《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
11-4.その火種の点火
「ようこそ、いらしてくださいました」
と、ディーネが仰々しく頭を下げた。
相変わらず動作が激しくて、演劇めいた動きをしている。
領主館――ディーネの執務室に訪れていた。
本が好きだと言うだけあって、ディーネの部屋には大量の書籍が山積みになっていた。
ロードリ公爵の部屋にも本は多かった。けれど、ディーネのほうがさらに多い。
左右の書架にはおさまりきらず、雪崩を起こしている状態だった。
床にも多く積まれてあって、間違ってオレが触れないように気を付ける必要があった。万が一、オレが触れてしまった場合、灰にしてしまいかねない。
「お招きにあずかり光栄なのです」
と、オレのことを運んでいるプロメテが会釈をした。
プロメテの後ろにはレイアと、エイブラハングも付いている。
別にてめェは、付いてくる必要ねェだろ――とレイアが言っていたのだが、エイブラハングはオレから離れるのが厭だということだった。
えらく好かれてしまったものである。まぁ、エイブラハングも今回の災厄級との戦いの功労者である。
「私に何が出来るか。そう考えておりましてね」
「何が出来るか?」
と、プロメテがおうむ返しに問うていた。
「魔神さまには都市を助けていただきました。そしてこの都市のほとんどの者たちは、《紅蓮教》に傾倒しています」
ディーネは立ち上がって窓の向こうを見つめた。水滴の付着した窓の向こうには、都市の景色を見下ろすことが出来る。
都市内にはオレが分け与えた火が、各地で燃えているのが見て取れる。
オレから離れても、あの火は6時間ほどは燃えてくれる。
「生活に火が活用されるのは良いことなのですよ」
「ええ。都市内においてクロイの発生率を大幅におさえることが出来ます。そこで、何かお返しできることはないかと思いまして」
「私は充分、ディーネさんに感謝しているのです。教会を建立してくださいましたし。ロードリ公爵から匿ってもくれているのです」
オレも別に礼は要らんぞ――とオレは言った。
あの猪肉をもっかい食わせてくれよ、とレイアは注文していた。
エイブラハングは黙り込んでいる。
「それでは私の気が済みませんよ。なにせ都市を護ってくださったのですからね。そこでひとつ提案があるのですが」
と、ディーネは人差し指を立てた。
「なんでありますか?」
「まず1つ、《紅蓮教》を、我が都市の正式な教義に据えたいのです。他の宗教を排斥するつもりはありませんが、まぁ、魔神さまの輝きを前にすれば、改心する者も多くいるでしょう」
つまり《紅蓮教》は、ディーネという領主のお墨付きということになるわけだ。
「しかし良いのか? オレはロードリ公爵から追われているし、そんなことをすれば公爵が何か言ってくるかもしれんぞ」
と、プロメテに代わってオレが尋ねた。
公爵ということは、ディーネの持つ伯爵よりかは上なのだろう。
「構いません。ロードリ公爵などという小者の目を気にしていては、前に進むことは出来ませんからね」
「公爵を小者扱いとは、不遜なことを言うじゃないか」
と、オレは笑ってそう言った。
ふふっ、とディーネは付けヒゲをナでつけながら笑った。
「このセパタ王国の国王から何か言ってくるようであれば、国として立つ心持でもあります」
「謀反ということか」
「いいえ。建国ですよ。《紅蓮教》を国教とする国の」
「しかしオレのために、そこまでするのは、さすがに申し訳ないんだが」
ディーネは今まで、このセパタ王国の国王のもとで領主として生きてきたはずだ。
それが急に独立するとなったら波乱が生じることだろう。
「これは魔神さまのためだけでありません。我が都市の未来のためでもあります」
と、ディーネは窓辺に映る景色を包み込むかのように、両手を広げてそう言った。
「この都市の未来……」
「魔神さまの活躍は、他の都市にも知れ渡ることでしょう。今回の災厄級の撃退。あの輝きは、この世界にとってはあまりにも眩しい」
「目立ってしまったか?」
いえいえ、とディーネはあわてたように言う。
「責めているわけではありませんよ。むしろあの活躍があったからこそ、今があるのですから」
「なら良いが」
「いずれは知れ渡ることです。ロードリ公爵のみならず、ソマ帝国にも。ソマ帝国は他宗教を許さぬ大国。押しかけてくる可能性もある。そのとき、このセパタ王国では耐えきれません。しかし私のかじ取りならば……」
「耐えきれると?」
ええ、とディーネはうなずいた。
オレはまだ、このディーネという女性について、よくわからないことが多い。理知的でありながらも、ずいぶんと大胆なところもあるようだ。
なにせ自ら軍を率いて、災厄級のクロイを相手にするぐらいである。
