《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

11-1.集う信者たち

『魔神さま、どうかお助けください』


 災厄級と言われるクロイの襲撃を受けて、都市シェークスの信徒たちが教会に押しかけていた。


 これほどまでに……と、オレは感動をおぼえた。


 この都市に来てからは、まだまだオレやプロメテの存在は、信用がうすかった。どちらかというと怪しまれていたようにも思う。


 オルフェス最後の魔術師という肩書を、あからさまに嫌っている者だって少なくなかった。《光神教》の影響が薄いとは言っても、神を怒らせた一族の末裔に向ける目は冷ややかだったのだ。


 それが今や――これである。


 オレを神として崇める宗教は、《紅蓮教》と名付けられて、かなりの指示を得ることが出来ていた。


 信者たちは、オレに救いを求めて集まっているのだった。


 そのなかには先日、ディーネが連れてきたエルフたちの姿もあった。
 ほかにも頭から犬耳やネコ耳を生やした獣人族。二足歩行のトカゲである蜥蜴族なんかもいた。
 ディーネが受け入れている難民たちだった。


「おいおい、魔神さまだって万能じゃねェんだから。そんなに集まって来られても迷惑だろうが」 と、いつもはオレに遠慮なく物を言うレイアが、珍しくそう言って、他の者たちを抑えていた。


 いかんせん――。
 この信者たちの集いに、無邪気によろこんでばかりもいられない。


 なにせ信者たちは、オレに助けを求めているのだ。災厄級のクロイを追い払って欲しいと言っているのだ。


 神ならば、その気持ちに応えてやらねばなるまい。


「魔神さま。いかがでしょうか?」


 信者たちを従えるその先頭にはプロメテがいる。プロメテはオレの前に座り込んで、オレの様子をうかがうような表情をしていた。


「ふむ」
 と、オレはうなった。


 災厄級のクロイを追い払ってくれと言われても、正直、オレはあまり気持ちが進まない。


 あんな正体不明のバケモノ相手に、戦いたいと思うなんて、そうそういないはずだ。しかも山のように大きいと聞いている。


 クロイは明かりに弱いとは聞いているが、その情報を踏まえても、ヤッパリ臆する気持ちはある。
 はたしてオレのチカラを持ってしても、勝てるのかどうか……。


 が――。
 ここが天王山。奮い立たねばなるまい。


 ここがオレとプロメテにとっての、大きな分岐点になるという予感があった。


 仮にクロイを嫌って逃げれば、オレは民衆から幻滅されることだろう。魔術師へ向けられる目も、ふたたび冷やかになることは予想がつく。


『なにが《紅蓮教》だ。しょせんは魔術師の召喚したマガイモノの神だ』などと、罵詈雑言をブツけられるかもしれない。


 セッカク。
 ここまでの信用を勝ち取ってきたのだ。


 それを不意にすることのほうが、怖ろしいことだった。


 べつにオレ自身が嫌われるのは、構わない。
 が。
 オレが嫌われるということは、プロメテも嫌われるということだ。


 みんなから頭をナでられると、プロメテは心底嬉しそうな顔をする。ふたたびプロメテを地獄に落とすわけにはいかないのだ。


 オレは民衆の神である以前に、プロメテの神なのだから――。


「行こうか」


「よろしいのですか。魔神さま」


「やれるだけ、やってみるさ」


 天使をブッ飛ばしたときの、あのチカラを使えば良い。災厄級だろうと、多少は戦うことが出来るだろう。


 負けたとしても。全力を出し切れば、気持ちぐらいは伝わるはずだ。


「いや。やめておくほうがよろしいかと」


 セッカクのオレの決意に、水を差す言葉があった。


「誰だ?」


「私です」


 そう言って信徒の群集のなかから歩み出てきたのは、エイブラハングと名乗る女性だった。


 黒髪をベリーショートと言えるほどまでに短くしている女性だ。無駄なものをそぎ落としたような魅力がある。黒いカッパみたいな服を着ている。


「なぜ止める?」


「私はS級の黒狩人です。森であの災厄級のクロイと出くわしましたが、あれは半端なクロイではありません。魔神さまにもしものことがあれば、取り返しがつかなくなります」


 てめェ――とレイアが、エイブラハングの胸ぐらをつかんだ。


「まさか魔神さまが、クロイごときに負けるとでも言いたいのかよ」


「私はS級の黒狩人だ。あのクロイは普通じゃなかった」


 黒狩人というのが、クロイを討伐することを仕事としている者だということは、オレも聞き及んでいる。
 きっと相当に鍛え上げているのだろう。レイアにつかまれても、エイブラハングに動じる様子はなかった。
 そのエイブラハングが言うのだから、きっと相当強いクロイなのだろう。


「S級ってのは、スゴイんじゃなかったのかよ。世界でたったの3人しかいない強者なら、あの災厄級のクロイを、てめェが倒して来れば良いじゃねェか」
 と、レイアも退く様子がない。


 だからこそ――と、エイブラハングはつづけた。


「自分で言うのもなんだが、S級である私すら勝てないと判断したのだ。あの災厄級は、それほど――ということだ」


「だったら、どうしろって言うんだよ。大人しくクロイに呑み込まれろ――ってか?」


「魔神さまとともに、ここから逃げるのが吉かと。魔神アラストルさまのチカラが偉大であることは私も身を持って知っている。魔神さまにもしものことがあるかと思うと……」
 と、エイブラハングはそこで言葉を止めた。


 エイブラハングの言葉を受けて、プロメテもオレに語りかけてきた。


「私も、反対なのですよ」


「プロメテ……」


「魔神さまが、いなくなってしまったら、私はどうすれば良いのかわからないのです」


「だが、ここでオレが神威を見せなければ、《紅蓮教》の信用は失墜することになるかもしれんぞ」


 教会――。
 ここには都市を護ってくれると信じて、信者たちが集まってきているのだ。


「私は、魔神さまを失うことのほうが、怖いのでありますよ」


 ただでさえ白いプロメテの顔色が、今はオレの光を受けてもなお青白くなっているように見えた。


「うれしいことを言ってくれるじゃないか」


 以前にプロメテが、オレにたいして言ってくれた言葉がある。たしかロードリから逃げているさいに言ってくれた言葉だった。


『魔神さまは、誰よりも最初に私を受け入れてくださった御方です。私の孤独に光を灯してくれた御方です。たとえワガママでも。私は魔神さまと、ともにいたい』


 それでも――。
 いや。だからこそ――か。
 そんなプロメテに、オレは光を当て続ける存在でいたい。


「心配するな。負けることはない」


 確信はない。けれど、それが今のオレに出来ることなのだ。


「ホントウですか?」


「ああ。しかし自分では動けんからな。クロイがいるところまで連れて行ってもらえるか」


「はい」
 と、プロメテは、オレのカラダを鳥籠にしまった。

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