《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
9-1.災厄級
(で、でかいッ)
と、エイブラハングは、そのクロイの大きさに圧倒された。
森の木々を押しのけて、クロイは山のようにたたずんでいた。まるでそのクロイは世界をヘイゲイしているかのようだった。
エイブラハングは、そのクロイを愕然と見上げていた。
黒狩人という職業がある。クロイを倒すことを生業としている者たちだ。
クロイの討伐数に応じて、そのランクが定められる。エイブラハングはそのなかでも最高ランクの、S級の称号を与えられし戦士だった。
森にクロイが出たとのことで、その討伐にやって来たのだ。
しかし――。
(勝てるか?)
クロイを相手にすれば百戦錬磨のエイブラハングも、そのクロイの大きさには気圧されるものがあった。
クロイは3種類に大別される。
獣級、怪物級、災厄級。
後になるほど強力なクロイとなる。そして眼前にいるクロイはまさにその災厄級と言える。これほどの大きさのクロイは、エイブラハングも今まで見たことはなかった。
(来るッ)
クロイはエイブラハングの気配を察したようで、その手を伸ばしてきた。
手と言っても、人のように明確な輪郭を持つわけではない。クロイは変幻自在にその姿を変える。
クロイの伸ばしてきた手を、エイブラハングは跳びあがってかわした。
巨腕に飛び乗る。
その腕に槍の穂先を突き刺した。ただの槍ではない。穂先には《輝光石》を研いだものを使っていた。クロイが光に弱いという性質を突いたものだ。
穂先を突き刺したまま、その腕を駆けあがった。
「ヴォォォ――ッ」
と、クロイは奇怪な声をあげた。
苦悶にもだえるクロイから跳び下りて、木の枝の上にエイブラハングは着地した。
(よし)
手ごたえはある。
しかし仕留めきれてはいない。クロイを仕留めるには、その核にダメージを与える必要がある。影をまとう核。人で言うならば、脳にあたる部位があるはずなのだ。それを探し出す必要がある。
(しかし、この大きさでは……)
それを探し出すのも一苦労だ。獣級ならば、適当にダメージを与えれば核に届くということもある。
この大きさで、ラッキーヒットを叩きだすのは非情にむずかしい。経験則を生かして、核を見出すしかない。
「そこッ」
狙った場所に《輝光石》を研いだものを投げた。《輝光石》はクロイのカラダに突き刺さったものの、すぐに抜け落ちてしまった。
仕留めたかと期待したのだが、どうやら核ではなかったらしい。
「ちッ」
腰に引っかけてある、装備を確認した。
クロイを怯ませるための閃光の実が2粒。そして《輝光石》を鋭利に研ぎあげたものが3つ。そして槍が1本。
(これでは仕留めきれんか……)
槍を持つ手がかじかんでいる。足は麻痺したように感覚がない。そして身体は酷く汗ばんでいた。
この雨に濡らされたのではない。撥水性の良い黒い服を着ているため、服が濡れることはない。
「はっ、はっ、はっ」
呼気が乱れる。
怖い――のである。
(この弱虫めッ)
と、恐怖を感じている自分を罵った。
エイブラハングはS級の黒狩人である。S級と呼ばれる域に到達したのは、このオルフェスでは3人しかいない。
そんな自分が、クロイにたいして恐怖を感じていることが、認められないのであった。
S級でもあり、クロイを相手にしてきて百戦錬磨のエイブラハングは、通常のクロイを相手にして臆することは、まずない。
今回は特別である。
なにせ、大きい。
その巨大な闇の図体が、エイブラハングに威圧感をあたえる。そして、勝てないかもしれない、という不安。
「ヴォォォ――ッ」
と、闇を震わせるような声音を発して、クロイの腕が伸びてきた。
跳びあがろうとした。が、恐怖に麻痺した足は思ったように動いてはくれなかった。
「ちッ」
かわしそこねた。
右足をクロイに殴りつけられた。エイブラハングは濡れてぬかるんだ泥地に、転がり落ちることになった。
口のなかに泥が入った。ツバとともに吐き出した。右足が酷く痛む。《輝光石》の明かりで、己の右足を確認する。
「……やられた」
愕然。
エイブラハングの右足には、黒い斑点模様の染みができていた。まぎれもなく暗闇症候群の初期症状である。
(まさか……自分が……)
厭だ。
こんなこと、ありえない。
生まれたころから、エイブラハングは神の子と称されていた。超人的な運動神経を誇っていたのだ。
しかし「神の子」と称することが、《光神教》を国教とするソマ帝国には気に食わなかったようで、エイブラハングの故郷はソマ帝国に蹂躙されることになった。
食い扶持を求めて、エイブラハングは黒狩人となった。そしてS級にまで上り詰めたのだ。
そんな自分が――。
(こんな終わり方をするはずがない)
という悲憤に駆られた。
「ヴォォォォッ」
と、クロイが盛大に吠えている。
怖い。
ずっと抑え込んでいたその思いが、何よりも勝ってしまった。
「ひっ」
と、エイブラハングは短い悲鳴をあげて、その場からあわてて逃げ出した。
と、エイブラハングは、そのクロイの大きさに圧倒された。
森の木々を押しのけて、クロイは山のようにたたずんでいた。まるでそのクロイは世界をヘイゲイしているかのようだった。
エイブラハングは、そのクロイを愕然と見上げていた。
黒狩人という職業がある。クロイを倒すことを生業としている者たちだ。
クロイの討伐数に応じて、そのランクが定められる。エイブラハングはそのなかでも最高ランクの、S級の称号を与えられし戦士だった。
森にクロイが出たとのことで、その討伐にやって来たのだ。
しかし――。
(勝てるか?)
