《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
10-1.都市防衛戦
「発射!」
と、ディーネは命令を出した。(歩廊についていた兵士たちが、一斉に矢を射かけた。
ただの矢ではない。
ヤジリには、《輝光石》を塗りこんである。対クロイ用の矢である。都市に迫るクロイめがけて、無数に光流がはしる。
矢はクロイに刺さってゆく。
効いているようでクロイは悶えていた。
災厄級と呼ばれるクロイの接近を受けて、ディーネは都市を護るための兵を展開しているのだった。
その指揮を執っている。
「伯爵さまッ。どうかお下がりください」
と、駆けてくる者がいる。
補佐官のタルルであった。
クリーム色の髪をした青年である。年齢的には青年なのだが、童顔にくわえて背が小さいため、まだまだ子供に見える。
「タルルくんではありませんか。こんなところに来ては危ないですよ」
と、ディーネは愛玩するように、タルルの頭をナでた。
タルルは照れ臭そうな反応をしていたが、すぐにその手を振りほどいた。
「危ないのは伯爵さまのほうですよ」
「私なら平気です」
「平気とかそういう問題じゃないですよ。魔神さまをお迎えするときも、使者に行かせれば良かったのに、自分から突っ込んで行くし」
「まだ、そんなことを言ってるんですか」
オカシクなって、ふふっ、とディーネは笑いを漏らした。
タルルというこの青年はべつに何かの能力に秀でているわけではない。剣術も馬術も人並だ。人並だが、なによりもディーネのことを思って行動してくれるので、補佐官として置いている。
「これは弓兵長の役目ですから、どうか伯爵さまはお下がりください」
「いやいや。気にすることはありませんよ。弓兵長から許可をいただいていますからね」
「な、なんでそんな許可もらってんですか。伯爵さまはさっさと逃げてください」
と、タルルは、ディーネの背中をぐいぐいと押してきた。
「逃げるわけにはいきませんよ。ここは私のあずかった都市なのですからね。人は王の背中を見ているものです」
「いえいえ。あなたは王さまじゃないですから。伯爵さまですから」
ここはセパタ王国という小国の一部である。
もともとディーネの父が恩給地としていただいた場所になる。父の亡き後、ディーネがその土地を世襲することに成功した。ディーネはこの都市の発展に心血をそそいできた。
(この都市は、私の命そのもの)
なのである。
結婚税やら死亡税やらと、ロードリ公爵のような男は、なにかと民衆から《輝光石》やら食糧を搾り取っていると聞く。
あのロードリのような男が、大きな顔をしているようでは、このセパタ王国に未来はない。 ディーネはそう見限っていた。
「じきに――」
「え?」
「私は、じきに王になりますよ」
「は?」
「良い風が吹いているのですから。ここでこの好機を逃すわけにはいきません」
第2射準備ッ、発射ッ――とつづけてディーネは合図を出した。
ふたたび闇のなかを光流が走った。そして巨体のクロイに突き刺さってゆく。効いてはいるようなのだが、決定打にはならないようだった。
(ふむ)
と、ディーネは、そのクロイの様子を観察した。
クロイにはたしか核と呼ばれる弱点があるのだ。そこにダメージを通さなければ、クロイを仕留めることは出来ない。
これだけ大きな図体のどこに、その核とやらがあるのか見つけ出すことは難しい。
「止まりませんね」
ディーネのことを引き止めに来たであろうタルルも、クロイのことが心配のようだった。
タルルの言うように、クロイは悶えながらも真っ直ぐこちらに向かってきている。
このままでは、都市が呑まれる。
「矢で止まらぬのならば、次の手を打ちましょうか」
「次の手――ですか」
「弓隊の指揮権を弓兵長へお返ししましょう。私は打って出ます」
「う、打って出るゥ? ま、待ってくださいって」
ディーネは歩廊から地上へとつづく石段を駆け下りた。下りたところに馬を用意していた。
都市を出たところにはすでに大隊が、出撃の準備を整えていた。すべて各兵長たちに手配させていた通りだ。
馬の面甲は鉄鋼樹脂でできているのだが、《輝光石》をすり潰したものを塗りこんである。そのためアサギ色に輝いて見える。
闇夜を照らすためではなく、自分や仲間がどこにいるのか知らせるための光だ。
「ちょっと待ってくださいってばーッ」
と、タルルが追いかけてきた。
「君も来ますか?」
「来ますかじゃないですよ。いったいどこへ行くつもりなんですか」
「クロイは人の気配に誘われているのだと思うんですよ。ヤツはなぜか、人を襲う傾向がありますからね」
「ええ」
「ならば多くの人間が移動すれば、そっちに付いて来てくれる可能性が高いとは思いませんか」
「それで?」
「私が大隊を率いて、都市を離れる。そうすれば、あるいはクロイを誘い出すことが出来るかもしれないでしょう」
なんとしても、都市は守らなくてはならない。
「は、伯爵さまが出るんですか」
「いけませんか?」
「いけないに決まってるでしょう。それは騎士長に任せて、伯爵さまは逃げてくださいよ」
と、タルルは泣きそうな顔になっていた。
「君はそんな王の背中に付いて行くのですか? 民も兵も、前に進む者の背中に付いて行きたいと、そう思っているはずです。ならば私が逃げるわけにはいきません。……なんてカッコウつけても、ただジッとしていられない性質なだけですがね」
馬に乗る。
「これより都市シェークスの防衛戦を行う。なんとしてもヤツの軌道をそらす。我に続けッ」
