《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

7-1.土を練って

 ロードリ公爵の追っ手から、地下水路を通って、オレたちは逃れてきた。


 地下水路の抜けた先――。


 すでに廃墟となっている《光神教》の教会につながっていた。
 そこで、しばらく留まっていた。


 プロメテの足のケガを療養する時間が必要だったのだ。
 プロメテだけではない。
 レイアをはじめとする《紅蓮教団》は、ロードリ公爵の追っ手と戦って、消耗としていた。英気を養う時間が必要だった。


 教会の中央。


 もとは礼拝室として使われていたのであろう。長椅子などが並べられて、主神ティリリウスの石像も置かれていた。


 しかしながら現在、長椅子はすべて壁際に押しやられていた。主神ティリリウスの石像にも、衣類の物干しとして活用されていた。
 ティリリウスの手のひらに、あからさまに女物のパンツと思われるものが吊るされている。


 このオルフェスという世界で、もっとも影響力のあるという《光神教》の主神の石像である。が、マッタクもって崇拝心が見られない。
 信仰していないにしても、実在する神なのだから、罰が当たったりしないか、と不安になる。


 そんな教会内にて――。


「魔神さまぁ、もう少し火を追加してくれよ。湯が冷めて来ちまった」


 レイアは風呂に入っていた。
 療養と言っても、ただただ休んでいたわけではない。


《紅蓮教団》の者たちは、粘度の高い土を練りに練って、キメの細かい粘土をつくりあげたのだ。それをオレの炎で焼き上げたことによって、人がひとり入れるぐらいの素焼き器を完成させた。


 ちなみに男の信徒たちは現在、「風呂に入るから」と言って、レイアに叩きだされていた。


「ダメなのですよ。魔神さまに失礼なのです。もう少し、魔神さまをいたわってください、なのです」
 と、プロメテが注意している。


「魔神さまは、この程度でヘコたれやしないんだ。心配ねェって、なにせ権天使プリンシパリティーズをブッ飛ばしちまったぐらいだからな」


 たしかに疲れていない。
 疲れていないし、これはいちおう実験も兼ねている。
 心配するプロメテに、大丈夫だとオレは言って、火力を強めた。


「最高だぜぇ。《光神教》なんざ糞喰らえだ。魔神アラストルさま万歳ってな」
 と、レイアは蕩けたような口調で言った。


 実験というのは、オレから分離した火が、どれぐらい燃えるか――という問題だ。


 オレ自身は決して消えることのない炎である。が、オレから分離した炎は、また別だ。一応燃えることには燃えるが、6時間ほどで燃え尽きてしまうようだ。これは薪を加減しても同じことである。


 まぁ、この湿気た世界で、6時間も燃えるなら上々の結果なのかもしれない。


「火も好調。それに器も今回は割れないな」
 と、レイアは湯を張っている器を、ノックするように叩いた。
 コツン、コツン、と乾いた音が響く。


「空気を抜いたのが良かったのかもしれん」


 この器が完成するまでに、何度か失敗を経ている。焼いている途中で割れたり、砕けたりしてしまうのだ。


 今回は、頑丈にできたようだ。
 粘土の練り方に工夫を凝らしたようである。


「温かい湯に入れるだなんて、夢みたいだぜ」


「普段はどうしてたんだ?」


「そりゃ水で身体を洗ったりはしてたよ。ご覧の通り、水には困ってないんでね」


 窓辺をレイアは指差した。
 窓ガラスは、鉄鋼樹脂と言われる緑がかった樹脂によってつくられている。その窓ガラスに水滴が付着していた。


 霖雨――。
 勢いが強いわけでもないし、粒が大きい雨でもない。こまかくけぶるような雨が、延々とふり続いている。


《火禁雨》と言うのだそうだ。
 火を使うことを、禁じるために神が降らせた雨だと言う。


 しかし、寒いだろう、とオレが言った。
 たまには寒くても洗いたくなるんだ、とレイアは返してきた。
 そりゃまぁ、そうかもしれない。


 こんな寒中にて、冷水でカラダを洗っていた者にとっては、沸かしたお湯は、まさに極楽だろう。


「魔神さま、お疲れではありませんか?」


 プロメテが気がかりな表情で、オレを覗きこんできた。


 プロメテの白銀の髪が、オレの発する光を受けて艶やかにかがやいていた。つい先日までは泥だらけでくすんでいた艶も、風呂に入ることによって見事に洗い流されていた。


「オレは大丈夫。オレ自身が風呂を沸かしてるわけでもないしな」


 素焼きの器の底に薪を積んである。そこに火を移しているだけだ。


「それはそうですが……」


「プロメテのほうこそ、足はもう大丈夫か?」


「はい。この通りなのです」
 と、プロメテは包囲のスソをまくりあげて、足をオレに見せてきた。


 女の子にしては、丸みのすくないフクラハギとフトモモが見えた。
 今度こそ強がっているようには見えなかった。けれどその細い足は、他人を心配させるに充分な細さである。
 古傷と思われる痣も残っている。消えないのだろう。


 よせよせ――と、レイアが口をはさんだ。


「魔神さまはウブなんだよ。足なんか見せたら、欲情しちまうかもしんないぜ」
 と、揶揄してきた。


 そういうレイアも風呂に入っているため、いまは裸である。


 ここには今、女しかいない。


 むせ返るような甘い香りが、教会内に立ちこめているのは、そういう理由わけだ。


「う、うむ」
 と、オレはうなった。


 正直、目のやり場に困る。
 レイアの胸は、豊満なのだ。女の子の素肌というのは、なぜにこんなにも艶やかなんだろうか。感動してしまう。


 感動するということは、転生前はあまり女性経験がなかったのやもしれん。
 転生前のことは、記憶が薄いのだ。


「もう。レイアさんってば、言葉づかいがなっていないのです。魔神さまに失礼なのですよ」
 と、プロメテは頬をふくらませた。


「もともと盗賊だからよ。口調とか礼儀がなってねェのは、許してくれよ。だけど魂だけは、魔神さまに捧げてるつもりだよ」


 むろん、レイアのその覚悟は、オレもわかっている。


 ここまで逃げてくるさいにも、レイアは身をていして、オレとプロメテを逃がしてくれたほどだ。


 レイアのその気持ちがわかっているからこそ、多少の揶揄にはイラダチも覚えない。


「魔神さまが、私を抱きたいって言うのなら、喜んで身を差し出す覚悟はできてる。英雄色を好むって言うしな」


 英雄ではなく、神である。
 神が色を好んでは、いろいろと問題ではなかろうか……。


「わ、私だって、魔神さまのためならば、抱かれる覚悟はあるのですよ」
 と、プロメテが言い返していた。


 するとそれを端緒に、あら私だって、いいや私だって――とほかの女たちも名乗りをあげはじめた。


 変なところで、張り合わないで欲しい。
 なんだか居たたまれない気持ちになる。
 オレのこのカラダでは、いかんせん人を抱くことなど出来はしない。


「お頭ぁ」
 と、トツジョとしてスキンヘッドの男が――たしかガリアンという男だったはずだ――が、教会内に跳びこんできた。


「ひゃっ」
 と、レイアはさすがに男に裸を見られることには抵抗があるようで、湯のなかに身を沈めていた。


 ガリアンは、女の信徒たちから暴言を吐きつけられていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品