。これは知ってるかい。魔神さま?」
「それは知ってる。焼けば美味いぞ」
「焼く?」
と、レイアは不思議そうな顔をした。
以前は魚を焼いていたが、焼くという発想が薄いのかもしれない。
「器か何かにいれて、オレの上に置くと良い。目玉焼きにしてやる」
「こうか?」
鉄鋼樹脂の器に卵を落として、レイアはそれをオレの上に置いた。
この鉄鋼樹脂という材質について、オレはまだ理解がとぼしい。
樹脂というからには、焼けば溶けるのかと思っていたのだが、どうやら、そういうわけでもないらしい。
考えてみれば、カンテラにも鉄鋼樹脂が利用されていた。
寝起きの女たちからは、夜のあいだに熟成された甘い香りが放たれていた。その匂いのなかにいると、どうも照れ臭いような、居たたまれないような心地になる。
その女の甘い香が、卵を焼くことによって、香ばしい匂いに塗り替えられていった。
「そろそろ良いんじゃないかな。気を付けて食べろよ。熱いからヤケドしないようにな」
と、オレは炎の手で、ふたつの器を押しだした。
オレは基本的に動くことが出来ないのだが、物に触れるぐらいのことは、多少なら出来る。
「へぇ。こりゃ美味いな!」
と、レイアは目玉焼きにかぶりついていた。注意したのに、「熱ちっ」と口もとをおさえていた。
「ふーふーっ」
と、一方でプロメテのほうは、オレの忠告を守って、シッカリと冷ましてから口にしていた。
テーブルとイスがあるのだが、2人ともイスには腰かけることなく、オレの前に座り込んでいた。オレとの距離が近いほうが暖かいのだろう。
「サルモネラ菌がついてるからな。新鮮なら構わんが、日が経過してるなら一度火を通してから口にするほうが安全ではある」
そう言えばディーネは都市内の食中毒にも気にかけているようだった。もし知らないようであれば、目玉焼きについてディーネにも教えてあげたほうが良いかもしれない。
「んーっ」
と、目玉焼きにかぶりついたプロメテが、声にならない悲鳴をあげていた。
「どうした? 熱かったか?」
んぐ、と嚥下したようだ。
「とっても美味しいのですよ。魔神さま。ありがとうなのです」
「気にすることはない。たいしたことじゃないんだから」
「たいしたことなのですよ。私は魔神さまに感謝してもしきれないのです。この気持ちを、どう言葉にすれば良いのか……」
と、プロメテは目じりに涙をためていた。
「な、なにも泣くことないだろう」
たかが目玉焼きで泣かれても困る。感謝してくれているのだろうが、悪いことをしたような気分になる。
「へへ。ついつい嬉しくなってしまったのです」 と、プロメテはネグリジェの袖で涙をぬぐっていた。
コンコン
司祭室のトビラをノックする者がある。
礼拝堂のとなりには司祭室がついてある。
ディーネという領主のもとに、プロメテは大司教に、レイアは司教に任じられている。
司祭に値する人間はいまのところいないのだが、1つの教会の代表者と言えば司祭になるから、その部屋はいちおう「司祭室」と呼ばれている。
プロメテとレイアは普段、そこで寝起きしている。
ベッドが2台。クローゼットが1つ。テーブルとイス。生活していくうえで最低限の家具だけは用意されている。
暖炉があって、そこがオレの寝床になっていた。
これまでのオルフェスの生活様式からかんがみて、暖炉なんてあるはずがない。なので、これはディーネが、気をきかせてしつらえてくれたものなのだ。
「おはようございます、魔神さま」
と、白いネグリジェをまとったプロメテがそう言った。
ネグリジェと言っても、地球のものとは違っている。綿のぎっしりと詰まったもので、ズボンのところもカボチャパンツみたいにふくらんでいた。防寒に優れた造りになっているようだ。
「髪がすごいことになってんぞ」
起きたところゆえか、プロメテの白銀の髪は酷い寝癖がついていた。台風みたいになっている。
へへへ、とプロメテは照れ臭そうにその寝癖をナでつけていたが、ぜんぜんもとに戻っていなかった。
「魔神さまは、昨晩はよく眠れましたか?」
「ああ。しかし四六時中、外が暗いからな。今が朝なのか夜なのかも、よくわからなくなってくる」
「今は、朝の8時前になるのです。もうすぐ朝の鐘が鳴ると思うのですよ」
と、プロメテは懐中時計を取り出してそう言った。その懐中時計は、時計盤のところがうすく光っていた。
言っている間に、ゴーン、ゴーン、ゴーン、と都市の鐘が鳴りひびいた。
「その時計、よく出来てるな」
「この時計は私の母からもらったものなのです。ドワーフさんたちが作ったものだと聞きました」
と、その懐中時計を、プロメテは胸もとで抱きしめるようにした。
「形見というわけか」