と、ディーネは馬を駆った。
と、ディーネは命令を出した。(歩廊についていた兵士たちが、一斉に矢を射かけた。
ただの矢ではない。
ヤジリには、《輝光石》を塗りこんである。対クロイ用の矢である。都市に迫るクロイめがけて、無数に光流がはしる。
矢はクロイに刺さってゆく。
効いているようでクロイは悶えていた。
災厄級と呼ばれるクロイの接近を受けて、ディーネは都市を護るための兵を展開しているのだった。
その指揮を執っている。
「伯爵さまッ。どうかお下がりください」
と、駆けてくる者がいる。
補佐官のタルルであった。
クリーム色の髪をした青年である。年齢的には青年なのだが、童顔にくわえて背が小さいため、まだまだ子供に見える。
「タルルくんではありませんか。こんなところに来ては危ないですよ」
と、ディーネは愛玩するように、タルルの頭をナでた。
タルルは照れ臭そうな反応をしていたが、すぐにその手を振りほどいた。
「危ないのは伯爵さまのほうですよ」
「私なら平気です」
「平気とかそういう問題じゃないですよ。魔神さまをお迎えするときも、使者に行かせれば良かったのに、自分から突っ込んで行くし」
「まだ、そんなことを言ってるんですか」
オカシクなって、ふふっ、とディーネは笑いを漏らした。
タルルというこの青年はべつに何かの能力に秀でているわけではない。剣術も馬術も人並だ。人並だが、なによりもディーネのことを思って行動してくれるので、補佐官として置いている。
「これは弓兵長の役目ですから、どうか伯爵さまはお下がりください」
「いやいや。気にすることはありませんよ。弓兵長から許可をいただいていますからね」
「な、なんでそんな許可もらってんですか。伯爵さまはさっさと逃げてください」
と、タルルは、ディーネの背中をぐいぐいと押してきた。
「逃げるわけにはいきませんよ。ここは私のあずかった都市なのですからね。人は王の背中を見ているものです」
「いえいえ。あなたは王さまじゃないですから。伯爵さまですから」
ここはセパタ王国という小国の一部である。
もともとディーネの父が恩給地としていただいた場所になる。父の亡き後、ディーネがその土地を世襲することに成功した。ディーネはこの都市の発展に心血をそそいできた。
(この都市は、私の命そのもの)
なのである。
結婚税やら死亡税やらと、ロードリ公爵のような男は、なにかと民衆から《輝光石》やら食糧を搾り取っていると聞く。
あのロードリのような男が、大きな顔をしているようでは、このセパタ王国に未来はない。 ディーネはそう見限っていた。
「じきに――」
「え?」
「私は、じきに王になりますよ」
「は?」
「良い風が吹いているのですから。ここでこの好機を逃すわけにはいきません」
第2射準備ッ、発射ッ――とつづけてディーネは合図を出した。
ふたたび闇のなかを光流が走った。そして巨体のクロイに突き刺さってゆく。効いてはいるようなのだが、決定打にはならないようだった。
(ふむ)
と、ディーネは、そのクロイの様子を観察した。
クロイにはたしか核と呼ばれる弱点があるのだ。そこにダメージを通さなければ、クロイを仕留めることは出来ない。
これだけ大きな図体のどこに、その核とやらがあるのか見つけ出すことは難しい。
「止まりませんね」
ディーネのことを引き止めに来たであろうタルルも、クロイのことが心配のようだった。
タルルの言うように、クロイは悶えながらも真っ直ぐこちらに向かってきている。
このままでは、都市が呑まれる。
「矢で止まらぬのならば、次の手を打ちましょうか」
「次の手――ですか」
「弓隊の指揮権を弓兵長へお返ししましょう。私は打って出ます」
「う、打って出るゥ? ま、待ってくださいって」
ディーネは歩廊から地上へとつづく石段を駆け下りた。下りたところに馬を用意していた。
都市を出たところにはすでに大隊が、出撃の準備を整えていた。すべて各兵長たちに手配させていた通りだ。
馬の面甲は鉄鋼樹脂でできているのだが、《輝光石》をすり潰したものを塗りこんである。そのためアサギ色に輝いて見える。
闇夜を照らすためではなく、自分や仲間がどこにいるのか知らせるための光だ。
「ちょっと待ってくださいってばーッ」
と、タルルが追いかけてきた。
「君も来ますか?」
「来ますかじゃないですよ。いったいどこへ行くつもりなんですか」
「クロイは人の気配に誘われているのだと思うんですよ。ヤツはなぜか、人を襲う傾向がありますからね」
「ええ」
「ならば多くの人間が移動すれば、そっちに付いて来てくれる可能性が高いとは思いませんか」
「それで?」
「私が大隊を率いて、都市を離れる。そうすれば、あるいはクロイを誘い出すことが出来るかもしれないでしょう」
なんとしても、都市は守らなくてはならない。
「は、伯爵さまが出るんですか」
「いけませんか?」
「いけないに決まってるでしょう。それは騎士長に任せて、伯爵さまは逃げてくださいよ」
と、タルルは泣きそうな顔になっていた。
「君はそんな王の背中に付いて行くのですか? 民も兵も、前に進む者の背中に付いて行きたいと、そう思っているはずです。ならば私が逃げるわけにはいきません。……なんてカッコウつけても、ただジッとしていられない性質なだけですがね」
馬に乗る。
「これより都市シェークスの防衛戦を行う。なんとしてもヤツの軌道をそらす。我に続けッ」
と、ディーネは馬を駆った。
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