「魔神さまには、我が都市に留まってもらいたいのです。お返しと言っても、私にとっても重要なことなのです」
「しかしプロメテには、聖火台に火を灯すという目的がある。いつまでも留まっているわけにもいかない」
「ええ。ですから、その目的にも私の都市をもって協力いたします。聖火台のある都市へのルートを確保し、場合によっては都市を我が手中におさめることにもなります。そのほうが、聖火台に火を灯すことも円滑にすすむはずです」
「それはまぁ……」
たしかに、また誰かに追いかけまわされるのは、カンベンしてもらいたい。
「魔神さまには、まだまだチカラを貸していただきたいこともありますから。その代わりに、私のチカラを持って、《紅蓮教》を保護する。この取引はどうでしょうか?」
「ふむ」
なんかそれって、お返しとか言ってたくせに、てめェのほうが得してんじゃねェか……とレイアが言った。
そんなこと言ってはダメなのですよ、とプロメテにいさめられている。
それを受けて、
ふふっ、
と、ディーネが口もとをおさえていた。
「たしかに私にとっても得なことが多いですね。それからもう1つあるのですが」
「なんだろう?」
「正式に《紅蓮教》を我が都市の教義にするにあたって、役職というものが必要になってきます」
「役職? それは司教とか、そういうことか?」
「ええ。さすが魔神さま、察しが良い」
「しかし、司教と言ってもなぁ……」
司教というのは一般的には、いくつかの教会をまとめているほど高位の者を指すことになるはずだ。
教会はいまのところ、ディーネが建立してくれた1つしかない。
「今後、厭でも教会の数は増えてゆくことになりますよ。ひとまずこうしましょうか。プロメテちゃんを大司教に、レイアさんを司教という立場にする――ということで」
「教皇は?」
「教皇は必要ないでしょう。それは魔神さまに値することになるでしょうから」
「なるほど。まぁ、オレに異論はないが、2人はどうだ?」
と、オレはプロメテにレイアに尋ねた。
「だ、だ、大司教……。な、なんだか良くわからないのです」
とプロメテ。
「私は司教って柄じゃねェが、別に構わねェぜ。青ヒゲさんに任命されるのは、癪だがな」
と、レイア。
では、それで決まりということで――と、ディーネは両手をパチンと叩きあわせた。
「あとは、お任せください。シッカリと手筈は整えておきますから」
とのことだ。
こうして都市シェークスにて、正式に《紅蓮教》が設立されることとなったのである。
と、ディーネが仰々しく頭を下げた。
相変わらず動作が激しくて、演劇めいた動きをしている。
領主館――ディーネの執務室に訪れていた。
本が好きだと言うだけあって、ディーネの部屋には大量の書籍が山積みになっていた。
ロードリ公爵の部屋にも本は多かった。けれど、ディーネのほうがさらに多い。
左右の書架にはおさまりきらず、雪崩を起こしている状態だった。
床にも多く積まれてあって、間違ってオレが触れないように気を付ける必要があった。万が一、オレが触れてしまった場合、灰にしてしまいかねない。
「お招きにあずかり光栄なのです」
と、オレのことを運んでいるプロメテが会釈をした。
プロメテの後ろにはレイアと、エイブラハングも付いている。
別にてめェは、付いてくる必要ねェだろ――とレイアが言っていたのだが、エイブラハングはオレから離れるのが厭だということだった。
えらく好かれてしまったものである。まぁ、エイブラハングも今回の災厄級との戦いの功労者である。
「私に何が出来るか。そう考えておりましてね」
「何が出来るか?」
と、プロメテがおうむ返しに問うていた。
「魔神さまには都市を助けていただきました。そしてこの都市のほとんどの者たちは、《紅蓮教》に傾倒しています」
ディーネは立ち上がって窓の向こうを見つめた。水滴の付着した窓の向こうには、都市の景色を見下ろすことが出来る。
都市内にはオレが分け与えた火が、各地で燃えているのが見て取れる。
オレから離れても、あの火は6時間ほどは燃えてくれる。
「生活に火が活用されるのは良いことなのですよ」
「ええ。都市内においてクロイの発生率を大幅におさえることが出来ます。そこで、何かお返しできることはないかと思いまして」
「私は充分、ディーネさんに感謝しているのです。教会を建立してくださいましたし。ロードリ公爵から匿ってもくれているのです」
オレも別に礼は要らんぞ――とオレは言った。
あの猪肉をもっかい食わせてくれよ、とレイアは注文していた。
エイブラハングは黙り込んでいる。
「それでは私の気が済みませんよ。なにせ都市を護ってくださったのですからね。そこでひとつ提案があるのですが」
と、ディーネは人差し指を立てた。
「なんでありますか?」
「まず1つ、《紅蓮教》を、我が都市の正式な教義に据えたいのです。他の宗教を排斥するつもりはありませんが、まぁ、魔神さまの輝きを前にすれば、改心する者も多くいるでしょう」