クロイを相手にすれば百戦錬磨のエイブラハングも、そのクロイの大きさには気圧されるものがあった。
クロイは3種類に大別される。
獣級、怪物級、災厄級。
後になるほど強力なクロイとなる。そして眼前にいるクロイはまさにその災厄級と言える。これほどの大きさのクロイは、エイブラハングも今まで見たことはなかった。
(来るッ)
クロイはエイブラハングの気配を察したようで、その手を伸ばしてきた。
手と言っても、人のように明確な輪郭を持つわけではない。クロイは変幻自在にその姿を変える。
クロイの伸ばしてきた手を、エイブラハングは跳びあがってかわした。
巨腕に飛び乗る。
その腕に槍の穂先を突き刺した。ただの槍ではない。穂先には《輝光石》を研いだものを使っていた。クロイが光に弱いという性質を突いたものだ。
穂先を突き刺したまま、その腕を駆けあがった。
「ヴォォォ――ッ」
と、クロイは奇怪な声をあげた。
苦悶にもだえるクロイから跳び下りて、木の枝の上にエイブラハングは着地した。
(よし)
手ごたえはある。
しかし仕留めきれてはいない。クロイを仕留めるには、その核にダメージを与える必要がある。影をまとう核。人で言うならば、脳にあたる部位があるはずなのだ。それを探し出す必要がある。
(しかし、この大きさでは……)
それを探し出すのも一苦労だ。獣級ならば、適当にダメージを与えれば核に届くということもある。
この大きさで、ラッキーヒットを叩きだすのは非情にむずかしい。経験則を生かして、核を見出すしかない。
「そこッ」
狙った場所に《輝光石》を研いだものを投げた。《輝光石》はクロイのカラダに突き刺さったものの、すぐに抜け落ちてしまった。
仕留めたかと期待したのだが、どうやら核ではなかったらしい。
「ちッ」
腰に引っかけてある、装備を確認した。
クロイを怯ませるための閃光の実が2粒。そして《輝光石》を鋭利に研ぎあげたものが3つ。そして槍が1本。
(これでは仕留めきれんか……)
槍を持つ手がかじかんでいる。足は麻痺したように感覚がない。そして身体は酷く汗ばんでいた。
この雨に濡らされたのではない。撥水性の良い黒い服を着ているため、服が濡れることはない。
「はっ、はっ、はっ」
呼気が乱れる。
怖い――のである。
(この弱虫めッ)
と、恐怖を感じている自分を罵った。
エイブラハングはS級の黒狩人である。S級と呼ばれる域に到達したのは、このオルフェスでは3人しかいない。
そんな自分が、クロイにたいして恐怖を感じていることが、認められないのであった。
S級でもあり、クロイを相手にしてきて百戦錬磨のエイブラハングは、通常のクロイを相手にして臆することは、まずない。
今回は特別である。
なにせ、大きい。
その巨大な闇の図体が、エイブラハングに威圧感をあたえる。そして、勝てないかもしれない、という不安。
「ヴォォォ――ッ」
と、闇を震わせるような声音を発して、クロイの腕が伸びてきた。
跳びあがろうとした。が、恐怖に麻痺した足は思ったように動いてはくれなかった。
「ちッ」
かわしそこねた。
右足をクロイに殴りつけられた。エイブラハングは濡れてぬかるんだ泥地に、転がり落ちることになった。
口のなかに泥が入った。ツバとともに吐き出した。右足が酷く痛む。《輝光石》の明かりで、己の右足を確認する。
「……やられた」
愕然。
エイブラハングの右足には、黒い斑点模様の染みができていた。まぎれもなく暗闇症候群の初期症状である。
(まさか……自分が……)
厭だ。
こんなこと、ありえない。
生まれたころから、エイブラハングは神の子と称されていた。超人的な運動神経を誇っていたのだ。
しかし「神の子」と称することが、《光神教》を国教とするソマ帝国には気に食わなかったようで、エイブラハングの故郷はソマ帝国に蹂躙されることになった。
食い扶持を求めて、エイブラハングは黒狩人となった。そしてS級にまで上り詰めたのだ。
そんな自分が――。
(こんな終わり方をするはずがない)
という悲憤に駆られた。
「ヴォォォォッ」
と、クロイが盛大に吠えている。
怖い。
ずっと抑え込んでいたその思いが、何よりも勝ってしまった。
「ひっ」
と、エイブラハングは短い悲鳴をあげて、その場からあわてて逃げ出した。
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