難民街にもいろんな種族の者たちがいたけれど、ドワーフはいまだ見ていない。
角の生えた小人をイメージしたが、あるいは巨人という可能性もある。
これから出会う機会もあるだろうから、楽しみにしておこう。
「ふぁーっ。おはよう」
と、レイアも目を覚ましたようで、ベッドで伸びをしていた。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたか」
と、プロメテが気遣っていた。
「気にすんな。どのみち起きるつもりだった。腹減った。朝飯にするか。先日、青ヒゲの伯爵が持ってきてくれた卵と蛋白虫があるんだ」
レイアはそう言うと、バスケットに積まれた卵と、奇妙な昆虫を取り出した。
「なんだその虫は?」
人間の握りコブシほどもあって、真っ白い虫だった。レイアがそれをワシヅカミにしていた。その虫は、レイアの手から逃れようとモガいていた。
「魔神さまは、ご存知ねェのかい。こりゃ蛋白虫つって、だいたいどこの国でも主食として用いられてる」
「マジか。昆虫食か」
「けっこう美味いんだ。貴重な蛋白源にもなるしな」
と、レイアは握っていた蛋白虫の頭にかぶりついていた。
まぁ、こうも日差しが悪いと稲作もむずかしいだろうから、どうしても昆虫食に流れるのかもしれない。
昆虫食に馴染みがないオレにはチョット抵抗があったのだが、レイアの食べっぷりを見ていると、そんなに悪いものでもなさそうに見えた。見ようによっては、お餅に見えなくもない。
「魔神さまも、おひとつ食べてみますか?」
と、プロメテも蛋白虫をかぶりながら尋ねてきた。
「う……うん。いや。やめておこうかな」
興味はあったのだが、迷ったすえに遠慮しておくことにした。
「では、代わりに薪をどうぞなのです」
と、プロメテはオレに薪を与えてくれた。薪さえあれば、オレの腹は満たされる。パクリ。
「こっちは卵って言って、鳥が生んでくれるんだ。これは知ってるかい。魔神さま?」
「それは知ってる。焼けば美味いぞ」
「焼く?」
と、レイアは不思議そうな顔をした。
以前は魚を焼いていたが、焼くという発想が薄いのかもしれない。
「器か何かにいれて、オレの上に置くと良い。目玉焼きにしてやる」
「こうか?」
鉄鋼樹脂の器に卵を落として、レイアはそれをオレの上に置いた。
この鉄鋼樹脂という材質について、オレはまだ理解がとぼしい。
樹脂というからには、焼けば溶けるのかと思っていたのだが、どうやら、そういうわけでもないらしい。
考えてみれば、カンテラにも鉄鋼樹脂が利用されていた。
寝起きの女たちからは、夜のあいだに熟成された甘い香りが放たれていた。その匂いのなかにいると、どうも照れ臭いような、居たたまれないような心地になる。
その女の甘い香が、卵を焼くことによって、香ばしい匂いに塗り替えられていった。
「そろそろ良いんじゃないかな。気を付けて食べろよ。熱いからヤケドしないようにな」
と、オレは炎の手で、ふたつの器を押しだした。
オレは基本的に動くことが出来ないのだが、物に触れるぐらいのことは、多少なら出来る。
「へぇ。こりゃ美味いな!」
と、レイアは目玉焼きにかぶりついていた。注意したのに、「熱ちっ」と口もとをおさえていた。
「ふーふーっ」
と、一方でプロメテのほうは、オレの忠告を守って、シッカリと冷ましてから口にしていた。
テーブルとイスがあるのだが、2人ともイスには腰かけることなく、オレの前に座り込んでいた。オレとの距離が近いほうが暖かいのだろう。
「サルモネラ菌がついてるからな。新鮮なら構わんが、日が経過してるなら一度火を通してから口にするほうが安全ではある」
そう言えばディーネは都市内の食中毒にも気にかけているようだった。もし知らないようであれば、目玉焼きについてディーネにも教えてあげたほうが良いかもしれない。
「んーっ」
と、目玉焼きにかぶりついたプロメテが、声にならない悲鳴をあげていた。
「どうした? 熱かったか?」
んぐ、と嚥下したようだ。
「とっても美味しいのですよ。魔神さま。ありがとうなのです」
「気にすることはない。たいしたことじゃないんだから」
「たいしたことなのですよ。私は魔神さまに感謝してもしきれないのです。この気持ちを、どう言葉にすれば良いのか……」
と、プロメテは目じりに涙をためていた。
「な、なにも泣くことないだろう」
たかが目玉焼きで泣かれても困る。感謝してくれているのだろうが、悪いことをしたような気分になる。
「へへ。ついつい嬉しくなってしまったのです」 と、プロメテはネグリジェの袖で涙をぬぐっていた。
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