つまり《紅蓮教》は、ディーネという領主のお墨付きということになるわけだ。
「しかし良いのか? オレはロードリ公爵から追われているし、そんなことをすれば公爵が何か言ってくるかもしれんぞ」
と、プロメテに代わってオレが尋ねた。
公爵ということは、ディーネの持つ伯爵よりかは上なのだろう。
「構いません。ロードリ公爵などという小者の目を気にしていては、前に進むことは出来ませんからね」
「公爵を小者扱いとは、不遜なことを言うじゃないか」
と、オレは笑ってそう言った。
ふふっ、とディーネは付けヒゲをナでつけながら笑った。
「このセパタ王国の国王から何か言ってくるようであれば、国として立つ心持でもあります」
「謀反ということか」
「いいえ。建国ですよ。《紅蓮教》を国教とする国の」
「しかしオレのために、そこまでするのは、さすがに申し訳ないんだが」
ディーネは今まで、このセパタ王国の国王のもとで領主として生きてきたはずだ。
それが急に独立するとなったら波乱が生じることだろう。
「これは魔神さまのためだけでありません。我が都市の未来のためでもあります」
と、ディーネは窓辺に映る景色を包み込むかのように、両手を広げてそう言った。
「この都市の未来……」
「魔神さまの活躍は、他の都市にも知れ渡ることでしょう。今回の災厄級の撃退。あの輝きは、この世界にとってはあまりにも眩しい」
「目立ってしまったか?」
いえいえ、とディーネはあわてたように言う。
「責めているわけではありませんよ。むしろあの活躍があったからこそ、今があるのですから」
「なら良いが」
「いずれは知れ渡ることです。ロードリ公爵のみならず、ソマ帝国にも。ソマ帝国は他宗教を許さぬ大国。押しかけてくる可能性もある。そのとき、このセパタ王国では耐えきれません。しかし私のかじ取りならば……」
「耐えきれると?」
ええ、とディーネはうなずいた。
オレはまだ、このディーネという女性について、よくわからないことが多い。理知的でありながらも、ずいぶんと大胆なところもあるようだ。
なにせ自ら軍を率いて、災厄級のクロイを相手にするぐらいである。
「魔神さまには、我が都市に留まってもらいたいのです。お返しと言っても、私にとっても重要なことなのです」
「しかしプロメテには、聖火台に火を灯すという目的がある。いつまでも留まっているわけにもいかない」
「ええ。ですから、その目的にも私の都市をもって協力いたします。聖火台のある都市へのルートを確保し、場合によっては都市を我が手中におさめることにもなります。そのほうが、聖火台に火を灯すことも円滑にすすむはずです」
「それはまぁ……」
たしかに、また誰かに追いかけまわされるのは、カンベンしてもらいたい。
「魔神さまには、まだまだチカラを貸していただきたいこともありますから。その代わりに、私のチカラを持って、《紅蓮教》を保護する。この取引はどうでしょうか?」
「ふむ」
なんかそれって、お返しとか言ってたくせに、てめェのほうが得してんじゃねェか……とレイアが言った。
そんなこと言ってはダメなのですよ、とプロメテにいさめられている。
それを受けて、
ふふっ、
と、ディーネが口もとをおさえていた。
「たしかに私にとっても得なことが多いですね。それからもう1つあるのですが」
「なんだろう?」
「正式に《紅蓮教》を我が都市の教義にするにあたって、役職というものが必要になってきます」
「役職? それは司教とか、そういうことか?」
「ええ。さすが魔神さま、察しが良い」
「しかし、司教と言ってもなぁ……」
司教というのは一般的には、いくつかの教会をまとめているほど高位の者を指すことになるはずだ。
教会はいまのところ、ディーネが建立してくれた1つしかない。
「今後、厭でも教会の数は増えてゆくことになりますよ。ひとまずこうしましょうか。プロメテちゃんを大司教に、レイアさんを司教という立場にする――ということで」
「教皇は?」
「教皇は必要ないでしょう。それは魔神さまに値することになるでしょうから」
「なるほど。まぁ、オレに異論はないが、2人はどうだ?」
と、オレはプロメテにレイアに尋ねた。
「だ、だ、大司教……。な、なんだか良くわからないのです」
とプロメテ。
「私は司教って柄じゃねェが、別に構わねェぜ。青ヒゲさんに任命されるのは、癪だがな」
と、レイア。
では、それで決まりということで――と、ディーネは両手をパチンと叩きあわせた。
「あとは、お任せください。シッカリと手筈は整えておきますから」
とのことだ。
こうして都市シェークスにて、正式に《紅蓮教》が設立されることとなったのである。
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